花粉症で咳が出る理由、仕組みから、予防方法などを解説!

花粉症は多くの方を悩ませる季節性のアレルギー疾患です。春が近づくと多くの方が悩まされます。
くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状はよく知られていますが、「なんだか咳が止まらない…」と感じることはありませんか。
実は、咳も意外と見過ごされがちな花粉症の症状のひとつです。
この記事では、どうして花粉で咳が出るのか、その理由や、日常で簡単にできる対策をご説明いたします。
1.花粉症とは
花粉症は、花粉に対する過剰な免疫反応によって引き起こされるアレルギー疾患です。日本では、スギやヒノキ、イネ科植物などの花粉が主な原因となっています。
花粉症の主な症状には、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみや充血などがあります。これらの症状に加えて、のどの違和感や咳も現れることがあります。
花粉症の症状は個人差が大きく、軽い方から日常生活に支障をきたすほど重症な方までさまざまです。
花粉症の特徴として、季節性があることが挙げられます。
原因となる植物の花粉が飛散する時期に症状が現れ、それ以外の時期には症状がほとんど見られないことが多いです。
ただし、複数の植物の花粉に反応する方の場合、症状が長期間続くこともあります。
【参考文献】”Hay Fever” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hay-fever/symptoms-causes/syc-20373039
2.花粉に反応して咳が出る理由
ここからは、花粉症が原因となって咳が出る理由についてご説明しましょう。
2-1.花粉によるアレルギー症状が起こるメカニズム
花粉症は、からだの免疫システムが花粉を誤って「敵」と認識することで発症します。この反応は、次のような仕組みで進行します。
1.花粉が鼻や目の粘膜に付着します。
2.体内でIgE抗体という特殊な抗体が作られ、マスト細胞という免疫細胞の表面に付着します。
3.再び花粉が体内に入ると、IgE抗体が花粉を認識し、マスト細胞に信号を送ります。
4.マスト細胞がヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を放出します。
5.これらの化学物質が、くしゃみ、鼻水、目のかゆみなどの症状を引き起こします。
この一連の反応が、のどの粘膜でも起こることで、咳の症状が現れるのです。
【参考文献】”Allergic Rhinitis (Hay Fever)” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8622-allergic-rhinitis-hay-fever
2-2.花粉が原因の咳の特徴
花粉が原因の咳には、次のような特徴があります。
・ 乾いた咳:花粉症による咳は、通常、痰を伴わない乾いた咳(空咳)であることが多いです。
・のどの痒みや違和感:咳の前に、のどに痒みや違和感を感じることがあります。
・季節性:花粉の飛散時期に一致して症状が現れ、それ以外の時期には症状が軽減または消失します。
・他の花粉症状との併発:くしゃみや鼻水、目のかゆみなど、他の花粉症の症状と同時に現れることが多いです。
・夜間や早朝に悪化:就寝中に花粉が鼻やのどに蓄積されるため、夜間や起床時に症状が悪化することがあります。
これらの特徴は、風邪やそのほかの呼吸器疾患による咳とは異なる点があるため、症状の原因が花粉症である、と特定する手がかりになります。
【参考文献】”Are Allergies Causing Your Cough?” by Temple Health
https://www.templehealth.org/about/blog/allergies-vs-chronic-cough
2-3.口呼吸によっても咳が出る
花粉症で鼻づまりがひどくなると、自然と口呼吸になりがちです。しかし、口呼吸は花粉症による咳を悪化させる要因のひとつです。
通常、鼻呼吸では鼻毛や鼻腔内の粘膜が花粉をフィルターのようにして捕らえ、のどや気管支への侵入を防いでいます。
