花粉症の基礎知識

花粉症の患者数は10年ごとに10%程度増加しており、2019年の有病率は38.8%になっています。

毎年花粉症の症状に悩まされて、日常生活に支障が出ているという方も多いのではないでしょうか。
また、今は症状がない方でも、いきなり発症する可能性があります。

花粉症対策をするために、まずは正しい情報を知ることが大切です。この記事では花粉症の特徴や症状、原因、治療法について紹介します。

【参考情報】『花粉症環境保健マニュアル2022』環境省
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

1.特徴


花粉症は、花粉によって生じるアレルギー疾患の総称で、鼻や目の粘膜から花粉が侵入することによって鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどの症状が起こります。

原因となる植物には様々なものがあり、植物の種類や花粉の数によって発症する時期が異なります。
花粉症はスギやヒノキの花粉が代表的ですが、他には次のような種類があります。

・春:スギ花粉(2~4月)、ヒノキ花粉(3~5月)、シラカンバ(4~6月)
・春から秋頃まで:カモガヤ、オオアワガエリ
・秋:多いブタクサ、ヨモギ、ススキ
・冬から春にかけて:ハンノキ

スギやヒノキの花粉は、木の高さがあるため飛散距離が長いのが特徴です。それに対して、夏や秋にかけて飛散する草木花粉は飛散距離が短いため、近づかなければある程度花粉症を予防することができます。花粉の飛散時期には、ブタクサやヨモギなどが生えている空き地や河原には近づかないようにしましょう。

【参考情報】『花粉の種類と説明』東京都アレルギー情報navi.|東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pollen/type.html

2.症状


花粉症は主に目と鼻に症状が現れます。症状のタイプや重さは人によってさまざまです。

2-1.鼻に現れる症状

花粉が鼻に入ると、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状が現れます。

花粉を繰り返し吸入すると、室内に居る時など花粉がない環境でも症状が出ることもあります。

風邪と似た症状ですが、熱がなく鼻水が透明でサラサラしている場合は花粉症の可能性が高いです。

鼻づまりが起こるのは、鼻粘膜が腫れて鼻からのどへの通り道が狭くなるためです。口呼吸になるため、口の渇きを感じたり、嗅覚が鈍って食べ物の味が分かりにくくなることもあります。

くしゃみは鼻の粘膜に付着した花粉を取り除こうとして起こる反応です。花粉症では風邪などに比べてくしゃみの回数が多く、多くの人が悩まされる症状です。

◆「風邪の基本情報」について詳しく>>

【参考文献】”Allergic Rhinitis (Hay Fever)” by Cleveland clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8622-allergic-rhinitis-hay-fever

2-2.目に現れる症状

目に花粉が入ると、目のかゆみや涙、充血などの症状が現れます。

特にまぶたや、まぶたのフチの部分にかゆみが生じやすく、掻けば掻くほどかゆみが悪化してしまいます。

目を掻くと菌が入り込み感染症を起こしてしまう場合もあるため、アレルギー用の点眼薬などで対処しましょう。

また、コンタクトレンズに花粉が付いていると症状が悪化するため、花粉症の季節は眼鏡に切り替えるのがおすすめです。

【参考情報】『花粉症と目』日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/20/index.html

2-3.その他に現れる症状

鼻で吸収しきれなかったスギの抗原成分が鼻からのどへ流れると、のどのかゆみや咳などの症状が現れます。

また、症状が重くなると皮膚のかゆみや鼻づまりによる頭痛、炎症反応による微熱、だるさなど、鼻や目以外にも症状が現れます。

特に鼻づまりは呼吸がしづらくなるため、集中力が低下したり眠れなくなったりして、日常生活に支障をきたす場合もあります。

◆「咳が2週間以上続いている時」について詳しく>>

【参考情報】『的確な花粉症の治療のために(第2版)厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf

3.原因・理由


人間の身体には、細菌やウイルスなどの異物から身体を守るために「免疫」というシステムが備わっています。

アレルギーは、ある特定の異物(アレルゲン)に対して免疫が過剰に反応することで起こります。

花粉症もこのアレルギー反応の一つです。花粉が侵入し、免疫システムに異物と認識されると「IgE抗体」が作られます。IgE抗体は花粉に接触するたびに作られ、少しずつ体内に蓄積されていきます。ある程度蓄積されると、再び花粉が入ってきたときに肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出され、くしゃみ、鼻水、涙などの花粉を排除するための反応が起こるのです。

近年花粉症が増えている原因には次のようなものがあります。

3-1.スギの植林

第二次世界大戦後、森林資源の回復や確保を目的として、加工に便利なスギの木が大量に植林されました。
その頃植えられたスギが、花粉が作られるまでに成長したため花粉の量が増えていると言われています。

また、スギ花粉の生産量は年によっても違います。花粉が形成される前年の夏に日射量が多く、降水量が少ないほど、翌春の花粉生産量が多くなることが分かっています。

【参考情報】『森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A』林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/qanda.html

