アデノウィルス感染症とはどんな病気なのか

「アデノウィルス感染症っていわれたけど、はやり目やプール熱とも呼ばれていてよくわからない」

アデノウィルス感染症に対して、さまざまな病名や症状があり、実際はどのような病気を引き起こすウィルスなのかわからない方も多いでしょう。

アデノウィルスは、非常に多くの型や種があり、発熱や咳、充血、下痢など多彩な症状があらわれます。非常に感染力が強いウィルスのため、正しい感染対策が必要です。

今回の記事では、アデノウィルスの基本情報や引き起こす症状、検査、治療、予防対策などを解説します。

流行前にアデノウィルスの特徴を知っておきたい方は、ぜひ最後までお読みください。

1. アデノウィルス感染症ってなに?


アデノウィルスとは、風邪症状を引き起こすウィルスの一種です。

非常に多くの種類があり、51種類の血清型および52型以降の遺伝型、A~Gの7種類に分類されています。

感染する型の違いでそれぞれ異なる症状があらわれます。

そして、型や種類が違えば、何度でもアデノウィルスの感染を繰り返すため注意が必要です。

感染すると、症状が出るまでに通常5日から7日ほどの潜伏期間があります。症状が現れてからは1週間から10日ほどで回復するのが一般的です。

感染をすると、主に以下のような病気を引き起こします。

・呼吸器感染症
・咽頭結膜熱(プール熱)
・流行性角結膜炎(はやり目)
・感染性胃腸炎
・出血性膀胱炎

それぞれの病気の特徴を以下に解説します。

◆「風邪」について詳しく>>

【参考情報】”Adenovirus” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/23022-adenovirus

【呼吸器感染症】
主に3型と7型のアデノウィルスによる感染です。

長引く発熱や咳が特徴で、呼吸困難を引き起こす場合があります。

特に7型は乳幼児に感染を起こしやすく、重症の肺炎を引き起こし命に関わるケースもあります。髄膜炎や脳炎、心筋炎などを併発するケースもあり、注意が必要です。

特に脳炎は後遺症を残す可能性がありますので、少しでも気になることがあれば早めに医療機関を受診しましょう。

【咽頭結膜熱(プール熱)】
主に3型のアデノウィルスによる感染です。

高熱と微熱で上がったり下がったりを繰り返す発熱が特徴で、扁桃腺の腫れやのどの痛みがあります。のどだけでなく、充血や目やになどの結膜炎症状も特徴です。

夏の代表的な感染症で、プールでの接触やタオルの共有などでうつるため、プール熱とも呼ばれています。

学校保健安全法で第二類感染症に指定されています。そのため、主要症状が消失した後2日を経過するまでは出席停止です。

【参考情報】”Pharyngoconjunctival fever” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/medgen/14722

【流行性角結膜炎(はやり目)】
流行性角結膜炎を起こすアデノウィルスは、D種の8型、64型、37型など、7種類ほどあります。

充血や目やになどの結膜炎症状が主で、発熱やのどの痛みはそれほど強くありません。

流行性角結膜炎も、学校保健安全法で第三種感染症に指定されています。そのため、感染の恐れがなくなるまでは出席停止です。

【参考情報】”Epidemic Keratoconjunctivitis” by EyeWiki
https://eyewiki.org/Epidemic_Keratoconjunctivitis

【感染性胃腸炎】
主に31型、40型、41型が原因です。

乳幼児に感染することが多く、腹痛や嘔吐、下痢などの胃腸症状を伴います。

発熱することはありますが、程度が軽いのが特徴です。

【参考情報】”Gastroenteritis” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/gastroenteritis

【出血性膀胱炎】
11型のアデノウィルス感染が原因です。

排尿痛や真っ赤な血尿、尿意の切迫などの膀胱炎症状があります。

症状は2~3日で良くなり、尿検査での潜血も10日程度で改善します。

【参考情報】『アデノウィルス解説ページ-アデノウィルスの種類と病気』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/2110-idsc/4th/4326-adeno-virus-page2.html

