早期の対策を!糖尿病の基本情報
糖尿病とは、血液中の糖(血糖)が正常よりも高い状態が続く病気です。
現代社会では生活習慣が原因となることが多く、さまざまな合併症を引き起こします。しかし、糖尿病は生活習慣を改善すれば予防できる病気です。
今回の記事では、糖尿病の症状や原因、検査、治療について詳しく解説します。
生活習慣が乱れている方や肥満気味の方、運動不足の方などは糖尿病予備軍かもしれません。ぜひ最後まで読んで、糖尿病予防の参考にしてください。
1.糖尿病とは
糖尿病は、食事から摂取した糖をうまく利用できず、血糖値が高くなる病気です。
通常、私たちが食べたものは消化されて糖(ブドウ糖)に変わり、血液で全身に運ばれます。血液中に糖が増え血糖値が上がると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌され、細胞に糖を取り込み、血糖値を下げるように働きます。
糖尿病にはいくつかのタイプがありますが、最も一般的なのは「2型糖尿病」です。
2型糖尿病は、特に生活習慣と密接に関係しており、食べ過ぎや運動不足、肥満が主な原因となります。2型糖尿病になると、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)、十分に分泌されなくなったりします。
その結果、血糖値が高い状態が続き、糖尿病の原因となります。
糖尿病の怖いところは、血糖値が高い状態が長く続くことで、全身の血管や神経にダメージを与えることです。
これにより、心臓病や腎臓病、目の障害(網膜症)、足のしびれ(神経障害)、歯周病といったさまざまな合併症を引き起こすリスクが高まります。
糖尿病は「静かなる殺し屋(サイレントキラー)」とも呼ばれ、初期段階ではほぼ無症状です。
生活習慣が乱れている人や糖尿病予備軍の人は、特に注意しましょう。
【参考情報】『糖尿病』厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-002.html
【参考情報】”Diabetes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/symptoms-causes/syc-20371444
2.どんな症状があるのか
糖尿病の症状には以下のようなものがあります。
・喉が渇く
・水分をよく飲む
・尿の回数が増える
・体重が減る
・疲れやすくなる
症状が進行し、高血糖状態が続くと意識障害を引き起こす場合があります。
また、糖尿病には特有の「三大合併症」があります。
【糖尿病性網膜症】
網膜に張り巡らされた毛細血管が、高血糖状態が続くことで障害されるために起こる合併症です。眼底出血や網膜剥離を引き起こします。
気づいたときには失明寸前というケースも少なくないため、定期的な眼科への通院も大切です。
【糖尿病性神経障害】
全身の神経に影響を及ぼし、さまざまな障害を起こします。
・手足のしびれや痛み
・痛みや熱さなどの感覚が鈍くなる
・便秘や下痢
・胃腸の動きの乱れ
これらの症状は、すべて高血糖が神経に影響を及ぼすためにあらわれる症状です。
特に、足は神経障害を起こしやすいため注意が必要です。
足先の神経が障害されるとケガに気づきにくくなります。高血糖のため血流が悪く、治りにくい状態です。
また、動脈硬化が進んでいれば血流が阻害され、足が壊死する原因になります。
そうなると足を切断しなくてはいけないケースも少なくありません。
【糖尿病性腎症】
腎臓は、血液中に含まれる不要物を尿として排出するための役割がある臓器です。
腎臓の中には、たくさんの毛細血管でできた糸球体という組織があります。この毛細血管でできた糸球体が、高血糖により障害されると、血液をきれいにすることができなくなります。
糖尿病性腎症を発症すると、徐々に腎機能が低下し、血圧が高くなったり尿たんぱくが出たり、むくみなどがあらわれます。
進行すると腎不全を引き起こし、血液透析が必要です。
三大合併症以外には、以下のような病気にかかりやすくなります。
・脳卒中
・心筋梗塞
・歯周病
・感染症
・認知症
糖尿病の合併症は予防できます。また、発症を遅らせることもできます。
そのためには、血糖値のコントロールを十分におこない生活習慣を変えていくことが大切です。
【参考情報】”Diabetes” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diabetes
3.糖尿病になる原因は?
