百日咳で薬が効かない…咳が続く理由と抗菌薬の正しい役割
百日咳と診断され、処方された薬をきちんと服用しているのに「咳がなかなか治らない」と不安に感じていませんか。
百日咳は、薬を飲んで症状がすぐに改善しなくても治療の意味がないわけではありません。
この記事では、百日咳で咳が長引く理由と抗菌薬の役割を、わかりやすく解説します。
1. 百日咳で薬が効かないと感じやすい理由

百日咳は、治療を始めても症状の改善を実感しにくい時期がある病気です。
特に咳の症状については、抗菌薬を服用していても、すぐには落ち着かないことが少なくありません。
そのため、多くの方が「本当に薬が効いているのだろうか」と不安を感じやすくなります。
1-1. 百日咳は「咳が長く続く」こと自体が特徴
百日咳は、その名前が示すとおり「100日間咳が続く」とも言われるほど、長期間にわたる咳が特徴的な感染症です。
一般的には以下の3つの段階を経て進行していきます。

・カタル期
まず最初に現れるのが、風邪のような症状です。
鼻水、くしゃみ、軽い咳、微熱などが主な症状で、この時期はまだ百日咳だと気づかれにくいことが多くあります。
・痙咳期(けいがいき)
百日咳の最も特徴的な症状が現れる時期です。
発作的で激しい咳が繰り返し起こるようになり、連続的な咳き込みの後に「ヒューッ」という吸気音が聞かれることもあります。
・回復期
徐々に咳の頻度と強度が減少していく時期に入ります。
ただし、完全に咳が消失するまでには数か月かかることも珍しくありません。
個人差が大きく、体調や環境によっても回復のペースは異なります。
ここで重要なのは、菌の増殖が抑えられても、気道の過敏性はすぐには回復しないという点です。
気道の炎症や粘膜の損傷は、菌が体内から排除された後も残ります。
これが長期間にわたって咳が続く根本的な理由なのです。
そのため、治療が適切に行われていても、咳だけが数週間から数か月続くことがあります。
これは病気の自然な経過であり、決して「薬が効いていない」わけではありません。
【参考情報】『百日咳』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/whooping_cough.html
1-2. 抗菌薬を飲んでも咳がすぐに治まらない原因
抗菌薬は細菌を減らしたり増えないようにする薬で、咳そのものを直接止める薬ではありません。
百日咳では、診断された時点ですでに咳が強く出る時期に入っていることが多く、この段階では体の中で次のような変化が起きています。
・百日咳菌が出した毒素の影響が残っている:
この毒素は、喉や気道の神経・粘膜を敏感な状態にしてしまい、抗菌薬を飲んだあとも咳が出やすい原因になります。
・気道の粘膜が傷ついている状態:
炎症によって、気道を守る働きをしている細かい毛(繊毛:せんもう)が傷つき、本来の「異物を外に出す力」が弱くなっています。
・気道がとても敏感になっている:
百日咳では、気道が刺激に反応しやすい状態になるため、冷たい空気を吸ったり、少し体を動かしただけでも、咳が出やすくなることがあります。
抗菌薬を服用することで、百日咳菌そのものの増殖はきちんと抑えられています。
ただし、すでに起きている毒素の影響や、傷ついた気道が回復するまでには時間が必要です。
そのため、「咳が続く=薬が効いていない」というわけではなく、百日咳という病気の経過として自然なことと考えられます。
2. 百日咳で抗菌薬が果たす大切な役割

