嚢胞性肺疾患(のうほうせいはいしっかん)とはどんな病気?
「嚢胞性肺疾患」は肺の中に嚢胞が形成される疾患の総称であり、先天性と後天性の両方があります。嚢胞とは肺の薄い壁を持つ袋状の構造のことです。
胎児期に発症し、治療を行わない場合、肺炎を起こしたり一部ではがん化のリスクが高まるため、手術による摘出が一般的な治療法です。
この記事では、嚢胞性肺疾患の特徴や症状、検査、治療法についてご説明いたします。
1.嚢胞性肺疾患とは
嚢胞性肺疾患は、肺の中に嚢胞が形成される疾患の総称です。気管支嚢胞(気管や気管支の異常発達によって嚢胞ができる先天性の病気)や気腫性肺嚢胞(肺の組織が壊れてできた、風船のような空洞)などがあり、肺の異常に拡大した気腔病変があるのが特徴です。
※気腔(きこう):体の中で空気を含む空間
嚢胞とは薄い壁を持つ袋状の構造のことをいいます。1㎜以下の薄い壁で、1㎝以上の嚢胞は「ブラ」と呼ばれます。
ブラは、自然気胸(肺の表面にある薄い膜である胸膜が破れ、胸腔内に空気が漏れてしまう状態)の原因になり、巨大なブラが正常な肺を圧迫して呼吸困難につながる可能性もあります。
嚢胞性肺疾患には先天性や後天性の原因がありますが、一番頻度が高いのは、後天性のブラが原因とされるものです。
【参考文献】“Diagnosis and treatment of cystic lung disease” by the National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5339473/
1-1.発生異常
嚢胞性肺疾患は、胎児期に発症する先天性のものと、生後何らかの原因で発症する後天性のものがあります。
胎児のときに気管支や肺の組織が正常につくられず、肺に嚢胞が発生することが原因です。これには、先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)などがあります。
1-2.非感染性肺病変
嚢胞性肺疾患のうち非感染性病変は、自己免疫疾患などにより肺に嚢胞が形成されることによります。
具体的には、気管支嚢胞や気腫性肺嚢胞などがあり、肺の異常に拡大した気腔病変を特徴とします。
1-3.感染性肺病変
嚢胞性肺疾患の感染性肺病変は、細菌や寄生虫に感染することが原因で肺に嚢胞が形成されます。
感染が進行すると、嚢胞の内容物が壁を破って周囲の組織に漏れ出し、炎症や膿(うみ)を生じることがあります。
1-4.遺伝性肺病変
嚢胞性肺疾患の遺伝的要因によって引き起こされる遺伝性肺病変には主に気管支嚢胞と気腫性肺嚢胞の形態があります。
気管支嚢胞は、嚢胞が大きくなると呼吸困難などの症状が現れることがあります。
気腫性肺嚢胞は、外科的切除が必要になることがあり、感染症を合併した場合には抗菌薬や去たん薬の使用が検討されます。
【参照文献】日本周産期・新生児医学会『新生児・乳児の嚢胞性肺疾患』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspnm/57/3/57_409/_pdf/-char/ja
1-5. 腫瘍性
嚢胞性肺疾患のなかで癌などの腫瘍により引き起こされる疾患です。
2.症状
嚢胞性肺疾患は病状の進行度によって症状が異なります。
<初期段階>
初期段階では、多くの場合は無症状です。健康診断での胸部X線検査やCTスキャンなどの画像診断で偶然発見されることがよくあります。
<嚢胞の拡大>
嚢胞が大きくなるにつれて、症状が現れ始めます。大きくなった嚢胞により、肺の正常な機能が妨げられ、息切れ、呼吸困難や胸部の不快感や胸痛を引き起こすことがあります。
<細菌感染>
