喘息と遺伝の関連性

「両親が喘息だから、子どもも喘息になるのだろうか…」と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。

遺伝するというイメージが強い喘息は、遺伝だけが原因でなく、遺伝と環境が複雑に影響して発症する病気です。そのため遺伝的な体質を受け継いでいる方もいらっしゃいますが、全ての方は必ずしも喘息になるわけではありません。

一方で、遺伝的な素因を持つ方は喘息になりやすい傾向があるのは事実です。

小児喘息においては遺伝要因は比較的強いと言われています。両親のどちらかが喘息を罹患している場合のお子さんの喘息有病率は3-5倍というデータもあります。ただし喘息は多因子で発症する疾患であり絶対ではありません。

一方、成人喘息は遺伝要因はあるものの環境、食生活環境などの要因の方が強い傾向にあるようです。

成人喘息のや70%は小児喘息を経験していない方が発症しており後天的要因が強い現れであるともいえます。ただし、大切なのは、遺伝的な体質を嘆くのではなく、ご自身に合った生活習慣を見つけることでしょう。

この記事では、喘息と遺伝の関係についてご説明いたします。

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1. 病気の遺伝と仕組み


遺伝する病気には、大きく分けて「単一遺伝子疾患」と「多因子疾患」があります。これらの違いを理解することで、喘息の遺伝的特徴がより分かりやすくなります。

ここでは、「単一遺伝子疾患」と「多因子疾患」についてご説明いたします。

1-1. 単一遺伝子疾患とは

単一遺伝子疾患は、ひとつの遺伝子の変異によって引き起こされる病気です。

この場合は、特定のひとつの遺伝子に問題があると、高い確率で疾患が発症します。これらの疾患は、特定の遺伝子の変異が直接的に病気の原因となるため、親から子へ高い確率で遺伝します。

代表的な単一遺伝子疾患には、以下のようなものがあります。

・フェニルケトン尿症
フェニルケトン尿症は、フェニルアラニンというアミノ酸(たんぱく質の材料の一種)を分解するための酵素がうまく働かない病気です。

治療をおこなわない場合、知的発達に遅れが出ることがあります。この疾患は、新生児スクリーニングで早期発見が可能です。

適切な食事療法を続けることで、健康的な生活を送ることができます。たとえば、フェニルアラニンを多く含む食品(牛乳、卵、肉など)を避けた食事療法を行います。

・筋緊張性ジストロフィー
筋肉の機能に関わる遺伝子の異常により、筋力の低下や筋肉の萎縮が進行する病気です。

症状はゆっくりと進行していき、だんだんと日常生活に支障をきたすことが多くなります。

からだを支えるためのリハビリや装具のサポートを行うほか、症状に合わせた治療を行うことが必要です。

・ハンチントン病
脳の神経細胞の変性(正常な働きを失い、形や機能が変わってしまうこと)を引き起こす遺伝子の異常により、運動障害や認知機能の低下が起こる疾患です。

多くの場合、中年以降に発症し、親から子どもに遺伝する可能性が高いことから、家族にハンチントン病の人がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けることが重要です。

【参考文献】”Single-Gene Disorders” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK132154/#:~:text=Some%20of%20the%20more%20common,degrees%20of%20severity%20and%20phenotype.

1-2. 多因子疾患とは

多因子疾患は、複数の遺伝子と環境要因が相互に作用して発症する病気です。

単一遺伝子疾患とは異なり、遺伝的要因だけでなく、生活習慣や普段の行動、環境などの外的要因も大きく影響します。そのため家族内での発症パターンも複雑で予測するのが難しいのが特徴です。

たとえば、典型的な多因子疾患のひとつが喘息です。

つまり、喘息に関連する遺伝子を親から受け継いだとしても、それだけでお子さまが必ず発症するわけではありません。環境要因や食生活、ストレス、アレルギー物質(花粉、ほこりなど)などの生活習慣も、発症に大きく影響を与えます。

多因子疾患の特徴

・複数の遺伝子が関与している
・環境要因の影響が大きい
・発症の予測が難しい
・家族内での発症パターンが複雑

多因子疾患の代表的な例としては、以下のようなものがあります。

・心血管疾患:高血圧症、冠動脈疾患
・代謝性疾患:2型糖尿病、肥満、高脂血症
・精神・神経疾患:うつ病、統合失調症、アルツハイマー病
・自己免疫疾患:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症
・がん:乳がん、大腸がん、前立腺がん
・その他:喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、口蓋裂など

これらの疾患は、複数の遺伝子と環境要因が相互に作用して発症するため、単一の遺伝子異常だけでは説明できない複雑な発症メカニズムを持っています。

【参照文献】出原 賢治(佐賀医科大学医学部分子生命科学)『アレルギー疾患の遺伝要因と環境要因の相互作用に関する研究』
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/7092

【参考文献】”Genetic Disorders” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21751-genetic-disorders

