咳が出るのは猫アレルギーが原因?症状、治療、対処法について

猫と過ごす時間が癒しである方が多い一方で、猫と触れ合うと咳や鼻水などの症状に悩まされる方も多くいらっしゃいます。
これらの症状は猫アレルギーが原因かもしれません。
この記事では、猫アレルギーの特徴や原因、症状や検査、治療法、日常生活での対処法をご説明いたします。
ペットによるアレルギー症状は程度によりますが飼い主の適切な治療、環境の整備などでコントロール可能な場合が多いです。
決して即座に飼育を断念することはありません。
愛するご家族を末永くかわいがっていただくために早めに専門医に相談することをお勧めいたします。
ここからは猫との暮らしを諦めることなく、快適に過ごすためのポイントをご紹介していきます。
1. 猫アレルギーとはどんな病気なのか?
ここでは、猫アレルギーの特徴や原因、症状についてご紹介します。
1-1. 特徴
猫アレルギーは動物アレルギー(ペットアレルギー)の一種です。近年増加傾向にあるとされており、決して珍しい病気ではありません。
猫アレルギーの特徴として、猫に直接触れなくても症状が出ることがあげられます。
これは、猫アレルギーの原因となるアレルゲンは、非常に小さな粒子で空気中に浮遊しやすい特徴があるためです。
このアレルゲンは主に猫の唾液や皮脂腺に含まれていますが、乾燥すると空気中に舞い上がります。
そのため、以下のような状況が起こります。
・長時間空中を漂う:猫アレルゲンは非常に小さいため、空気中に長く留まります。
・広範囲に拡散:アレルゲンは天井、壁、床、カーテンなどに付着し、空間全体に広がります。
・間接的な接触でも反応:猫に直接触れなくても、空気中を漂うアレルゲンを吸い込むことで症状が現れる可能性があります。
このような特性により、猫を飼っていない方でも、猫がいる環境に入るだけでアレルギー症状が出ることがあります。
また、猫がいなくなったあともアレルゲンが残っている可能性があるため、注意が必要です。
さらに、猫アレルギーがある方は、トラやライオンなどほかのネコ科の動物に対してもアレルギー反応を示す可能性があります。これは、ネコ科の動物が共通のアレルゲンを持っているためです。
なお、猫アレルギーは、年齢や性別を問わず発症する可能性があります。
子供の頃は症状がなくても、大人になってから突然発症することも珍しくありません。また、猫を飼い始めてしばらくしてから症状が現れることもあります。
1-2. 原因
猫アレルギーの主な原因は、猫のからだから分泌される特定のタンパク質です。
とくに、Feld 1(フェル ディ ワン)というタンパク質が最も強いアレルゲンとして知られています。
Feld 1は、猫の皮脂腺から分泌され、毛や皮膚に付着しています。また、猫の唾液や尿にも含まれています。猫が毛づくろいをする際に毛に付着し、それが乾燥して空気中に浮遊します。
なお、猫の品種によってアレルゲンの量に差があるという説もありますが、完全にアレルゲンを持たない猫は存在しません。そのため、どの猫でもアレルギー反応を引き起こす可能性があります。
1-3. 症状
猫アレルギーの症状は患者さんによって異なりますが、一般的に以下のようなものが現れます。
・咳:乾いた咳や、喘息のような咳が続くことがあります。
・くしゃみ:頻繁にくしゃみが出ることがあります。
・鼻水、鼻づまり:鼻水が止まらなかったり、鼻が詰まって呼吸がしづらくなったりすることがあります。
・のどの痛みやかゆみ:のどに違和感を感じたり、かゆみを感じたりすることがあります。
・息苦しさ:胸が締め付けられるような感覚や、呼吸が困難になることがあります。
・目のかゆみや充血:目がかゆくなったり、赤くなったりすることがあります。
・皮膚のかゆみやじんましん:猫に触れた部分を中心に、皮膚がかゆくなったり、じんましんが出たりすることがあります。
猫アレルギーの症状は、猫との接触直後に現れることもあれば、数時間後に出ることもあります。
その症状の程度は個人差が大きく、軽い鼻水程度から重度の喘息発作まで、幅広い範囲に及びます。
なかでもとくに注意が必要なのが、アナフィラキシーショックです。
アナフィラキシーショックは重度のアレルギー反応で、呼吸困難や血圧低下などを引き起こし、生命に関わる危険な状態になることがあります。
