子どもの咳とPM2.5の関係は?症状の見分け方と対策
お子さんの咳が続いていると、「風邪かな?」「もしかしてアレルギー?」と心配になりますよね。
最近では、PM2.5という大気汚染物質が咳の原因になることも知られてきました。
PM2.5はとても小さな粒子のため、肺の奥まで入り込みやすく、子どもの呼吸器に影響を与えることがあります。
この記事では、PM2.5による咳の特徴や、風邪やアレルギーとの違い、保護者の方ができる具体的な対策について分かりやすく解説します。
1. PM2.5とは?子どもへの影響について

PM2.5は大気中に浮遊する2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質です。
髪の毛の太さの約30分の1という小ささのため、鼻や喉のフィルター機能をすり抜けて、気管支や肺の奥まで入り込みやすいという特徴があります。
1-1. PM2.5の正体と発生源
PM2.5は、工場のばい煙(燃料などが燃焼する際に出る有害物質)、自動車の排気ガス、暖房器具の燃焼(石油ストーブ・ガスファンヒーター等)などから発生します。
また、中国大陸からの越境汚染により、春先を中心に日本でも濃度が高くなることがあります。
PM2.5には、炭素、硝酸塩、硫酸塩、金属などの有害物質が含まれており、これらの微小な粒子は、肉眼では見えないほど小さく、通常のマスクでは完全に防ぐことが困難です。
特に都市部や工業地帯では濃度が高くなりやすく、交通量の多い道路沿いでは注意が必要です。
1-2. 子どもが特に影響を受けやすい理由
子どもの呼吸器は大人に比べてまだ発達途中で、体重あたりの呼吸量が多いという特徴があります。
そのため、同じ濃度のPM2.5でも、子どもの方が多く吸い込んでしまい、影響を受けやすいのです。
また、身長が低い子どもは、地面に近い場所の空気を吸うため、車の排気ガスなどの影響を受けやすいともいわれています。
さらに、子どもは屋外で遊ぶ時間が長く、運動量も多いため、より多くの空気を吸い込むことになります。
免疫システムも未熟なため、大気汚染物質による炎症反応も起こりやすいと考えられているのです。
【参考情報】『微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報』環境省
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html
【参考情報】”Health and Environmental Effects of Particulate Matter (PM)” by U.S. EPA
https://www.epa.gov/pm-pollution/health-and-environmental-effects-particulate-matter-pm
2. PM2.5による咳の特徴とは

PM2.5が原因の咳には、いくつかの特徴があります。
風邪やアレルギーとの違いを理解することで、適切な対処ができるようにしましょう。
2-1. どんな咳が出るのか
PM2.5による咳は、乾いたコンコンという咳(空咳)が特徴です。
痰が絡むこともありますが、風邪のような色のついた痰ではなく、透明または白っぽい痰が出ることが多いです。
PM2.5が気道を刺激することで、喉がイガイガしたり、咳払いをしたくなるような感覚が続きます。
この刺激性の咳は、PM2.5が気道の粘膜に直接触れることで起こります。
粒子が小さいため、気管支の奥深くまで入り込み、そこで炎症反応を引き起こすのです。
2-2. 咳が出やすい時間帯や状況
PM2.5による咳には、特定のパターンがあります。
まず、屋外で遊んだ後や通学後に咳が出やすくなるということが多いでしょう。
また、PM2.5の濃度が高くなる朝や夕方の時間帯に症状が強くなることがあります。
天気が良く風が弱い日や、春先に黄砂が飛ぶ時期には特に注意が必要です。
交通渋滞の時間帯である朝7時から9時頃、夕方5時から7時頃は、車の排気ガスによってPM2.5濃度が上昇しやすくなります。
また、気温の逆転層(上空の暖かい空気が、地表近くの冷たい空気のフタになる )が発生しやすい早朝や夜間も、大気汚染物質が地表近くに溜まりやすい時間帯です。
2-3. 持続期間の特徴
風邪の咳は通常1週間程度で治まりますが、PM2.5による咳は環境中の濃度が高い状態が続く限り、症状が続くという特徴があります。
ただし、PM2.5への曝露(さらされること)を避けると、数日で症状が改善することが多いです。
この特徴により、週末や休日に家にいるときは症状が軽くなり、平日の通学時に悪化するといったパターンが見られることもあります。
【参考情報】『PM2.5の健康影響について』神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/pm/p656381.html
【参考情報】”Air Pollutants | Air Quality” by U.S. CDC
https://www.cdc.gov/air-quality/pollutants/index.html
3. 風邪・アレルギー・PM2.5による咳の見分け方