しかし、口呼吸では、このような自然のフィルター機能が働かず、花粉が直接のどの粘膜に付着しやすくなります。
のどの粘膜に花粉が付着すると、そこでアレルギー反応が起こり、のどの炎症や刺激を引き起こします。その結果、咳やくしゃみなどの症状が現れやすくなるのです。
また、口で呼吸をすると、鼻が持つ空気を加湿したり温めたりする機能が働かないため、のどや気管支の粘膜が乾燥しやすくなります。
乾燥した粘膜は刺激に敏感になり、咳を誘発しやすくなります。
したがって、可能な限り鼻呼吸を心がけることが、花粉症による咳の予防や軽減に役立ちます。
鼻づまりがひどい場合は、医師に相談して適切な治療を受けることで、鼻呼吸がしやすくなり、結果として咳の症状も改善される可能性があります。
【参照文献】花粉症環境保健マニュアル『II . 主な花粉と飛散時期』
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/2_chpt2.pdf
3.花粉症診断のための検査
花粉症の正確な診断のために、医療機関ではさまざまな検査が行われます。主な検査方法は以下です。
3-1.血液検査
血液検査は、花粉症の診断に広く用いられる方法のひとつです。主に以下の二つの検査が行われます。
1.血中総IgE値測定
血中総IgE値測定では、体内のIgE抗体の総量を測定します。
IgE抗体はアレルギー反応に関与する抗体で、その量が多いほどアレルギーの可能性が高くなります。ただし、この検査だけでは特定のアレルゲン(アレルギーの原因物質)を特定することはできません。
2.特異的IgE検査(RAST検査)
特異的IgE検査では、特定のアレルゲンに対するIgE抗体の量を測定します。
スギ、ヒノキ、イネ科植物など、さまざまな花粉に対する抗体を個別に調べることができます。これにより、どの花粉に対してアレルギー反応を起こしているかを特定することが可能です。
血液検査は痛みも少なく、短時間で済むため、患者さんの負担が比較的小さいという利点があります。また、検査結果が数値で表されるため、症状の程度や治療の効果を客観的に評価することができます。
3-2.鼻汁の検査
鼻汁の検査は、鼻から分泌される粘液を顕微鏡で観察する方法です。この検査では、主に以下のことを確認します。
・好酸球(こうさんきゅう)の有無
好酸球はアレルギー反応に関与する白血球の一種です。鼻汁中に好酸球が多く見られる場合、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)の可能性が高くなります。
・細胞の状態
鼻汁(はなじる)中の細胞の種類や状態を観察することで、アレルギー性の炎症なのか、感染性の炎症なのかを判断する手がかりになります。
鼻汁の検査は、その場で結果が分かるため、即座に診断や治療方針の決定に役立てることが可能です。また、血液検査と比べて、より直接的に鼻の状態を評価できるという利点があります。
3-3.皮膚の検査
皮膚検査は、直接皮膚にアレルゲンを接触させて反応を見る方法です。主に以下の二つの方法があります。
1.プリックテスト
皮膚に小さな傷をつけ、そこにアレルゲン液を滴下します。15〜20分後に皮膚の反応(発赤や膨疹(ぼうしん))を観察します。複数のアレルゲンを同時に検査できるため、効率的に原因を特定できます。
2. スクラッチテスト
皮膚に軽く傷をつけ、そこにアレルゲン液を塗布します。プリックテストと同様に、皮膚の反応を観察します。
皮膚検査は即時型アレルギー反応を直接観察できるため、信頼性の高い検査方法です。
ただし、皮膚に直接アレルゲンを接触させるため、まれに強いアレルギー反応(アナフィラキシー)を引き起こす可能性があります。そのため、必ず医師の監督下で行う必要があります。
これらの検査を組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
【参考文献】”Hay fever” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hay-fever/diagnosis-treatment/drc-20373045
4.花粉症の治療
花粉症の治療には、主に対症療法と根治療法の二つのアプローチがあります。ここからは、それぞれの特徴と方法についてくわしく見ていきましょう。
