喘息持ちの方必見!洗剤や柔軟剤で症状が悪化?避けるべき成分と対策を専門医が解説

喘息の原因となる物質は、日常生活にあふれています。
洗濯や掃除で使う「洗剤」や「柔軟剤」に含まれる香料や化学物質が、気づかぬうちに症状を悪化させていることがあります。
この記事では、避けるべき洗剤の特徴や選び方、日常生活でできる対策まで解説します。
1. なぜ洗剤が喘息を悪化させるのか?
日常的に使用する洗剤や柔軟剤に含まれる化学物質が気道に与える影響と、特に注意すべき成分について見ていきましょう。
【参考文献】”Protecting Workers Who Use Cleaning Chemicals” by U.S. Occupational Safety and Health Administration
https://www.osha.gov/sites/default/files/publications/OSHA3512.pdf
1-1.洗剤に含まれる主な刺激物質とは
市販の洗剤には、合成香料、防腐剤、界面活性剤、漂白剤などの化学成分が含まれています。
これらの成分は、たとえ少量でも、喘息をお持ちの方や化学物質に敏感な方の気道を刺激し、喘息症状を引き起こしたり悪化させたりする可能性があります。
環境省の調査によれば、じつに化学物質過敏症の患者の約70%が、洗濯用品や香料入り製品を症状が発症したきっかけとして報告しています。
【参考情報】『化学物質による健康被害(におい・香り等の感じ方に関する調査)』環境省
https://www.env.go.jp/content/000223506.pdf
【参考文献】”Asthma and Allergy Triggers” by UNC Gillings School of Global Public Health
https://sph.unc.edu/wp-content/uploads/sites/112/2014/07/Chemical-Irritant-Fact-Sheet_final.pdf
1-2.合成香料と喘息の関係
多くの柔軟剤や洗濯洗剤に含まれる合成香料は、人工的に作られた複数の化学物質を組み合わせたもので、自然由来の香りとは異なります。
これらの香料成分は、最近では「香害」として社会問題化してきました。
実際、日本喘息学会などの医療機関でも、合成香料が健康に与える影響について注意喚起が行われています。
特に香りが強く、長時間残るタイプの製品は、揮発性の成分が室内空気中に滞留しやすいため、喘息持ちの方や化学物質に敏感な方は十分な配慮が必要です。
香料入りの製品が喘息患者に与える影響について調べた国内の研究では、半数以上の患者に呼吸器系の問題や偏頭痛、喘息発作などの症状が報告されています。
香料の含有量が多い製品ほど、その影響は大きくなる傾向にあります。
【参考情報】『香害と化学物質過敏症について』宝塚市
https://www.city.takarazuka.hyogo.jp/kyoiku/1015180/1047354.html?utm_source=chatgpt.com
1-3.スプレータイプや漂白剤のリスク
スプレー式のクリーナーやカビ取り剤に含まれる揮発性成分は、使用時に空気中に広がりやすく、吸い込むことで気道の粘膜を刺激します。
台所や浴室など密閉空間で使用することが多いため、注意が必要です。
漂白剤に含まれる塩素系成分も喘息を悪化させる要因の一つです。
塩素ガスは強い刺激性があり、気道に炎症を引き起こす可能性があります。
特に酸性の洗剤と混ぜると有毒なガスが発生するため、絶対に混ぜないよう注意が必要です。
使用する際は、必ず換気をしマスクをつけて作業しましょう。
【参考文献】”Protect Yourself: Cleaning Chemicals and Your Health” by U.S. Occupational Safety and Health Administration
https://www.osha.gov/sites/default/files/publications/OSHA_3569.pdf
2.日常生活で注意したい洗剤の使い方
家事の中でも、特に注意が必要なのは洗濯や掃除の場面。
普段何気なく使っている洗剤や柔軟剤が、どのように喘息症状に影響を与えるのか、日常生活の具体的なシーンごとにリスクと対策を解説します。
