子どもの咳が長引く…原因は食物アレルギーかもしれません

食事の後にお子さんが咳をしたり、特定の食べ物を口にした後に咳き込むことが多い場合、食物アレルギーが原因で咳が出ているのかもしれません。
咳以外にも、喉のかゆみや違和感、鼻水、くしゃみなどの症状が同時に現れる場合は、その可能性がさらに高まります。
この記事では、食物アレルギーと咳の関係や、子どもに併発しやすい病気について解説します。
適切に対処しないと症状が悪化することもあるため、心当たりのある方はぜひ参考にしてください。
1.食物アレルギーとはどんな病気か
食物アレルギーは、免疫の仕組みが本来無害な食べ物を異物と誤認識して攻撃してしまうことで発症します。
大人から子どもまで誰にでも起こりうる病気ですが、とくに子どもの場合は注意が必要です。
【参考文献】“Food Allergy” by National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)
https://www.niaid.nih.gov/diseases-conditions/food-allergy
【参考文献】“Food Allergies | Healthy Schools” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://archive.cdc.gov/www_cdc_gov/healthyschools/foodallergies/index.htm
1-1.食物アレルギーの仕組み
食物アレルギーとは、特定の食べ物に含まれるアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に対し、免疫が過剰に反応してしまう病気です。
【主な症状】
・皮膚症状: かゆみ、赤み、じんましん
・眼の症状: かゆみ、まぶたの腫れ、充血
・鼻の症状: くしゃみ、鼻水、鼻づまり
・口・のどの症状: 違和感、腫れ、かゆみ
・呼吸器の症状: 咳、呼吸困難、喘鳴(ゼイゼイ・ヒューヒューといった呼吸音)
・消化器の症状: 下痢、嘔吐、腹痛
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物から身を守る免疫機能が備わっています。
通常、食べ物は異物ではなく栄養分として受け入れられますが、免疫システムに異常があると、本来無害な食べ物を異物と過剰に認識し攻撃してしまう場合があります。
このように自分の体を傷つけてしまう反応が食物アレルギーです。
【参考情報】 アレルギーポータル(環境再生保全機構)
https://allergyportal.jp/knowledge/food/
【参考情報】食物アレルギー表示に関する情報(消費庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/
1-2.原因となる主な食材
食物アレルギーの原因は、食べ物に含まれるタンパク質であることがほとんどです。
アレルゲンとなる代表的な食材には以下のようなものがあります。
・鶏卵
・牛乳
・小麦
・甲殻類(エビ、カニなど)
・そば
・ナッツ類(落花生〈ピーナッツ〉、クルミ など)
これらの食べ物は口から摂取するだけでなく、皮膚に触れたり口や鼻から吸い込んだりすることでも症状が現れることがあります。
実際、食物アレルギーの原因となる食品の多くはこれらのタンパク質であり、日本での原因食物ランキングでは鶏卵、牛乳、小麦が上位を占めています。
アレルゲンとなる食品には注意が必要です。
【参考文献】“Food Allergies in Children” by Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/food-allergies-in-children
【参考文献】“Food Allergy in Children” by Boston Children’s Hospital
https://www.childrenshospital.org/conditions/food-allergy
1-3.食物アレルギーとアナフィラキシー
食物アレルギーの症状は、原因となる食材の摂取後わずか数分で現れ、全身に複数の症状が急速にあらわれることもあります。
これをアナフィラキシーと呼びます。
代表的なアナフィラキシー症状には、次のようなものがあります。
・皮膚症状: じんましん、かゆみ、赤み、腫れ
・呼吸器症状: 息苦しさ、喘鳴、のどの腫れ
・消化器症状: 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
・循環器症状: 血圧低下、めまい、意識障害
・神経症状: 不安感、意識混濁、けいれん