4-1.対症療法
対症療法は、花粉症の症状を軽減させることを目的とした治療法です。主に薬物療法が中心となります。
・抗ヒスタミン薬
ヒスタミンの作用を抑えることで、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状を軽減します。眠気の少ない新しいタイプの薬も開発されています。
・抗ロイコトリエン薬
ロイコトリエンの作用を抑えることで、とくに鼻づまりの症状を改善します。抗ヒスタミン薬と併用されることも多いです。
・ステロイド点鼻薬
鼻の粘膜の炎症を抑える効果があり、鼻づまりや鼻水の症状を改善します。長期使用しても副作用が少ないとされています。
・点眼薬
目のかゆみや充血を改善します。抗ヒスタミン成分やステロイド成分を含むものがあります。
・咳止め薬
花粉症による咳がつらい場合に使用します。ただし、原因療法ではないため、他の対症療法と併用することが一般的です。
これらの薬は、症状や重症度に応じて、医師が適切に選択し処方します。市販薬もありますが、自己判断での長期使用は避け、症状が改善しない場合は医師に相談することが大切です。
慢性咳嗽(がいそう)の原因としてアレルギー咳嗽という疾患があります。
機序(きじょ・仕組みのこと)は花粉症と同様の機序で、抗アレルギー薬が効果を示します。
覚えておいていただきたいのは咳喘息を含む気管支喘息との違いです。
アレルギー咳嗽は自然経過で重症化することはほぼありませんが気管支喘息は気道炎症を慢性的に起こしているので適切な治療をしていかないと重症化する可能性があります。
これは必要治療期間に大きくかかわるため正確に診断しないと治療方針があやふやになってしまいます。
同じ慢性咳嗽でもこれらを念頭においた治療検査戦略をしていくことが重要です。
【参考文献】”Hay Fever and Allergy Medications” by American Academy of Allergy, Asthma, and Immunology
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/allergies/hay-fever-medications
4-2.根治療法
根治療法は、花粉症の原因そのものに働きかけ、長期的な改善を目指す治療法です。主な方法として、アレルゲン免疫療法(減感作療法・げんかんさりょうほう)があります。
アレルゲン免疫療法は、からだをアレルゲンに慣れさせることで、アレルギー反応を抑える治療法です。主に以下の二つの方法があります。
1.皮下免疫療法
アレルゲンエキスを定期的に皮下注射します。少量から始めて徐々に量を増やしていきます。効果が現れるまでに3〜5年程度かかりますが、長期的な効果が期待できます。
2.舌下(ぜっか)免疫療法
アレルゲンエキスを含んだ錠剤やドロップを舌の下で溶かします。皮下免疫療法と比べて、自宅で行えるため通院の負担が少ないという利点があります。
これらの治療法は、長期的に行うことで花粉症の症状を軽減し、薬の使用量を減らすことができる可能性があります。
ただし、すべての方に効果があるわけではなく、また治療中に副反応が起こる可能性もあるため、必ず医師の指導のもとで行う必要があります。
花粉症の治療法は、症状の程度や生活スタイル、患者さんの希望などによって選択されます。対症療法と根治療法を組み合わせることで、より効果的な治療が可能になることもあります。
【参照文献】厚生労働省『平成22年度花粉症対策』
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/kafun/ippan-qa.html
5.花粉が原因の咳を予防、緩和する方法
花粉症による咳を予防・緩和するためには、薬物療法だけでなく、日常生活での対策も重要です。ここからは、簡単にできる効果的な方法をご紹介いたしましょう。
5-1.室内を加湿する
室内の加湿は、花粉症による咳の予防・緩和に非常に効果的です。乾燥は咳を悪化させる主な原因のひとつであるため、適切な湿度を保つことが重要です。
加湿の方法としては、以下のようなものがあります。
・加湿器を使用する:最も効果的で安定した加湿方法です。
・濡れたタオルを室内に干す:簡単に実践できる方法です。
