じん肺症(じんぱいしょう)とは?
じん肺症とは、鉱物や金属などの微細な粉じんを長期間にわたり吸い込むことで肺に沈着し、肺の組織が線維化して硬くなる病気です。
原因となる粉じんは、主に職業に関係があり、職業性肺疾患の一つとされます。
初期症状は息切れ、咳、痰が増えるなどですが、進行すると肺の組織が壊れ、呼吸困難を引き起こすことがあります。
また、肺に関する合併症にかかりやすくなるのが特徴です。
この記事では、じん肺症の原因と症状、検査と治療についてご紹介します。
1.原因
じん肺症は、鉱物や金属などの微細な粉じんを長期間にわたり吸い込むことが原因になります。
じん肺は吸入する粉塵の種類によって分けられます。以下で、代表的な種類をご紹介しましょう。
【参照文献】労災疾病等医学研究普及サイト 職業性呼吸疾患『原因物質と職種』
https://www.research.johas.go.jp/jinpai/02.html
【参照文献】”Pneumoconioses” by Centers of Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/niosh/topics/pneumoconioses/default.html
1-1.珪肺症(けいはいしょう)
珪肺症の原因は、結晶シリカ(ケイ酸)粉塵を吸入することです。
左右の肺の最も上部にある肺上葉の炎症と瘢痕(はんこん:傷が治癒した後に残る線維組織)を伴います。
主な原因物質として石英(せきえい:珪酸塩)があります。
石材業や石工、石綿紡績工などの職種での曝露(ばくろ:さらされること)により発症します。
珪肺症は肺がんなどの合併症も引き起こす可能性があります。
【参照文献】”Silicosis” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/silicosis
1-2.石綿肺(せきめんはい)
石綿肺は、石綿(アスベスト)の粉塵を吸入することによって引き起こされます。
石綿は肺に沈着すると線維化を引き起こしやすく、肺がんやびまん性胸膜肥厚などの症状を引き起こす可能性があります。
主に石綿吹き付けや建設業などの職種での曝露が原因です。
【参照文献】”Asbestosis” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asbestosis/symptoms-causes/syc-20354637
1-3.有機じん肺
有機じん肺は、穀物やカビ、きのこ胞子などの有機物の粉じんを吸入することが原因です。
有機物の粉じんは体内で分解されず、肺に沈着したまま線維化を引き起こします。
そのため、肺の組織が壊れ呼吸困難を引き起こす可能性があります。
1-4.溶接工肺
溶接工肺は、溶接作業中に発生する金属の粉じんを吸入することで生じる肺疾患です。
主な原因物質は鉄化合物などの金属粉じんであり、電気溶接やガス切断などの作業中に曝露されることがあります。
溶接工肺は、肺の繊維化を引き起こす可能性があり、初期症状は無症状ですが、進行すると咳や息切れが生じることがあります。
【参照文献】”Health risks from welding” by Health and Safety Executive
https://www.hse.gov.uk/welding/health-risks-welding.htm
1-5.超硬合金肺
超硬合金肺は、超硬合金の粉塵を吸入することで生じる肺疾患です。
金属加工などの作業中に発生する粉じんが原因とされています。
超硬合金肺の患者さんは、超硬合金の研磨作業などに従事していたり、超硬合金の粉じんに曝露されていたりすることが一般的です。
【参照文献】『職業性呼吸器疾患―現在と将来の問題点―』第20回 日本胸部疾患学会 シンポジウム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/18/12/18_12_845/_pdf/-char/en
2.症状
じん肺の初期症状は、多くは無症状です。
徐々に息切れ・咳・痰が増え、さらに進行すると肺の組織が壊されます。
そのため、呼吸困難を引き起こします。
また、気管支炎、肺がん、気胸などの肺に関する合併症にかかりやすくなるとされています。
粉じん作業を行っている際には気が付かないことも多く、じん肺の症状は数年から十数年かけてゆっくりと進行します。
◆「気管支炎」について詳しく>>
◆「気胸」について詳しく>>
【参照文献】『日常生活において気をつけること じん肺と診断された方にために』厚生労働省 都道府県労働省 労働基準監督省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000212746.pdf
3.検査
じん肺症の主な検査をご説明します。これらの検査を通じて、じん肺症の診断とその重症度の評価を行います。
<問診>
診察時に、職業や過去の粉じん曝露歴、職場環境などを詳しく問診します。
じん肺症との因果関係を確認することが可能です。
<胸部レントゲン・胸部CT検査>
胸部レントゲン検査は、X線を用いて胸部の画像を取得し、肺や心臓、大動脈などに異常がないかを調べる検査です。
一方、胸部CT検査はX線を用いて体を一周しながら断面画像や立体的な画像を撮影し、肺の状態をより詳細に確認することができます。
胸部レントゲンや胸部CT検査により、肺に繊維化の影があるかを確認し、肺がんなどの合併症がないか確認します。
<血液検査>
血液検査により、炎症反応や酸素運搬能力などを評価し、肺疾患の診断や重症度評価を行います。
<呼吸機能検査>
肺活量など呼吸機能の状態を呼吸機能検査で確認します。
肺活量や気道閉塞度などの数値を測定することで、肺の機能障害の程度や種類を評価します。
4.治療
治療は、患者さんの症状や疾患の進行度に応じて選択され、総合的なケアが行われます。
<環境の改善>
じん肺症の主要な治療法の一つは、患者さんが粉じんに曝露される環境を改善し、防じん対策を徹底することです。
これにより、新たな曝露を防ぎ、症状の進行を抑えます。
<薬物療法>
咳止めや去痰剤などの薬を使用して症状の緩和を目指します。患者さんの日常生活の質を改善するのが目的です。
アレルギー性の炎症が確認された場合は、ステロイド薬や免疫抑制薬が処方されることがあります。
肺の炎症を抑え、肺機能の悪化を防ぎます。
<在宅酸素療法>
進行度によって、重度のじん肺症の患者さんでは、在宅酸素療法が行われることがあります。
室内空気より高い濃度の酸素を投与することで患者さんの酸素摂取量を増やし、呼吸のしやすさを改善します。
在宅酸素療法に使用する機器は医療機関からレンタルされます。
【参照文献】 『【知識編】在宅酸素療法とは』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/oxygen/01.html
一度じん肺にかかると、原因となる作業をやめたとしても病気は進行します。
現在、じん肺そのものに対する治療はなく、それぞれの症状に応じた治療が中心となります。
5.おわりに
じん肺は、とくに粉じんを多く扱う職業で発生する病気です。
予防において最も重要なのは、粉じんを吸い込まないようにする環境の整備といえます。
適切な防塵マスクの使用、作業環境の改善、定期的な換気などを徹底しましょう。
粉じんを扱う職業に従事している方で、咳や痰などの呼吸器系の症状が気になる場合は、早めに呼吸器内科の受診を検討してください。
早期の診断と治療は、じん肺の進行を防ぎ、より良い健康状態を維持するために重要です。