熱はないのに咳が止まらない…考えられる病気とは?

咳はからだを守るための大切な防御反応ですが、長く続くと日常生活に支障をきたし、「いつ治るのだろう」と不安に感じることも多いでしょう。

とくに熱がないにもかかわらず咳が長い期間止まらない場合には、何らかの病気が潜んでいる可能性があります。

この記事では、熱がなくても咳が続く場合に考えられる主な疾患についてご説明します。

咳が2週間以上続く場合は、早期発見と早期治療がとても重要です。症状が改善しない場合には、早めに呼吸器内科をはじめとする専門医の受診を検討しましょう。

1. 咳が出る病気


教科書的には慢性咳嗽は8週以上続くとされていますが、臨床の現場では3-4週以上続く「遷延咳嗽」の状態から気道感染(かぜ症候群、気管支炎など)だけでなく他の病態を考えていきます。
主な原因としては、気管支喘息(咳喘息含む)、逆流性食道炎、アレルギー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、COPDの他に画像以上と伴う病態(肺結核、肺がん、間質性肺炎)を鑑別していく必要があります。長引く咳に対して漫然と対症療法するのは危険ですので上記を念頭においた精査をすすめるために専門施設に受診を検討してください。
咳が主な症状となる病気はいくつかありますが、ここでは代表的な4つの疾患についてご説明しましょう。

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1-1. 慢性気管支炎


慢性気管支炎は、長期間にわたって気管支に炎症が続く病気です。代表的な症状は咳と痰が出ることで、その状態が3ヶ月以上続きます。

とくに喫煙者の方や、長期間にわたって空気汚染にさらされている方に多く見られる疾患です。

慢性気管支炎の特徴として、以下のようなものが挙げられます。

⚫︎長引く咳と痰:毎日のように咳と痰が出る状態が続きます。とくに、朝起きた時が顕著です。この症状は「モーニングクリアランス」と呼ばれ、夜間に蓄積された痰を排出しようとする反応です。

⚫︎季節性の悪化:寒い季節になると症状が悪化しやすく、風邪を引いた後にも悪化することがあります。これは寒冷刺激や感染によって気道の炎症が悪化するためです。

⚫︎喫煙との関連:喫煙者の方や元喫煙者の方に多く見られ、タバコの煙が直接的な原因となることが多いです。タバコの煙に含まれる有害物質が気道を刺激し、慢性的な炎症を引き起こします。

⚫︎呼吸困難:進行すると息切れや呼吸困難を感じるようになります。とくに運動時や階段を上る際などに顕著です。これは気道の炎症や分泌物の増加によって空気の流れが妨げられるためです。

⚫︎慢性的な疲労感:咳や痰によって睡眠の質が低下し、慢性的な疲労感を感じることがあります。また、呼吸が十分にできないことで体内の酸素供給が不十分になり、疲れやすくなることもあります。

⚫︎感染のリスク増加:慢性的な炎症により気道の防御機能が低下し、細菌やウイルスに感染しやすくなります。そのため、風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなる傾向があります。

適切な治療を行わない場合、より重篤な呼吸器疾患(例えばCOPD)に進行する可能性があります。

喫煙者の方は、まずは禁煙することが最も重要です。

そのうえで、気管支を広げる薬(気管支拡張薬)や痰を出しやすくする薬(去痰薬)を使用します。また、十分な水分補給も、症状の改善に役立つとされています。

重症の場合には、吸入ステロイド薬や抗生物質が必要になることもあります。

また、慢性気管支炎の患者さんにとって、日常生活での自己管理も重要です。

たとえば、汚れた空気の場所を避ける、適度な湿度を保つ、バランスの取れた食事を心がけるなどの工夫が有効です。また、定期的な運動(特に呼吸筋を鍛える運動)も勧められます。

◆「2週間以上続く咳」について詳しく>>

◆咳止め薬「メジコン」の特徴>>

【参考文献】”Chronic Bronchitis” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/chronicbronchitis.html

1-2. COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、気道が狭くなり、呼吸が困難になる進行性の疾患です。原因として喫煙との関連が強いことで知られています。

慢性的な炎症によって気道が狭まり、空気の流れが妨げられるため、呼吸困難や咳などの症状が現れます。

COPDの原因や症状、特徴として、以下のようなものがあります。

⚫︎主な原因:長期の喫煙が最大の危険因子です。ほかにも、大気汚染や職業上の粉塵(ふんじん)吸入なども関係します。特定の職業(建設業や鉱業など)ではリスクが高まります。

喫煙者の方の約20%がCOPDを発症するとされており、喫煙量や喫煙期間が長いほどリスクは高くなります。

⚫︎慢性的な咳:とくに朝に多く痰を伴うことが多いです。咳は持続的であり、多くの場合は数ヶ月以上続きます。初期段階では「ただの喫煙者の咳」と誤解されることもありますが、COPDの重要な初期症状のひとつです。

⚫︎息切れ:初期は運動時のみですが、進行すると安静時にも感じるようになります。日常生活での活動量にも影響を及ぼします。

⚫︎喘鳴:胸から「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえることがあります。これは気道の狭窄(きょうさく)によるものです。とくに呼気時(息を吐く時)に顕著になります。