・お湯を沸かす:湯気が室内の湿度を上げます。
・霧吹きで水をまく:一時的な加湿に効果があります。
室内の適切な湿度は40〜60%程度とされています。この範囲の湿度を保つことで、のどや気道の粘膜を保護し、咳の症状を軽くできます。
5-2.花粉を除去する
花粉による咳を予防・緩和するためには、できるだけ花粉との接触を避けることが重要です。以下のような方法で、家に入る前や洗濯物を取り込む際に花粉を払い落としたり、掃除したりすることが効果的です。
・外出から帰宅時:玄関先で衣服や髪、かばんなどに付着した花粉を払い落とします。
・洗濯物の取り込み:室内に入れる前に、屋外で軽く花粉を払います。
・掃除:こまめに掃除機をかけ、窓や床のほこりを拭き取ります。
・エアコンのフィルター清掃:定期的にフィルターを清掃し、室内に花粉が舞い散るのを防ぎます。
これらの対策を日常的に行うと、室内の花粉量を減らし咳の症状を軽減することができます。
5-3.マスクを着用する
マスクの着用は、花粉による咳の予防・緩和に非常に効果的です。マスクには以下のような効果があります。
・花粉の侵入を防ぐ:マスクが物理的なバリアとなり、花粉の吸入を防ぎます。
・湿度を保つ:マスク内に呼気がこもることで、のどの乾燥を防ぎます。
・空気の加温:吸い込む空気が加温され、のどや気管への刺激を軽減します。
花粉症対策をより効果的にするためには、高機能マスクを選び、正しく着用することが重要です。
マスクを選ぶ際には、花粉症対策に適した不織布(ふしょくふ)マスクがおすすめです。不織布マスクは花粉を最も効果的に防ぐとされています。
とくに高性能なタイプであれば、95%以上の花粉をカットできるという試験結果もあります。また、顔にしっかりフィットするものを選ぶことが重要です。
マスクと顔の間に隙間があると花粉が入り込む原因になるため、隙間を防ぐ設計のものを選びましょう。
さらに、自分の顔に合ったサイズのマスクを選ぶことで、効果を最大限に引き出すことができます。
マスクを正しく着用するためのポイントは以下の通りです。
1.鼻と口をしっかり覆う
マスクで鼻からあごまでをしっかり覆い、花粉が入り込まないようにしましょう。
2.鼻の部分を密着させる
鼻の周りに隙間ができないよう、手で押さえてしっかりフィットさせます。
3.顔に密着させる
マスクと顔の間に隙間ができないよう、しっかり密着させてください。
4.耳掛け部分を調整する
耳掛けを調整して、マスクがずれないようフィット感を高めましょう。
これらの手順を守ることで、マスクの効果を十分に発揮できます。
さらに、花粉症対策を強化するためには次のような工夫も効果的です。
ひとつ目は、インナーマスクの使用です。マスクの内側にガーゼを当てることで、花粉の侵入をよりしっかり防ぐことができます。
ガーゼは、マスクとの間にもう一層の障壁(しょうへき)を作り、花粉が直接通過するのを防ぐ役割を果たします。とくに、花粉の多い日に外出する際や、花粉の飛散量が高い環境にいるときにおすすめの方法です。
もうひとつは、マスクのフィット感を定期的に確認することです。
マスクを着けたまま時間が経つと、動きや湿気などの影響でフィット感が弱くなったり、隙間ができたりする場合があります。
そのため、着用中も定期的に鏡などで確認し、必要に応じて調整しましょう。鼻やあごの部分を密着させ直したり、耳掛け部分を再調整したりすることで、効果を維持できます。
これらの対策を取り入れることで、マスクの防御力をさらに高め、花粉症の症状を軽減する助けになります。
【参考文献】”Pollen Allergy” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/pollen-allergy
6.おわりに
花粉症による咳は、適切な対策と治療によって軽くすることができます。
この記事で紹介した方法を日常生活に取り入れることで、症状の改善が期待できる可能性があります。
しかし、花粉症シーズンに咳がつらい場合や、市販薬で効果を感じられない場合は、呼吸器内科やアレルギー科などの医療機関への受診を検討しましょう。
専門医の診断を受けることで、より適切な治療法を見つけることができます。
花粉症の症状は人それぞれ異なります。ご自分に合った対策や治療法を見つけ、快適な日々を過ごせるよう心がけましょう。