お子さんの咳の原因を見分けるには、いくつかのポイントがあります。
適切な対応をするためにも、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
3-1. 風邪による咳の特徴
風邪の場合は、咳以外に発熱、鼻水、喉の痛みなどの症状が同時に現れることが多いです。
また、痰が黄色や緑色になることもあります。
通常は1週間程度で症状が改善していきます。
家族内で同じような症状が出る場合は、ウイルス感染の可能性が高いでしょう。
風邪による咳は、初期には乾いた咳から始まり、その後痰を伴う湿った咳に変化することが一般的です。
また、全身の倦怠感や食欲不振なども伴うことが多いです。
3-2. アレルギー性の咳の特徴
花粉症などのアレルギーによる咳は、特定の季節や環境で繰り返し起こるのが特徴です。
鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどを伴うことが多く、発熱はありません。
喘息の場合は、ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音(喘鳴:ぜんめい)が聞こえることもあります。
アレルギー性の咳は、原因となるアレルゲンから離れると症状が軽くなるという特徴があります。
また、抗アレルギー薬が効果的であることも判断材料の一つです。
3-3. PM2.5による咳の見分け方
PM2.5が原因の場合は、外出後や大気汚染が報道された日に症状が強くなります。
発熱はなく、喉のイガイガ感や軽い違和感が続きます。室内にいるときは症状が軽くなるというのも特徴の1つです。
また、同じ地域の他の子どもたちにも似たような症状が見られることがあります。
PM2.5濃度の高い日と症状の悪化が一致する場合は、PM2.5が原因である可能性が高いです。
環境省の「そらまめくん」などで濃度情報を確認し、症状との関連を観察してみましょう。
あわせて症状日記をつけることをおすすめします。
【参考情報】環境省大気汚染物質広域監視システム そらまめくん
https://soramame.env.go.jp/
【参考情報】”Air quality and outdoor activity guidance for schools” by U.S. CDC
https://www.airnow.gov/sites/default/files/2018-09/air-quality-and-outdoor-activity-guidance-2014.pdf
4. 通学時・外遊び時の具体的な対策

PM2.5から子どもを守るために、保護者の方ができる対策をご紹介します。
日常生活の中で実践できる方法を中心に解説します。
4-1. 外出前の準備
まず、環境省の「そらまめくん」などのウェブサイトや、お住まいの自治体のサイトで、その日のPM2.5濃度をチェックしましょう。
濃度が高い日(1日平均値35μg/m³以上)に外出する場合は、PM2.5対応のマスクを着用させるとよいでしょう。
子ども用の顔にフィットするマスクを選ぶことが大切です。
濃度が暫定指針値の70μg/m³を超える場合は、屋外での長時間の激しい運動は避けるようにします。
学校への連絡や体育の授業の参加について相談することも必要かもしれません。
4-2. 通学路や遊ぶ場所の工夫
交通量の多い道路沿いはPM2.5濃度が高くなりやすいため、できるだけ裏道や公園を通るルートを選びましょう。
また、朝の通勤時間帯(7~9時頃)は排気ガスが増えるため、可能であれば時間をずらすことも効果的です。
外遊びをする場合は、風通しの良い公園を選び、幹線道路沿いでの長時間の遊びは避けるようにしましょう。
屋内で遊べる施設の利用も検討してみてください。
図書館や児童館、ショッピングモールのキッズスペースなど、空調が整った場所での活動に切り替えることで、PM2.5の影響を避けることができます。
4-3. マスクの正しい使い方
子どもにマスクを着用させる際は、顔のサイズに合ったものを選び、鼻と口の両方をしっかり覆うことが重要です。
マスクと顔の間に隙間があると、そこからPM2.5が入り込んでしまいます。
学校に着いたら、使用したマスクは捨てるか、清潔な袋に入れて持ち帰るよう指導しましょう。
N95やDS2規格のマスクは微粒子の遮断力が高く効果的ですが、密閉性が高いため呼吸がしづらいという特徴があります。
通常の不織布マスクでも、環境省によればある程度の効果は期待できるため、お子さんが無理なく着用できるものを選ぶことが大切です。
【参考情報】『注意喚起が出されたら適切な行動をとりましょう』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/47/report/report04.html
【参考情報】”Sources of Indoor Particulate Matter (PM)” by U.S. EPA
https://www.epa.gov/indoor-air-quality-iaq/sources-indoor-particulate-matter-pm
5. 帰宅後のケアと室内での対策