糖尿病の主な原因は、長期間にわたって不健康な生活習慣が続いた結果として発症します。
ここでは、糖尿病を引き起こす原因となる生活について解説します。
3-1.食生活
糖尿病の原因のひとつとして、偏った食生活があげられます。
たとえば、甘い飲み物やジャンクフード、脂っこい食事を頻繁に食べる生活をしていると、体内に余分な糖が蓄積され、血糖値を上昇させます。
炭水化物や糖分の摂取を抑え、野菜やたんぱく質、食物繊維をバランスよく食べることが血糖コントロールのポイントです。
また、1日の中で規則正しく3食きちんと食べることで、血糖値が急激に上がるのを防ぎます。
3-2.肥満
不健康な食生活や運動不足は肥満を引き起こします。そして、肥満はインスリンの感受性低下やインスリンの分泌低下を招き、糖尿病を発症します。
肥満は、糖尿病だけでなく脂質異常症や高血圧、脳梗塞、心筋梗塞、睡眠時呼吸症候群(SAS)などさまざまな疾患を引き起こす原因です。
特に睡眠時呼吸症候群は、糖尿病と深く関連しています。
この病気は、肥満の方に多く見られ、睡眠中に呼吸が何度も止まるのが特徴です。
呼吸が止まるために睡眠の質が悪くなり、ストレスホルモンが過剰に分泌されます。この状態は、血糖値や血圧が上昇しやすくなり、脂肪も増加しやすくなります。
睡眠が十分に取れないこととストレスホルモンの影響から、体はエネルギーをうまく調整できなくなります。
過食や運動不足につながりやすく、さらに肥満になるという悪循環です。
睡眠時呼吸症候群の人は、一般の人に比べて糖尿病を誘発するリスクが1.62倍高いというデータもあります。
肥満は万病のもとです。生活習慣を改善することで、睡眠時呼吸症候群と糖尿病だけでなくさまざまな病気のリスクを軽減することができます。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群と糖尿病』SAS対策支援センター
https://www.sas-support.or.jp/column/diabetes/
3-3.飲酒
適度な飲酒は、糖尿病の発症を抑え、ストレスの緩和や血行の促進などよい効果もあります。
しかし、過度な飲酒は高血糖を起こし、糖尿病の原因になります。
それ以外にも、肝障害や心疾患、アルコール依存、高血圧、睡眠障害などさまざまな病気を引き起こす原因です。
厚生労働省は、「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20g程度としています。純アルコール20gとは、アルコール度数5%のビール500ml程度です。
ただし、お酒の代謝能力や耐性は人それぞれのため、自分の健康状態に合わせた飲酒を意識しましょう。
3-4.運動不足
運動不足は、体がエネルギーを効率的に使えなくなり肥満を引き起こすだけでなく、血糖値を下げる機会が減ってしまいます。
適度な運動習慣は、肥満を予防し、血糖値をコントロールするために非常に効果的です。
有酸素運動(ウォーキングやサイクリングなど)は、血液中の糖を消費するため、血糖値を下げるのに役立ちます。
「忙しくて運動なんかできない」という方は、車移動を自転車に変えてみる、電車を目的の駅より1駅前で降りて歩くなど、できる範囲で取り組んでみましょう。
3-5.遺伝
糖尿病は遺伝的な要因も関係しており、家族に糖尿病の方がいる場合、発症リスクが高いです。
しかし、家系的に糖尿病の方が多くても、必ずしも発症するわけではありません。
遺伝よりも生活習慣が大きな原因です。遺伝的な要因は変えられませんが、生活習慣は変えられます。
家族に糖尿病の方がいる場合は、意識して生活習慣に注意しましょう。
【参考情報】”Diabetes” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/7104-diabetes
4.糖尿病には種類がある
糖尿病には以下の3種類があります。
・1型糖尿病
・2型糖尿病
・妊娠糖尿病
血糖値が高くなるのは同じですが、発症原因や治療方法が異なります。
それぞれ解説します。
4-1.1型糖尿病
1型の糖尿病は、子どもや若い世代に発症しやすい糖尿病です。
