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睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係性とは?治療法も解説!

睡眠時無呼吸症候群糖尿病は、一見関係のない病気のように思えますが、実は深い関連があります。

睡眠時無呼吸症候群は夜間に呼吸障害が起こることにより、からだにさまざまな悪影響を及ぼします。

一方、糖尿病は血糖値の調節に問題が生じる代謝疾患です。

睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は互いにリスクを高め合う関係にあり、どちらか一方の治療がもう一方の改善にも繋がる可能性があります。

この記事では、これら二つの疾患の関係性とそれぞれの治療法についてご説明いたします。

1.睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まったり、浅くなったりする睡眠障害です。

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、睡眠中の60分間に10秒以上の呼吸停止が5回以上、あるいは換気量50%以下とされる10秒以上の低呼吸状態が5回以上ある場合とされています。

睡眠時無呼吸症候群の重症度は、無呼吸低呼吸指数(AHI)で表されます。

無呼吸低呼吸指数が5〜15回が軽症、15〜30回が中等症、30回以上が重症とされています。

睡眠時無呼吸症候群の主な症状には以下のようなものがあります。

1. 大きないびき
睡眠時無呼吸症候群の最も一般的な症状です。

2. 睡眠中の呼吸停止
パートナーや家族が気づくことが多い症状です。

3. 起床時の喉の渇き
夜間の口呼吸が原因で起こります。

4. 日中の強い眠気
睡眠の質が低下することが原因です。

5. 集中力の低下
十分な睡眠が取れないことによる影響です。

6. 朝の頭痛
夜間の低酸素状態が原因と考えられています。

とくに注意すべきなのは、睡眠時無呼吸症候群によって毎晩のように低酸素状態が続くことです。

この状態が長期間続くと、下記のようなさまざまな健康問題のリスクが高まります。

・高血圧

・心臓病(虚血性心疾患、心不全など)

・脳卒中

・糖尿病

・脂質異常症

・気管支喘息

◆「気管支喘息」について詳しく>>

これらの合併症は無呼吸によって一時的に酸素が不足し、その後、再び酸素が供給されることで酸化ストレス(細胞や組織が酸化される状態)が発生し、血管が傷ついて炎症を起こすことが原因と考えられています。

睡眠時無呼吸症候群は、無呼吸発作が種々の臓器に負担を抱えることで多様な疾患の増悪因子であるということが明らかになってきています。

現時点で悪影響が最も大きいとされているのが循環器疾患で、心不全などの増悪因子の一つとされています。

そのほか気管支喘息糖尿病の発症、悪化にもかかわるとされています。

睡眠時無呼吸症候群の原因はさまざまですが、以下のような要因が関係していることが多いです。

・肥満:過剰な脂肪組織が上気道を圧迫します。

・首回りの太さ:首の周囲の脂肪組織が気道を狭くします。

・あごの小ささ:日本人は欧米人に比べてあごが小さい傾向にあるため、軽度の肥満でも睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいという特徴があります。

・加齢:筋肉の緊張が低下し、気道が狭くなりやすくなります。

・性別:男性の方が女性よりも発症リスクが高いとされています。

睡眠時無呼吸症候群の有病率は、以前考えられていたよりも高いことが分かってきました。

日本呼吸器学会の最新の診療ガイドラインによると、SASの有病率は年齢や性別によって異なりますが、以下のように推定されています。

・50歳代の女性で10%弱
・50歳代の男性で10~20%程度

また、全体的な有病率としては

・成人男性の約3〜7%
・成人女性の約2〜5%

これらの数値は、以前の推定値である1.7%(約200万人)よりも高く、睡眠時無呼吸症候群が決して珍しい病気ではないことを示しています。
年齢や性別によってリスクが異なることも重要なポイントです。

また、女性の場合、閉経後は発症率が閉経前のよりも高くなるとされています。

さらに、「習慣性いびき症」という睡眠時無呼吸症候群の予備軍とされる状態の有病率も高いとされています。

これらの数字は、睡眠時無呼吸症候群が決して珍しい病気ではなく、多くの方が潜在的にリスクを抱えている可能性を示しています。

診断としては、簡易検査(アプノモニター)精密検査(終夜睡眠ポリグラフ)があります。

無呼吸低呼吸指数が40以上で眠気など睡眠時無呼吸症候群の症状が明らかな場合、CPAP(持続陽圧呼吸)療法の対象となります。

呼吸器内科でも検査できますので、気になる症状がある方は一度受診することをお勧めします。

◆「呼吸器内科で行われる検査とは?」>>

【参照文献】厚生労働省『睡眠時無呼吸症候群 / SAS』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html

【参照文献】日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf

【参考文献】”Sleep apnea” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631

2.糖尿病とは


糖尿病は、血糖値を調節するホルモンであるインスリンの分泌量が不足したり、その働きが悪くなったりすることで、血液中のブドウ糖(血糖)が高くなる病気です。

糖尿病には主に1型と2型があります。

1型糖尿病は、膵臓のβ細胞(ベータさいぼう)が破壊されてインスリンがほとんど分泌されなくなる自己免疫疾患です。

一方、2型糖尿病はインスリンの分泌量が減少したり、インスリンの働きが悪くなったりすることで発症します。
糖尿病患者さんの95%以上が2型糖尿病だと言われています。