【参照文献】住居とアレルギー『室内環境アレルゲンとしてのペットおよびスギ花粉アレルゲン』
https://www.niph.go.jp/journal/data/47-1/199847010005.pdf
【参考文献】”Allergic to your cat?” by The Ohio State University
https://vet.osu.edu/sites/default/files/documents/allergic%20to%20your%20cat.pdf
【参考文献】”Pet Allergies” by American College of Allergy Asthma and Immunology
https://acaai.org/allergies/allergic-conditions/pet-allergies/
2. 検査
猫アレルギーの有無を調べるには、医療機関での検査が必要です。
呼吸器内科でも検査をすることが可能です。
アレルギーの一般的な検査では、血液検査による抗原特異的IgE抗体の測定が行われます。
IgE抗体とは、アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)に反応して、体内で生成される抗体のことです。抗原特異的IgE抗体検査では、猫のアレルゲンに対するIgE抗体の量を測定します。
具体的な検査の流れは、以下です。
1. 採血:腕の静脈から少量の血液を採取します。
2. 血液分析:採取した血液を専門の検査機関で分析します。
3. 結果判定:猫のアレルゲンに対するIgE抗体の量を測定し、基準値と比較します。
検査結果では、猫のアレルゲンに対するIgE抗体の量が数値化され、この数値が高いほど猫アレルギーの可能性が高いとされます。
ただし、検査結果の解釈には慎重を期す必要があります。
検査結果と臨床症状は必ずしも一致しない、ということがあり、高いIgE抗体値を示す方でも、実際の生活では全く症状が現れないケースがあります。
一方で、IgE抗体値が低くても、猫との接触で顕著なアレルギー反応を示す方もいます。
そのため、検査結果だけでなく、実際の症状や生活環境なども考慮して総合的に診断を行います。
また、皮膚テストという検査方法もあります。
皮膚テストは、猫のアレルゲンを含む液体を皮膚に少量塗布し、その部分に反応(赤みや腫れなど)が出るかどうかを確認する検査です。
ただし、この検査は即時型アレルギー反応しか判定できないため、遅延型のアレルギー反応を見逃す可能性があるため注意が必要です。
検査の結果、猫アレルギーと診断された場合でも、必ずしも猫との生活を諦める必要はありません。
症状の程度や生活環境に応じた適切な治療や対策を、次章以降でご説明しましょう。
【参考文献】”Pet allergy” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pet-allergy/diagnosis-treatment/drc-20352198
3. 治療
猫アレルギーの治療は、症状の軽減と予防が中心です。
完全に治すことは難しいですが、適切な治療を受けることで、症状をコントロールすることができます。ここでは、主な治療法についてご説明いたします。
3-1. 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、猫アレルギーの治療でよく使用される薬のひとつです。この薬はアレルギー症状の原因となるヒスタミンの作用を抑える効果があります。
ヒスタミンは、くしゃみや咳、鼻水、かゆみといった典型的なアレルギー症状を引き起こします。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンが体内の受容体と結合するのを阻害し、症状を抑えます。
抗ヒスタミン薬には、第一世代と第二世代があり、それぞれ特性が異なります。
第一世代は中枢神経系への作用が強く、副作用により眠気を引き起こす可能性があります。
一方、第二世代は、眠気などの副作用が比較的少ないとされています。
上記を踏まえ、医師は患者さんの生活スタイルや症状の程度に応じた最適な薬を選択します。