このタイプの糖尿病は、体がインスリンのほとんど、あるいは全く分泌しなくなるために血糖値が上昇し続ける状態です。
1型糖尿病の原因は、自己免疫反応によって膵臓(すいぞう)のインスリンを作る細胞(β細胞:べーたさいぼう)が破壊されるためです。
ウイルス感染や遺伝的な関与があると考えられていますが、正確な原因はまだわかっていません。
1型糖尿病の治療には、不足したインスリンを補うため、インスリン注射が必須です。
1型糖尿病は治療が必要な慢性疾患ですが、適切に管理すれば健康な人と同じような生活を送ることが可能です。
【参考情報】”Type 1 Diabetes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/type-1-diabetes/symptoms-causes/syc-20353011
4-2.2型糖尿病
2型糖尿病は、糖尿病の中で最も一般的なタイプで、特に中年以降の大人に多く見られます。日本の糖尿病患者の95%が2型糖尿病です。
この糖尿病は生活習慣病とも呼ばれ、主な原因は生活習慣の乱れです。 特に、不健康な食習慣や運動不足、肥満が大きなリスクとなります。
2型糖尿病は、インスリンがうまく働かない状態になっているのが原因です。これにより、血糖値が高い状態が続きます。
2型糖尿病の治療は、まずは生活習慣の改善が必要です。
食事療法や運動療法を取り入れることで血糖値をコントロールすることを目標にします。
また、必要に応じて血糖値を下げる薬や、進行すると1型糖尿病同様にインスリン注射が必要です。
早期発見し、生活習慣を見直すことで、糖尿病の進行を抑えることができます。
【参考情報】”Type 2 Diabetes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/type-2-diabetes/symptoms-causes/syc-20351193
4-3.妊娠糖尿病
妊娠糖尿病は、妊娠中に発症する糖代謝異常です。
これは、胎盤から分泌されるホルモンの影響により、インスリンの働きが抑えられるために起こります。
妊娠糖尿病は、適切に管理されないと母体や胎児に影響を与えます。
母体では高血圧や難産のリスクが高まり、胎児では出生時に体重が大きくなる「巨大児」や低血糖などの問題が生じます。
治療には、食事療法や適度な運動、場合によってはインスリン治療が行われます。妊娠中はもちろんですが、出産後も定期的な血糖値のチェックが必要です。
妊娠糖尿病のリスク要因は、肥満や年齢、家族に糖尿病の人がいる、高齢妊娠などです。
多くの場合、出産後には血糖値が正常に戻ります。
しかし、妊娠糖尿病を経験した女性は、将来2型糖尿病を発症するリスクが高くなることが知られています。
【参考情報】”Gestational Diabetes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gestational-diabetes/symptoms-causes/syc-20355339
5.糖尿病の検査と治療
糖尿病が疑われる場合におこなわれる検査や、糖尿病の治療について解説します。
5-1.検査
糖尿病が疑われる場合、血液検査と尿検査をおこないます。
【血液検査】
糖尿病の診断や進行具合を判断するために欠かせない検査です。
糖尿病では、血液中のブドウ糖の量(血糖値)が上昇するため、血液を採取して血糖値を測定します。
血糖値をチェックする際に重要となる指標には、以下のような種類があります。
・空腹時血糖値
・ヘモグロビンA1c(HbA1c)
・随時血糖値
「空腹時血糖値」は、食事をしていない状態での血糖値を測定する検査です。
通常、10時間以上食事を取らずに行い、血糖値が高ければ、糖尿病や糖尿病予備軍の可能性があります。
日本糖尿病学会では「空腹時の血糖値が110mg/dl未満、食後2時間の血糖値が140mg/dl未満」を正常型としています。
ただし、「空腹時の血糖値が100~109mg/dl以下」は正常高値とされているため、注意が必要です。
