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喘息の治療で使われる「吸入薬」について

吸入薬は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の治療において、非常に画期的な薬です。

しかし、「毎日継続して使用するのが大変。発作が起きた時の薬だけでは不十分?」「ステロイドと聞くと副作用が心配…」などお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この記事では、吸入薬を使う目的や種類、副作用、効果的な使い方などについて詳しく説明します。

1.吸入薬を使う目的


喘息患者さんの気道は、症状がない時でも慢性的な炎症が起きている状態です。
炎症によって気道が狭くなるため、咳や息苦しさ、「ヒューヒュー、ゼーゼー」といった喘鳴(ぜんめい)などの症状が現れます。

さらに、アレルゲンや感染症、冷たい空気などの刺激が加わることで、過敏になった気道が反応して発作を起こすことがあります。

発作が起こると、気道がさらに狭まり、激しい咳や呼吸困難感が生じます。
そのため、喘息の治療では発作を防ぎ、気道の炎症を抑えることが重要です。

◆『喘息とはどんな病気?原因と症状を解説します』>>

喘息は完治が難しく、長期的に付き合っていかなければいけない病気です。

しかし、定期的な通院や治療、服薬、日常生活管理を行っていれば、発作を抑えて健康な人と同じような生活を送ることができます。

◆『喘息の治療、ゴールは?』>>

喘息の吸入薬を使う目的は、大きく2つあります。

1つ目は、発作を未然に防ぐことです。気道の炎症を抑える吸入ステロイドを毎日継続して使用することで、発作が起こりにくい状態を維持することができます。

2つ目は、発作が起きたときに使用し、気道を広げて呼吸を楽にすることです。

吸入薬の種類について、詳しくは2章で説明します。

〈服薬継続の重要性〉

「発作が起きたときに呼吸を楽にする薬があるなら、発作が起きたときだけ服薬すればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、吸入ステロイドを毎日使用して、気道の炎症を抑えておくことがとても重要なのです。

吸入ステロイドの使用を怠り、発作が起きたときにだけ薬を使用していると、「気道のリモデリング」を起こすことがあります。
気道のリモデリングとは、炎症を繰り返すことで気管支壁が線維化(厚く・硬く変化)し、気道が狭くなる現象です。
線維化した気道は元に戻らないため、喘息の難治化に繋がります。

【参考情報】日本呼吸器学会雑誌第41巻第9号『気道リモデリングの病態の理解とその治療への応用』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/041090611j.pdf

また、「ぜんそく死」を防ぐためにも、炎症を抑える吸入ステロイドが欠かせません。
ぜんそく死は重篤な喘息発作による窒息死で、日常の喘息管理が不十分だったことも大きな要因となっています。

【参考情報】厚生労働省『喘息死ゼロ作戦の実行に関する指針』
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jititai05.pdf

喘息の治療は長期にわたるため、毎日の服薬が面倒だと感じてしまうかもしれません。
喘息の症状が落ち着いていると思っていても、自己判断で断薬してしまうのはとても危険です。
発作治療薬に頼るのではなく、毎日の服薬継続や、発作の原因となるようなものを避けるなど、日頃から気道のコンディションを良好に保つための自己管理をしましょう。

◆『喘息発作を起こさないための5つの習慣』>>

〈喘息の吸入薬と一般的な咳止め薬の違い〉
吸入薬を使用すると咳が落ち着くことがありますが、吸入薬は一般的な「咳止め薬」とは異なります。

一般的な咳止め薬(鎮咳薬)は、咳の神経反射を抑える作用があります。
一方、喘息の吸入薬は気道の炎症を抑えたり、気道を広げたりすることで咳が出にくい状態を作ります。

そのため、吸入薬を使って咳が落ち着くと感じることはあっても、それは咳を抑え込んでいるのではなく、気道が正常な状態に近づいた結果であると考えられます。

また、風邪などで激しい咳や痰が出る場合、ネブライザーという機械を使って吸入治療を行うことがあります。
ネブライザーは、薬剤を霧状にして吸入しやすくする機械で、痰を出しやすくしたり、一時的に気道を広げたりする目的で使用されます。
これは一時的な治療であり、喘息の吸入薬とは異なります。

【参考情報】”Inhalers” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/8694-inhalers

2.吸入薬の種類


喘息の吸入薬には大きく分けて「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」があります。

2-1.長期管理薬(コントローラー)

長期管理薬には大きく分けて「吸入ステロイド薬」と「気管支拡張薬」の2種類があります。

〈吸入ステロイド薬〉
吸入ステロイド薬は、気道の炎症を抑え、発作を起こりにくくするための薬です。
1章でも説明した通り、症状が落ち着いていても使用を継続する必要があります。
吸入ステロイド薬の具体的な商品名には次のようなものがあります。
・キュバール
・フルタイド
・バルミコート
・オルベスコ
・アズマネックス

【参考情報】日本呼吸器学会誌第3巻第2号『治療の進歩 1―吸入ステロイド薬―』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/003020162j.pdf

