加湿器が咳の原因になることも。加湿器肺炎について

乾燥対策として加湿器を使われている方も多いと思いますが、実は、加湿器が原因で咳が止まらなくなることがあります。
これは「加湿器肺炎」と呼ばれる病気で、加湿器内のカビや細菌を吸い込むことが原因です。
症状は風邪に似ていますが、通常の風邪の治療では改善しません。
この記事では、加湿器肺炎の原因や症状、診断方法、治療法、予防法についてご説明いたします。
1. 加湿器肺炎とはどんな病気?
加湿器肺炎は、医学的には「過敏性肺炎」の一種として分類される病気です。
加湿器内で繁殖したカビや細菌、それらの毒素を含む水蒸気を繰り返し吸入することで発症します。
加湿器内部は湿度が高く微生物が繁殖しやすい環境です。
水を交換せずに長期間使用したり、清掃が不十分だったりすると、特にカビや細菌が増殖しやすくなります。
これらの微生物や死骸、毒素などが加湿器の水蒸気と一緒に空気中に放出され、それを吸い込むことで肺にアレルギー反応が起こるのが原因です。
加湿器肺炎の特徴として、次のようなことが挙げられます。
・症状が家にいるときに悪化し、外出すると改善する傾向がある
・通常の風邪薬や抗生物質が効きにくい
・加湿器の使用を中止すると症状が改善する
加湿器肺炎は、アレルギー反応の一種であるIII型(免疫複合体型)およびIV型(遅延型)アレルギー反応によって引き起こされると考えられていますが、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。
【参考文献】”A case of humidifier lung; the key diagnosis is detailed medical history taking” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10397564/
2. 加湿器肺炎の症状とは?
加湿器肺炎の症状は、一般的な風邪や気管支炎と似ているため見逃されやすい病気です。
加湿器肺炎は過敏性肺炎の一種で、加湿器内で増殖したカビなどのアレルゲンによって引き起こされる遅延型アレルギー反応です。
肺の局所で起こるアレルギー反応なので、即時型アレルギー反応である花粉症等とは症状が異なるため、一般の方はアレルギー症状と気づきにくいことが特徴です。
症状も特異的なものはなく細かな問診で疑い検査をすすめることが重要です。
画像所見が最も特徴的ですがレントゲンではわかりにくいこともあり、CTを積極的に検討することも重要となってきます。
主な症状には以下のようなものがあります。
・咳(乾いた咳が続く)
・発熱(微熱から高熱まで)
・息切れや呼吸困難
・全身のだるさ(倦怠感)
・悪寒
・胸の痛みや圧迫感
これらの症状のなかでも、とくに特徴的なのは「咳」です。
加湿器肺炎による咳は、通常の咳止め薬が効きにくく長期間続く傾向があります。
また、家にいるときに症状が悪化し、外出すると改善するという特徴があります。
症状の程度は人によって異なり、軽度の場合もあれば、重症化して呼吸困難を引き起こす場合もあります。
また、急性と慢性の2つのタイプがあり、急性の場合は症状が突然現れますが、慢性の場合はゆっくりと進行していきます。
加湿器肺炎の症状は風邪と似ているため、自己判断は危険です。
咳が長引く場合や、通常の治療で改善しない場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
また予防として加湿器をこまめに清掃することは最も重要ですので症状がない方でも定期的な清掃は心がけてください。
◆「アレルギー症状の引き金となるカビの掃除で注意するポイント」>>
【参照文献】科学技術情報発信・流通総合システム『福島県で春期に発症し、加湿器が原因と考えられた夏型過敏性肺炎の5歳女児例』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_204/_pdf
3. 加湿器肺炎の診断や検査について
加湿器肺炎の診断は、症状や病歴、さまざまな検査結果を総合的に判断して行われます。
