アスピリン喘息ってどんな病気?
市販の解熱鎮痛薬などを飲んだ後、咳が止まらなくなったことはありませんか?
特に、喘息の患者さんが市販薬を飲んだ後に喘息発作を起こした場合は「アスピリン喘息」の可能性が考えられます。
アスピリン喘息は、解熱鎮痛剤などに含まれる「アスピリン」のほか、市販の風邪薬などに含まれるアスピリン類似物質によっても引き起こされる可能性があります。
この記事ではアスピリン喘息の基本知識や、市販薬を使用する時の注意点について詳しく説明します。
1. アスピリンとは
まずはアスピリンの効果と副作用について見ていきましょう。
1-1.アスピリンの効果
アスピリン(アセチルサリチル酸)は、市販薬などに広く使われている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:エヌセイズ)で、次のような効果があります。
①鎮痛作用:痛覚(つうかく:痛みを感じる感覚)の信号を抑制したり、痛みを引き起こす物質の活性を抑えたりして、頭痛、筋肉痛、関節痛、歯痛などの痛みを和らげます。
②解熱作用:体温調節を行う脳の「視床下部(ししょうかぶ)」という部分に作用し、熱を下げる効果があります。
③炎症抑制:関節リウマチなどの炎症性疾患の治療に使用されています。
④血栓の予防:アスピリンは血小板の産生を抑制し、血液が固まるのを防ぐ効果もあるので、心筋梗塞や脳卒中の予防のために低用量で使用されることもあります。
解熱鎮痛作用や炎症抑制作用に共通するのは、「アスピリンはプロスタグランジンの生成を抑える」という点です。
プロスタグランジンとは、怪我や感染があった際に炎症反応を起こしたり、痛みの信号を神経に伝えたりする物質のことです。
アスピリンはプロスタグランジンの生成を抑えるため、痛み、発熱、炎症などの症状を和らげることができます。
【参考文献】”What is aspirin?” by Alcohol and Drug Foundation
https://adf.org.au/drug-facts/aspirin/
1-2.アスピリンの副作用
アスピリンの一般的な副作用として、胃の粘膜障害があります。
プロスタグランジンは炎症や痛みの原因となるだけでなく、胃の粘膜を保護する役割も担っています。
そのため、アスピリンによってプロスタグランジンが抑制されると、胃の粘膜が傷つきやすくなって胃炎、胃潰瘍、消化不良などを引き起こすのです。
胃腸障害以外の副作用には、アスピリンによるアレルギ―反応(発疹、かゆみ、アナフィラキシーなど)、アスピリン喘息などがあります。
【参考文献】”Daily aspirin therapy: Understand the benefits and risks” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/heart-disease/in-depth/daily-aspirin-therapy/art-20046797
2.アスピリン喘息はどんな病気か
アスピリン喘息は、NSAIDsを服薬した後に急激な喘息症状が現れるもので、成人喘息の10%程度に見られます。
喘息とアスピリン喘息、それぞれの特徴について説明します。
【参考文献】”Aspirin-induced asthma: clinical aspects, pathogenesis and management” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15482000/
2-1.喘息とは
喘息の患者さんの気道(空気の通り道)は、症状がない時でも慢性的な炎症が起こっている状態です。
そこにアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)やタバコの煙、感染症、肥満、運動、気圧の変化、冷たい空気、薬剤など様々な刺激が加わると、咳や呼吸困難感、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった呼吸音(喘鳴:ぜんめい)などの症状が現れます。
特に夜間や明け方に症状が悪化しやすく、2週間以上咳が続くのが特徴です。
喘息にはアレルギーが原因で起こる「アトピー型」と、原因となるアレルゲンが特定できない「非アトピー型」があります。
小児喘息は9割がアトピー型ですが、成人ぜん息ではアトピー型が6割、非アトピー型が4割と、アレルギー体質でなくても環境因子によって喘息になる場合があります。
【参考情報】『ぜん息とは』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html
【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
2-2.アスピリン喘息とは
アスピリン喘息は次のような症状を引き起こします。
・薬の服用後短時間で鼻水、鼻づまり
・咳
・喘鳴
・呼吸困難
急速に症状が悪化するのが特徴で、意識不明、窒息、顔面の紅潮、吐き気、腹痛、下痢などの症状が出ることもあります。
