RSウイルス感染症の基本知識
「RSウイルス感染症ってなに?」と疑問に思う方もいるでしょう。
RSウイルス感染症は呼吸器の感染症です。
一般的に、大人がRSウイルスに感染しても「風邪を引いたかな?」という程度で済むケースがほとんどです。そのため、大人にはあまりなじみのない感染症かもしれません。
しかし、生後6か月の乳児や基礎疾患がある小児や高齢者は、感染すると重症化する場合があります。
今回の記事では、RSウイルス感染症の症状や検査、治療、予防方法など、基本的な知識について解説します。重症化リスクを抱えている方は、RSウイルス流行前に知っておくと安心ですよ。ぜひ最後までお読みください。
1.RSウイルス感染症とは
RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染することで発症する急性の呼吸器感染症です。
発症すると鼻水や咳などの呼吸器症状を引き起こします。
一般的には風邪程度で治るケースが多いですが、細気管支炎や肺炎を引き起こし重症化する場合もある感染症です。
2歳までにほぼ100%の子どもが感染するといわれていますが、生後6カ月未満の乳児が感染すると重症化する可能性が高くなります。
また、心臓や肺に基礎疾患がある乳幼児や高齢者、低出生体重児なども重症化しやすいので注意が必要です。
感染経路は、主に「飛沫感染」と「接触感染」で広がります。
「飛沫感染」は、主に咳やくしゃみで空気中の飛沫が飛び、それを吸い込むことでウイルスが入り込み感染を起こします。
「接触感染」は、ウイルスが付着した物に触れ、その手で目や口などを触ることでウイルスが体内に入ります。
ウイルスを吸い込むと鼻や喉の粘膜に付着し、そこで増殖を始め、気道の方へ感染を広げていきます。
このウイルスは特に冬のシーズンに流行しやすく、風邪の原因となることが多いです。
しかし、近年のRSウイルス感染症は、夏から感染者が増加したり、春から初夏まで感染者が出ていたりと、冬に限らず流行するケースが増えています。
重症化リスクが高い人は、RSウイルスの流行状況を確認しておくと安心でしょう。
また、RSウイルスは感染症法で五類感染症として定められ、定点医療機関から毎週患者数の報告が必要とされています。
RSウイルス感染症と診断されたあとでも、特に出席停止期間は定められていません。しかし、体調が回復していない状態での登園は控えましょう。
症状が軽快し日常生活が問題なく送れるようになる程度まで回復してからの登園再開が望ましいです。
厚生労働省のガイドラインでもRSウイルスに罹患した場合の登園のめやすは、「呼吸器症状が消失し、全身状態が良いこと」と記載されています。
また、登園届の提出を求められる場合もありますので、登園再開については通っている保育園に確認しましょう。
【参考情報】『RSウイルス感染症が増えています!』東京都保健安全研究センター
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/diseases/rs-virus/hitokuchi-joho.pdf?20230622
【参考資料】”Respiratory Syncytial Virus Infections” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/respiratorysyncytialvirusinfections.html#:~:text=Respiratory%20syncytial%20virus%2C%20or%20RSV,people%20with%20serious%20medical%20problems.
1-1.症状
RSウイルスに感染すると、2日~1週間(通常4~5日)の潜伏期間を経て発症します。
軽度の風邪症状から始まり、さまざまな症状があらわれます。
以下は一般的な症状です。
・発熱(38℃~39℃)
・咳
・鼻水
・のどの痛み
新生児や乳幼児では、喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる「ヒューヒュー」「ゼィゼィ」というような音が聴かれる場合が多いです。
RSウイルス感染症では、息を吐くときに喘鳴が聴かれるのが特徴で、この状態は気道が狭くなっていることを示しています。
通常は1週間程度で症状は軽快します。
しかし、咳がひどくなり重症化すると気管支炎や肺炎を引き起こし、呼吸困難に陥る場合があるため注意が必要です。
重症化すると、入院治療が必要になるケースも少なくありません。
【参考情報】”Respiratory syncytial virus (RSV)” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/respiratory-syncytial-virus/symptoms-causes/syc-20353098
1-2.検査
RSウイルス感染症を疑う場合、迅速検査キットを使用して検査をおこないます。
RSウイルス感染症の検査キットは、現在のところ市販されてないため、検査をするためには医療機関の受診が必要です。
検査の方法は、鼻から細い綿棒で喉をぬぐい、検体を採取します。
インフルエンザの検査方法と同様のため、インフルエンザの検査を受けたことがある方はイメージがしやすいでしょう。
検査キットの種類にもよりますが、検査結果が出るまでには15分程度かかります。ただし、RSウイルス感染症を疑う場合でも、必ず検査をするわけではありません。
RSウイルスの検査は、1歳未満の乳幼児や入院している患児、重症化リスクがある方、すでに重症化している方は、保険の適応ができます。
しかし、それ以外の方の検査費用は医療機関が負担しているケースがほとんどです。
RSウイルス感染症を疑っていても、症状や流行状況、生活環境などから、検査をせず診断するケースがあります。