重症化すると血圧低下や意識消失を起こすアナフィラキシーショックに至り、命にかかわる恐れもあります。
また、アレルギーを持つ人はその日の体調によって、普段問題なく食べられるものでも症状が出ることがあります。
そのため、アレルゲンとなる食べ物を摂取する際は十分な注意が必要です。
【参考情報】厚生労働省『食物アレルギー・アナキラフィシー』
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000zj6g-att/2r9852000000zjan.pdf
2.なぜ食物アレルギーで咳が出るのか
食物アレルギーでは、身体の免疫システムが食べ物を「敵」と勘違いして攻撃してしまうことで起こります。
身体に特定の食べ物(アレルゲン)が初めて入ったとき、免疫システムはIgE抗体という“アレルゲンを覚える役目”の物質を作ります。
IgE抗体が「敵」と認識したアレルゲン情報を免疫細胞であるマスト細胞に伝え、マスト細胞の表面にくっつき、アレルゲンに備えること。
これを感作(かんさ)と呼びます。
再び同じアレルゲンが身体に入ると、IgE抗体がそれを“敵”と認識し、ヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学物質を放出します。
これらの物質が気管や鼻、皮膚などに働きかけることで、咳や鼻水、じんましん、かゆみといったアレルギー症状があらわれるのです。
特にヒスタミンは、気管支を収縮させたり、粘液の分泌を増やしたりする作用があり、咳やゼーゼー・ヒューヒューといった呼吸の苦しさを引き起こします。
これらの反応は本来、体を守るための防御機能ですが、本来害のない食べ物に対して起こるため、不必要でつらい「過敏反応」となってしまうのです。
◆「咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません」>>
【参考情報】 東京都「食物アレルギー緊急時対応ガイダンス」
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/allergy/measure/judgment.html#:~:text=%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6
【参考文献】“Cough in Children” by American Academy of Allergy, Asthma & Immunology (AAAAI)
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/allergies/cough-in-children
3.食物アレルギーの検査
食物アレルギーが疑われるときは、症状や問診に基づいて必要な検査を行います。
主な検査方法は次のとおりです。
【参考文献】“Food Allergy in Children” by Boston Children’s Hospital (診断と検査の説明)
https://www.childrenshospital.org/conditions/food-allergy
【参考文献】“Food Allergy” by Seattle Children’s (検査方法と重症度評価)
https://www.seattlechildrens.org/conditions/a-z/food-allergy/
3-1.特異的IgE抗体検査
血液中に特定のアレルゲンに対するIgE抗体が存在するかどうかを調べる血液検査です。
採血をして行い、食物アレルギーだけでなく花粉やダニなど環境アレルゲンも含め、さまざまな項目を調べることができます。
検査で調べられるアレルゲンは多数ありますが、保険診療ではすべてを網羅することはできません。
そのため、症状や生活状況に応じて医師と相談しながら項目を選ぶか、39項目または48項目のアレルゲンをまとめて調べるパネル検査を実施することになります。
検査結果では「クラス」と「数値」が表示されます。
クラスは0から6までの7段階で、0は陰性、1は擬陽性、2~6は陽性を示します。
クラス2以上(陽性)の場合、血液中のIgE抗体量が多いことを意味し、クラスの数字が大きくなるほどアレルギー症状を発症する可能性が高く、重症度も高くなる傾向があります。
ただし、数値が高くても必ず症状が出るとは限らないため、総合的な判断が必要です。
3-2.皮膚プリックテスト
皮膚にアレルゲンを少量入れて、アレルギー反応の有無を確認する皮膚試験です。
前腕の内側など傷のない皮膚に少量のアレルゲン液を垂らし、専用のプリックテスト針で皮膚表面に軽く傷をつけます。
その後、余分なアレルゲン液を素早く拭き取り、15~20分後に皮膚の反応を確認します。
検査は通常、前腕の内側で行いますが、乳幼児の場合は背中で行うこともあります。