百日咳の治療を理解するうえで、抗菌薬がどのような役割を果たしているのかを正しく知ることが大切です。
多くの方が誤解しがちなポイントでもあります。
2-1. 抗菌薬の目的は感染拡大を防ぐこと
百日咳に対して抗菌薬が使われる最大の目的は、体内の百日咳菌を減らし、周囲への感染を防ぐことにあります。
これは個人の治療としてだけでなく、公衆衛生上も非常に重要な意味を持っているのです。
百日咳は非常に感染力が強い疾患として知られています。
しかし、発症早期に適切な抗菌薬治療を開始すると、症状の改善と感染力の低下が期待できるのです。
【参考情報】”Bordetella pertussis: Infectious substances pathogen safety data sheet” by Government of Canada
https://www.canada.ca/en/public-health/services/laboratory-biosafety-biosecurity/pathogen-safety-data-sheets-risk-assessment/bordetella-pertussis.html
特に6ヶ月未満の乳幼児や妊婦、高齢者のような重症化のリスクがある方々への感染を防ぐという意味で、抗菌薬治療は非常に重要な役割を担っています。
周囲への感染を防ぎ、原因となる細菌をしっかり減らすためには、医師から指示された期間、抗菌薬を最後まで飲みきることが大切です。
症状がよくなったと感じても、途中で自己判断でやめてしまうことは控えましょう。
2-2. 抗菌薬とあわせて行う対症療法
「薬を飲んでいるのに咳が出る=治療がうまくいっていない」と思われがちですが、抗菌薬は咳止めではありません。
この理解が、不安を軽減する上で最も重要なポイントです。
抗菌薬の役割は、あくまで細菌の増殖を抑え、感染力を低下させることにあります。
咳そのものを直接止める作用は持っていないため、咳が続いていても治療効果がないわけではないのです。
薬による治療だけでなく、日常生活の環境を整えることも咳の軽減につながります。
加湿器などを使って適度な湿度を保つことや、こまめな水分補給は、気道の乾燥を防ぐ助けになります。
さらに、食事面の工夫も回復を支える大切なポイントです。
咳き込みが強く、食後に吐いてしまいやすい場合は、一度にたくさん食べるのではなく、少量ずつ回数を分けて摂るようにすると負担が少なくなります。
おかゆ、スープ、ポタージュ、ゼリーなど、飲み込みやすいものを選ぶのもいいでしょう。
熱すぎるものや冷たすぎるものは気道を刺激しやすいため、人肌程度の温度が適しています。
食欲がわかず食事量が減ってしまうときには、栄養価の高い食品を選ぶことも役立ちます。
このように、いくつかの対症療法を組み合わせることで、抗菌薬だけでは改善しにくい咳のつらさが和らぐことがあります。
症状の程度や生活状況に合わせて、医師と相談しながら自分に合った方法を見つけていくことが大切です。
3. 最近話題の「薬剤耐性百日咳菌」とは

薬剤耐性という言葉を聞くと、「薬が効かないのでは」「治らないのでは」と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、正しく理解すれば、必要以上に心配しなくても大丈夫です。
3-1. マクロライド耐性とは何か
百日咳の治療では、マクロライド系抗菌薬と呼ばれる薬が世界的に標準治療として使われています。
「マクロライド耐性百日咳菌」とは、これらのマクロライド系抗菌薬が効きにくくなった百日咳菌のことを指します。
これは、百日咳菌の遺伝子に小さな変化が起こり、抗菌薬が菌の中で働くために必要な部分にくっつきにくくなることで生じます。
簡単に言うと、細菌が生き残るために、薬に対する抵抗力を身につけた状態と考えるとわかりやすいでしょう。
【参考情報】”Antibiotic-resistant Bordetella pertussis” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pertussis/hcp/antibiotic-resistance/index.html

3-2. 日本国内での報告状況
日本でもマクロライド耐性百日咳菌の報告はありますが、その頻度は地域や時期によって差があります。
しかし、耐性があるからといって、治療ができなくなるわけではありません。
マクロライド系が効きにくい場合でも、他の抗菌薬を使うことで治療は可能です。
医師は、治療の反応を見ながら必要に応じて検査や薬の調整を行います。
状況を判断して対応しますので、過度に不安になる必要はありません。
4. 薬を飲んでも咳が続くときに考えられること

百日咳の治療が終わっても咳が続く場合、百日咳そのもの以外の要因が関わっていることもあります。
今後の対応を考えるうえで、いくつかの可能性を知っておくことが大切です。
4-1. 感染後咳嗽として残っている場合
感染後咳嗽(かんせんごがいそう)とは、感染症が治ったあとも、咳だけが3週間以上続く状態を指します。
百日咳では、このような経過をたどることが少なくありません。
また、炎症の影響で咳を引き起こす神経が過敏になり、冷たい空気や乾燥、会話といった日常の刺激でも咳が出やすくなります。
このタイプの咳は、乾いた咳が中心で、夜間や寒い環境で悪化しやすい一方、発熱などの全身症状はありません。
時間の経過とともに少しずつ軽くなっていくのが特徴で、気道が回復していく過程の一部と考えられています。
【参考情報】『感染後咳嗽』日本内科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2109/_pdf
4-2. 喘息が関係することも
もともと喘息になりやすい体質で普段は症状が出ていなかった方が、百日咳による気道のダメージをきっかけに、喘息の症状が表に出てくることがあります。
これは、百日咳が原因で喘息になったというより、隠れていた喘息が表に出たと考えられます。
このような場合には、呼吸機能検査や呼気NO測定などを行い、必要に応じて吸入治療を試しながら診断を進めていきます。
百日咳の治療とは異なる治療が必要になるため、適切な見極めが重要です。
4-3. そのほかに考えられる原因
百日咳以外にも、咳が続く原因はいくつかあります。
たとえば、マイコプラズマ感染症やウイルス性の気管支炎、副鼻腔炎による後鼻漏などが咳の原因になることがあります。
また、胃食道逆流症(GERD)では、胃酸が逆流して気道を刺激し、夜間や食後に咳が出やすくなることがあります。
このように、咳が続く背景は一つとは限りません。
一つの原因だけに決めつけず、全体を見ながら判断していくことが、適切な治療につながります。
【参考情報】”Symptoms & Causes of GER & GERD” by National Institutes of Health
https://www.niddk.nih.gov/health-information/digestive-diseases/acid-reflux-ger-gerd-adults/symptoms-causes
5. 再受診や治療方針の見直しが必要な目安

