クラミジア・ニューモニエ肺炎」の基本情報

クラミジア・ニューモニエ肺炎とは呼吸器疾患の一種で、クラミジア・ニューモニエ菌による呼吸器感染症です。
市中肺炎(免疫が正常な方に起こる一般的な肺炎)の原因として知られており、一般的な細菌性肺炎とはちがっておだやかな経過をたどることが特徴です。
この記事では、この肺炎の特徴や症状、診断方法、治療法についてご説明いたします。
1.クラミジア・ニューモニエ肺炎の特徴
クラミジア・ニューモニエ肺炎は、クラミジア・ニューモニエという細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。一般的な細菌性肺炎とは異なり、いくつかの特徴があります。
原因となるクラミジア・ニューモニエ菌は、一般的な細菌よりも非常に小さなサイズで、宿主の細胞の中でしか増えることができないという特徴を持っています。
この「宿主」というのは、人や動物のからだの細胞のことを指します。通常の細菌は自分だけで増殖できるのに対して、クラミジア・ニューモニエ菌は必ずほかの細胞の中に入り込まないと増えることができないのです。
このため、クラミジア・ニューモニエ菌のような細菌は「細胞内寄生菌」と呼ばれます。
発症メカニズムは以下のようになっています。
1.クラミジア・ニューモニエ菌が気道に侵入します。
2.菌が気道上皮細胞に付着し、細胞内に侵入します。
3.細胞内で菌が増殖します。
4.増殖した菌が炎症性サイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質の総称)の産生を促し、炎症反応を引き起こします。
5.その結果、肺炎が発症します。
また、クラミジア・ニューモニエ肺炎の特徴として、潜伏期間が比較的長いことが挙げられます。
感染してから症状が現れるまでに2〜4週間かかるのが一般的です。また、症状の進行もおだやかで、一般的な細菌性肺炎と比べて経過が長引くことがあります。
さらに、この肺炎は、「歩行性肺炎」とも呼ばれることがあります。これは、この肺炎にかかっても症状が比較的軽いため、患者さんが歩き回ることが可能で、日常生活を送れる状態であることが多いからです。
しかし、軽い症状に見えても放っておくと長引いたり悪化したりすることがあるため、早めに適切な治療を受けることが大切です。
原因となるクラミジア・ニューモニエ菌は、飛沫感染によって人から人へと広がります。そのため、咳やくしゃみを介して感染が広がる可能性があり、とくに、閉鎖的な環境や人が密集する場所では感染リスクが高まります。
年齢層としては、若年層から高齢者の方まで幅広く感染する可能性がありますが、とくに学校や職場などの集団生活の場での集団感染が報告されています。
また、喫煙者の方や慢性疾患を持つ方、免疫機能が低下している方は、より重症化するリスクが高いとされています。
クラミジア・ニューモニエ肺炎は、世界中で発生しており、日本でも決して珍しい疾患ではありません。一方で、症状が非特異的でほかの呼吸器感染症と似ていることから、見逃されることがあるのが問題です。
そのため、長引く咳や発熱がある場合は、クラミジア・ニューモニエ肺炎の可能性も考慮して医療機関を受診することが重要です。
なお、クラミジアによる肺炎には「オウム病」も含まれますが、感染症法では、人獣共通感染症で症状が重いオウム病とは病態や対応が異なるため、「肺炎クラミジア」や「クラミジア・トラコマチス」による肺炎とは区別されています。
そのため、感染症法上は「クラミジア肺炎(オウム病を除く)」と「オウム病」の二つの疾患として定義が分けられています。
【参照文献】日本細菌学会『肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)』
https://jsbac.org/youkoso/chlamydophilaPneumoniae.html
【参照文献】東京都感染症情報センター『クラミジア肺炎 Chlamydia pneumoniae Infection(オウム病を除く)』
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/cpneumoniae/
【参考文献】”About Chlamydia pneumoniae Infection” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/cpneumoniae/about/index.html
【参照文献】”Chlamydia pneumoniae Infection: Causes and How It Spreads” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/cpneumoniae/causes/index.html
2.クラミジア・ニューモニエ肺炎の症状
クラミジア・ニューモニエ肺炎の症状は、一般的な肺炎と似ていますが、その経過や特徴に違いがあります。ここからは主な症状についてご説明しましょう。
1.発熱
クラミジア・ニューモニエ肺炎では、38°C以上の発熱が見られることが多いです。発熱は感染初期から出現し、数週間続くことがあります。ただし、高齢者の方では発熱が顕著でない場合もあるので注意が必要です。
2.咳嗽(せき)
乾いた咳が特徴的で、数週間続くのが一般的です。初期は軽い咳から始まり、徐々に悪化していきます。夜間に悪化することがあり、睡眠を妨げる原因になることもあります。
3.全身倦怠感
からだのだるさや疲労感を感じることが多い病気です。全身倦怠感は、ほかの感染症でも見られますが、クラミジア・ニューモニエ肺炎では長期間続くことが特徴です。