皮膚にごく浅い傷をつける程度で、ほとんど出血せず強い痛みもありません。
検査結果は皮膚に現れる赤い膨らみ(膨疹)の大きさで判定します。
この膨らみの大きさによってアレルギー反応が陽性かどうかを判断し、膨疹の直径が一定以上(通常は3mm以上)であれば陽性とみなします。
3-3.経口負荷試験
実際にアレルギーの原因となる食物を少量から段階的に摂取し、症状が現れるかどうかを確認する検査です。
この経口負荷試験(OFC)は必ず医療機関で、医師の管理のもとで行われます。
経口負荷試験では、食物アレルギーの確定診断ができるだけでなく、安全に摂取できる量(閾値)の確認や、アレルゲンに対する耐性獲得の有無を調べることも目的とします。
耐性獲得とは、成長に伴ってアレルゲンとなる食物を食べてもアレルギー反応が出なくなることです。
負荷試験によって耐性が確認できれば、日常的に食べられる量の目安を知ることができます。
検査は微量から開始し、反応がなければ段階的に摂取量を増やしていきます。
摂取する量(総負荷量)は以下の3段階に分けて評価します。
・少量: 誤食などで偶発的に摂取してしまう可能性のあるごく微量
・中等量: 幼児から学童期の1回の食事量(通常食べる一人前の量)
・日常摂取量: 耐性獲得後に日常的に食べられる量の目安
経口負荷試験中に陽性反応(症状)が出た場合は、それ以上の量を摂取しないように中止します。
検査中に少しでも異変や違和感を感じたら、すぐに医師に伝えましょう。
試験の途中で重篤な反応が起こる可能性もありますが、医療機関内で実施しているため迅速かつ適切な治療を受けることができます。
【参考情報】『食物経口負荷試験の手引き 2023』食物アレルギー研究会
https://www.foodallergy.jp/wp-content/uploads/2024/04/OFCmanual2023.pdf
【参考情報】「食物アレルギー診療ガイドライン2021」日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_9.html
4.食物アレルギーの治療
残念ながら、食物アレルギーそのものを完治させる根本的な治療法は現在ありません。
基本は原因となる食物を避ける(食物除去)ことですが、症状に応じて対症療法の薬を使用しながらうまく付き合っていく必要があります。
主に次のような薬剤が用いられます。
【参考文献】“Caring for Children with Food Allergies” by HeadStart.gov (対処法と応急処置)
https://headstart.gov/publication/caring-children-food-allergies
4-1.抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンとH1受容体の結合をブロックすることで症状を和らげる薬です。
代表的な薬には、第1世代のジフェンヒドラミン(レスタミン)やクロルフェニラミン、第2世代のロラタジン(クラリチン)、フェキソフェナジン(アレグラ)などがあります。
じんましんや鼻炎症状、かゆみなど様々なアレルギー症状に広く使われます。
※第1世代…昔からあり即効性が高いが、眠気等の副作用がでやすい。
第2世代…新しい薬で長期間効果が続き、副作用も少ないのが特徴。
抗ヒスタミン薬の服用により、眠気や集中力の低下といった副作用が起こることがあります。
特に車の運転や機械の操作をする際には注意が必要です。
4-2.気管支拡張薬
気管支拡張薬は、気管支(空気の通り道)を広げることで咳や喘鳴(ゼイゼイという呼吸音)などの症状を和らげる薬です。
発作時など急性症状の緩和に用いられます。
代表的な薬には、内服薬のテオフィリン製剤や吸入薬のサルブタモール(メプチンエアー)などがあります。
特に吸入薬の方が速効性が高く、急性症状の緩和に有効です。
ただし、これらの薬は気管支を一時的に拡げて症状を抑える対症療法にすぎず、喉の腫れ(上気道の狭窄)や重篤な呼吸困難そのものを根本的に治療するものではありません。
そのため、症状が繰り返す場合は長期管理薬による炎症抑制治療(吸入ステロイド薬など)も検討する必要があります。
4-3.ステロイド薬
ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)は、強力な抗炎症作用を持つ薬で、アレルギー反応による二相性反応(症状がいったん治まった後に再度ぶり返す現象)を防ぐ目的で使用されることがあります。
代表的な薬にはプレドニゾロン(プレドニン)やデキサメタゾン(デカドロン)などがあります。
これらは一時的に免疫反応を抑えることで炎症を鎮めますが、ステロイド薬を使用しても必ずしも二相性反応を完全に防げるわけではなく、症状の再燃には引き続き注意が必要です。
