お酒が咳の原因に?アルコール誘発喘息とは

最近は新型コロナウイルスの感染が以前に比べて落ち着いてきたことで、行動規制が緩和され、飲み会が増えたという方も多いのではないでしょうか。

程よく飲めば楽しいお酒も、喘息の持病がある方にとっては発作や悪化の原因となることがあります。

お酒を飲むと咳が止まらなくなったり、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴が聞こえたりする場合は、アルコール誘発喘息の可能性があります。

1.アルコール誘発喘息について


喘息の持病がある方が飲酒をすると、喘息発作が出たり悪化したりすることが多いと言われています。

喘息を持つ患者さんへのアンケートでは、喘息が悪化する原因の1位が風邪、2位が飲酒となっており、飲酒は喘息発作の大きな要因となっています。

アルコールと喘息にはどのような関係があるのでしょうか。

【参考文献】”Investigation of the mechanism of alcohol-induced bronchial asthma” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8568140/

1-1.症状

喘息は、気道(空気の通り道)に炎症が起こることで気道が狭くなり、咳や痰、喘鳴、呼吸困難などの症状が現れる病気です。

喘息患者さんは、発作が起きていない状態でも気道に慢性的に炎症が起きていて、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態になっています。

発作のきっかけとなる刺激には風邪、たばこ、ペット、ダニ、天候など様々なものがあり、飲酒もその一つです。

アルコール誘発喘息では、お酒を飲むと咳が止まらなくなったり、呼吸のたびにのどから「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴が聞こえるなど、喘息の症状が現れます。

1-2.原因

アルコール誘発喘息の原因は、アセトアルデヒドという有害な物質を分解する能力が低いことです。

またそれ以外の原因として、過度な飲酒による肥満が喘息悪化の原因になったり、お酒に含まれる添加物が原因で咳が出ることもあります。

①血中アルデヒド濃度上昇によるアルコール誘発性喘息

体内に入ったアルコールは、まず肝臓でADH(アルコールハイドロゲナーゼ)という物質によりアセトアルデヒドに分解されます。

アセトアルデヒドは人体に有害な物質で、気分が悪くなったり、顔が赤くなったりする原因 になります。

そのため、ALDH(アセトアルデヒドデハイドロゲーゼ)により無害な酢酸に代謝されます。

しかし日本人の約半数はこのALDH活性の低い遺伝子を持っており、お酒が弱い体質だと言われています。

お酒が弱い人は体質的にアセトアルデヒドを分解することが難しく、酢酸への代謝が進みにくいため血液中のアセトアルデヒド濃度が上昇します。

アセトアルデヒド濃度が上昇すると、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンが遊離し、次のようなことが起こります。

・末梢血管拡張
・顔面紅潮
・気管支浮腫
・気道収縮
・ヒスタミン分泌亢進

これらのことで気道が狭くなり、喘息発作が起こります。

加えてアセトアルデヒドはロイコトライエンという物質を介して気道過敏性を亢進させるため、少しの刺激でも咳が出やすい状態になってしまいます。

②他の原因

アルコール誘発喘息ではないのですが、喘息と肥満は関与していると言われています。

過度な習慣的飲酒は内臓脂肪型肥満の原因となります。

肥満によってお腹の膨らみが横隔膜を押し上げて呼吸機能を低下させる、脂肪細胞が気道を狭める「レプチン」という物質を分泌するなどの影響があり、喘息発作のリスクがあります。

また、お酒に含まれる防腐剤や色素などの添加物が原因で、アスピリン喘息に近い喘息発作が起こることがあります。

アスピリン喘息とは、市販の解熱鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)などに含まれるアスピリンという物質によって引き起こされる喘息のことです。

アスピリン喘息の患者さんは薬以外にも、食品に含まれる安息香酸ナトリウム(防腐剤)タートラジン(食用黄色4号)、ベンジルアルコール(香料)などが喘息発作を誘発することもあるため、注意が必要です。

【参考情報】『アルコール誘発喘息』浅井貞宏
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/57/1/57_KJ00004840309/_pdf

2.お酒を飲むと咳が止まらない場合


喘息の持病がある方は、アルコールが含まれた飲食物を避けることが大切です。

しかし、喘息の既往はないのにお酒を飲むと咳が止まらないという方や、咳が出ても付き合い程度に飲酒機会があるという方はどうしたらいいのでしょうか。

2-1.呼吸器内科へ受診

お酒を飲むと咳が止まらないという場合、まずは呼吸器内科を受診してください。

咳の原因がアルコール以外の可能性もあるので、原因を明らかにするために詳しい検査をする必要があります。

喘息の持病があり、仕事の都合でどうしても乾杯程度の飲酒をを避けられないという方は、まずはかかりつけ医に相談してください。

喘息のコントロールが十分にできていれば、少量の飲酒では症状が出にくい可能性もあります。

日ごろから喘息のコントロール管理を行い、無理な飲酒をしないことが大切です。

喘息と上手く付き合うためには、定期的な通院、喘息日記、薬の服用などの自己管理が重要になります。

特に喘息日記は医師に状態を伝えるためにとても大切な情報になりますので、もし飲酒後に喘息発作が出た場合はその時の状況を記録するようにしましょう。

【参考情報】環境再生保全機構『成人ぜんそくQ&A』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/qa/life.html

2-2.お酒と上手く付き合う

お酒は冠婚葬祭やお祭りなど、社会的交流の役割もあり、適度な量であればストレス発散などいい面もあります。

その反面、飲酒量が増えると持病の悪化や生活習慣病など、健康に悪影響がでる場合もあります。

自分の体調と相談して、無理せずノンアルコール飲料で楽しむなど、お酒との付き合い方を見直してみましょう。

お酒を飲むと顔が赤くなったり、動悸、吐き気、眠気などの症状が出やすい人は遺伝的にALDH活性が低く、飲酒後の喘息発作も起こりやすいため注意が必要です。

さらに、お酒が弱い体質の方が気管支炎などの治療薬としてセフェム系の抗生物質を服用し、飲酒するとALDH活性がいっそう低くなるため喘息発作が起こりやすくなります。

このように飲酒を避けるべき薬もありますので、薬を処方されている時はかかりつけ医や薬剤師の指示に従うようにしましょう。

また、ケーキやお菓子などお酒以外の多くの食品にもアルコールが含まれていることがあるため、飲酒時に咳が出るという方は注意が必要です。

【参考情報】厚生労働省 e-ヘルスネット『わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-06-001.html

3.おわりに

日本人は遺伝的にお酒が弱い人が多く、特に喘息の持病がある場合、飲酒が悪化の引き金になることもあります。

飲酒時に咳が止まらなくなったり、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴が聞こえたりする場合は、アルコール誘発喘息が疑われます。

喘息の持病がある方は、なるべくアルコールが入った飲食物を避けることが大切です。

お酒を飲むと咳が止まらない人は、呼吸器内科を受診しましょう。