一般的に、抗ヒスタミン薬は以下のような効果が期待できます。
・くしゃみや鼻水の軽減
・目のかゆみや充血の緩和
・皮膚のかゆみの軽減
これらの効果により、猫アレルギーに伴う不快な症状を大幅に減らすことが可能です。
ただし、抗ヒスタミン薬にも副作用があることに注意が必要です。眠気以外にも、口の渇き、めまい、吐き気などが起こることがあります。
ただ長期間使用すると効果が弱まることもあるため、医師の指示に従って適切に使用することが大切です。
3-2. 喘息治療薬
猫アレルギーによって咳や息苦しさなどの呼吸器症状が強く出る場合、喘息治療薬が処方されることがあります。主に使用される薬は、気管支拡張薬と吸入ステロイド薬です。
気管支拡張薬は、狭くなった気道を素早く広げる即効性があります。一般的に吸入タイプの薬が多く、発作時にすぐに使用できます。
5分以内に効果が現れるため、患者さんにとって効果を実感しやすい薬といえるでしょう。
一方、吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑える効果があります。ただし、効果が現れるまでに1週間程度かかるため、継続的な使用が必要です。
最近では、これら2つの薬剤を組み合わせた合剤(ごうざい)が開発されており、より効果的な治療が可能になっています。
合剤は、気道の炎症抑制と拡張を同時に行うため、喘息のような症状の管理に理想的です。
これらの薬は、以下のような効果が期待できます。
・咳の軽減
・息苦しさの改善
・喘鳴(ゼーゼーする音)の軽減
また、吸入薬の使用には正しい吸入方法が重要です。医師や薬剤師の指導のもと、適切な使用方法を学びましょう。
また、長期使用による副作用もあるため、定期的な診察を受けながら適切に管理していく必要があります。
3-3. その他
症状の部位や程度によっては、点眼薬や点鼻薬が処方されることもあります。
点眼薬は、目のかゆみや充血、涙目などの症状を和らげるために使用されます。抗ヒスタミン成分や抗炎症成分を含む点眼薬が一般的です。
これらの成分は、目の周りの血管を収縮させたり、炎症を抑えたりする効果があります。
点鼻薬は、鼻づまりや鼻水などの症状を改善するために使われる薬です。
ステロイド成分を含む点鼻薬が多く、鼻の粘膜の炎症を抑える効果があります。
また、鼻腔を広げる効果のある薬もあり、呼吸を楽にする効果があります。
ステロイド含有点鼻薬は、局所作用のため全身への影響を最小限に抑えつつ、高い治療効果を発揮することが可能です。
一方、血管収縮薬を含む点鼻薬は、即効性があり、短期的な症状緩和に有効です。
最新の製剤では、ステロイドと抗ヒスタミン薬を組み合わせた点鼻薬も登場しています。
点鼻薬の使用に際しては、以下の点に注意が必要です。
・用法・用量を守る:過剰の使用は副作用のリスクを高めます。
・長期使用への注意:とくに血管収縮薬の長期使用は、リバウンド現象を引き起こす可能性があります。
・定期的な診察:症状の改善が見られない場合や、新たな症状が出現した場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
また、最近の研究では、点鼻薬の使用方法が治療効果に大きく影響することが明らかになっています。
正しい姿勢での使用や適切な噴霧角度が、薬剤の効果を最大化するために重要です。
そのほか、重症のアレルギー症状がある方には、アレルゲン免疫療法(減感作療法)が行われることもあります。
これは、少量のアレルゲンを定期的に投与することで、からだをアレルゲンに慣れさせる治療法です。
ただし、効果が現れるまでに時間がかかり、長期的な治療が必要となります。
【参考文献】”Pet Allergies” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17702-pet-allergies
4. 対処法
猫アレルギーの症状を減らし、快適に過ごすためには、日常生活での対策が非常に重要です。
ここからは、猫アレルギーに対する具体的な対処法をご紹介しましょう。
4-1. こまめな掃除・洗濯
猫アレルギーの症状を減らすためには、こまめな掃除と洗濯が非常に大切です。
掃除に関しては、以下のポイントに注意しましょう。