主な症状には以下のようなものがあります。

・喉の渇き
・頻尿
・疲れやすさ
・体重減少(1型糖尿病の場合)
・視力の低下
・傷の治りが遅い

初期の糖尿病では、これらの症状がはっきりと現れないことも多いため、定期的な健康診断で血糖値をチェックすることが重要です。

とくに注意が必要なのは、糖尿病が進行すると、血管に障害が起こり、さまざまな合併症を引き起こすことです。

糖尿病の三大合併症として網膜症腎症(腎臓の機能が低下する病気)、神経障害が知られています。
それらに加え、心筋梗塞脳卒中などの大血管障害のリスクも高まります。

これらの合併症は、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。

◆「糖尿病」についてもっと詳しく>>

【参照文献】国立国際医療研究センター『糖尿病とは』
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html

【参考文献】”Diabetes” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diabetes#:~:text=Overview,hormone%20that%20regulates%20blood%20glucose.

3.治療法を解説


ここからは、糖尿病と睡眠時無呼吸症候群、それぞれの治療法についてご説明しましょう。

3-1.糖尿病

糖尿病の治療は、血糖値をコントロールし、合併症の発症や進行を防ぐことを目的としています。治療の基本は、食事療法、運動療法、薬物療法の3つです。

①食事療法

食事療法は糖尿病治療の基本であり、最も重要な治療法のひとつです。食事療法で注意すべき点は、単に食事の量を減らせばよいというわけではないということです。

減量のための食事療法は量を減らすのではなく、適切なカロリー摂取と栄養バランスの取れた内容が重要です。具体的には、以下のような点に注意しましょう。

1. カロリー管理
患者さんの年齢、性別、身体活動量に応じた適切なカロリー摂取が重要です。医師や栄養士が個別に「指示エネルギー量」を設定します。

2. 栄養バランス
1日のカロリーの50〜60%を炭水化物から、20%までをタンパク質から、残りを脂質から摂取することが推奨されています。

3. 食物繊維の摂取
野菜や果物に含まれる食物繊維は、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。

4. 規則正しい食事
食事の時間を一定に保つことで、血糖値の変動を最小限に抑えることができます。

5. 食品交換表の活用
「食品交換表」を使用することで、さまざまな種類の食品を取り入れながら栄養バランスを保つことができます。

6. 極端な糖質制限は避ける

過度の糖質制限は、腎症や動脈硬化の進行などのリスクを高める可能性があります。

特に、インスリン分泌が枯渇(こかつ)した患者さんやSGLT2阻害薬で治療中の患者さんでは、低糖質ダイエットによって血中ケトン体濃度が増加する可能性があるため注意が必要です。

・「ケトン体」・・・脂肪が分解されてエネルギー源として生成される物質のこと。

前述の通り、糖尿病患者さんは、一日の摂取カロリーの50〜60%を炭水化物から摂ることが推奨されます。

これらの点に注意しながら、バランスの取れた食事を心がけることが、糖尿病の管理において非常に重要です。

ただし、具体的な食事内容については、それぞれの患者さんの状態に応じて、医療専門家の指導のもとで決定する必要があります。

②運動療法

適度な運動は、インスリンの働きを改善し、血糖値を下げる効果があります。
また、肥満の改善心血管系の健康維持にも役立ちます。

運動の種類や強度は、患者さんの年齢や体力、合併症の有無などによって異なります。
そのため、主治医や理学療法士と相談しながら、適切な運動プログラムを立てることが大切です。

運動は、ウォーキング水泳自転車こぎなどの有酸素運動が推奨されるのが一般的です。

◆「喘息でも運動はできる」の記事はこちら>>

③薬物療法

食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが難しい場合、薬物療法が行われます。

経口血糖降下薬インスリン注射などが用いられますが、患者さんの状態に応じて適切な薬剤が選択されます。

最近では、GLP-1受容体作動薬SGLT2阻害薬など、新しいタイプの糖尿病治療薬も登場しており、治療の選択肢が広がっています。

GLP-1受容体作動薬は、インスリン分泌を刺激し、グルカゴン(血糖値を上昇させるホルモンのこと)放出を抑制することで血糖コントロールを強化する薬剤です。
最近では食欲抑制作用があることから、体重管理への応用も期待されています。

SGLT2阻害薬は、尿に糖を排出することで血糖値を下げる薬剤です。

低血糖を起こしにくく、体重減少むくみの改善といった効果も期待できます。

さらに、最近の大規模臨床試験では、心不全での長期予後改善効果や腎臓保護効果も報告されており、注目を集めています。

【参照文献】次世代臨床研究センター『SGLT2 阻害薬が糖尿病性腎臓病を抑制する機序を解明』
https://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/d0md7n0000008cci-att/pressrelease.pdf

【参考文献】”Diabetes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/diagnosis-treatment/drc-20371451