また、血糖値は食事や運動などの影響を受けやすく、測定する時間によって1日のなかでも大きく変動します。
「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」は、過去1〜2か月の平均的な血糖値を反映する指標です。
赤血球内のヘモグロビンと糖が結びつく割合を調べることで、長期間にわたる血糖値の変動を確認できます。
HbA1cは、5.6%以下が正常範囲で、6.5%以上になると糖尿病の診断基準となります。
この検査は、血糖値が日々変動する中で、長期間の血糖管理の状態を知るのに非常に有効です。
「随時血糖値」とは、食事の時間に関わらず、いつでも測定した血糖値のことを指します。
この値が200mg/dL以上の場合、糖尿病の可能性を疑います。
【尿検査】
糖尿病では、血液中のブドウ糖が高くなりすぎると、体は余分な糖を尿に排出しようとします。
そのため、尿中の糖(尿糖)の有無を調べることで、糖尿病の兆候を確認できます。
尿検査では以下のような項目をチェックします。
・尿糖
・尿たんぱく
正常な状態では、尿に糖はほとんど含まれていません。
しかし、血糖値がある一定のレベルを超えると、尿にも糖が現れ始めます。尿糖が検出された場合は、血糖値が高い可能性があります。
糖尿病が進行すると、尿にたんぱくが混じることがあります。
これは、腎臓がダメージを受けている可能性があるため、必要により追加検査がおこなわれます。
【参考情報】”Diabetes Testing” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/diabetes/diabetes-testing/index.html
5-2.治療方法
糖尿病の治療の基本は、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つです。
【食事療法】
食事療法は、糖尿病治療の基本であり、血糖値をコントロールするために不可欠な治療法です。
適切な食事を通じて、血糖値の急激な上昇や下降を防ぎ、体に必要な栄養をバランス良くとることが目標となります。
以下は食事療法のポイントです。
・規則正しい食事
・適切なカロリーコントロール
・バランスのとれた食事
・飲酒は適量を心掛けましょう。
【運動療法】
運動は、血糖値を下げ体重を管理するのに役立ちます。また、運動はインスリンの働きを改善する効果もあります。
以下は運動療法のポイントです。
・有酸素運動(ウォーキングやサイクリング、ジョギングなど)
・日常的な活動の増加
積極的に運動習慣を取り入れることが望ましいですが、時間が取れず難しい方もいるでしょう。
そのような方は、エレベーターの代わりに階段を使ったり庭仕事をしたり、日々の活動量を増やすよう心がけましょう。
【薬物療法】
まずは食事療法と運動療法をおこないますが、コントロールが悪い場合に薬物療法もおこなわれます。
薬物療法は以下のような治療薬を使用します。
・経口血糖降下薬
・インスリン療法
・GLP-1受容体作動薬
いずれも血糖値を下げる作用のある薬です。そのため、最も起こしやすい副作用である低血糖に注意しましょう。
糖尿病の治療は、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて行うことが基本です。
【参考情報】”Insulin, Medicines, & Other Diabetes Treatments” by National Institutes of Health
https://www.niddk.nih.gov/health-information/diabetes/overview/insulin-medicines-treatments
6.おわりに
糖尿病は、誰にでも起こりうる病気です。しかし、生活習慣の見直しと改善によって予防できる病気です。
食事や運動に気をつけ、定期的な健康チェックを行うことで、糖尿病のリスクを減らすことができます。
特に、血糖値が高めと診断された方や、生活習慣が乱れていると感じる方は、今からでも生活習慣の改善を始めることが重要です。