止まらない咳。人にうつる?うつらない?
新型コロナウイルスの流行により、手洗いうがいやマスクなど、感染予防意識が高まっています。
そんな中で、例えば喘息など感染する恐れのない場合でも、人がたくさんいる場所で咳をするのは周囲の目線が気になる、という経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
一口に咳といっても考えられる病気は様々です。
1.咳でうつる可能性があるのは感染症
咳の原因が感染症の場合、空気感染や飛沫感染でうつる可能性があります。
空気感染は、咳やくしゃみによって直径5㎛未満の飛沫核が長時間空中を浮遊し、会話などの際に吸い込むことで感染します。
飛沫感染はウイルスを含む飛沫が口、眼、鼻など露出した粘膜に付着することで感染します。
咳でうつる可能性のある感染症には、次のようなものがあります。
・風邪
・インフルエンザウイルス
・ジフテリア(飛沫感染)
・百日咳(飛沫感染)
・マイコプラズマ肺炎(飛沫感染)
・新型コロナウイルス感染症
・結核(空気感染)
・麻疹(空気感染)
【参考文献】”Airborne and Direct Contact Diseases” by A Division of the Maine Department of Health and Human Services
https://www.maine.gov/dhhs/mecdc/infectious-disease/epi/airborne/index.shtml
1-1.かぜ症候群
一般的な「風邪」のことで、正式には空気の通り道である気道の急性カタル性炎症(粘膜が炎症を起こし、粘液が過剰に分泌される状態)をまとめてかぜ症候群と呼びます。
原因は様々ですが、ほとんどがウイルス感染によるものです。
ウイルスなどが粘膜から感染して炎症を起こすことで、咳、鼻水、鼻づまり、発熱、頭痛などの症状を引き起こします。
ほとんどの場合、安静や栄養補給、解熱剤の服用などの対症療法で軽快します。
1-2.インフルエンザ
インフルエンザ(流行性感冒)はインフルエンザウイルスの感染によって発症します。
潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は1~2日で、飛沫感染で広がり、特に冬に流行しやすい感染症です。
症状としては咳や39℃前後の発熱、全身倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛などが見られます。
かぜ症状とも似ていますが、強い全身症状が現れ、急激に重症化する危険性があるという特徴があります。
高齢者や持病のある方は肺炎を起こして重症化することもあり、子供の場合はインフルエンザ脳症などの合併症が起こることもあります。
治療としては、症状に応じた対症療法に加えて抗ウイルス薬を服用します。
【参考情報】厚生労働省『インフルエンザの基礎知識』
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1225-7k.pdf
1-3.新型コロナウイルス感染症(CVOID-19)
2019年の終わりから世界的に大流行し、日常生活を一変させた「新型コロナウイルス感染症」ですが、「コロナウイルス」という病原体自体はもともと風邪の原因として存在していたものです。
しかし、動物に感染したウイルスが変異してヒトに感染するようになると、肺炎などの命に関わる症状を引き起こす病原体になります。
これまでも動物から感染したコロナウイルスとして、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMARS(中東呼吸器症候群)などがありましたが、この2つと比べてもCVOID-19は感染者数が莫大なものとなっています。
CVOID-19では感染者の咳やくしゃみ、会話の際に排出される飛沫やエアロゾル(飛沫よりも小さな水分を含んだ粒子)が眼や鼻、口などの粘膜に触れることで感染します。
このエアロゾルは1m以上飛散し、長い時間空中に留まり続けるため、換気が不十分な室内で感染しやすくなります。
軽症の場合は咳、発熱、全身の倦怠感や味覚障害など、風邪と似た症状が見られます。
しかし高齢者や喫煙習慣のある方、糖尿病、高血圧、心臓病、COPDなどの基礎疾患のあるかたは重症化しやすいと言われており、高熱や肺炎、呼吸困難などの症状が出る場合があります。
治療としては対症療法が主で、重症の場合は人工呼吸器やECMO(エクモ:体外式の人工心肺装置)を使用して肺に酸素を送り込む治療を行います。
【参考情報】国立感染症研究所『コロナウイルスとは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
