咳が出る時の市販薬の使用について
風邪をひいた時や乾燥した空気にさらされた時など、さまざまな原因で咳が出ることがあります。
咳の症状がつらい場合、生活に支障をきたすこともあるため、市販薬での対処を考える方も多いでしょう。
この記事では、時間的に病院への受診が難しい場合や市販薬で様子をみたい方のために、咳に対する市販薬の種類と使用方法、注意点についてご説明いたします。
ただし、咳が長引く場合や症状が重い場合は、早めにかかりつけ医や呼吸器内科への受診を検討しましょう。
1.風邪で咳が止まらない時の市販薬
風邪やインフルエンザにかかると、咳が続くことがよくあります。
咳は、空気の通り道である気道に入ったウイルスや細菌、異物を排除しようとする身体の防御反応であるため、症状が軽い場合は自然に治まることが一般的です。
自然に治るまでの間、つらい咳の症状を市販薬を使って緩和することが可能です。ここでは、咳に対する市販薬の種類や特徴についてご紹介いたします。
【参考情報】”Signs and Symptoms of Flu” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/signs-symptoms/index.html
1-1.市販の咳止め薬
市販の咳止め薬には、「中枢性鎮咳薬(ちんがいやく)」と「末梢性鎮咳薬」の2つのタイプがあります。
<中枢性鎮咳薬(デキストロメトルファン、コデインなど)>
中枢性鎮咳薬は、脳の延髄(脳幹の一部)にある咳中枢に直接作用し、咳反射を抑える薬です。
デキストロメトルファンは市販薬によく含まれている成分で、非麻薬性であるため比較的安全に使用できます。
乾いた咳や痰の少ない咳を抑えるのに効果的で、咳の頻度や強度を減らすことが可能です。
コデインは、強い咳止め効果がありますが、依存性のリスクがあり、副作用として便秘や眠気が生じることがあります。なお、12歳未満の小児は使用不可です(後述参照)。
【参考情報】”Current and future centrally acting antitussives” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3131070/
<末梢性鎮咳薬>
末梢性鎮咳薬は、気道の末端部分に直接作用して咳の原因となる刺激を緩和する薬です。
喉や気管支の炎症を和らげることで、咳を減らします。喉の痛みを伴う咳やアレルギー性の咳に適していることが多く、比較的副作用が少ないです。
【参考情報】”Peripheral mechanisms II: the pharmacology of peripherally active antitussive drugs” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18825340/
<総合感冒薬>
総合感冒薬は、いわゆる風邪によるさまざまな症状を緩和するために作られた薬です。
主に、解熱鎮痛成分(例:アセトアミノフェン)、鼻水を抑える成分(例:クロルフェニラミン)、咳止め成分(例:デキストロメトルファン)などが含まれています。
風邪の初期症状で複数の症状がある場合には効果的ですが、咳だけが主な症状の場合は、より特化した咳止め薬を選ぶほうがいいでしょう。
1-2.市販薬の購入時の注意
ドラッグストアや薬局で市販薬を購入する際は、薬剤師に相談してご自分の症状に合った薬を選ぶことが重要です。
薬のパッケージを見て、成分や用法・用量、副作用などについても確認しましょう。
持病がある方や、妊娠中、授乳中の方はとくに慎重に薬を選ぶ必要があります。使用前に必ず医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
【参考情報】”Cold remedies: What works, what doesn’t, what can’t hurt” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/common-cold/in-depth/cold-remedies/art-20046403
2.服用における注意点
ここからは市販の咳止め薬を安全に服用するための注意点をご説明しましょう。
2-1.「コデイン」成分を含む薬を小児に使わない
前述のとおり「コデイン」は、強い鎮咳作用を持つ薬剤です。
咳を抑える効果が強い一方で、重篤な副作用である「呼吸抑制」のリスクがあります。
「呼吸抑制」とは、呼吸が浅くなる、または呼吸の回数が減少する状態です。
12歳未満の小児では、呼吸抑制のリスクがとくに高くなる可能性があります。そのため、12歳未満の小児にはコデインを含む薬の使用は禁止です。
咳止め薬を選ぶ際には必ず薬の成分表示を確認し、12歳未満のお子さまには使用しないように注意してください。
お子さまに咳止め薬を与える場合は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な薬を選びましょう。