ここからは、主な診断方法や検査についてご説明しましょう。
3-1. 問診
加湿器肺炎の診断において、問診は非常に重要です。医師は以下のような点について詳しく聞き取りを行います。
・症状の詳細(咳、発熱、息切れなど)
・症状が出始めた時期
・症状が悪化する時間帯や場所
・加湿器の使用状況(使用頻度、清掃の頻度など)
・自宅と外出時の症状の違い
・既往歴やアレルギー歴
・服用中の薬
・生活環境(ペットの有無、職業など)
とくに、「家に帰ると咳が出る」「加湿器を使うと症状が悪化する」「市販の風邪薬や咳止め薬を服用しても効果がない」といった情報は、加湿器肺炎を疑う重要な手がかりとなります。
患者さんは症状の詳細や生活環境の変化など、気づいたことはできるだけ詳しく医師に伝えることが大切です。
些細なことでも、診断の重要な手がかりになる可能性があります。
3-2. 画像検査
加湿器肺炎の診断には、胸部X線検査(レントゲン)やCT検査が行われます。
胸部X線検査では、肺の異常を大まかに確認することができます。
しかし、加湿器肺炎の初期段階では、X線検査で異常が見られないこともあります。
一方、CT検査はより詳細な画像を得ることができ、早期の異常も捉えやすいため、加湿器肺炎の診断に有用です。
CT画像では、両肺に淡い影(すりガラス影)が見られることが特徴的です。
これらの画像検査は、肺の状態を視覚的に確認するだけでなく、ほかの呼吸器疾患(肺炎や肺がんなど)との鑑別にも役立ちます。
3-3. 血液検査
血液検査も加湿器肺炎の診断に重要です。主に以下のような項目が調べられます。
・白血球数
炎症反応の有無を確認します。加湿器肺炎では白血球数が増加することがあります。
・CRP(C反応性タンパク)
体内の炎症の程度を示す指標です。加湿器肺炎では上昇することがあります。
・KL-6(シアル化糖鎖抗原(かとうさこうげん)KL-6)
間質性肺炎のマーカーとして用いられます。加湿器肺炎でも上昇することがあります。
・SP-D(サーファクタントプロテインD)
肺胞(はいほう・肺の末端にある小さな袋状の組織で、吸い込んだ酸素と体内の二酸化炭素を交換する場所)の損傷を示すマーカーです。加湿器肺炎で上昇することがあります。
・特異的抗体
加湿器内の微生物に対する特異的な抗体を調べることで、原因となる抗原を特定できる場合があります。
これらの血液検査の結果は、加湿器肺炎の診断だけでなく、病気の重症度や治療効果の判定にも用いられます。
3-4. その他の検査
加湿器肺炎の診断や重症度の評価には、上記の検査に加えて以下のような検査が行われることもあります。
・呼吸機能検査
肺活量や一秒量などを測定し、肺の機能を評価します。加湿器肺炎では、拘束性(こうそくせい)換気障害(肺が膨らみにくくなる状態)が見られることがあります。
・気管支鏡検査
気管支内部を直接観察し、必要に応じて肺胞洗浄液の採取や肺生検を行います。これにより、肺の炎症の程度や原因となる微生物を特定できる場合があります。
・誘発試験
加湿器を使用した環境下で症状が悪化するかを確認する検査です。ただし、重症化のリスクがあるため、慎重に行う必要があります。
・環境調査
患者さんのご自宅を訪問し、加湿器の使用状況や室内環境を調査することもあります。
これらの検査は呼吸器内科でも可能です。複数の検査を組み合わせることで、加湿器肺炎の診断の精度が向上し、適切な治療方針を立てることができます。
4. 加湿器肺炎の治療について
加湿器肺炎の治療は、原因となる抗原の除去と炎症の抑制が基本となります。ここからは、加湿器肺炎の治療についてご説明いたします。
4-1. 加湿器の使用を中止する
加湿器肺炎の治療で最も重要なのは、原因となる加湿器の使用を直ちに中止することです。
多くの場合、加湿器の使用を中止するだけで症状が改善し、軽症の場合は、加湿器の使用を中止と経過観察のみで回復することもあります。
ただし、症状が改善しない場合や症状が重い場合は、追加の治療が必要となります。
また、加湿器の使用中止後も、しばらくの間は症状が続くことがあるため、医師の指示に従って経過を観察することが大切です。