⚫︎進行性:時間とともに症状が悪化していきます。急激な悪化(急性増悪)が起こることもあるので注意が必要です。急性増悪は、感染症や大気汚染などがきっかけとなることが多く、入院が必要になることもあります。

⚫︎合併症:COPDは心疾患や肺炎などほかの病気との合併症を引き起こすリスクも高まります。そのため、定期的な検診と適切な管理が必要です。

⚫︎体重減少:進行したCOPDでは、呼吸に多くのエネルギーを使うため、体重が減少することがあります。

COPDは、患者さんが気づかないうちに病気が進行していることがあります。症状がある場合、「年のせいだろう」と軽視せず、早めに医療機関への受診を検討しましょう。

診断には、問診や身体診察に加えて、肺機能検査(スパイロメトリー)が重要です。これにより、気流制限の程度を測定し、COPDの重症度を判定します。また、胸部X線検査やCT検査も行われることがあります。

治療の基本は禁煙です。喫煙を続けると症状の進行が加速する可能性があります。

薬物療法としては、気管支拡張薬の吸入が中心となります。症状や重症度に応じて、長時間作用性β2刺激薬(LABA)や長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、吸入ステロイド薬などが使用されます。

また、呼吸リハビリテーションも重要な治療法のひとつです。これには、呼吸法の指導、運動療法、栄養指導などがあります。

適切な呼吸法を学ぶことで、呼吸困難を軽減し、日常生活の質を向上させることができます。

【参考文献】”COPD” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679

1-3. 喘息


喘息は、気道の慢性的な炎症による呼吸器の病気で、子供から大人まで幅広い年齢層で見られます。

喘息患者さんは気道が過敏になっており、さまざまな刺激(アレルゲンや運動など)に反応し、さらに軌道が狭くなることで症状が現れます。

喘息の原因や症状、特徴として、以下のようなものがあります。

⚫︎原因:アレルギー反応(花粉やハウスダスト)、運動(とくに寒い環境)、ストレス、気温の変化などさまざまな要因があります。また、遺伝的要因が関与している場合があります。

多くはアレルギー性であり、特定のアレルゲンに反応して症状が現れます。

⚫︎咳:夜間や早朝に悪化する傾向があります。咳は乾いた咳であることが多いですが、一部では痰を伴うこともあります。「咳喘息」と呼ばれる、咳のみが主症状の喘息もあります。

⚫︎喘鳴:胸から「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がします。これは狭窄した気道から空気が通過する際に生じる音です。とくに息を吐く時に顕著になります。

⚫︎息切れ:夜間や運動時に感じやすくなり、日常生活への影響も大きいです。急激に発作的に起こることもあります。重症の場合、会話も困難になるほどの息切れを経験することがあります。

⚫︎胸の締め付け感:呼吸が苦しく感じ、胸部で圧迫感を感じることがあります。患者さんによっては「胸が重い」「胸が締め付けられる」と表現する場合もあります。

⚫︎発作性:喘息発作として知られる突然現れる症状と、症状が改善している周期があります。発作は数分で収まることもあれば、数時間続くこともあります。

⚫︎アレルギー症状の合併:多くの喘息患者さんは、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などのほかのアレルギー疾患も併発していることがあります。

⚫︎季節性の変化:花粉症を伴う喘息の場合、原因となる花粉が飛散している季節に症状が悪化します。また、寒冷刺激で悪化する場合は、冬季に症状が強くなります。

⚫︎運動誘発性喘息:運動後に喘息症状が現れることがあります。寒くて乾燥した環境での運動や、激しい運動後に起こりやすいです。

喘息の診断には、問診や身体診察に加えて、肺機能検査(スパイロメトリー)が重要です。

また、気道可逆性試験(気管支拡張薬の吸入前後で肺機能を比較する)や気道過敏性試験なども行われることがあります。

治療の基本は、長期管理薬(コントローラー)と発作治療薬(リリーバー)の適切な使用です。

長期管理薬は吸入ステロイド薬が中心となり、症状に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)やロイコトリエン受容体拮抗薬などが追加されます。発作時には短時間作用性β2刺激薬の吸入が用いられます。

アレルギー性喘息の場合は、原因となるアレルゲンの回避も重要です。たとえば、ハウスダストアレルギーの場合は、こまめな掃除や寝具の管理が必要になります。

喘息の症状の安定のためには、自己管理も重要です。ピークフローメーターを用いた自己モニタリングや、症状日誌の記録などを用いましょう。

これにより、症状の変化を早期に把握し、適切な対応をとることができます。

また、喘息発作時の対策プランを決め、症状の程度に応じた対処法を事前に決めておくことも有効です。

喘息は良くなったり悪くなったりを繰り返す波のような症状であるため、「もう大丈夫だろう」と治療を中断してしまう方もいます。

しかし、症状がないときでも気道の炎症が続いていることが多いです。

そのため、症状が落ち着いている時期でも、治療をしっかり続けることが大切です。きちんと治療を続けることで発作を防ぎ、長期的な視点からも肺の機能が悪くなるのを防げます。