外出から帰ったら、PM2.5を室内に持ち込まないための対策が大切です。
家族全員で取り組むことで、より効果的な対策となります。
5-1. 帰宅直後にすべきこと
まず、玄関に入る前に衣服をはたいて、付着したPM2.5を落としましょう。
帰宅したら、すぐに手洗い、うがい、洗顔をさせてください。
特に、髪の毛にもPM2.5が付着しているため、できれば髪も洗うか、ブラッシングして粒子を落とすと良いでしょう。
着ていた服は、できるだけ早く洗濯するか、リビングから離れた場所に置くようにします。
可能であれば、玄関近くに着替えを用意しておき、外出着から部屋着に着替えるようにすると、より効果的です。
学校のカバンや靴も、定期的にふき取るなどの手入れをしましょう。
5-2. 室内環境の整え方
PM2.5の濃度が高い日は、窓を開けての換気は最小限にしましょう。
空気清浄機を使用する場合は、PM2.5に対応したHEPAフィルター付きのものを選びます。
加湿器を併用すると、空気中のPM2.5が水分と結合して床に落ちやすくなるため、効果的です。
ただし、加湿器は定期的に掃除をして、清潔に保つことが大切です。
空気清浄機のフィルターは定期的に交換し、機器のメンテナンスも怠らないようにしましょう。
また、部屋の湿度は40~60%程度に保つことで、喉の粘膜を守ることにもつながります。
5-3. 衣類や布製品の管理
外干しした洗濯物には、PM2.5が付着している可能性があります。
濃度が高い日は、部屋干しや乾燥機を使用することをおすすめします。
また、布団やカーテンなども、PM2.5が高い時期は外干しを避け、布団乾燥機や室内干しを活用しましょう。
布製品は定期的に掃除機をかけることで、付着したPM2.5を除去できます。
洗濯の際に柔軟剤を使用すると、静電気の発生を抑えることができます。
静電気によってPM2.5などの微細粒子が衣類に付着しやすくなるため、柔軟剤で静電気を防ぐことがPM2.5対策として効果的です。
【参考情報】”Reference Guide for Indoor Air Quality in Schools” by U.S. EPA
https://www.epa.gov/iaq-schools/reference-guide-indoor-air-quality-schools
6. こんな症状が出たら医療機関へ

以下のような症状が見られる場合は、早めに呼吸器内科や小児科を受診しましょう。
早期発見・早期治療により、症状の悪化を防ぐことができます。
6-1. 受診を検討すべきサイン
次のような症状が見られる場合は、医療機関への受診を検討してください。
・2週間以上咳が続いている
・夜間や早朝に咳き込んで目が覚める
・ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音がする
・息苦しさや胸の痛みを訴える
・咳のために食事や睡眠に支障が出ている
・発熱や色のついた痰が出る
特に、夜間の咳き込みや息苦しさは、喘息などの重篤な疾患の可能性もあるため、速やかな受診が必要です。
6-2. 医療機関で受けられる治療
医師は、問診や聴診、必要に応じてレントゲン検査などを行い、咳の原因を診断します。
PM2.5による気道の炎症に対しては、吸入薬や内服薬が処方されることがあります。
また、喘息の悪化が疑われる場合は、長期管理薬の調整が行われます。
医師の指示に従って治療を続けることで、症状の改善が期待できます。
治療薬には、気管支拡張薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬などがあり、症状や原因に応じて適切なものが選択されます。
定期的な経過観察も重要です。
6-3. 日頃から気をつけること
お子さんの症状を記録するノートやアプリを活用すると、受診時に役立ちます。
いつから咳が始まったか、どんな時に強くなるか、他にどんな症状があるかなどをメモしておきましょう。
また、普段から体調管理を心がけ、十分な睡眠とバランスの取れた食事で免疫力を保つことも大切です。
症状日記をつけることで、PM2.5濃度と症状の関連性が見えてくることもあります。
これらの情報は医師にとって診断の重要な手がかりとなります。
【参考情報】『微小粒子状物質(PM2.5)に関するよくある質問(Q&A)』環境省
https://www.env.go.jp/content/900403822.pdf
【参考情報】”Children’s Environmental Health | Tracking Program” by U.S. CDC
https://www.cdc.gov/environmental-health-tracking/php/data-research/childrens-health.html
7.おわりに
PM2.5は目に見えない小さな粒子ですが、子どもの呼吸器に影響を与えることがあります。
日々のPM2.5濃度をチェックし、マスクの着用、帰宅後の手洗い・うがい、室内環境の整備などの対策を行うことで、お子さんを守ることができます。
もし咳が2週間以上続く、夜間に咳き込む、息苦しさがあるなどの症状が見られたら、早めに医療機関に相談しましょう。
適切な対策と早期の対応で、お子さんの健康を守ることができます。