3-2.睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の程度や原因によって異なりますが、主に以下のような方法があります。

①生活習慣の改善

軽度の場合、生活習慣の改善だけで症状が軽減することがあります。
具体的には以下のような対策が効果的です。

・減量:肥満は睡眠時無呼吸症候群の主要な原因のひとつです。適度な体重減少により、上気道の狭窄が改善し、症状が軽くなることがあります。

・禁煙:喫煙は上気道の炎症を引き起こし、睡眠時無呼吸症候群を悪化させる可能性があります。

・睡眠姿勢の工夫:仰向けで寝ると舌根(ぜっこん)が沈んで気道を塞ぐことがあります。そのため、横向きで寝ることで症状が改善する可能性があります。

・アルコールや睡眠薬の制限:これらは筋肉を弛緩させ、気道閉塞を悪化させる可能性があります。

②CPAP(シーパップ)療法

中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群に対しては、CPAP(持続陽圧呼吸)療法が最も効果的な治療法とされています。

CPAPは、マスクを通じて鼻や口から空気を送り込み、気道を広げる装置です。

CPAP療法は、睡眠時無呼吸症候群の症状を劇的に改善させる可能性がありますが、毎晩使用する必要があるため、患者さんの協力が不可欠です。

最近では、小型で静音性の高い機器も開発されており、使用感が向上しています。

③口腔内装置

軽度から中等度の症状で、CPAPが合わない方などには、口腔内装置が選択肢となります。

これは、下顎を前方に引き出すことで気道を広げる装置です。
歯科医師が患者さんの口腔に合わせて作製します。

④手術療法

口蓋扁桃(こうがいへんとう)肥大や小顎症(しょうがくしょう)など、明らかな解剖学的異常が睡眠時無呼吸症候群の原因となっている場合は、手術療法が検討されます。

⑤そのほかの治療法

最近では、舌下神経刺激療法上気道刺激療法など、新しい治療法も開発されています。
これらは、特定の患者さんに対して効果が期待できる場合があります。

睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の改善だけでなく、糖尿病をはじめとする合併症のリスク低減にも繋がります。
そのため、適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。

【参考文献】”Sleep Apnea Treatment” by National Institutes of Health
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/treatment

4.睡眠時無呼吸症候群が糖尿病のきっかけになることもあります


睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は、一見関係のない病気のように思えますが、前述のように、実は深い関連があります。

最近の研究によると、睡眠時無呼吸症候群が糖尿病のきっかけになる可能性が明らかになってきました。

睡眠時無呼吸症候群では、夜間に呼吸が繰り返し止まることで、からだにさまざまなストレスがかかります。
このストレスがインスリンの働きを悪くし、血糖値を上げてしまうのです。

また、睡眠時無呼吸症候群によって睡眠の質が低下すると、食欲を調整するホルモンのバランスが崩れ、過食につながることがあります。

さらに、ストレスホルモンの分泌が増えて血糖値を上昇させる作用もあります。

興味深いことに、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病には共通のリスク要因があります。

その代表が肥満です。
肥満は、睡眠時無呼吸症候群の主な原因のひとつであり、同時に2型糖尿病の最大のリスク要因でもあるのです。

実際の数字を見てみると、睡眠時無呼吸症候群がある方は糖尿病になるリスクが1.62倍高くなります。

重症の睡眠時無呼吸症候群では、約15%の方が糖尿病を合併するという報告もあります。

また、糖尿病の方のなかで睡眠時無呼吸症候群を合併している方の割合は非常に高いとされています。

このように、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は互いに影響し合い、悪化させ合う関係にあります。
そのため、どちらか一方の症状がある場合、もう一方の病気の可能性も考える必要があります。

別の言い方をすれば、睡眠時無呼吸症候群の治療が糖尿病の改善にも効果があるということです。

特にCPAP療法を始めると、インスリンの働きが良くなり、血糖値が下がったという報告があります。

また、睡眠時無呼吸症候群の治療で日中の眠気が改善されれば、運動にも積極的に取り組めるようになり、糖尿病の管理にも良い影響を与えます。

一方で、糖尿病をしっかり管理することで、睡眠時無呼吸症候群の症状も良くなる可能性があります。

血糖値のコントロールが改善されれば、糖尿病による神経や血管の障害のリスクが下がり、それによって睡眠時無呼吸症候群の悪化を防げるかもしれません。

このように、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は密接に関連しており、一方の治療がもう一方の改善にもつながる可能性があります。

◆「睡眠時無呼吸症候群」についてもっと詳しく>>

【参考文献】”Sleep Apnea and Diabetes: Insights into Emerging Evidence” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4224959/#main-content

5.おわりに

睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は、互いに深い関連性を持つ疾患です。

睡眠時無呼吸症候群は単なる睡眠の問題ではなく、糖尿病をはじめとするさまざまな健康問題のリスクを高める可能性があります。

同様に、糖尿病も睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させる要因となり得ます。

睡眠時無呼吸症候群の症状がある場合、糖尿病を合併する危険もあるため、早期の治療に取り組むことがとても大切です。