「様子を見てよいのか」「再度受診すべきか」で迷うことは少なくありません。
以下のポイントを参考に、適切なタイミングで医療機関を受診することが大切です。
5-1. 咳の性質が変わってきたとき
薬を飲んでいても、咳の出方や性質が変わってきた場合は注意が必要です。
たとえば、夜間に咳き込みが強くなり、就寝後しばらくしてから激しい咳が出るようになったり、咳のために何度も目が覚めたり、明け方に特に症状が強くなることがあります。
この様な経過は、咳喘息や気管支喘息にみられることがあり、夜間に気道の炎症が強まりやすいという特徴と関係しています。
また、呼吸をするときにヒューヒュー、ゼーゼーといった音(喘鳴)が聞こえたり、息を吸う・吐くときに苦しさを感じることもあります。
これらは気道が狭くなっているサインの可能性があり、早めの評価が望まれます。特に息苦しさが強い場合は、我慢せず医療機関に相談することが大切です。
【参考情報】『呼吸器Q&A Q3. 夜間や早朝にせきが出ます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html
5-2. 日常生活に支障が出ている場合
咳が続くことで、日常生活の質が大きく下がっている場合も、再度相談する大切なタイミングです。
「このくらいなら大丈夫」と無理を続けることで、かえって回復が遅れることもあります。
咳のために十分な睡眠が取れず、夜中に何度も目が覚めたり、日中に強い眠気や倦怠感を感じたりする時も注意が必要です。
睡眠不足が続くと、免疫力や集中力が低下し、気分の落ち込みにつながることもあります。
睡眠が確保できない状態が続く場合は、医師に相談することで、見通しを共有し安心につながることがあります。
5-3. 再受診を考えるタイミング
咳の状態によっては、早めの受診が必要な場合があります。
息苦しさが強い、唇や爪の色が紫がかっている、意識がぼんやりする、といった症状がある場合は、緊急性が高い状態です。
また、高熱が続く、強い喘鳴がある、血痰が出ているといった場合も、速やかな受診が必要です。
一方で、抗菌薬を1週間以上飲んでも全く改善がみられない場合や、咳の性質が明らかに変わってきた場合、夜間の咳で眠れない日が続いている場合などは、数日以内に再受診することが望まれます。
咳は続いているものの、少しずつ良くなっている、日常生活への影響が軽い、発熱や息苦しさがないといった場合には、感染後咳嗽として経過をみることもあります。
5-4. 再受診の際に伝えておきたいこと
再受診時には、咳がいつから始まり、薬を飲み始めてからどのように変化しているか、良くなっているのか悪化しているのかといった経過を伝えることが大切です。
また、乾いた咳か痰を伴う咳か、発作的か持続的か、息苦しさや喘鳴を伴うかどうかなど、咳の性質も重要な情報になります。
さらに、どんな場面で咳が出やすいか、睡眠や食事、仕事への影響、体重の変化、不安の程度なども、正直に伝えてください。
処方された薬の名前や服用状況、これまで試した対策、喘息やアレルギーの有無、喫煙歴なども診断の手がかりになります。
これらを事前にメモしておくと、限られた診察時間の中でも、より的確な評価と治療につながります。
6. おわりに
百日咳で抗菌薬を飲んでいるのに咳が続くと、「治療がうまくいっていないのでは」と不安になるのは自然なことです。
しかし、百日咳では薬の役割と症状の経過を正しく理解することがとても大切です。
咳が続く背景には、百日咳特有の回復過程や、感染後の気道過敏性、他の呼吸器疾患が関係していることもあります。
不安が続く場合は、自己判断せず、呼吸器内科で状況を確認することが安心につながるでしょう。