このような発作症状が起きた場合は、主治医から事前に指導されている通りに発作治療薬の服用などの処置を行い、悪化するようであれば迷わず受診しましょう。
アスピリン喘息の症状は、軽症の場合は半日程度でおさまりますが、重症の場合は24時間以上続く場合もあります。
成人喘息の約10%がアスピリン喘息を発症すると言われており、小児喘息で起こることはほとんどありません。
成人の中でも特に20~40代、女性に多いと言われています。
次のような方はアスピリン喘息の可能性が高いため、疑われる症状がある場合は病院を受診しましょう。
・成人になってから喘息を発症した方
・重度の喘息の方
・通年、鼻水や鼻づまりなどの症状がある方
・慢性副鼻腔炎(蓄膿症:ちくのうしょう)や鼻ポリープを合併している方
・アレルギー検査の結果が陰性で、非アトピー型の喘息の方
・季節に関係なく喘息症状が起きる方(通常の喘息は季節や天候によっても左右されますが、アスピリン喘息に季節性はなく1年中みられるため)
【参考情報】『非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(アスピリン喘息)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d5.pdf
【参考文献】”Aspirin-induced asthma: Advances in pathogenesis and management” by Joournal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(99)70106-5/fulltext
3.アスピリン喘息の注意点とは
アスピリンが含まれる薬としては、解熱鎮痛剤の「バファリン」などが有名です。
しかし、アスピリンが含まれていない解熱鎮痛剤や、アスピリンに近い成分を配合している市販の風邪薬などにも注意が必要です。
「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」にはアスピリン(バファリン)の他に、次のようなものがあります。
・ロキソプロフェン(ロキソニン)
・ジクロフェナク(ボルタレン)
・イブプロフェン(ブルフェン、イブ)
・エテンザミド(ノーシン、新セデス)
・イソプロピルアンチピリン(セデス・ハイ)
・インドメタシン(インダシン)
・メフェナム酸(ポンタール)
・スルピリン(メチロン)
上記のようなアスピリンが含まれていない解熱鎮痛剤も、アスピリン喘息を引き起こす危険性があります。
また、飲み薬だけでなく坐薬や注射薬、湿布などの貼り薬や塗り薬でも症状が起こることがあるため注意が必要です。
特に坐薬や貼り薬、塗り薬の場合は症状が出るまでに時間がかかり、アスピリン喘息であることに気づきにくい場合があります。
アスピリン喘息の患者さんが市販の解熱鎮痛剤や風邪薬などを選ぶ際は、自己判断せず、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
アスピリン喘息でなくても喘息の患者さんはアレルギー体質である事が多いため、薬の服用には十分注意しましょう。
アスピリン喘息は体質的なもので、もし喘息の症状が落ち着いてきたとしても、該当する薬は使用を避ける必要があります。
薬の服用後に発作が起きてしまった場合には、主治医から事前に指示された通りに薬の服用などを行いましょう。
病院を受診する際には、原因として考えられる薬を持参するとスムーズです。
【参考情報】『さまざまなぜん息』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/aspirin.html
【参考文献】”Aspirin-Exacerbated Asthma” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2868885/
4.おわりに
アスピリン喘息は、NSAIDsを服薬した後に急激な喘息症状が現れる病気です。原因となるアスピリンなどの物質は、解熱鎮痛剤や風邪薬など多くの市販薬にも使用されています。
喘息の患者さんがドラッグストアなどで薬を選ぶ場合は、必ず薬剤師などに相談しましょう。
アスピリン喘息は喘息患者さん全員に相当するものではありませんが、アスピリン喘息をお持ちの方は、高い頻度で再現性をもって非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に反応し発作を起こします。
その発作は重篤なことも多いです。
湿布でも発作は誘発されますので、飲み薬ではないからと言って安心はできません。
喘息治療中の方は、担当医にご自分がアスピリン喘息に相当しないかは必ず確認しておいてください。
該当するかたは使用できる鎮痛薬、湿布があることもあるのでそちらも相談していただきたいと思います。
また、喘息以外の病気で病院を受診する際も、アスピリン喘息であることを必ず医師に伝えましょう。
「アスピリン喘息患者カード」や「お薬手帳」を活用すると、より正確に伝えることができるのでおすすめです。
「頭痛薬を飲んだ後に喘息症状が出る」という方は、アスピリン喘息かもしれません。
心当たりがある場合は、一度呼吸器内科を受診しましょう。