◆「フルタイド」について詳しく>>

〈気管支拡張薬〉
気管支拡張薬は、気管支を広げて呼吸を楽にする薬です。基本的には吸入ステロイド薬と組み合わせて使用します。
気管支拡張薬には、長時間作用性β₂刺激薬(ベータツーしげきやく)やテオフィリン徐放性剤などがあります。
※除法性剤(じょほうせいざい)…有効成分が徐々に溶け出して長時間効果を発揮するように工夫された製剤

長時間作用性β₂刺激薬は、交感神経を刺激することで気管支を広げる薬です。
吸入薬以外にも貼り薬があり、具体的な商品名には次のようなものがあります。
・セレベント(吸入)
・ホクナリン(貼付)

◆「ホクナリンテープ」について詳しく>>

テオフィリン徐放性剤はゆっくり溶けるため作用時間が長く、気管支を広げる働きがあります。
全て経口薬で、具体的な商品名には次のようなものがあります。
・テオドール
・テオロング
・スロービッド
・ユニコン
・ユニフィル
・モノフィリン

【参考情報】環境再生保全機構『治療 ぜん息の薬』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/medicine.html

〈その他〉
吸入ステロイド薬と長時間作用性β₂刺激薬が1剤にまとまった薬もあります。
複数の薬を毎日継続するのは大変ですが、「気管支の炎症を抑える」効果と「気管支を広げる」効果が同時に得られるため、負担が軽減され続けやすいのが特徴です。
具体的な商品名には次のようなものがあります。
・アドエア
・シムビコート
・フルティフォーム
・レルベア

【参考情報】日本内科学会雑誌第99巻第7号『吸入ステロイド薬長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/7/99_1536/_pdf

◆「アドエア」について詳しく>>

◆「シムビコート」について詳しく>>

◆「レルベア」について詳しく>>

また、長期管理薬として、喘息発作を起こりにくくする薬を併用する場合もあります。
・ロイコトリエン受容体拮抗薬:ロイコトリエン(気管支を収縮する作用に関わる化学伝達物質)の働きをブロックする。
・化学伝達物質遊離抑制薬:肥満細胞から、気管支の収縮を引き起こす化学伝達物質が放出されるのを抑える。
・Th2サイトカイン阻害薬:サイトカイン(アレルギー炎症を引き起こす物質)の産生を抑える。
・ヒスタミンH1拮抗薬:ヒスタミン(アレルギー炎症を引き起こす物質)の働きを抑える。
・トロンボキサンA₂合成阻害薬・受容体拮抗薬:肥満細胞から、トロンボキサン(アレルギー反応や気道過敏性に関わる物質)の産生・放出を抑える。

【参考情報】環境再生保全機構『ぜん息・COPDの主な治療薬』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/medicine/pdf/asthma_medicine_seijin.pdf

2-2.発作治療薬(リリーバー)

発作が起きてしまった時、すぐに気管支を広げる働きがあるのが「発作治療薬」です。
発作治療薬には短時間作用性β₂刺激薬とテオフィリン薬があります。

〈短時間作用性β₂刺激薬〉
短時間作用性β₂刺激薬は、交感神経を刺激して気管支を広げる作用があります。
長期管理薬として使われる長時間作用性β₂刺激薬に比べて、効果が出るのが速いものの、作用時間は比較的短く数時間程度です。
具体的な商品名には次のようなものがあります。
・ベネトリン(吸入/経口)
・サルタノール(吸入)
・アイロミール(吸入)
・メプチン(吸入/経口)
・ブリカニール(経口)
・ホクナリン(経口)
・ベロテック(経口)
・スピロペント(経口)

◆「メプチン」について詳しく>>

〈テオフィリン薬〉
テオフィリン薬は、気管支の筋肉の緊張を取ることで気管支を広げ、呼吸を楽にする働きがあります。
全て経口薬で、具体的な商品名には次のようなものがあります。
・ネオフィリン
・アストフィリン

発作治療薬にだけ頼っていると、気道の炎症が抑えられず発作が起こりやすい状態になってしまいます。
自己判断で断薬・減薬せず、医師の指示通りに毎日継続して服薬しましょう。

【参考情報】”Asthma medications: Know your options” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/asthma-medications/art-20045557

3.吸入ステロイド薬の副作用


吸入ステロイド薬は喘息治療の中心的な役割を果たす薬ですが、強い薬というイメージもあり不安を持つ方も多いのではないでしょうか。ここでは、吸入ステロイド薬に関する副作用の特徴や、使用時に気をつけるポイントについて、分かりやすく解説します。安全に治療を続けるための参考にしてください。

3-1.長期間使用しても大丈夫?