2-1.柔軟剤・洗濯洗剤
柔軟剤に含まれる香料は、衣類に残留し、着用時に吸い込む可能性があります。
また、洗濯洗剤も香料や発泡剤が含まれていることが多く、すすぎ残しが原因で皮膚炎や呼吸器への刺激を引き起こすケースもあります。
近年、特に問題視されているのが「マイクロカプセル香料」です。
香りを長時間持続させるために開発されたこの技術は、香料成分を微小なカプセルに閉じ込め、摩擦や体温で徐々に放出されるようになっています。
このため、洗濯後も衣類から長時間にわたって香りが放出され続け、喘息患者さんには持続的な刺激となります。
全国の消費生活センターでも、マイクロカプセル技術を使用した柔軟剤による健康被害の相談が増加しており、頭痛や倦怠感、呼吸困難などの症状が報告されています。
無香料や敏感肌用製品を選ぶことがおすすめです。
【参考文献】”Use of cleaning products associated with poor asthma control” by AAAAI
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/latest-research-summaries/the-journal-of-allergy-and-clinical-immunology-in/2021/clean
2-2.掃除用洗剤
フローリング用ワイパー、ガラスクリーナー、除菌スプレーなどに含まれるアルコールや界面活性剤も、喘息を悪化させる原因になり得ます。
これらの成分は揮発しやすく、呼吸により体内に取り込まれやすいため注意が必要です。
特に喘息患者にとって危険なのは、複数の洗剤を同時に使用し有毒ガスが発生した場合です。
使用時は必ず換気を行い、可能であれば手袋やマスクを併用しましょう。
また、一度に複数の洗剤を使わないことが重要です。
2-3.台所用洗剤の成分と揮発性への注意
油汚れを落とすための台所用洗剤には、界面活性剤が高濃度で含まれています。
特に手洗い時に湯気と一緒に揮発する可能性があるため、喘息持ちの方は食洗機の利用やゴム手袋の着用を検討するとよいでしょう。
熱いお湯を使うと界面活性剤の揮発が促進され、より多くの成分が空気中に拡散します。
温度が高いほど化学物質の揮発性は高まるため、ぬるま湯での洗い物を心がけることも一つの対策です。
また、台所用洗剤の中には高濃度の合成香料を含む製品も多くあります。
レモンや柑橘系の香りは人気がありますが、これらの香料も喘息の引き金になり得ます。
できるだけ無香料タイプを選ぶことをお勧めします。
3. 市販洗剤の選び方と代替案
喘息持ちの方にとって、洗剤選びは健康管理の一環です。
刺激の少ない製品を見分けるポイントや、市販の化学洗剤に頼らない自然派の選択肢まで、安心して使える洗剤の情報をお届けします。
3-1.成分表のどこを見る?避けるべき表示
「香料」「界面活性剤」「防腐剤」「漂白剤」などの記載がある製品は避けることが望ましいです。
特に「芳香成分(フレグランス)」など曖昧な表示は、具体的な物質名を伏せているケースが多く注意が必要です。
2020年3月に日本石鹸洗剤工業会が発表した香料成分開示の指針によれば、製品に0.01%以上配合された香料成分を開示することが推奨されていますが、この開示は各メーカーの自主的な取り組みに依存しており、すべての製品で徹底されているわけではありません。
【注意したい成分名】
・PRTR法指定化学物質(アセトアルデヒドなど)
・合成香料(リナロール、リモネンなど)
・防腐剤(パラベン類、フェノキシエタノールなど)
・塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)
・合成界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)
【参考情報】『香害パンフ』環境省
https://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2021/03/%E9%A6%99%E5%AE%B3%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95_web%E7%94%A8.pdf
3-2.無香料・無添加・低刺激洗剤がおすすめ