4-2. 吸入ステロイド薬
加湿器の使用中止だけでは症状が改善しない場合や、症状が重い場合には、吸入ステロイド薬が処方されることがあります。
吸入ステロイド薬は、肺の炎症を直接抑える効果があり、加湿器肺炎の症状改善に有効です。
吸入という方法を用いることで、全身への影響を最小限に抑えつつ、肺に直接作用させることができます。
フルチカゾン、ブデソニド、シクレソニドは、加湿器肺炎を含むさまざまな呼吸器疾患の治療に使用される代表的な吸入ステロイド薬です。
それぞれに特徴があり、炎症を抑えることで症状の改善や発作の予防に効果を発揮します。
フルチカゾンは、強力な抗炎症作用を持つ合成副腎皮質ステロイドで、気道の炎症を抑えて症状を改善します。
通常、1日1〜2回の吸入で使用されることが一般的です。
ブデソニドも同様に、気道の炎症を抑える働きを持つ吸入ステロイド薬です。
長期的な使用によって慢性的な炎症をコントロールし、発作の予防や症状の管理に役立ちます。
シクレソニドは、肺内で活性型に変換されるという特徴を持つ吸入ステロイド薬です。
肺の細胞内でデシクレソニドという活性型の物質に変わり、ステロイド受容体と結合することで強い抗炎症作用を発揮します。
通常、1日1〜2回の吸入で効果が期待でき、長期使用でも副作用が比較的少ない点が利点です。
これらの吸入ステロイド薬はいずれも気道の炎症を抑え、呼吸器疾患の症状を改善し、発作を防ぐ役割を果たします。
ただし、使用方法や用量は患者の状態によって異なるため、医師の指示に従うことが大切です。
また、吸入後は口腔内に薬剤が残らないよう、うがいをすることも忘れずに行いましょう。
4-3. その他の薬
重症の加湿器肺炎の場合や、吸入ステロイド薬での治療効果が不十分な場合には、以下のような薬剤が使用されることがあります。
・経口ステロイド薬
プレドニゾロンなどの全身性ステロイド薬が用いられます。強力な抗炎症作用がありますが、長期使用による副作用のリスクがあるため、慎重に使用されます。
・免疫抑制剤
シクロフォスファミドやアザチオプリンなどが用いられることがあります。
これらは、過剰な免疫反応を抑制する効果がありますが、感染症のリスクが高まるため、慎重に使用する必要があります。
・抗線維化薬
ピルフェニドンやニンテダニブなどが用いられることがあります。
これらは、肺の線維化(硬くなること)を抑制する効果があり、慢性化した加湿器肺炎の治療に用いられることがあります。
・気管支拡張薬
呼吸困難を改善するために、β2刺激薬や抗コリン薬などの気管支拡張薬が使用されることがあります。
これらの薬剤の使用は、患者さんの症状や病状の進行度、他の疾患の有無などを考慮して、医師が慎重に判断します。
また、定期的な経過観察と副作用の確認が必要です。
加湿器肺炎の治療は、症状の改善だけでなく、肺機能の回復と維持を目指して行われます。
治療中は、医師の指示に従い、定期的な検査や受診を欠かさないようにしましょう。
5. 予防のための加湿器の正しい使い方・選び方
加湿器肺炎を予防するためには、加湿器を正しく使用し、適切なタイプを選ぶことが重要です。
ここからは、加湿器の正しい使い方と選び方についてご説明しましょう。
5-1. 正しい加湿器の使い方
加湿器を安全に使用するためには、以下のポイントに注意しましょう。
・毎日水を交換する
加湿器の水は毎日新しいものに交換しましょう。古い水を使い続けると、微生物が繁殖しやすくなります。
・定期的に清掃する
週に1〜2回は加湿器を分解し、洗剤を使って丁寧に洗浄しましょう。とくに、水タンクや加湿フィルターは念入りに清掃します。
・乾燥させる
清掃後は、加湿器の各部品をよく乾燥させてから組み立てましょう。湿った状態で保管すると、カビが生えやすくなります。
・適切な湿度を保つ
室内の湿度は40〜60%程度が理想的です。湿度計を使って適切な湿度を維持しましょう。過度の加湿は微生物の繁殖を促進する可能性があります。
・水道水を使用する
加湿器には水道水を使用しましょう。井戸水や浄水器を通した水は、微生物が繁殖しやすい場合があります。