2. アレルギーと遺伝について


アレルギーは、喘息と密接に関連しています。ここでは、アレルギー反応の仕組みや、アレルギーが原因となる病気、アレルギー体質の遺伝について説明しましょう。

アレルギー反応について

そもそもアレルギー反応とは、どのような状態をいうのでしょうか。

アレルギー反応は、本来無害なはずの物質(アレルゲン)に対して、からだの免疫システムが過剰に反応することで起こります。アレルギー反応には、以下のような段階があります。

・感作:初めてアレルゲンに接触したとき、免疫システムがそれを記憶し、抗体を作る準備をします。

・即時型反応:再びアレルゲンに接触すると、免疫システムが短時間で激しく反応します。くしゃみやかゆみ、呼吸困難などがすぐに現れるのが特徴です。

・遅延型反応:一方で、アレルゲンとの接触後、数時間から数日後に反応が現れる場合もあります。この場合、症状はゆっくりと出てきますが、持続することがあります。

アレルギーが原因となる病気

前述のようなアレルギー反応は、さまざまな疾患の原因となります。以下で代表的なアレルギー性疾患をご紹介いたします。

・気管支喘息:気道の炎症により、呼吸困難や咳などの症状が現れます。アレルゲンによるアレルギー反応以外に、運動、ストレスなどもきっかけとなることがあります。

・アトピー性皮膚炎:皮膚にかゆみや赤みを伴う湿疹が現れる慢性的な皮膚疾患で、アレルギーも原因のひとつとされています。乳幼児期から発症することが多く、年齢とともに症状が変化することがあります。

・アレルギー性鼻炎(花粉症など):鼻水、くしゃみ、鼻づまりなどの症状が現れます。季節性のものと通年性のものがあり、生活の質に大きな影響を与えることがあります。

・食物アレルギー:特定の食品を摂取することで、じんましんや呼吸困難などの症状が現れます。重症の場合、アナフィラキシーショックを引き起こす危険性があります。

・蕁麻疹:皮膚に赤い隆起(じんましん)が現れ、強いかゆみを伴います。原因はさまざまで、食べ物や薬、ストレスなどが引き金となることがあります。

アレルギー体質の遺伝

アレルギー体質は、遺伝する可能性が高いといわれています。しかし、必ずしも親がアレルギー体質だからといって、お子さまも全てのアレルギーを発症するわけではありません。

たとえば、親が喘息であっても、子どもがアトピー性皮膚炎や花粉症になる可能性があります。

これは、アレルギー体質という大きな枠組みは遺伝しやすいものの、具体的にどの疾患として現れるかは、環境要因などの影響を受けるためです。

また、アレルギー体質の遺伝には以下のような特徴があります。

・両親ともにアレルギー体質の場合、お子さまがアレルギー体質を持つ確率が高くなる
・片親だけがアレルギー体質の場合、お子さまがアレルギー体質を持つ確率は中程度
・アレルギー体質の遺伝は、特定の遺伝子だけでなく、複数の遺伝子が関与している

このように、アレルギーと遺伝の関係は複雑ですが、家族の体質や疾患を知ることは、アレルギー性疾患のなりやすさを判断したり予防したりするのに役立ちます。

◆「アレルギー性の咳は市販薬を使用していいの?」>>

【参照文献】国立成育医療研究センター『アレルギーについて』
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/about_allergy.html

【参考文献】”Genetics of Allergic Diseases” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4415518/

3. 環境と遺伝について


喘息のようなアレルギー性疾患は、遺伝的な要因と生活環境や習慣といった環境要因が互いに影響し合い、発症や悪化に関わります。

たとえば遺伝的に喘息になりやすい体質を持っていても、喘息になりにくい環境が整っていれば発症を防げる場合もあります。

逆に、遺伝的なリスクが低い方でも、環境が悪ければ喘息を発症することがあります。

ここでは、環境と遺伝の相互作用や、喘息の予防法についてご説明しましょう。

環境と遺伝の相互作用

喘息は、体質(遺伝的な素因)だけでなく、生活環境や周囲の状況によっても発症したり、症状が悪化することがあります。ここでは、喘息に影響を与える代表的な環境要因をご紹介いたします。

・大気汚染:工場や自動車からの排気ガスなどは呼吸に負担をかけます。とくに都市部に住んでいる方では注意が必要です。空気の質が悪い日は、外出を控える方がいいでしょう。

・受動喫煙:周囲の方が吸ったたばこの煙を吸い込むと、気管が刺激されて喘息が悪化しやすくなります。とくにお子さまはたばこの煙の影響を受けやすいため、家庭では禁煙や分煙が不可欠です。

・ハウスダスト(ダニ、カビなど):室内にたまったほこりやダニ、カビは、気管を刺激して喘息の症状を引き起こす原因になります。室内の湿度と温度を適切に管理し、こまめに掃除することで発症リスクを減らせます。とくに布団やカーペットも清潔に保つことが大切です。

・ペットの毛:動物アレルギーがある場合、毛のあるペット(犬や猫・うさぎなど)との接触を減らす必要があります。ペットを飼っている家庭では、清掃の徹底が症状の管理に役立ちます。