また、喘息患者さんの生活の質を良くするためには、適度な運動も重要です。

ただし、運動誘発性喘息がある場合は、運動前に適切な予防措置(例:短時間作用性β2刺激薬の吸入)を行う必要があります。

水泳やウォーキングなど、比較的喘息を誘発しにくい運動から始めるのがよいでしょう。

喘息の管理には、患者さん自身の理解と積極的な参加が不可欠です。医師や看護師など医療従事者と協力しながら、ご自分の症状をよく理解し、適切な対処法を身につけることが大切です。

◆喘息のタイプについて詳しく>>

◆喘息のゴールについて詳しく>>

【参照文献】環境再生保全機構『 ぜん息を知る』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/index.html

【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653

1-4. 肺がん

肺がんは肺内で異常細胞が増殖し形成される悪性腫瘍であり、日本でも非常に多い癌種として知られています。

初期症状は乏しいため、多くの場合進行してから発見されることも少なくありません。原因として最も一般的なのは喫煙ですが、それ以外にさまざまな要因があります。

肺がんの原因や症状、特徴として以下のようなものがあります。

⚫︎主な原因:喫煙(受動喫煙も含む)が最大の危険因子ですが、大気汚染や職業上曝露される発癌物質(アスベストなど)も関与し、また、遺伝的要因も指摘されています。

喫煙者の方は非喫煙者の方に比べてリスクが約20倍も高くなるとされます。

⚫︎持続する咳:3週間以上続く咳は要注意です。咳は通常とは異なる変化(声質や頻度)が伴うことがあります。

⚫︎血痰:赤みを帯びた痰(血痰)が出る場合があります。腫瘍によって血管が侵食されている可能性があるためです。

⚫︎息切れ:徐々に進行する息切れを感じることがあります。初期には軽度でも進行すると日常生活な活動(例:階段の上り下り)にも影響がでます。

⚫︎胸痛:腫瘍が胸膜近くまで成長すると痛みを感じます。痛みは鈍痛であったり鋭痛であったりさまざまです。とくに、深呼吸や咳をした時に痛みが増します。

⚫︎全身症状:体重減少や倦怠感、食欲不振など全身的な影響も現れることがあります。理由のない急激な体重減少(例:6ヶ月で5%以上の体重減少)は要注意です。

⚫︎繰り返す肺炎:同じ部位に繰り返し肺炎が発症する場合、原因が肺がんである可能性があります。腫瘍が気管支を閉塞することで、その先の肺組織に炎症が起こりやすくなるためです。

⚫︎声の変化:肺の上部(肺尖部)にできたがんが、声帯の動きをコントロールする神経(反回神経)に影響を与えると、声がかすれたり、音程が変わったりすることがあります。

⚫︎顔や首、上半身の腫れ:上大静脈症候群と呼ばれる状態で、腫瘍が上大静脈を圧迫することで起こります。顔や首、上半身が腫れたり、青みがかったりする症状が現れます。

肺がんの診断には、胸部X線検査やCT検査、PET検査などの画像診断が重要です。また、確定診断のために、気管支鏡検査や針生検などで組織を採取し、病理検査を行います。

肺がんの治療は、がんの種類(小細胞肺がん、非小細胞肺がん)、病期(ステージ)、患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。主な治療法には以下のようなものがあります。

⚫︎手術療法:早期の非小細胞肺がんでは、手術による腫瘍の完全切除が最も効果的な治療法です。

⚫︎放射線療法:手術が困難な場合や、手術後の補助療法として用いられます。また、症状緩和目的でも使用されます。

⚫︎化学療法:抗がん剤を用いて全身的にがん細胞を攻撃します。小細胞肺がんではとくに重要な治療法です。

⚫︎分子標的療法:特定の遺伝子変異を持つ肺がんに対して、その変異を標的とした薬剤を用いる治療法です。

⚫︎免疫療法:患者さん自身の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃する治療法です。

肺がんの予防には、禁煙が最も重要です。また、バランスの取れた食事や適度な運動、定期的な健康診断の受診も大切です。とくに、喫煙歴のある方や肺がんの家族歴がある方は、定期的な胸部検査を検討しましょう。

◆「肺がん」について詳しく>>

【参照文献】 国立研究開発法人国立がん研究センター『肺がん』
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html

【参照文献】環境再生保全機構『長引くせきには必ず原因があります!』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/42/feature/feature01.html

【参考文献】”Lung Cancer” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/4375-lung-cancer

2. おわりに

熱はないのに咳が止まらない場合について考えると、さまざまな原因や疾患の可能性が考えられます。

ここでご紹介した病気以外にも、逆流性食道炎や薬の副作用などが原因であることもあるため、ご自分で判断せず専門医への受診を検討しましょう。

また、ご自身だけではなく、お子さまや高齢者の方の場合には、より一層注意深く観察し、早期に受診することが大切です。

咳だけでなくほかにも気になる症状があれば、早めに呼吸器内科を受診し、専門医の診断を受けましょう。

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◆「子供が呼吸器内科を受診する目安」は?>>