気胸とは?

気胸は、肺に突然穴が開き、肺から空気が漏れ出すことで胸痛や呼吸困難が生じる状態の疾患です。

さまざまな原因によって引き起こされることがあり、ほとんどの肺の病気が原因となる可能性があります。「原発性自然気胸」という、特定の原因がなく発症する気胸もあります。

特発性自然気胸は、やせ型で高身長の若い男性や高齢者の方で多く見られ、喫煙者の方、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などの既存の肺の病気がある方は、気胸を発症するリスクが高いとされています。

また、妊娠適齢期の女性の方など、健康な人に突然発生することもあり、適切な治療や対応が重要です。

1.症状


突然現れる胸や背中の痛み、息苦しさや咳、呼吸困難などが現れます。これに加えて、乾いた咳が見られることもあります。胸が痛くなる病気は他にも考えられますが、気胸は深呼吸をすると痛むのが特徴です。

正常な状態では、空気を吸入すると肺が膨らみますが、気胸では肺が胸腔壁から離れてしまい、十分な空気を取り込むことができません。その結果、肺は縮んだままの状態になります。

さらに、漏れ出した空気が胸腔内に溜まると、圧力が増して心臓やもう片方の健康な肺に影響を及ぼす恐れがあります。これは「緊張性気胸」と呼ばれ、非常に危険な状態です。

緊張性気胸では、胸腔内の圧力が増加することで、心臓や肺に大きな圧力がかかり、最悪の場合死に至る可能性もあります。

ただし、症状が出ない場合や軽い不快感しかないまま、健康診断などの胸部レントゲン検査で発見されることもあります。

【参考文献】”Pneumothorax” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pneumothorax/symptoms-causes/syc-20350367

2.特殊な気胸


気胸には、原発性自然気胸とは異なる原因が特殊なタイプのものがあります。以下で、その特徴や原因についてご説明いたします。

2-1.異所性子宮内膜症

異所性子宮内膜症による気胸は、子宮内膜組織が子宮以外の部位に存在することで起こります。異所性子宮内膜症では、月経に伴って気胸を発症します。

子宮内膜症が横隔膜に広がり、月経のときに横隔膜に穴が開くことにより空気が胸腔に入り気胸となる、または、肺に子宮内膜症があり月経のときに穴が開き気胸となると考えられています。

つまり、子宮内膜の細胞が肺に運ばれて定着し、月経のときに出血して肺に穴があくという状態です。

気胸は女性の方には比較的少ないので、女性の方が気胸を発症したときは、異所性子宮内膜症の可能性を考えておくべきです。

通常の気胸と同様の症状が現れる可能性があり、治療には、手術的なアプローチやホルモン療法などが考慮されます。

【参照文献】日外科系連会誌 3『異所性子宮内膜症の2例と本邦報告例の検討』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcs/37/5/37_1043/_pdf/-char/ja

2-2.リンパ脈管筋腫症

リンパ脈管筋腫症は、肺やリンパ節、腎臓などで異常な平滑筋様細胞(LAM細胞)が増殖する病気であり、肺が破れて空気が漏れ、気胸を引き起こす可能性があります。

治療には、気胸や呼吸不全に対する対症療法、ホルモン療法、肺移植などがあります。

【参照文献】難病情報センター『リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/173

3.検査


気胸の検査には、以下のような方法があります。

<聴診>

医師が胸部を聴診し、肺の異常な音を確認します。

<胸部X線検査>
胸部X線検査(または胸部レントゲン検査)は、胸部の臓器、特に肺、心臓、大動脈、鎖骨、肋骨、胸椎などを視覚化するために行われます。

この検査では、通常、肺で満たされているはずの部分に、肺が虚脱(しぼんでいる)している場合に隙間が見られます。これにより、気胸の診断が可能になります。

軽度の場合や特殊な場合を除いて、比較的容易に気胸を診断することが可能です。

<胸部CT検査>

CT(Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)は、人体の断層画像をコンピュータで再構成する技術です。
この検査により、X線撮影では見えにくい臓器や小さな病変も観察できます。

胸部CT検査は、通常、胸部X線検査の後の精密検査として行われ、軽度の気胸や、気胸の原因となり得る小さな異常も確認できます。

また、気胸を引き起こす可能性のある他の病気も発見することが可能です。

外傷性気胸の場合、肋骨の骨折や他の外傷や出血の有無を調べるために初診で行われます。

4.治療

治療は、症状の重症度に応じて行われます。

<軽度気胸>

軽度の気胸で症状が少ない場合は、一般的に安静にして様子を見ます。入院は必要なく、外来で定期的に胸部レントゲン検査を行い、経過を観察します。

自然に肺の穴が閉じ、漏れていた空気が血液に溶けて消失するのを待ちます。

<中等度気胸・高度気胸>

中等度または高度の気胸では、胸腔ドレナージが必要になります。

胸腔ドレナージとは、胸に局所麻酔を施し、管(チェストチューブ)を挿入して胸腔内の空気を外に排出する処置です。しぼんでいた肺が膨らむのを補助し、症状の改善を目指します。

中等度気胸の場合、外来通院用の携帯ドレナージキットを使用することもあります。患者さんは入院せずに自宅にて、ドレーンバッグを持ち歩きながら日常生活を送ることが可能です。

<長期間の気胸・肺のしぼみが大きい気胸>

長期間続く気胸や肺のしぼみが大きい場合は、入院してドレナージ治療が行われます。入院により積極的な治療と管理が可能になります。

<胸腔ドレナージで改善しない場合>

胸腔ドレナージによる改善が見られない場合や、左右両側に気胸がある場合、胸腔鏡手術が検討されます。手術により、問題となっている部分を直接治療することが可能です。

<緊張性気胸>

緊張性気胸は、重症度の高い気胸で生命に危険を及ぼす緊急な状態です。肺から漏れ続ける空気が胸腔内の圧力を上昇させ、陽圧状態を引き起こします。陽圧状態は肺静脈を圧迫し、心臓への血液の戻りを妨ぎます。

そのため心臓は血液を体全体に送ることができず、血圧の低下やショック状態を引き起こす可能性があります。

緊張性気胸が発生した場合、胸に注射針を刺して胸腔内の圧力を緊急に下げる迅速な対応が必要です。その後、胸腔ドレナージを行い、漏れている空気を外に排出します。肺の膨らみが安定すれば、チューブを抜去し退院可能です。

5.おわりに

気胸は、なんの前触れもなく突然発症する可能性があります。突然胸痛を感じた場合、気胸を起こしている可能性があります。

治療方法は気胸の程度に応じて、胸腔ドレナージ、場合によっては手術に至るまでさまざまです。

適切な時期に正しい治療を受けることで、多くの場合、効果的に治療でき、早い回復が期待できます。

突然の胸痛、呼吸困難、胸の圧迫感、呼吸時の不快感などの症状が現れた場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。