無気肺とは

無気肺(むきはい)は肺の一部または全体が空気を含まず、機能を果たさない状態を指します。

さまざまな原因によって引き起こされ、呼吸困難などの症状を引き起こす可能性があります。この記事では、無気肺について種類や症状、検査と治療についてご説明します。

1. 無気肺の種類


無気肺は、肺の一部または全部の含気がなくなっている状態です。血流は障害されていません。無気肺には急性のものと慢性のものがあり原因によって分類されています。

急性無気肺では、肺はつぶれたばかりで、空気がないことしか特徴はありません。慢性無気肺では、感染症や気管支拡張症、破壊などが生じている病変部が複雑に混ざっているのが特徴です。無気肺を発症するリスクは、喫煙者で高くなるといわれています。

以下はそれぞれの無気肺の種類についての簡単な説明です。

1-1. 閉塞性無気肺

気道が閉塞されることによって生じる無気肺です。原因としては、肺の入り口の太い気管支の腫瘍や、アレルギー性の粘液栓による気道の閉塞や気道異物などが挙げられます。

1-2. 圧排性無気肺

圧排性無気肺は、肺に隣接する大きな腫瘍や病変などによって肺が圧迫され、肺の容量が減少する状態です。この圧迫により、肺の一部の空気が抜け、無気肺が生じます。

1-3. 癒着性無気肺

癒着性無気肺は、肺と胸壁の間に癒着が生じることで肺が収縮し、無気肺が発生する状態です。外傷や手術などが原因となることがあります。

1-4. 瘢痕性無気肺(はんこんせいむきはい)

瘢痕性無気肺は、肺の組織が瘢痕化することで肺組織が減少し、無気肺が生じる状態です。

瘢痕とは、肺線維症や結核などによって肺組織が傷ついたり炎症を起こしたりすることで、その部分が硬化し、肺の機能を低下させる状態を言います。

1-5. 荷重部無気肺

荷重部無気肺は、肺の一部、特に下部に圧力や負荷がかかることでその部位の肺組織が圧迫され、無気肺が生じる状態のことです。横隔膜の運動制限などによって生じます。

横隔膜は、肺を包み込んでいる主な呼吸筋で正常な呼吸で上下に動きます。横隔膜の運動が制限されると、肺の一部が十分に膨らまなくなり、特に重力の影響を受けやすい下部が圧迫される可能性があります。

長期間横たわって過ごす状態、特に重症患者さんや手術後の患者さんに多く見られます。

1-6. 円形無気肺

円形無気肺は、肺の一部が円形に収縮することで生じる無気肺です。無気肺の特殊な形態であり、しばしば腫瘍の影として現れるため、肺がんとの鑑別が重要とされています。

原因として、肺の周りにある液体(胸水)が溜まった場合(胸水貯留)や、胸膜が厚くなった場合(繊維化)が考えられます。肺の辺縁部に近い場所で見られることが一般的です。

【参照文献】日呼外会誌 24巻1号(2010年1月)『長期間持続した気胸に伴った円形無気肺の1例』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/24/1/24_1_031/_pdf/-char/ja

1-7. 板状無気肺

板状無気肺は、肺の一部が板状に収縮することで生じる無気肺です。

肺の奥(末梢)の細い気管支の閉塞などによって、狭い範囲での無気肺が線状の陰影として見られます症状はとくにない場合が多いですが、広範囲に生じた場合には呼吸困難を引き起こすことがあります。

【参考文献】日本救急医学会『無気肺』
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/1109.html

1-8. 中葉舌区症候群(ちゅうようぜっくしょうこうぐん)

人間の肺は、右肺が3つの部分(葉)に分かれていて、左肺は2つの部分に分かれています。中葉舌区症候群は、右肺の真ん中の部分(中葉)や、左肺の一部(舌葉)が慢性の炎症によって変化している状態の閉塞性無気肺です。

1-9. 斑状無気肺

斑状無気肺(はんじょうむきはい)とは、肺の一部分における無気肺の状態です。
斑状とは、地質学や岩石学で使われる「斑状」(はんじょう)が由来しています。

【参照文献】日本医事進報社『無気肺[私の治療]』
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12845

2. 症状


無気肺は肺炎や低酸素血症(血液中の酸素量が低下する状態)が発生しない限り、無症状な場合が多いとされています。

しかし、無気肺が急に広範囲にわたって発生すると、呼吸困難や呼吸不全といった深刻な症状が起こることがあります。一方で、徐々に少しずつ広がる無気肺の場合、症状は軽いか、またはまったく現れないことがあります。

肺炎が発生した場合、咳、呼吸困難、胸の痛みなどの症状が出ることがあります。また、胸の痛みは無気肺が発生した原因(胸部の怪我や外科的手術後など)によっても引き起こされることがあります。

無気肺が広範囲にわたる場合、呼吸音の減少や打診(胸部を軽くたたいて音を聞く診察方法)で異常な音が聞こえたり、また胸部の動きが制限されていることなどの症状を確認することもあります。

【参照文献】”Atelectasis” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17699-atelectasis

3. 検査


無気肺の診断に用いられる主な検査方法を以下にご紹介します。

聴診・打診

聴診:医師が聴診器を使って患者さんの胸部の音を聞きます。無気肺がある場合、呼吸音が弱まっているか、一部の肺領域で聞こえないことがあります。

打診:医師が患者さんの胸部を軽く叩き、その音を聞くことで、肺の状態を確認します。無気肺のある部分では、より濁った音がするなど音が異なることがあります。

酸素飽和度測定

血液中の酸素の飽和度を測定します。無気肺があると、肺の一部が空気を含まず、酸素交換が適切に行われないため、血中の酸素レベルが低下する可能性があります。

胸部X線検査

無気肺の診断に最も一般的に使用される方法です。これにより、無気肺の部位、範囲、状態を視覚的に確認できます。また、原因を特定する手がかりにもなり得ます。

胸部CTスキャン

胸部CTは、X線よりも詳細な画像、とくに複雑なケースやほかの疾患を確認する際に役立ちます。これにより、無気肺の原因や関連する他の異常をより正確に特定できることがあります。

4. 治療


肺の機能を改善するために、咳嗽(せき)や深い呼吸を意識的に増やす胸部理学療法を行います。深呼吸エクササイズ、インセンティブスパイロメトリー(呼吸練習器具)の使用などです。咳嗽は、気道を清潔に保ち、異物や分泌物を排出するのに役立ちます。

鎮静剤の過度の使用を避け、患者さんが十分に深く呼吸し、咳を出せるようにすることが重要です。重度の胸膜痛の場合は、オピオイド鎮痛薬を使用して痛みを和らげます。

肺や気管支の中に腫瘍(しゅよう)や異物があって呼吸器が塞がれている可能性がある場合に、気管支鏡検査と呼ばれる検査を行います。

気管支鏡検査は、細長いカメラ(気管支鏡)を気道に挿入し、直接肺の内部を観察することで、異常を発見し、ときには治療を行うことが可能です。これにより、原因の特定と適切な治療が可能になります。

5. おわりに

肺や呼吸器系に関連する疾患は、早期発見と適切な治療が重要です。もし息切れや胸痛などの気になる症状がある場合は、無気肺の兆候である可能性も考えられます。これらの症状を軽視せず、早めに呼吸器内科の専門医を受診しましょう。

肺の健康は全身の健康に直結しているため、異変を感じたら早めの行動を取ることが重要です。