睡眠時無呼吸症候群は呼吸器内科で検査・治療がおこなえます

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まる深刻な病気です。
日中の強い眠気や集中力低下を引き起こすだけでなく、高血圧や心臓病などの重大な合併症のリスクも高めます。
治療が重要ですが、患者さんの多くが自覚症状に乏しく早期発見が難しいとされています。
睡眠時無呼吸症候群の専門的な検査と治療は、呼吸器内科で受けることが可能です。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群についてご説明し、その対策についてご紹介します。
1. 睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気です。
成人男性の約4人に1人、女性の約8人に1人が罹患しているとされ、決して珍しい病気ではありません。
睡眠時無呼吸症候群には主に二つのタイプがあります。
最も一般的なのが閉塞性(へいそくせい)睡眠時無呼吸症候群(OSA)で、上気道が物理的に狭くなることで呼吸が止まってしまうタイプです。
もうひとつは中枢性(ちゅうすうせい)睡眠時無呼吸症候群(CSA)で、脳からの呼吸指令が正常に機能しないことで起こります。
睡眠時無呼吸症候群になりやすい方の特徴としては、以下のようなものがあります。
・肥満の方
・首が太い方
・顎が小さい、または後退している方
・扁桃腺が肥大している方
・アルコールを多く摂取する方
・喫煙者の方
・高齢の方
・男性(女性よりも発症リスクが高い)
とくに注意が必要なのは、睡眠時無呼吸症候群の症状はご本人が気づきにくいという点です。
多くの方が「自分は大丈夫」と思っていても、実際には症状が深刻な状態にまで進行していることがあります。
そのため、ご家族やパートナーの方に「寝ている間に呼吸が止まっていないか」「大きないびきをかいていないか」などを確認してもらうことが非常に重要です。
また、睡眠時無呼吸症候群は単なる睡眠の質の問題ではありません。
無呼吸が各臓器に負担をかけて様々な疾患を発症、悪化させる可能性があります。
重症無呼吸症候群を有する方はそうでない方に比して5年生存率の低下があることが報告されています。
これは、長時間の無呼吸状態が続くことで、体内の酸素濃度が危険なレベルまで低下し、心臓や脳に重大な影響を与えるためです。
このように、睡眠時無呼吸症候群は決して軽視できない病気です。
一方で、適切な診断と治療を受けることで、症状を大幅に改善し、健康的な生活を取り戻すことができます。
次の章では、睡眠時無呼吸症候群の方が特に気をつけるべきことについてみていきましょう。
【参考文献】”Sleep apnea” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631
2. 睡眠時無呼吸症候群の方が気をつけなくてはならないこと
睡眠時無呼吸症候群の方は、さまざまな健康リスクに直面しています。これらのリスクを理解し、適切に対処することが、健康的な生活を送るうえで非常に重要です。
まず、大きなリスクとして、睡眠時無呼吸症候群は以下のようなさまざまな合併症があります。
・高血圧:睡眠時無呼吸症候群患者さんの約半数が高血圧を合併しているといわれています。高血圧は、脳卒中や心臓病、腎臓病などの重大な疾患のリスクを高めます。
・糖尿病:睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いほど、糖尿病の合併率が高まるというデータがあります。無呼吸による低酸素状態が、インスリンの働きを悪くする可能性があります。
・心血管疾患:心筋梗塞、狭心症、心不全、不整脈などのリスクが高まります。睡眠時無呼吸症候群による血圧の変動や血液凝固性の亢進(こうしん・高い度合にまで進むこと)が、これらの疾患のリスクを高めます。
・脳卒中:睡眠時無呼吸症候群患者さんは、健常者の方と比べて脳卒中の発症リスクが約3倍高いという研究結果があります。
・メタボリックシンドローム:中等症の睡眠時無呼吸症候群患者さん(男性)の約半数にメタボリックシンドロームの合併が見られるという報告があります。
以上のような合併症に加えて、睡眠時無呼吸症候群の方は日中の眠気や集中力の低下による事故のリスクも高くなります。
例えば、次のようなことがあげられます。
・交通事故:睡眠時無呼吸症候群患者さんは、健常者と比べて交通事故を起こすリスクが2〜7倍高いという研究結果があります。
・労働災害:眠気や集中力低下により、職場での事故や怪我のリスクが高まります。
・日常生活での事故:階段からの転落や家庭内での怪我のリスクも増加します。
ここで問題になるのは、多くの睡眠時無呼吸症候群患者さんがご自分の状態の深刻さに気づいていないという点です。
さらに、症状は徐々に進行するため、患者さんご自身が感じにくいのも原因のひとつにあります。
日中の眠気も、「最近忙しいから」「年のせいだろう」と軽視してしまいがちです。
このような自覚症状の乏しさが、睡眠時無呼吸症候群の早期発見と治療を難しくしています。
しかし、上記のような深刻なリスクを考えると、少しでも疑わしい症状がある場合は、早期に医療機関を受診することが非常に大切です。
また、予防と早期発見のために、次のような点に注意しましょう。
・家族やパートナーからのいびきや呼吸停止の指摘を軽視しない
・日中の強い眠気や集中力低下が続く場合は要注意
・肥満、高血圧、糖尿病などの既往がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性も考慮する