検査をするかどうかは、医師の判断になります。しかし、どうしても検査をして明らかにしたいと考える方は、自費で検査をすることは可能です。
ただし、検査は綿棒を鼻に入れるため、苦痛を伴います。検査をするかどうか、本当に必要か、医師としっかり話し合って決めましょう。
【参考情報】”RSV (Respiratory Syncytial Virus)” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/rsv-respiratory-syncytial-virus
1-3.治療
RSウイルス感染症に対する特効薬はないため、対症療法で治療をおこないます。
対症療法とは、今ある症状を緩和する治療方法です。
【軽症の場合】
症状に合わせた内服や吸入など、薬物療法をおこないます。
水分をとり、消化の良い食事をして自宅で安静にしていましょう。
数日しても症状が変わらない場合や、顔色が悪い、ぐったりしているなど状態が悪化していると感じる場合には、重症化している可能性が考えられます。
早めに医療機関を受診してください。
【重症の場合】
薬物療法に加え、点滴や酸素療法で治療をおこないます。
重症化すると、入院治療が必要なケースが多いです。
2.RSウイルス感染症の予防方法
RSウイルス感染症は、「飛沫感染」と「接触感染」で感染が広がります。
そのため、飛沫や接触に対する対策が必要です。
【日常の中でできる予防方法】
以下の予防方法は、日常の中で取り組める方法です。
・流水と石鹸による手洗い
・うがい
・マスクの着用
・アルコールによる手指消毒
・おもちゃやドアノブなどの消毒
0歳や1歳の乳幼児がいる家庭では、家庭内にウイルスを持ち込まないことが大切です。
万が一、家族に風邪症状がある場合には、なるべく乳幼児へうつさないよう配慮しましょう。
【ワクチンや薬を使った予防方法】
RSウイルス感染症にかかった場合、重症化リスクが高い方には、ワクチンや薬を使った予防方法があります。
しかし、重症化リスクが高いすべての方が使えるわけではなく、決められた適応条件を満たした方のみ医師の判断で使用します。
使用されるワクチンや薬剤は以下の4つです。
(分類)RSウイルスワクチン
・アレックスビー:0歳以上の高齢者
・アブリスボ:妊婦および60歳以上の高齢者
(分類)抗RSウイルス製剤
・シナジス(一般名:パリビズマブ):新生児、乳児、幼児
・ベイフォータス(一般名:ニルセビマブ):新生児および乳児
いずれも、接種方法は筋肉注射で接種します。
適応や接種時期、適応条件などは、基礎疾患や月齢などによって異なりますので担当の医師に確認しましょう。
【参考情報】『RSウイルス感染症Q&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html
【参考情報】”Respiratory Syncytial Virus (RSV)” by National Foundation for Infectious Diseases
https://www.nfid.org/infectious-disease/rsv
3.RSウイルス感染症から喘息に?
RSウイルス感染症は、特に乳幼児や小児に多く見られる呼吸器感染症だということを解説しました。
しかし、RSウイルス感染症は治ったあとに、喘息を発症する可能性が高まることを知っていますか?
喘息とは、空気の通り道である気道が狭くなり、息苦しさや咳、呼吸困難を引き起こす慢性的な病気です。
喘息はアレルギーが関与する疾患ですが、RSウイルス感染症のあと、気道の過敏性を高め、アレルギー疾患を起こしやすい免疫状態になります。
乳幼児は気道がまだ発達途中のため、RSウイルスによる炎症が長期間続いたり、気道にダメージを与えたり、悪影響をおよぼします。
そのため、RSウイルス感染症が、喘息の発症リスクを高めると考えられています。
実際、RSウイルス感染症を経験した子どもが、のちに喘息を発症する確率は、感染しなかった子どもに比べて高いというデータもあります。
特に、生後数か月の間に重度のRSウイルス感染症を発症した場合、そのリスクが顕著に高まることがわかっています。
一方で、すべてのRSウイルス感染症の患者が必ず喘息を発症するわけではありません。
RSウイルス感染症は喘息を誘引する一因になるものの、喘息の発症には、遺伝や環境などさまざまな要因が大きく関係しています。
喘息の家族歴がある場合には、RSウイルス感染症の予防は喘息発症リスクを下げるひとつの手段となるでしょう。
RSウイルスの感染症を起こすことで、喘息のリスクが高まる可能性はありますが、すべてのケースに当てはまるわけではないことを認識しておきましょう。
【参考情報】『RSウイルス感染で喘息になるかも?』奈良県医師会
https://nara.med.or.jp/for_residents/6435/
4.おわりに
RSウイルス感染症は、子どもに流行しやすい呼吸器感染症です。
感染すると風邪症状から始まり、徐々に咳が強くあらわれます。
子どもに呼吸困難が見られたら、すぐに病院を受診しましょう。
特に乳幼児が感染すると重症化する可能性が高いです。のちに喘息発症の可能性が高くなることもわかっています。
また、乳幼児以外にも心臓や肺の基礎疾患や免疫不全、高齢者なども重症化リスクが高いため注意が必要です。
乳幼児は自分で予防することができないため、家族に風邪症状が出た場合にはうつさないよう配慮しましょう。
重症化リスクを抱えている家族と同居している方は、RSウイルスを家の中に持ち込まないように、流行時期には感染予防をおこない注意して過ごすことが大切です。
【参考文献】”RSV can be dangerous for infants and older adults” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/rsv/about/index.html