4.頭痛
軽度から中等度の頭痛を伴うことがあります。頭痛は、発熱や全身の炎症反応に関連していると考えられています。
5.喀痰(たん)
初期には痰が少ないか、まったく出ないことが多いですが、症状が進行すると粘り気のある痰が出るようになることがあります。
6.呼吸困難
重症化すると、息切れや呼吸困難を感じることがあります。とくに、運動時や階段を上る時などに息切れを感じやすくなります。
7.胸痛
深呼吸時や咳をする時に、胸に痛みを感じることがあります。これは、肺の炎症が胸膜まで及んでいる場合に起こりやすい症状です。
8.食欲不振
全身状態の悪化に伴い、食欲が低下することがあります。これにより、体重減少につながる可能性もあります。
9.筋肉痛・関節痛
全身の炎症反応により、筋肉や関節に痛みを感じることがあります。この症状は、インフルエンザに似ていることがあります。
10.嗄声(しわがれ声)
声がかすれることがあります。これは、気道の炎症が喉頭にまで及んでいる場合に起こりやすい症状です。
これらの症状は個人差があり、すべての症状が現れるわけではありません。
また、高齢者の方や基礎疾患のある方は、症状が通常とは異なり、軽かったり目立たなかったりすることがあります。そのため、感染した場合には、とくに注意深い観察と早めの対処が必要です。
【参照文献】日本内科学会雑誌 『クラミジア ・ニューモニエ感染症 基礎 と臨床』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/87/12/87_12_2516/_pdf/-char/ja
【参考文献】”Chlamydia pneumoniae Infections: Causes, Symptoms & Treatment” by HealthyChildren.org
https://www.healthychildren.org/English/health-issues/conditions/chest-lungs/Pages/Chlamydia-pneumoniae-Infections.aspx
3.クラミジア・ニューモニエ肺炎の診断・検査
クラミジア・ニューモニエ肺炎の診断は、症状や身体所見、各種検査結果を総合的に評価して行われます。ここからは、診断の手順と主な検査についてご説明します。
1.問診
医師は、患者さんから詳細な病歴を聞き取り、主に以下の点について質問します。
・症状の発症時期と経過
・呼吸器症状(咳、痰、呼吸困難など)の詳細
・全身症状(発熱、倦怠感、頭痛など)の有無
・基礎疾患の有無
・免疫力が低下している状態であるか
感染から発症までに2〜4週間の潜伏期間があり、ゆっくりと症状が現れるのが特徴なため問診は重要です。
2.身体診察
医師は聴診器を使って肺の音を聞いたり、胸部の打診を行ったりします。クラミジア・ニューモニエ肺炎では、以下のような所見が見られることがあります。
・肺の聴診で、局所的な異常呼吸音(ラ音)が聞こえる
・胸部の打診で、濁音が聞こえる
3.血液検査
血液検査では、炎症反応や感染の程度を評価します。主な検査項目は以下の通りです。
・白血球数:通常増加しますが、ほかの細菌性肺炎ほど著明ではないことがあります。
・CRP(C反応性タンパク):炎症の程度を示す指標で、通常上昇します。
・プロカルシトニン:細菌感染の指標ですが、クラミジア・ニューモニエ肺炎では上昇が軽度なことが多いです。
4.胸部X線検査
胸部X線検査では、肺の炎症像を確認します。クラミジア・ニューモニエ肺炎では、以下のような所見が見られることがあります。
・片側性または両側性の浸潤影(境界が不明確でぼやけた影のこと)
・すりガラス影
・肺門部(気管が左右の主気管支に分かれて肺に入る部分)の腫大
ただし、クラミジア・ニューモニエ肺炎の場合、胸部X線所見が軽微なことも多いので注意が必要です。
5.胸部CT検査
胸部CT検査は、X線検査よりも詳細な肺の状態を観察できます。クラミジア・ニューモニエ肺炎でみられる所見は以下のとおりです。
・気管支壁の肥厚
・小葉中心性(内径が1mm以下になった気管支の末端部の周囲)の粒状影
・すりガラス影や浸潤影
6.喀痰(かくたん)検査
喀痰の細菌学的検査やPCR法による検査を行います。ただし、クラミジア・ニューモニエは培養が難しいため、通常の細菌培養では検出されにくいことに注意が必要です。
7.血清抗体価測定(血液中の抗体の量を測定する検査)
クラミジア・ニューモニエに対する血清抗体価の測定は、確定診断に有用です。以下の方法で診断を行います。
・ペア血清での抗体価の有意な上昇(4倍以上)
・IgM抗体の検出
・IgG抗体やIgA抗体の上昇
通常、初感染では感染後3週以降にまずIgMが上昇し、次いでIgG、IgAがさらに2〜3週遅れて上昇します。再感染の場合は、IgG、IgAが2〜3週で比較的急激に上昇しますが、IgMは通常上昇しないか、上昇しても低値にとどまります。
8.PCR検査
喀痰や咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査も診断に有用です。この検査は、クラミジア・ニューモニエの遺伝子を直接検出するため、感度が高く、早期診断が可能です。
9.その他の検査
必要に応じて、動脈血ガス分析や肺機能検査などが行われることもあります。これらの検査は、肺炎の重症度評価や呼吸機能の評価に役立ちます。
クラミジア・ニューモニエ肺炎の診断は、これらの検査結果を総合的に判断して行われます。ただし、症状や検査所見が非特異的なことも多いため、診断に時間がかかることもあります。また、ほかの呼吸器感染症との鑑別も重要です。