・床や家具の表面を毎日拭き掃除する
・掃除機をかける際は、HEPAフィルター(空気中の微粒子を捕集する高性能なフィルター)付きの掃除機を使用する
・カーペットやソファなどの布製品も定期的に掃除機をかける
・エアコンや換気扇のフィルターも定期的に清掃する
洗濯に関しては、猫が使用する布製品を週に1〜2回は洗濯するのを心がけましょう。洗濯は、60度以上のお湯で洗うとアレルゲンを効果的に除去できます。
また、猫と触れ合ったあとは手を洗い、できれば着ていた服も着替えるとよいでしょう。これにより、アレルゲンの拡散を防ぐことができます。
4-2. 部屋の換気
部屋の換気も、猫アレルギーの症状を減らすための重要な対策です。換気により室内に浮遊しているアレルゲンを外に出し、新鮮な空気を取り入れることができます。
効果的な換気のポイントは以下の通りです。
・1日に2〜3回、10〜15分程度の換気を行う
・可能であれば、2か所の窓を開けて空気の流れを作る
・換気扇やサーキュレーターを使用して、空気の循環を促す
・花粉の多い季節は、換気の時間帯に注意する(早朝や夜間が望ましい)
また、空気清浄機を使うのも効果的です。
HEPAフィルター付きの空気清浄機を使用することで、空気中のアレルゲンを効率的に除去することができます。
4-3. 猫のブラッシング
猫のブラッシングは、抜け毛が室内に散らばるのを防ぐ効果があります。
ただし、アレルギーのある方が直接ブラッシングを行うと、症状が悪化する可能性があるため、家族や友人に協力してもらうことを検討しましょう。
ブラッシングのポイントは以下の通りです。
・週に2〜3回、定期的にブラッシングを行う
・屋外や換気の良い場所で行う
・ブラッシング後は、使用したブラシを洗浄し、抜け毛を適切に処理する
・ブラッシング中は、マスクや手袋を着用する
また、猫用のウェットティッシュで猫のからだを拭くことも、アレルゲンの拡散を防ぐ効果があります。
4-4. 布製品をなるべく使用しない
猫のアレルゲンは、布製品に付着しやすく、長期間残存する傾向があります。そのため、可能な限り布製品でなく拭き取りやすい素材の製品を使うと良いでしょう。
具体的には以下のような対策が効果的です。
・カーペットの代わりに、フローリングや畳を使用する
・布製のソファの代わりに、革製やビニール製のソファを使用する
・カーテンの代わりに、ブラインドやロールスクリーンを使用する
・布製のクッションカバーは、こまめに洗濯するか、アレルゲンが付着しにくい素材のものを選ぶ
これらの対策により、室内のアレルゲンの蓄積を減らし、掃除も簡単になります。
4-5. 猫を寝室に入れない
寝室は、一日の中で最も長い時間を過ごす場所です。そのため、寝室を猫アレルゲンのない空間にすることは、症状の軽減に大きな効果があります。
寝室の猫アレルゲンを少なくするためのポイントは以下の通りです。
・猫の寝室への出入りを完全に禁止する
・寝室のドアは常に閉めておく
・寝具類は定期的に洗濯し、日光に当てる
・寝室専用の空気清浄機を設置する
・寝る前に着ていた服は寝室に持ち込まない
これらの対策により、睡眠中のアレルゲン暴露(ばくろ・飲食や呼吸、接触により物質が体内に入ってくること)を最小限に抑えることができます。
家の中でのアレルギー対策をしっかり行うことで、咳やくしゃみなどの症状を軽減することに繋がりますよ。
【参考文献】”Tips to Control Cat Allergy Symptoms if You Live With a Cat” by Best Friends Animal Society
https://bestfriends.org/pet-care-resources/tips-control-cat-allergy-symptoms-if-you-live-cat
5. おわりに
猫アレルギーは、適切な対策と治療で症状をコントロールすることが可能です。
しかし、咳などの症状が長引く場合や、猫との接触で症状が悪化する場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。
とくに、猫と一緒にいて咳症状が出る場合は、呼吸器内科やアレルギー科などへの受診を検討しましょう。