「無香料」「無添加」「敏感肌用」と明記された製品の中には、アレルゲンを抑えた処方のものがあります。
日本アレルギー学会が推薦する製品や、皮膚科・小児科と共同開発された製品が安心です。
【おすすめの敏感肌向けに開発された洗濯洗剤】
・シャボン玉石けんシリーズ:無添加・生分解性が高く、家族全員で使いやすい
・ヤシノミ洗たく用洗剤:合成香料無添加で、アトピーや敏感肌にもおすすめ
・ミヨシ石鹸の無添加お肌のための洗濯用液体せっけん:化学薬品や香料、着色料を使用していない安心設計
赤ちゃん用コーナーにも、刺激の少ない製品が多く置いてあり、喘息持ちの方に実はおすすめの一角となっています。
「赤ちゃんに使えるなら、敏感な気道にも安心」という考え方で選ぶのもよいでしょう。
3-3.ナチュラルクリーニング(重曹・クエン酸など)
重曹やクエン酸、過炭酸ナトリウムなどを使ったナチュラルクリーニングは、化学香料や界面活性剤を含まないため喘息の方にもおすすめです。
環境にも優しく、小さなお子様がいるご家庭にも適しています。
これらの天然成分を使った掃除方法の基本をご紹介します。
・重曹(アルカリ性):
油汚れや蛋白質の汚れに効果的で、キッチンの油汚れやお風呂の石鹸カスの除去に最適です。使い方は、重曹をそのまま汚れに振りかけるか、水で溶かしてスプレーボトルに入れて使用します。40℃のお湯100mlに重曹小さじ1を溶かしたスプレーは、浴室の全体清掃に最適です。
・クエン酸(酸性):
水垢や石鹸カス、トイレの尿石などに効果的です。水1リットルにクエン酸大さじ1を溶かした溶液をスプレーボトルに入れて使用します。とくに水回りの清掃に優れています。
・過炭酸ナトリウム:
漂白と除菌効果に優れています。とくに白物の洗濯や頑固な茶渋、コーヒー染みなどに効果的です。40℃程度のお湯に溶かして使用すると効果が高まります。
【ナチュラルクリーニングのレシピ例】
・キッチン用万能スプレー:
水500mlにセスキ炭酸ソーダ小さじ1を溶かし、スプレーボトルに入れる。油汚れに効果的。
・浴室クリーナー:
重曹とクエン酸を1:1の割合で混ぜ、直接汚れた箇所にふりかけ、しばらく置いてから擦り洗いする。
・トイレ洗浄剤:
重曹1カップと食用クエン酸1/4カップを混ぜ、保存容器に入れておく。使用時は大さじ2杯程度をトイレボウルに振りかけ、数分後にブラシでこすり洗いする。
【参考情報】『重曹・セスキ炭酸ソーダ・クエン酸・過炭酸ナトリウムの使い方』第一石鹸
https://daiichisekken.co.jp/howto/nc/
【参考文献】”Disinfectants and Work‑Related Asthma: Information for Workers” by California Department of Public Health
https://www.cdph.ca.gov/Programs/CCDPHP/DEODC/OHB/WRAPP/CDPH%20Document%20Library/DisinfectantsWRAWorkers.pdf
4. 喘息を引き起こす他の日常的な原因
喘息の症状は様々な要因によって引き起こされますが、洗剤以外にも日常生活の中に潜む喘息の引き金について理解を深めることが大切です。
ここでは、注意すべき代表的な喘息誘発因子について解説します。
4-1.アルコール誘発喘息
お酒を飲んだ後に咳が止まらなくなる、呼吸が苦しくなるという経験をしたことはありませんか?これはアルコール誘発喘息の可能性があります。
アルコールは体内でアセトアルデヒドという物質に分解されますが、このアセトアルデヒドがヒスタミンという物質を増やす働きを持っています。
ヒスタミンは気道を狭める作用があるため、特にお酒に弱い体質の方は、アセトアルデヒドの分解が遅れて喘息症状を引き起こしやすくなります。
症状としては、飲酒後15分程度で咳や喘鳴(ぜんめい)、息苦しさが現れます。
このような症状を感じる方は、アルコールの摂取量を減らすか、完全に避けることも一つの選択肢です。
4-2.運動誘発性喘息(アスリート喘息)
運動中や運動後に咳や息切れ、胸の圧迫感を感じる場合は、運動誘発性喘息の可能性があります。
これは、運動によって呼吸数が増加し、冷たく乾燥した空気を多量に吸入することで気道が冷却・乾燥し、その後の再加温過程で気道の炎症が起きることが原因です。