【参考情報】”Hemorrhagic Cystitis” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24164-hemorrhagic-cystitis

2.アデノウィルス感染症の症状


アデノウィルス感染症は、感染する型や種によってさまざまな症状があらわれます。

主な症状は以下のとおりです。

・発熱
・のどの症状
・咳
・目の症状
・鼻の症状
・胃腸症状
・その他の症状

それぞれの症状の特徴を解説します。

2-1.発熱

アデノウィルスに感染した場合、呼吸器感染症と咽頭結膜熱(プール熱)では、高熱が出るのが特徴です。

呼吸器感染症では長引く熱(37~39℃)、咽頭結膜熱では高熱(38~39℃)と微熱(37~38℃)を繰り返します。高熱が続くため、こまめな水分補給を心がけ、脱水症状に注意しましょう。

2-2.のどの症状

咽頭結膜熱(プール熱)では、のどの赤みや痛み、腫れなどの症状が強くあらわれ、咽頭炎や扁桃炎を引き起こします。

のどの痛みで食べ物や飲み物が飲み込みにくくなる場合があります。こまめな水分補給と、プリンやゼリーなど口当たりがよく飲み込みやすいものを食べましょう。

2-3.咳

アデノウィルスに感染した場合、咳は乾いた咳から始まり徐々に痰が増えていきます。

痰が絡んだ咳が続くことで、夜間に咳き込みやすくなり、十分な睡眠がとれない場合が多いです。

一般的な風邪では、咳は数日から1週間程度で治まることが多いですが、アデノウィルスの咳は1週間以上続くことがあります。

特に子どもや高齢者、または免疫力が低下している人では、咳が2週間以上続くことも珍しくありません。

呼吸状態を悪化させ、気管支炎や肺炎といった重篤な呼吸器疾患を引き起こす可能性もあります。

咳が強く呼吸が苦しくなる場合や胸の痛みが伴う場合は、早めに医師の診察を受けましょう。

2-4.目の症状

目の症状は、咽頭結膜熱(プール熱)と流行性角結膜炎(はやり目)でよくあらわれる症状です。

目の充血や多く出る目やに、涙が止まらなくなる、まぶしさを強く感じるなどの結膜炎症状が典型的です。

片方の目から始まり、数日後にもう片方の目にも広がることもありますが、両目同時にあらわれることもあります。

目の不快感やゴロゴロした異物感があるため、無意識に目をこすってしまうことがあります。これは感染を広げる原因になるため注意が必要です。

目の分泌物を通じて他の人に感染するため、タオルや枕カバー、目薬などを共有しないようにしましょう。特に、タオルや洗面器具を家族で共有しないことや、手をしっかり洗うことが感染予防に効果的です。

アデノウィルスによる結膜炎は、基本的には自然に回復することが多いです。通常、1週間から2週間で症状が改善されます。

2-5.鼻の症状

鼻水や鼻詰まりも、アデノウィルス感染症の症状のひとつです。

最初はさらさらとした透明な鼻水から始まり、徐々に粘り気のある黄色っぽい鼻水に変化します。

鼻詰まりの原因は、鼻の粘膜が炎症を起こし、腫れることで空気の通りが悪くなります。鼻で呼吸がしづらくなるため、睡眠中にいびきをかいたり、十分に眠れなくなったりする原因となります。

2-6.胃腸の症状

アデノウィルス感染症で感染性胃腸炎を引き起こした場合、腹痛や下痢、嘔吐などの胃腸症状があらわれます。

下痢や嘔吐が繰り返される場合、体内の水分や電解質が失われるため、脱水症状を引き起こすリスクが高くなります。嘔吐や下痢が続くときには、十分な水分補給が大切です。失われた水分を補うために、こまめに水分補給を心がけましょう。