4-4.エピペン
エピペンは、過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人に処方される「携帯用の自己注射薬(アドレナリン自己注射)」です。
アナフィラキシー症状が現れたら、速やかに太ももの筋肉に注射しましょう。
アドレナリンの効果で気道のむくみや低血圧などの症状を素早く抑えることができます。
エピペンを処方されている人は、いざというとき落ち着いて対処できるよう、普段から使い方や注射する部位をしっかり練習しておく必要があります。
また、症状が重いと自分でエピペンを打てなくなる恐れもあるため、家族や周囲の人にも使い方を共有しておきましょう。
エピペンは即効性があり、注射後は徐々に症状が落ち着いてきますが、その間に救急車を呼び、医療機関で治療を受けてください。
エピペンを処方されていない人でも、症状が重いと判断したら迷わず救急車を呼びましょう。
命に関わる事態もあり得るため、迅速な対処が必要です。
【参考情報】『アナフィラキシー時のエピペン®の使用について』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202102_2/#:~:text=%E3%82%A8%E3%83%94%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%A4%E4%BD%BF%E3%81%88%E3%81%B0%E8%89%AF%E3%81%84%E3%81%AE%EF%BC%9F
5.食物アレルギーと併発しやすい病気
アレルギーになりやすい体質(アトピー素因)を持つ子どもは、成長に伴って次々に様々なアレルギー疾患を発症していくことがあります。
乳幼児期に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、学童期に喘息、さらに思春期以降にアレルギー性鼻炎(花粉症)へと移行していくパターンがよく知られています。
このように、複数のアレルギー疾患が段階的(音楽隊の行進=マーチのよう)に現れる現象を「アレルギー・マーチ」と呼びます。
5-1.喘息(ぜんそく)
気道(気管支)に慢性的な炎症が生じ、咳や息苦しさなどの症状が繰り返し現れる病気です。
喘息の原因にはアレルギー性のものと非アレルギー性のものがありますが、子どもの喘息のほとんどはアレルギー(アトピー)型だとされています。
実際、食物アレルギーがある人では特定の食べ物が気道を刺激して喘息症状を引き起こすことがあります。
また、アレルゲンを摂取するとヒスタミンが放出されて喘息が悪化することもあるため注意が必要です。
アレルギーが原因で咳発作が生じることは、咳喘息やアトピー咳嗽(がいそう)などの疾患でも共通しています。
5-2.アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患です。
皮膚が乾燥しやすく、赤い湿疹が現れ、強いかゆみのため掻き壊してしまうこともあります。
こうした皮膚のバリア機能低下により、外部から刺激や細菌などが体内に侵入しやすくなると、アレルゲンが皮膚から侵入して感作され、今まで平気だった食品に対して新たに食物アレルギーを発症してしまうことがあります。
実際、乳幼児期のスキンケアで皮膚を保湿し経皮感作を防ぐことが、後々のアレルギーマーチ進行を抑えるのに重要だと言われています。
5-3.花粉症(アレルギー性鼻炎)
花粉症は、スギやヒノキなど特定の花粉に対して体が過剰に反応し、鼻水や鼻づまり、くしゃみなどのアレルギー症状を引き起こす病気です。
花粉症の人は、特定の果物や野菜を食べると口や喉にアレルギー症状が出る「花粉‐食物アレルギー症候群」(口腔アレルギー症候群)を発症することがあります。
これは、花粉に含まれるアレルゲンと果物や野菜に含まれるアレルゲンの構造が似ているためです。
・シラカバ(白樺)花粉 ⟶ リンゴ、モモ、ナシ、ニンジン など
・スギ花粉 ⟶ トマト
・ブタクサ花粉 ⟶ メロン、スイカ
このように、原因となる食べ物を口にすると口の中や唇のかゆみ、喉のイガイガ感などが起こることがあります。
花粉症をお持ちの方は、関連する果物・野菜にも注意しましょう。
6.おわりに
食物アレルギーの症状のひとつに「咳」があります。
特に喘息や咳喘息を持っている人では、気道が刺激されて炎症が起こり、咳込んだり息苦しさが続いたりすることがあります。
咳が長引いてつらいときには、呼吸器内科やアレルギー科を受診して適切な治療を受けることが大切です。
また、原因となるアレルゲンを特定し、日常生活の中で可能な範囲で避ける工夫ことも症状の予防につながります。
食物アレルギーによる咳を軽視せず、早めの対応でお子さんの健康を守りましょう。