・定期的な健康診断を受け、睡眠に関する問題も相談する
次の章では、睡眠時無呼吸症候群の検査について、とくに呼吸器内科での検査の実際についてご説明いたします。
【参照文献】厚生労働省 『睡眠時無呼吸症候群 / SAS』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html
【参考文献】”Sleep Apnea” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8718-sleep-apnea
3.呼吸器内科で睡眠時無呼吸症候群の検査はおこなえます
睡眠時無呼吸症候群は、その名の通り睡眠中の呼吸に問題が生じる病気です。そのため、呼吸器を専門とする呼吸器内科で診断・治療を受けることが可能です。
呼吸器内科の医師は、肺や気道の疾患に精通しており、睡眠時無呼吸症候群の診断と治療に必要な専門知識と経験を持っています。
呼吸器内科での睡眠時無呼吸症候群の検査は、通常以下のような流れで行われます。
1. 問診と身体診察
医師は、患者さんの症状や生活習慣、既往歴などについて詳しく聞き取りを行います。また、体重や首周りの測定、口腔内の観察なども行います。
2. 質問票による評価
エプワース眠気尺度(ESS)などの質問票を用いて、日中の眠気の程度を評価します。
3. 簡易検査(スクリーニング検査)
自宅で行える簡易的な検査です。小型の測定器を装着して就寝し、酸素飽和度や呼吸の状態を記録します。
4. 精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)
睡眠時無呼吸症候群の確定診断に必要な最も重要な検査です。通常、病院で一泊して行います。
脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸状態、酸素飽和度など、さまざまな検査項目を同時に測定し、睡眠の質や無呼吸の頻度・程度を詳細に確認します。
5. その他の検査
必要に応じて、血液検査や画像検査(レントゲン、CT、MRIなど)を行うこともあります。
これらの検査により、睡眠時無呼吸症候群の有無だけでなく、その重症度や原因となっている要因(上気道の狭窄部位など)も特定することができます。
ただし、すべての呼吸器内科で睡眠時無呼吸症候群の検査が可能というわけではありません。
睡眠時無呼吸症候群の診断には特殊な機器や設備が必要なため、実施できる医療機関が限られる場合があります。
そのため、受診の際は事前に睡眠時無呼吸症候群の検査を行っているかどうかを確認するようにしましょう。
多くの総合病院の呼吸器内科や、睡眠専門外来を設けている医療機関では、睡眠時無呼吸症候群の検査と治療が可能です。
また、最近では睡眠時無呼吸症候群専門クリニックも増えてきています。
上記を踏まえ、ご自分に合った医療機関を選ぶためには、以下のような点を考慮するのがよいでしょう。
・睡眠時無呼吸症候群の診断と治療の経験が豊富か
・終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が実施可能か
・CPAP療法など、様々な治療オプションが提供されているか
・自宅での簡易検査が可能か
・保険適用の範囲
次の章では、睡眠時無呼吸症候群の治療について、とくに呼吸器内科で行われる治療法についてご説明しましょう。
【参考文献】”Sleep apnea” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/diagnosis-treatment/drc-20377636
4.睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の程度や原因によって異なりますが、呼吸器内科では以下のような治療法を行うのが一般的です。
1. 生活習慣の改善
生活習慣の改善はすべての睡眠時無呼吸症候群患者さんに勧められる基本的な治療法です。
とくに肥満の方は、減量が非常に効果的です。体重が10%減少すると、無呼吸指数(AHI)が約26%改善するという研究結果もあります。
そのほかの生活習慣の改善点としては以下のことがあげられます。
・禁酒または節酒(特に就寝前のアルコール摂取を避ける)
・禁煙
・規則正しい睡眠習慣
・横向き寝の習慣化(仰向けで寝ると症状が悪化する場合が多い)
・就寝前の過度な飲食を避ける
これらの生活習慣の改善は、睡眠時無呼吸症候群の症状を軽減するだけでなく、全身の健康にも良い影響を与えるでしょう。
2. CPAP(持続陽圧呼吸療法)
中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群に対する最も一般的で効果的な治療法です。
睡眠中にマスクを装着し、一定の圧力で空気を送り込むことで、気道の閉塞を防ぎます。
CPAPは、睡眠時無呼吸症候群の治療において多くの利点があります。
まず、CPAPの最大の特徴は即効性があることです。使用を開始した初日から効果が現れ、多くの患者さんが睡眠の質の向上を実感します。
次に、CPAPは高い治療効果を示します。適切に使用すれば、ほぼ完全に無呼吸を防ぐことができ、酸素飽和度の改善や日中の眠気の軽減など、顕著な効果が得られます。
さらに、CPAPは非侵襲的な治療法であるという大きな利点があります。
手術のようにからだを傷つけることなく治療を行えるため、身体的な負担が少なく、合併症のリスクも低いのが特徴です。