3-2.大気汚染

排気ガスやオゾン、二酸化窒素、黄砂、PM2.5などの大気汚染物質も、花粉症を悪化させる原因の一つだと考えられています。

花粉の飛散量が同程度でも、交通量の多い場所のほうがスギ花粉症患者が多いという研究結果もあります。

【参考情報】『花粉症 症状を悪化させるもの』国立環境研究所
https://www.nies.go.jp/fushigi/050504.html

3-3.食生活の変化

食生活の欧米化も、花粉症の人が増えた理由の一つです。

アレルギーの発症には腸内環境が深く関係しています。免疫細胞の50%は小腸に、20%は大腸に集中しており、腸内細菌のバランスによって免疫力が左右されています。

アレルギーが出にくい体質にするためには腸内に住む善玉菌を増やし、腸内環境を整えることが大切です。

昔ながらの和食には善玉菌を増やす食物繊維や発酵食品が豊富に含まれてます。しかし現代は食生活の欧米化やファストフードの普及により、日々の食事で善玉菌を増やす機会が減っているため、アレルギー症状で悩まされる人が多くなっているのです。

また、青魚に含まれるEPA・DHAなどのオメガ3系脂肪酸は、アレルギー症状の改善に効果があると言われています。しかし、昔に比べて青魚を食べる機会が減り、肉中心の食生活になったため、摂取量が不足してアレルギーを起こしやすくなっています。

3-4.住宅環境の変化

花粉症の方はハウスダストのアレルギーも起こりやすいと言われています。

昔の日本家屋は窓や戸を締め切っていても多少の隙間がある木造住宅でしたが、現代の家は気密性が高く、季節を問わず快適な温度が保たれています。

高気密住宅は快適な反面、ダニやカビが繁殖しやすい環境になってしまいます。

3-5.その他

ストレスにより自律神経が乱れると、免疫のバランスが崩れてアレルギー反応が出やすくなってしまいます。

他にも喫煙や、不規則な生活も花粉症を増加させる原因になると言われています。

4.治療


基本的には薬物療法で症状を緩和し、重症の場合は「アレルゲン免疫療法」や「手術療法」を行う場合もあります。

鼻の粘膜の炎症が軽く、荒れていない時期に治療を始めることで、薬の効きも良くなります。花粉の飛散予測日の前、または少しでも症状が出始めた段階で薬物療法を開始すると、重症化を防ぐことができます。

また、メガネやマスクで花粉の侵入を防ぐことや、室内をこまめに掃除して花粉を取り除くことも大切です。

◆「マスクの選び方」について詳しく>>

4-1.薬物療法

鼻水を抑える抗ヒスタミン薬の飲み薬や、鼻の炎症を抑える点鼻ステロイド薬、鼻づまりを改善するロイコトリエン受容体拮抗薬などが用いられます。

抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用がありますが、最近では眠くなりにくい薬も多くなっています。

目の症状には、抗ヒスタミン薬の点眼薬が用いられます。症状が悪化している場合には目の炎症を抑える点眼ステロイド薬が使われる場合もありますが、眼圧上昇などの副作用もあるため、定期的に眼科で検査を受ける必要があります。

4-2.アレルゲン免疫療法

アレルゲン免疫療法とは、原因となるアレルゲンを体内に投与して、アレルギー反応を起こりにくくする治療法です。はじめは濃度を下げて薄くしたものから投与し、徐々に濃度を上げていくことで花粉抗原に対する免疫を獲得していきます。

注射製剤と舌下錠があり、近年では、通院回数が少ない舌下錠を用いた治療が注目されています。

薬物療法だけでは症状が抑えられない場合や、副作用により薬物療法が受けられない場合に選択されます。治療には数年以上かかりますが、花粉症の治療法で唯一根治が期待できるというメリットがあります。

4-3.手術療法

薬物療法で症状が抑えられない重度の花粉症の場合は、鼻の粘膜をレーザーで凝固する下鼻甲介粘膜焼灼術などか検討される場合もあります。

根治を目指すものではなく、手術を受けても1~2年程度で粘膜が再生してしまうため、効果は一時的なものになります。

〈参考文献〉”Hay fever” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hay-fever/diagnosis-treatment/drc-20373045

5. おわりに

花粉症になると、鼻や目の症状だけでなく、だるさや頭痛などさまざまな症状に悩まされることになり、睡眠や日中の生活にも支障をきたします。

こまめに掃除をして室内の花粉を減らし、外ではメガネやマスクなどでなるべく花粉を避けるようにしましょう。

また、腸内環境を整える、疲れやストレスを溜めないなど、免疫力を高めてアレルギー反応が起こりにくい体質にすることも大切です。

早期に治療を開始することで効果が出やすくなります。「毎年のことだから」とあきらめずに、花粉症に悩んでいる人は病院を受診しましょう。