・ウイルス感染:乳幼児期にかかる呼吸器系のウイルス感染は、将来喘息を発症するリスクを高めることがあります。手洗いや予防接種などの感染予防や、感染時の適切な治療が重要です。

アレルゲンを避けるための具体的な方法

ここまでみてきたようにアレルギー体質がある、またはその可能性がある場合は、アレルゲンをできるだけ避けることが大切です。これにより、喘息やそのほかのアレルギー性疾患の発症や悪化を防ぐことが期待できます。

ここでは、毎日の生活の中で取り組める、具体的な対策をご紹介いたします。

1. こまめな掃除を心がけましょう

ダニやハウスダストを減らすために、週に1〜2回は掃除機や拭き掃除を行うのが理想です。とくに、布団やベッド、ソファなど長時間過ごす場所は重点的に掃除しましょう。

掃除機をかけるときは、できればHEPAフィルター付きのものを使用すると効果的です。HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air filter)は、微細な粒子を高い精度で捕える空気清浄用のフィルターです。

カーテンやカーペットもアレルゲンのたまり場なので、定期的に洗濯するとよいでしょう。

2. 部屋の換気を忘れずに

カビの発生を防ぐために、日常的な換気を心がけましょう。とくに、湿気がこもりやすい浴室やキッチンは、こまめに窓を開けたり換気扇を使ったりなどして空気の入れ替えを行ってください。

換気扇の使用も効果的ですが、定期的な清掃も忘れずに行いましょう。
雨の日や湿気が多い時期は除湿機を使うのもおすすめです。

3. 寝具の管理はしっかりと

布団やシーツにはダニが潜みやすいため、定期的に日光に当てて乾燥させることが大切です。天気が悪い日が続く場合は、布団乾燥機の使用も効果的です。

防ダニカバーを使用することで、アレルゲンの影響を減らすことができます。
シーツやカバーも週に1度は洗濯し、できれば高温で乾かすとダニの繁殖を抑えられます。

4. ペットの管理に注意を

動物アレルギーがある場合は、できるだけ室内でペットを飼うことは避けましょう。しかし、すでにペットを飼っている場合は、ペットとの接触後に手洗いをするなどの対策が必要です。

ブラッシングは屋外で行うようにし、室内に毛がたまらないようにしましょう。
ペットの寝床や使うタオルなどもこまめに洗濯してください。

5. 食事に工夫を取り入れる

食物アレルギーがある場合は、該当する食品を避けるだけでなく、安全な代替食品を取り入れましょう。

アレルギー食品を誤って摂取しないように、食品の成分表示を必ず確認しましょう。
お子様の場合には学校、また、外食時などに、事前にアレルギーについて伝えておく必要があります。

6. 花粉の季節の対策を忘れずに

花粉症がある方は、花粉の多い季節に次の対策を行いましょう。

外出時はマスクや眼鏡を着用し、できるだけ花粉を吸い込まないように心がけましょう。
帰宅後は、玄関で衣服を払い、顔や手を洗うことを習慣にするのがおすすめです。

室内に花粉を持ち込まないために、換気のタイミングを工夫し、花粉の少ない時間帯に行うとよいでしょう。

◆喘息でペットを飼育するときの注意点はこちら>>

【参考文献】”Who Gets Allergies?” by American College of Allergy Asthma and Immunology
https://acaai.org/allergies/allergies-101/who-gets-allergies/

4. おわりに

喘息は、遺伝的な要因と、生活環境や日常の習慣といった環境要因が複雑に絡み合って発症する病気です。

親から喘息の体質を受け継いだからといって、必ずしもお子さまが喘息になるとは限りません。遺伝的な素因があっても、生活環境や体調管理を整えることで発症を予防することができます。

また、たとえ喘息を発症した場合でも、早い段階で医師の診断を受け、適切な治療を始めることで、症状をうまくコントロールすることが可能です。治療をしっかり続けることで、健康な方と同じように毎日を過ごすことができるでしょう。

医療機関では、診察の際に家族や親族にアレルギーの病歴があるかどうかを問診で確認します。これは、遺伝的なリスクを評価するための重要な情報になるためです。

家族に喘息やアトピー、花粉症などのアレルギー性疾患があるかどうか事前に調べておくと、医師がより的確に診断し、適切な治療計画を立てやすくなるでしょう。

ご自身やお子さまのために、たとえば、「祖父母が喘息だった」「親が花粉症だった」などの情報を整理しておくと治療の参考になります。

季節の変わり目や疲れがたまったときは、からだをしっかり休めることが何よりも大切です。とくに、喘息やアレルギーの症状がある場合は、早めの対策が症状の悪化を防ぐポイントになります。

もし、体調がすぐれないと感じたり、咳や息苦しさなどが気になる場合は、すみやかに呼吸器内科をはじめとする医療機関を受診しましょう。呼吸器内科では、一人ひとりの状態に合わせた治療をおこなうことが可能です。

◆呼吸器内科とは>>