水分補給には経口補水液がおすすめです。経口補水液は、水分だけでなく、電解質も含んでいるため、脱水症状を予防するのに効果的です。

しかし、味が苦手だったり飲みにくかったりする場合は、無理せず飲みやすいものを飲みましょう。

また、胃腸に負担が少ない消化にいい食事を心がけることも大切です。お粥やうどん、スープなどが適しているでしょう。

通常1週間程度で症状が回復することが多いですが、症状が長引く場合や重症化することもあります。

嘔吐や下痢が続く場合、体力が落ちてしまうため、回復までに時間がかかるケースもあるでしょう。
胃腸症状は特に乳幼児に出やすい症状です。

口の中が乾燥する、尿の量が減る、意識がぼんやりするなどの症状は、脱水症状が進行している可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。

また便や吐物から感染が広がるため注意が必要です。処理の後には必ず石けんで手を洗いましょう。

2-7.その他

アデノウィルス感染症では、上記で解説した以外に膀胱炎や肝炎を起こす場合があります。

感染性膀胱炎では、膀胱の内側に炎症が起こり、尿に血が混じる病気です。
症状として、血尿や排尿時の痛み、頻尿などがあげられます。

肉眼で見えないほどの微量の血液が混じるケースから、真っ赤な尿が出るほどの血尿が出るケースがあります。

排尿時に痛みや違和感を覚えることが多く、トイレに行く回数が増えます。

アデノウィルスでの肝炎は、免疫不全患者で多く報告されており、発症すると命の危険があります。
初期症状としては、発熱、全身の倦怠感、食欲不振などです。

【参考情報】”About Adenovirus” by Centers for Diisease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/adenovirus/about/index.html

3.アデノウィルスの検査と治療


ここでは、アデノウィルスを疑う場合におこなう検査と、治療について解説します。

3-1.検査

アデノウィルスの検査は、迅速検査とPCR検査、ウィルス分離です。

迅速検査が一般的におこなわれているため、迅速検査について解説します。

鼻やのどから綿棒で分泌物を採取し、アデノウィルスが存在するかどうか迅速検査キットを用いて確認します。結果は15分程度で判明するため、症状が現れたその日に診断ができます。陽性反応が出た場合、アデノウィルス感染症です。

ただし、迅速検査ではウィルスの量が少ないと、正確な診断が難しいことがあります。

【参考情報】”How is an adenovirus infection diagnosed?” by Children’s Hospital of Philadelphia
https://www.chop.edu/conditions-diseases/adenovirus-infections#testinganddiagnosis

3-2.治療

アデノウィルスに対する抗ウィルス薬は存在しません。ウィルス感染のため、抗生物質の使用もしません。

そのため、治療は患者の症状や体調に応じた対症療法をおこないます。対症療法とは、苦痛がある症状を和らげる治療法です。

発熱や頭痛、のどの痛みがひどい場合などには解熱鎮痛薬、咳がひどい場合には鎮咳薬、目の炎症に対して非ステロイド性抗炎症点眼薬やステロイド点眼薬を使用します。

薬以外に、家庭でできるホームケアも大切です。

・こまめな水分補給と消化に良い食事をする
・部屋を適切な温度や湿度に保つ環境調整
・目やにが多い場合、濡らしたガーゼでやさしくぬぐう
・十分な休養をとる

発熱や嘔吐がある場合は、体内の水分が出てしまいます。脱水に注意しましょう。

4.感染を予防するための対策


アデノウィルスは「飛沫感染」と「接触感染」で広がります。

飛沫感染は、咳やくしゃみなどによって飛び散ったウィルスを吸い込むこと、接触感染は、感染者の手や物を介してウィルスが移ることです。
また、非常に感染力が強く環境中でも長く生存するウィルスのため、正しい感染対策が必要です。

以下のような感染対策を実施しましょう。

・流水と石けんによる手洗い
・マスクを着用し咳エチケット
・定期的な換気
・次亜塩素酸を使ってドアノブやおもちゃなどの環境消毒
・食事の食器を分ける
・感染者とタオルを共有せず洗濯も分ける