長引く咳や発熱がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが大切です。医師の指示に従い、必要な検査を受けることで、正確な診断と適切な治療につながります。
クラミジア肺炎は市中肺炎の一種でありますが、一般細菌が原因の定型肺炎とは異なり一部の抗菌薬が無効であることが特徴です。マイコプラズマ肺炎ほどには症状は強くないとされていますが菌同定/確定診断が比較的難しく疑っていかないと治療が難渋する可能性もあります。
肺炎を疑ったら画像検査を早めに実施するなど必要ですので専門医を早めに受診することをお勧めします。
【参照文献】NIID国立感染症研究所『クラミジア肺炎とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/395-chlamydia-intro.html
4.クラミジア・ニューモニエ肺炎の治療
クラミジア・ニューモニエ肺炎の治療は、主に抗菌薬療法が中心となります。適切な治療が行われれば、多くの場合は後遺症なく治癒します。以下に、治療の詳細について説明しましょう。
1.抗菌薬治療
クラミジア・ニューモニエ肺炎の治療に使われる抗菌薬は、主に以下のものが用いられます。
・マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)
・テトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)
・ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)
これらの抗菌薬は、クラミジア・ニューモニエに対して高い効果を示します。
通常、7〜14日間の投与が行われますが、症状の改善が見られない場合は、さらに投与期間を延長することがあります。
2.対症療法
抗菌薬治療と並行して、症状を緩和するための対症療法も行われます。
・解熱鎮痛薬:発熱や頭痛、筋肉痛などの症状を和らげるために使用します。
・鎮咳薬:咳が激しい場合に使用することがあります。
・水分補給:十分な水分摂取は、痰の排出を促し、脱水を防ぐために重要です。
3.安静と栄養管理
十分な休養をとり、バランスの取れた栄養摂取を心がけることも、回復を早めるために重要です。
4.重症例の管理
重症化した場合や基礎疾患がある方の場合は、入院治療が必要になることがあります。入院治療では、以下のような管理が行われます。
・酸素療法:呼吸困難がある場合に行う
・点滴による水分・電解質管理
・必要に応じて、呼吸管理や循環管理
5.経過観察
治療開始後、症状の改善を確認しながら経過観察を行います。通常、治療開始後3〜5日程度で症状の改善が見られ始めます。しかし、完全に回復するまでには2〜3週間かかることもあります。
6.フォローアップ
症状が改善したあとも、再発や合併症の有無を確認するために、定期的な受診が必要です。また、胸部X線検査などで肺の状態を確認することもあります。
治療上の注意点
クラミジア・ニューモニエ肺炎の治療をするうえで、以下のことに気をつけることが大切です。
1.抗菌薬の服用について
処方された抗菌薬は、必ず医師の指示通りに最後まで飲み切ることが重要です。症状が改善したように感じても、途中でやめてしまうと再発のリスクが高まりますので、根気よく続けましょう。
2.副作用への注意
抗菌薬の種類によっては、副作用が現れることがあります。少しでも気になる症状があれば、我慢せずに早めに担当の医師に相談しましょう。安心して治療を続けるためにも、大切なことです。
3.禁煙について
喫煙者の方は、禁煙を検討しましょう。タバコは肺の回復を遅らせ、症状の再発リスクも高めてしまいます。
4.アルコールを控える
アルコールは、抗菌薬の効果を弱めたり、副作用のリスクを高めたりする可能性があります。治療中は控えめにし、できれば避けましょう。
5.十分な休養
十分な休養をとることが大切です。症状が良くなったと感じても、すぐに激しい運動や長時間の仕事に戻るのは控えましょう。
このようにクラミジア・ニューモニエ肺炎の治療は、適切な抗菌薬と十分な休養が基本です。ただし、患者さんの体調や生活状況に応じて、治療方法が少し異なる場合もあります。
わからないことや不安なことがあれば、遠慮せず医師に相談しましょう。
また、ご家族や周囲の方のサポートも患者さんの回復を助ける大きな力になります。患者さんがゆっくり休めるような環境を整え、できるだけストレスを感じずに過ごせるようサポートすることが大切です。
【参考文献】”Chlamydia Pneumonia” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK560874/
5.おわりに
クラミジア・ニューモニエ肺炎は、決して珍しい疾患ではありませんが、その特徴的な経過や症状から、早期の発見と適切な治療が重要です。
症状が長引いたり、少しでも気になる症状があったりする場合には、早めに医療機関を受診し、必要な検査と抗菌薬治療を受けることが大切です。
また、日頃の生活の中での手洗いやマスクの着用といった予防策が、クラミジア・ニューモニエ肺炎を含む、多くの呼吸器感染症の予防に効果を発揮します。
感染症の対策には、免疫力を保つ日常的な習慣も大切です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動が、感染症への抵抗力を高めます。ご自身や大切な方のためにも、体調の異変が続く場合には、なるべく早く医療機関への受診を検討しましょう。