【参考情報】『コデインリン酸塩等の12歳未満の小児における使用の禁忌移行について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000522038.pdf
【参考情報】”FDA Drug Safety Communication: FDA restricts use of prescription codeine pain and cough medicines and tramadol pain medicines in children; recommends against use in breastfeeding women” by Food and Drug Administration
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-drug-safety-communication-fda-restricts-use-prescription-codeine-pain-and-cough-medicines-and
2-2.咳止め薬と、ほかの薬を同時に服用しない
咳止め薬を使用する際には、他の薬との併用にも十分な注意が必要です。次の点について気を付けましょう。
<過剰摂取のリスク>
総合感冒薬には、すでに咳止め成分が含まれていることが多いため、咳止め薬と併用すると、同じ成分を重複して摂取することになります。
このため、成分の過剰摂取により、副作用のリスクが高まり、過度の眠気、めまい、悪心、心拍数の増加、血圧の上昇などが副作用として考えられます。
とくに、デキストロメトルファンやコデインのような中枢性鎮咳薬を含む薬の過剰摂取は、重篤な呼吸抑制や中毒症状を引き起こす可能性があるため、慎重に服用してください。
また、漢方薬の中にも咳止め効果を持つ成分が含まれている場合があります。
例えば、葛根湯や麻黄湯といった漢方薬には、咳を抑える効果があります。これらの薬と市販の咳止め薬を同時に服用すると、成分が重なり、予期せぬ副作用が発生する可能性があるため注意が必要です。
【参考情報】”Dextromethorphan overdose” by Mount Sinai
https://www.mountsinai.org/health-library/poison/dextromethorphan-overdose
<特定の持病を持つ方や妊娠・授乳中の方>
持病のある方(例えば、高血圧、糖尿病、心疾患など)は、咳止め薬の成分が病状に悪影響を与える可能性があるため、使用前に必ず主治医や薬剤師に相談してください。
また、妊娠中や授乳中の方は、胎児や乳児に影響を与える成分が含まれている可能性があるため、医師や薬剤師に相談し、安全な薬を選択することが大切です。
【参考情報】”Pregnancy, breastfeeding and fertility while taking codeine” by NHS England
https://www.nhs.uk/medicines/codeine/pregnancy-breastfeeding-and-fertility-while-taking-codeine/#:~:text=Small%20amounts%20of%20codeine%20pass,recommend%20a%20more%20suitable%20painkiller.
<副作用について>
咳止め薬の一般的な副作用には、眠気、めまい、口渇、便秘、消化不良、発疹などがあります。
とくに中枢性鎮咳薬は、注意力の低下や眠気を引き起こすことがあり、自動車の運転や機械の操作を行う場合には注意が必要です。
さらに、過剰摂取や誤った服用によって、より深刻な副作用(呼吸困難、意識障害など)が発生するリスクもあるため、用法・用量を守り、自己判断で薬を追加して服用しないでください。
【参考情報】”Dextromethorphan” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a682492.html
3.おわりに
風邪をひいた時の咳は、からだの中のウイルスや異物を排除しようとする自然な反応です。
通常、数日程度で咳は治まることが多いため、短期間であれば薬を服用せずに様子を見ることもひとつの選択肢です。
市販のかぜ薬については、かぜが自然軽快する期間を、症状を和らげることでなるべく楽に過ごすという意味合いが強いと考えていただいたほうがよいと思います。言い換えれば、長引く症状をいつまでも対処する方法ではないということです。
長引く難治性の咳に関してはきちんと原因を鑑別できる医療機関への受診をぜひ考慮してください。
咳の原因が風邪以外(例えば、アレルギー、気管支炎、肺炎など)である可能性もあるため、専門医による診断が必要です。
市販薬を使用する際には、成分をよく確認し、服用方法を守って安全に服用してください。
不安や疑問がある場合は、医師や薬剤師、登録販売者などに相談してから購入するようにしましょう。