【参考情報】厚生労働省『新型コロナウイルスに関するQ&A』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
1-4.結核
結核の潜伏期間は半年~2年と長く、感染力の高い感染症で2類感染症に指定されています。
結核菌は乾燥に強いため、咳やくしゃみなどで排出された飛沫から水分が蒸発しても空気中に留まり続け、空気感染で広がります。
日本において近年では新規の患者は減ってきていますが、先進国の中では罹患率が最も高く、特に高齢者で多いです。
感染しても発症しない場合もあり、初感染から長期間を経て発症するものを二次結核といいます。
症状としては、2週間以上続く咳、痰、血痰(痰に血が混じっている状態)、喀血(かっけつ:咳とともに血液そのものを吐く状態)、胸痛、発熱などが見られます。
喀痰検査(かくたんけんさ:痰を採取して顕微鏡で観察する検査)の結果、排菌が認められた場合は感染拡大を防ぐために入院治療が義務付けられています。
1つの薬だけで治療していると、結核菌はその薬が効かなくなる耐性菌を作り出してしまいます。
そのため複数の抗結核薬を6~9か月服用し、治療終了まで医師の指示を守って飲み続けることが重要です。
【参考情報】結核予防会『結核について』
https://www.jatahq.org/about_tb/
1-5.麻疹(はしか)
麻疹は、空気感染、飛沫感染、接触感染で広がり、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%感染する、感染力が非常に強い病気です。
感染すると10~12日の潜伏期間を経て発症し、「カタル期」「発疹期」を経て回復に向かうことがほとんどです。
カタル期は感染力が最も強い時期で、発熱や咳、鼻水、眼の充血などの症状が見られます。
また、この時期には口腔内にコプリック斑という麻疹特有の粘膜疹が見られます。
発疹期には、耳の後ろや首、顔をはじめ全身に赤い発疹が見られます。
中耳炎や肺炎、脳炎などの合併症が起こる危険性もありますが、基本的にはワクチンで感染を予防することができます。
【参考情報】厚生労働省『麻しんについて』
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
2.咳でうつらない病気
咳が出る病気でも、感染症でない場合人にうつることはありません。
感染症以外に咳が出る病気として、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、花粉症などのアレルギー疾患などがあります。
これらの原因はタバコなどの有害物質やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)などで、細菌やウイルスではありません。
感染症なのかそうでないか、周囲の人にはわからず不安にさせてしまうこともあるため、咳が出ている時はマナーとしてマスクを着用するようにしましょう。
3.咳が出ている時は、咳エチケットを!
咳エチケットとは、咳・くしゃみなどをする際にマスクやティッシュなどで口や鼻をおさえることです。
咳エチケットはマナーとしても、感染症の拡大を防ぐためにも重要です。
3-1.咳エチケットの正しい方法
咳やくしゃみにより、飛沫は約2m拡散すると言われています。
風邪などの自覚症状がない場合でも、ウイルスを持っているかもしれないという意識を持ち、特に電車や職場、学校など人が多い場所では咳エチケットを必ず行いましょう。
咳エチケットのポイントは次の4点です。
・マスクを正しく装着し、鼻から顎まで隙間ができないようにする。
・咳やくしゃみをする際はティッシュやハンカチなどで口や鼻を覆う。
・ティッシュなどがない時は上着の内側や袖で覆う。
・咳などの飛沫が付いたティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、手を洗う。
【参考情報】『咳エチケット』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
3-2.その咳エチケットは誤りです
口や鼻などを覆わずに咳やくしゃみをすることはもちろんNGですが、咳やくしゃみを手のひらで押さえるのも誤りです。
咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、結果として病原体を広げる行動となってしまいます。
4.おわりに
咳でうつる感染症は、比較的軽症で済むものから、重症化すると命の危険があるものまで様々です。
感染予防行動の目的として、自分が感染しないことはもちろんですが、高齢者や子ども、持病のある方などを感染から守るという目的もあります。
咳エチケットや手洗いうがいなどの感染予防行動を正しく行い、もし体調に異変を感じた場合は早めに病院を受診するようにしましょう。