これらの利点により、CPAPは多くの患者さんにとって安全で効果的な治療選択肢となっています。
一方で、CPAPの使用において、マスク装着の不快感や機器の音が気になる場合もあります。
しかし、最近のCPAP機器は大幅に改良されて快適性が著しく向上しており、多くの患者さんがCPAP治療に順応しやすくなっています。
実際に、使用を開始した翌朝や数日後には、いびきや無呼吸などの症状が改善し、睡眠の質が向上したと感じる方が多くいます。
ただし、CPAPに慣れるまでには個人差があり、6カ月ほどかかる場合もあります。
そのため、焦らず少しずつ治療時間を伸ばしていくことが重要です。また、マスクのフィッティングや機器の設定を適切に調整することで、さらに快適に使用できるようになります。
結果として、これらの改善と適切な使用法により、多くの患者さんがCPAP治療の効果を実感し、睡眠の質や日中の活動性の向上を経験しています。
3. 口腔内装置
軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群や、CPAPに適応できない患者さんに対して使用されます。下顎を前方に引き出すことで、気道を広げる効果があります。
4. 手術療法
口蓋扁桃(こうがいへんとう)肥大や小顎症(しょうがくしょう)など、明らかな解剖学的異常がある場合に検討されます。
代表的な手術としては、口蓋垂軟口蓋(すいなんこうがい)咽頭形成術(UPPP)や顎矯正手術などがあります。
・口蓋扁桃肥大:口蓋扁桃が肥大して通常より大きくなった状態
・小顎症:下顎が上顎に対して著しく後退している状態。
・口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP):口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除して気道を広げる手術。
5. 薬物療法
現在のところ、睡眠時無呼吸症候群に特化した薬物療法はありませんが、合併症の治療や症状の緩和のために薬物療法が行われることがあります。
例えば、アレルギー性鼻炎による鼻閉が睡眠時無呼吸症候群を悪化させている場合、抗アレルギー薬や点鼻薬が処方されることがあります。
6. 酸素療法
主に中枢性睡眠時無呼吸症候群や、ほかの呼吸器疾患を合併している場合に考慮されます。
これらの治療法のなかから、患者さんの症状や生活スタイル、希望などを考慮して、最適な治療法が選択されます。
多くの場合、複数の治療法を組み合わせることで、より良い効果が得られます。
また、治療開始後も定期的な経過観察が重要です。
症状の変化や治療の効果、副作用の有無などを確認し、必要に応じて治療内容を調整していきます。
睡眠時無呼吸症候群の治療は長期にわたることが多いですが、適切な治療を続けることで、睡眠の質が改善し、日中の眠気や集中力低下が解消されるだけでなく、高血圧や糖尿病などの合併症のリスクも低下します。
そのため、診断を受けた後も、医師の指示に従って継続的に治療を受けることが非常に重要です。
ここで、睡眠時無呼吸症候群の治療において、とくに重要な点を詳しくみていきましょう。
まず、肥満の方の減量についてです。肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスク因子のひとつであり、多くの場合、減量だけで睡眠時無呼吸症候群の症状が大幅に改善します。
しかし、急激な減量はからだに負担をかけるため、適切な方法で徐々に体重を落としていくことが大切です。具体的には以下のような方法があります。
・バランスの取れた食事:カロリー制限だけでなく、栄養バランスにも気を付けましょう。
・定期的な運動:有酸素運動を中心に、週3〜5回、30分以上の運動を心がけましょう。
・十分な睡眠:適切な睡眠時間を確保することで、食欲をコントロールしやすくなります。
・ストレス管理:ストレスによる過食を避けるため、リラックス法を身につけましょう。
次に、禁酒や節酒についてです。
アルコールは筋肉を弛緩させる作用があり、のどの筋肉も弛緩することで気道が狭くなりやすくなります。
そのため、とくに就寝前のアルコール摂取は避けるべきだといえます。
完全な禁酒が難しい場合は、以下のような工夫をしてみましょう。
・就寝3時間前までにアルコールを飲み終える
・アルコールの量を徐々に減らしていく
・アルコールの代わりにノンアルコール飲料を楽しむ
また、CPAP療法は治療の継続が非常に重要です。
CPAPの使用を中断すると、すぐに睡眠時無呼吸症候群の症状が再発してしまいます。
CPAPの使用を継続するためのコツとしては以下の点があげられます。
・マスクのフィッティングを丁寧に行い、快適な装着感を得る
・就寝時の儀式として、CPAP装着を習慣化する
・使用状況を記録し、改善を実感する
・定期的に医師に相談し、問題点があれば早めに解決する
これらの点に注意しながら治療を続けることで、睡眠時無呼吸症候群の症状を効果的にコントロールし、健康的な生活を送ることができます。
【参考文献】”Sleep Apnea Treatment” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/treatment
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群は治療で改善可能ですが、自覚症状が乏しく診断が遅れがちです。
いびきや無呼吸の指摘を軽視せず、呼吸器内科で専門的な診断・治療を受けることが重要です。
睡眠の悩みがある方は受診を検討しましょう。