アデノウィルスに消毒用アルコールはほとんど効果がないため、消毒には0.1%に薄めた次亜塩素酸を使いましょう。

また、感染者の衣類や使用したタオルは洗濯を分けるだけでなく、洗濯前に消毒をしておくと安心です。薄めた次亜塩素酸に30分ひたすか、1分以上の煮沸消毒が効果的です。

また、のどからは2週間、便から30日間とアデノウィルスは長い期間排出されます。感染力が強く、季節を問わず流行するウィルスのため、一度流行が始まると適切な感染対策をおこなわなければ、多くの人に感染が広がるでしょう。

特に人が多く集まる場所や、幼稚園や学校などの集団生活の場で流行しやすいです。
免疫力が低い人や小さな子ども、高齢者では、症状が長引いたり、重症化したりすることがあります。

子どもだけでなく大人もうつる病気のため、症状が治まってからも感染対策をおこない、家庭内での感染を起こさないよう気をつけましょう。

◆「咳エチケット」について詳しく>>

【参考情報】『咽頭結膜熱について』東京都保健医療局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/pcf.html#:~:text=%E6%84%9F%E6%9F%93%E3%81%AE%E6%8B%A1%E5%A4%A7%E3%82%92%E9%98%B2%E3%81%90,%E5%87%A6%E7%90%86%E3%81%AB%E6%B3%A8%E6%84%8F%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%86%E3%80%82

5.激しい咳がでる病気は他にもある


激しい咳が出る病気は、アデノウィルス以外にもあります。

以下のような病気も激しい咳症状が特徴です。

・マイコプラズマ肺炎
・百日咳
・クループ症候群

それぞれの病気について解説します。

5-1.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニアと呼ばれる細菌に感染することで起こる感染症です。

「飛沫感染」と「接触感染」で感染が広がります。

乾いた咳が出始めますが、解熱後も咳がしつこく残るのが特徴です。

一部の人は重症の肺炎や無菌性髄膜炎、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群などの重い合併症を起こすことがあります。

◆「マイコプラズマ肺炎」について詳しく>>

【参考情報】”Mycoplasma Pneumonia” by National Institues of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK430780/

5-2.百日咳

百日咳とは、百日咳菌に感染して発症する急性の呼吸器感染症です。

風邪症状から始まり、徐々に咳が強くなり百日咳特有のけいれん性の咳症状が続きます。

カタル期・痙咳期(けいがいき)・回復期の3期にわけられます。

その中でも、痙咳期にみられる発作性けいれん性の咳は、スタッカートと呼ばれる短い咳が連続的に起こり、ヒューという笛のような音が、息を吸うときに聞こえます。
このような状態を繰り返すことを「レプリーゼ」と呼びます。

百日咳の感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。

患者の多くは乳幼児で1歳以下の乳児が感染すると重症化することがあります。

◆「百日咳」について詳しく>>

【参考情報】”Whooping cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/whooping-cough/symptoms-causes/syc-20378973

5-3.クループ症候群

クループ症候群は、子どもによく見られる呼吸器症状です。特に生後6ヶ月~3歳の子どもに多く見られます。

特に夜間に咳がひどくなるのが特徴で、犬が吠えるような「ケンケン」という咳が出ます。

この病気は、ウィルスや細菌の感染、アレルギーなどが原因によってのどの奥や声帯が腫れるために気道が狭くなり、引き起こされる症状です。

症状が重くなった場合は、入院や酸素投与が必要となるケースもあります。

【参考情報】”Croup” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/croup/symptoms-causes/syc-20350348

6.おわりに

アデノウィルスは、たくさんの型と種が存在し、多彩な症状があらわれます。

非常に感染力が強く、飛沫感染と接触感染で広がります。咳が出る場合は、マスクを着用し咳エチケットを守り、感染を広げないことが大切です。

アデノウィルス以外にも咳が出る病気があります。2週間以上続いている場合は早めに医療機関を受診して原因を調べましょう。

◆「咳が2週間以上続く場合」について>>

◆咳で呼吸器内科を受診する目安」について>>