・フィルターの交換
フィルター式の加湿器を使用している場合は、メーカーの推奨する頻度でフィルターを交換することが必要です。
・使用しない時は空にする
長期間使用しない場合は、水タンクを空にし、よく乾燥させてから保管しましょう。
・窓を開けて換気する
加湿器を使用する際は、定期的に窓を開けて換気を行いましょう。新鮮な空気を取り入れることで、室内の空気環境が改善されます。
・適切な場所に設置する
加湿器は、空気の循環が良い場所に設置しましょう。壁や家具に直接水蒸気がかからないよう注意が必要です。
・使用時間を管理する
就寝中など長時間の連続使用は避け、適度な使用時間を心がけましょう。
これらの点に注意して加湿器を使用することで、加湿器肺炎のリスクを減らすことができます。
5-2. 加湿器の選び方
加湿器にはさまざまなタイプがありますが、加湿器肺炎の予防という観点からは、スチーム式(気化式)の加湿器がおすすめです。
ここでは、主な加湿器のタイプとその特徴をご説明いたします。
まず、スチーム式(気化式)加湿器は、水を加熱して水蒸気を発生させるタイプです。
高温で水を沸騰させるため、雑菌やカビの繁殖を抑えることができ、加湿能力も高く、広い空間でも効果的です。
ただし、消費電力が比較的高い点には注意が必要です。
次に、超音波式加湿器は、超音波振動によって水を細かい粒子にして噴霧するタイプです。
静音性に優れ、消費電力が少ないのが特徴ですが、水中の不純物も一緒に噴霧されるため、清潔な水の使用と定期的な清掃が欠かせません。
気化式加湿器は、フィルターに水を含ませ、送風機によって水分を蒸発させる方式です。
フィルターを通すことで不純物をある程度取り除くことができ、さらに室温や湿度に応じて加湿量が自動調整されるため、効率的な加湿が可能です。
ただし、フィルターの定期的な交換が必要になります。
最後に、ハイブリッド式加湿器は、複数の加湿方式を組み合わせたタイプで、それぞれの長所を活かした設計がされています。
使い勝手が良く、快適な加湿環境を提供しますが、その分価格が比較的高めになる傾向があります。
このように、加湿器にはさまざまな種類があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。
使用する環境や目的に応じて、ご自分に合ったタイプを選ぶことが大切です。
加湿器肺炎の予防という観点からは、スチーム式(気化式)加湿器が最も安全性が高いと言えます。
高温で水を加熱するため、微生物の繁殖を抑制できるからです。
ただし、どのタイプの加湿器でも、正しい使用方法と定期的なメンテナンスが重要です。
また、お子さまやペットのいるご家庭では、やけどの危険性があるスチーム式加湿器の使用には十分注意が必要です。
加湿器を選ぶ際は、以下の点も考慮しましょう。
・部屋の広さに適した加湿能力
・静音性(とくに寝室で使用する場合)
・電気代(消費電力)
・お手入れの簡便さ
・安全機能(空焚き防止機能など)
・デザイン
最終的には、ご自身の生活スタイルや優先順位に合わせて選択することが大切です。
【参考文献】”What a Pulmonologist Wants You to Know About Humidifiers” by Hackensack Meridian Health
https://www.hackensackmeridianhealth.org/en/healthu/2024/01/05/what-a-pulmonologist-wants-you-to-know-about-humidifiers
6. おわりに
加湿器は乾燥対策に便利に使えますが、正しく使用しない場合は加湿器肺炎のリスクを高めます。
安全に使用するためには、毎日の水の交換や定期的な清掃を行い、適切な湿度を保ち、加湿器の種類を正しく選ぶことが重要です。
もし咳が2週間以上続いたり発熱や息切れを感じたりする場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
健康な生活のために、正しい加湿器の使用と室内環境の管理を心がけましょう。