とくに寒い季節や乾燥した環境での運動、また激しい運動時に症状が現れやすくなります。
しかし、適切な対策を取れば、喘息があっても運動を楽しむことができます。
対策としては、運動前のウォームアップを十分に行う、寒い日の屋外運動を避ける、マスクなどで吸入する空気を加湿するなどが効果的です。
また、医師の指導のもと、運動前に予防薬を使用することもあります。
4-3.職業性喘息
職場環境に存在する特定の物質が原因で発症する喘息を「職業性喘息」といいます。
例えば、製パン業者のアレルゲンは小麦粉、製麺業者はそば粉、木工業者は木材の粉塵などが挙げられます。
このほかにも、化学工場の従業員、美容師、医療従事者など、特定の化学物質や薬剤に日常的に接触する職業では喘息のリスクが高まることが知られています。
職業性喘息が疑われる場合は、原因物質との接触を最小限にする対策(マスクの着用、換気の徹底など)が必要です。
重症の場合は、職場環境の改善や転職も検討する必要があるかもしれません。
【参考文献】”Strategies for Addressing Asthma in Homes” by U.S. Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/media/pdfs/2024/06/home_assess_checklist_P.pdf
5. 今日からできる!喘息にやさしい生活習慣の工夫
洗剤を使う際の工夫次第で、喘息症状のリスクを大きく減らすことができます。
すぐに実践できる換気のコツや道具の活用法など、日常生活をより安全に過ごすためのアドバイスをご紹介します。
5-1.換気とマスク着用のすすめ
掃除や洗濯時は必ず換気を行い、できれば窓を2か所以上開けて風の通り道を作りましょう。
洗剤を扱うときはマスクを着用することで、吸い込みによる刺激を軽減できます。
効果的な換気の方法として、対角線上の窓を開ける「クロス換気」が推奨されています。
これにより室内の空気が効率よく入れ替わります。
換気扇だけでは不十分な場合が多いため、窓を開けての自然換気と組み合わせるとより効果的です。
特に洗剤の使用中と使用後30分〜1時間は換気を続けることが重要です。
揮発した化学物質が室内に残らないようにしましょう。
マスクについては、N95やDS2規格などの微粒子対応マスクが最も効果的です。
通常の不織布マスクでも、何もしないよりは化学物質の吸入を減らす効果があります。
5-2.洗剤を使うときの環境
手袋や長袖を着用して皮膚への接触を防ぐほか、空気清浄機を稼働させることで室内に広がる微粒子を減らせます。
HEPAフィルター搭載の清浄機がおすすめです。
洗剤を使用する際は、以下のポイントに注意しましょう。
1.適切な量を守る:
洗剤は使用量が多いほど残留リスクも高まります。
パッケージに記載された適量を守りましょう。
2.すすぎを徹底:
洗濯物は十分にすすぎ、洗剤が残らないようにします。
必要に応じて追加のすすぎを行いましょう。
3.時間帯の工夫:
喘息発作は夜間から明け方に起こりやすいため、刺激の強い掃除は朝〜昼間の時間帯に行うと安心です。
4.温度と湿度の管理:
湿度が高いと化学物質が空気中に留まりやすくなります。
除湿器を活用し、適切な湿度(40〜60%)を保ちましょう。
環境省の調査によれば、化学物質の中には揮発性が高く、使用後数時間経っても室内に残留するものがあります。
特に柔軟剤の一部成分は、使用から24時間以上経過しても検出されることがあるため、継続的な換気が重要です。
【参考文献】”Safe Cleaning for People with Asthma” by Rhode Island Department of Health
https://health.ri.gov/sites/g/files/xkgbur1006/files/publications/instructions/SafeCleaningForPeopleWithAsthma.pdf
6. まとめ
洗剤や柔軟剤の見直しは、喘息管理の中でも見落とされがちなポイントです。
毎日の生活で使用するものだからこそ注意を払うことで、発作や症状の悪化を未然に防ぐことができます。
喘息は完治が難しい慢性疾患ですが、適切な管理と環境調整で症状をコントロールし、日常生活の質を向上させていきましょう。