「ステロイド」と聞くと「副作用が強い薬」というイメージがある方もいるのではないでしょうか。
一概にステロイドと言っても、経口ステロイドと吸入ステロイドがあり、副作用は大きく異なります。

飲み薬として服用する経口ステロイドは、消化管から吸収されて血流に乗り、全身に作用します。そのため、炎症を抑える効果が強い反面、長期間の使用によって副作用が出やすいというデメリットがあります。

一方、吸入ステロイドは気道に直接的に作用するため全身への影響が少なく、経口ステロイドに比べて副作用が少ない薬です。

吸入ステロイドの副作用には、声のかすれや口腔カンジダ症があります。
しかし、これらの副作用は、吸入後にうがいを行うことで予防することができます。

吸入後のうがいのポイントとしては次のようなものがあります。
・吸入後すぐにうがいを行う
・口を濯ぐような含みうがいと、ガラガラと上を向いて行ううがいを両方行う
・2回以上行う

このように適切に使用することで、長期間使用しても副作用がほとんどなく、安全に使用することができます。

【参考情報】『吸入ステロイド剤使用後の含嗽に関する実態調査とその対策』横山晴子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/125/5/125_5_455/_pdf

また、吸入ステロイド薬と長時間作用性β₂刺激薬が1剤にまとまった薬の場合は、声がれなどの副作用に加えて心悸亢進(動悸)が起こる場合もあります。
頻繁に動悸がして生活に支障をきたす場合は、医師に相談しましょう。

3-2.子どもが使用しても大丈夫?

吸入ステロイド薬は適切に使用すれば安全性が高いため、小児喘息の治療にも使用されます。

吸入ステロイドの長期使用によって身長の伸びが1~2cm抑制されたという研究結果もありますが、気道の炎症を鎮めて良好なコントロールを保つことが大切です。

一方で、喘息発作を繰り返すことによる成長障害の方が問題となることも多いです。

また、子どもは大人に比べて、吸入薬を上手く吸い込めない場合があります。
上手く吸入できない場合は、吸入補助具(スペーサー)を使うことで、より効果的に薬を吸い込むことができます。

【参考情報】Inhaled corticosteroids in children with persistent asthma: effects on growth
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25030198/

医師は薬によるメリットと副作用の両方を鑑みて判断していますので、指示通りに服薬を続けていれば問題はありません。
もし不安な点がある場合には主治医に相談しましょう。

◆『小児喘息とは』>>

3-3.妊娠・授乳中に使用しても大丈夫?

妊娠中や授乳中であっても、吸入ステロイドは安全に使用することができます。
吸入ステロイドは気道に局所的に作用するため、血中への移行が少なく、赤ちゃんへの影響もほとんどありません。

妊娠中に喘息が悪化してしまうと、お腹の中の赤ちゃんも低酸素状態になってしまうため大変危険です。
妊娠中や授乳中は薬の使用に慎重になってしまいがちですが、喘息の悪化によるリスクの方が大きいため、自己判断で中止せず医師と相談しながら適切に服薬を続けましょう。

妊娠が分かったら喘息の治療を担当している主治医に伝え、妊婦検診の担当医にも喘息の持病があることを伝えておくと安心です。

◆「喘息患者の女性が気になる妊娠中の不安や疑問」>>

【参考情報】環境再生保全機構『女性の喘息患者さんへ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/women.html

【参考情報】”Adverse effects of inhaled corticosteroids” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7847437/

4.吸入器の種類


吸入器にはドライパウダー吸入器(DPI)や定量噴霧式吸入器(MDI)などがあり、それぞれに特徴や使い方が異なります。

4-1.ドライパウダー吸入器(DPI)

DPI は、粉末状の薬剤を自力で吸い込むタイプの吸入器です。
吸入のタイミングを気にする必要がなく、ボタン操作が不要で使いやすいものの、強く吸い込む力が必要なため小児や高齢者には難しい場合があります。

4-2.定量噴霧式吸入器(MDI)

MDIは、薬剤をエアゾール(霧状)にして噴霧し、吸い込むタイプの吸入器です。
ボタンを押すと一定量の薬が噴霧されるため、吸い込む力が弱い小児や高齢者でも比較的簡単に使用することができます。
しかし、吸入のタイミングと噴霧のタイミングを合わせる必要があるため、慣れが必要です。

【参考情報】”Asthma inhalers: Which one’s right for you?” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/asthma-inhalers/art-20046382

5.吸入薬の使い方


吸入薬を使う際は次の点に注意しましょう。
・吸入前にしっかりと息を吐く。
・吸入器の指示通りに吸い込む(DPIは強く吸い込む、MDIはタイミングを合わせて吸う)。
・吸入後、約10秒間息を止める。
・吸入後は必ず「うがい」をして、口腔カンジダ症や喉の刺激を防ぐ。

【参考情報】”How to use an inhaler – no spacer” by Mount Sinai
https://www.mountsinai.org/health-library/selfcare-instructions/how-to-use-an-inhaler-no-spacer

6.おわりに

吸入薬は、「直接患部に作用し、効果が高い」「副作用が少なく安全」「小型で使いやすく継続治療に適している」という点で、呼吸器疾患の治療において画期的な存在です。

特に、喘息の治療には吸入薬が欠かせません。

発作治療薬に頼るのではなく、吸入ステロイドをはじめとした長期管理薬を継続して使用し、気道の炎症を抑えることが大切です。

吸入薬を処方された際は、医療機関や薬局で吸入指導を受けて適切に使用しましょう。