嚢胞性肺疾患が細菌感染を合併すると、発熱、咳、痰などの症状が現れます。嚢胞内の細菌の増殖が起こり、炎症や感染症状を引き起こす原因となります。
<ブラの破綻による気胸の症状>
ブラが破綻し気胸を発症した場合の症状としては、胸痛、咳、背部痛、息苦しさ、呼吸困難などがあげられます。まれに、症状はないものの、胸部エックス線検査で発見されることがあります。
3.検査
嚢胞性肺疾患の検査は、主に胸部エックス線検査と胸部CT検査が用いられます。
<胸部エックス線検査>
胸部全体にX線を照射して肺の構造を可視化する基本的な検査方法です。この検査は比較的簡単かつ迅速に行うことができ、広範囲の検査に適しています。
嚢胞の存在やその大きさ、数、位置などの初期的な情報を得ることができます。
<胸部CT検査>
X線を使用して肺や胸部の断面画像を撮影するより高度な画像診断法です。
この検査により、肺の内部構造を非常に詳細に観察することができます。嚢胞性肺疾患の診断においては、胸部CT検査が特に重要です。
嚢胞の正確な大きさ、数、位置を確認することが可能で、嚢胞の性質(例えば液体の有無、組織の厚みなど)や周囲の組織との関係も評価できます。
4.治療
嚢胞性肺疾患の一般的な治療には、以下のようなものがあります。病変の種類や重症度、合併症の有無に応じて治療方針が決められます。
<経過観察>
先天性嚢胞性肺疾患の場合、とくに症状がなく、病変が小さい場合は、経過観察を行う場合があります。経過観察中は肺炎をはじめとした合併症の発生に注意を払うことが大切です。
<手術治療>
肺炎予防のため、または病変が大きい場合や症状がある場合には、病変部や病変部を含む肺の一部を摘出する手術が行われます。
手術は開胸手術ではなく、胸腔鏡を用いた手術が行われることが増えています。
胸腔鏡手術は、胸に小さい穴を開けて細い器具を挿入し、嚢胞を取り除く手術で、従来の開胸手術に比べて患者さんに負担が少なく、回復も早いという利点があります。
<抗生物質と去痰薬>
感染症を合併している場合には、抗生物質や去痰薬を用いた治療が行われます。感染を抑え、症状を緩和します。感染症が繰り返される場合には、手術が適応となることもあります。
<定期的な検査>
治療の一環として、定期的に胸部X線検査や胸部CT検査を行います。病変の進行状況や手術の必要性を把握し、治療計画を立てることができます。
<ブラの破綻による気胸の治療について>
軽度の気胸で症状がない場合、自然に治ることがあります。
安静に過ごしていただき、定期的に胸部エックス線検査を行い経過を観察します。
中等度~高度の場合、入院治療で、胸の中に細い管を入れ、溜まった空気を体の外に出す胸腔ドレナージを行います。しぼんだ肺を膨らませ、自然に穴がふさがるのを待ちます。
しかし、空気の漏れが止まらない場合は、気胸の原因となっている穴をふさぐ手術を行います。手術の多くは胸腔鏡下で行われますが、穴が分かりにくい場合は開胸手術になることもあります。
また、手術と比べると治療の成功率は劣りますが、高齢の方や持病などで全身状態が良くなく、全身麻酔や手術が困難な場合、胸膜癒着術といった治療方法が検討されます。胸の中に管を通して薬を入れ、胸膜に炎症を起こし肺と胸壁をくっつけることで穴をふさぐ治療方法です。
5.おわりに
嚢胞性肺疾患は、肺に嚢胞が形成される病態で、さまざまな原因によって引き起こされます。
無症状であることも多いですが、大きくなると呼吸困難を引き起こす可能性があり、さらにはがんなどの深刻な合併症につながるリスクもあります。
呼吸がしにくい、胸部の違和感や持続的な咳などの症状がある場合は、早めに呼吸器専門の病院を受診することが重要です。早期発見と適切な治療によって、症状の改善や合併症のリスクを減らすことができるでしょう。