百日咳の基本情報

百日咳は、咳を伴う呼吸器系の感染症で、予防接種によって発症を防ぐことができます。

ただし、予防接種を受けていても完全に感染を避けることはできません。

予防接種の効果は時間とともに減少するため、効果が切れてしまった大人は感染する可能性があります。

乳幼児や小さな子どもは、感染すると重症化しやすく、ときには生命を脅かす状況に至ることもあります。そのため、予防接種を受けることが大切です。

この記事では百日咳について症状や検査、治療、予防、似ている病気についてご説明いたします。

1.百日咳とは


百日咳は百日咳菌によって発症する急性の呼吸器感染症です。

咳が治まるまでに約100日間という長い期間かかるために百日咳という病名で呼ばれています。

感染経路は飛沫感染と接触感染です。咳やくしゃみによって放出される百日咳菌を吸い込むことで感染が広がります。

患者さんの多くは乳幼児で、とくに一歳以下の乳幼児が感染すると重症化しやすい傾向があります。

重症化した場合、肺炎や脳症など命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。

百日咳は感染力が非常に強く、麻しんと同程度の感染力があるとされます。

感染者の方は多くの方に感染させる可能性があるため、発症した場合は早期に医療機関を受診し、適切な対応を取ることが重要です。

【参考文献】”Pertussis (Whooping Cough)” by Centers for Disease Control and prevention
https://www.cdc.gov/pertussis/index.html

2.症状


百日咳の症状は、長期間にわたり咳の症状が続くことが特徴です。

初期段階では普通の風邪と似た症状ですが、そのあと数週間にわたって症状が進行します。

乳児が感染した場合はとくに注意が必要です。

大人や予防接種をした方が百日咳に感染した場合は、症状は通常軽く、咳は長引きますが自然に回復することが多いとされます。

しかし、1歳未満の乳児、とくに生後3ヶ月未満の乳児にとっては非常に危険です。

生後3ヶ月未満の乳児が感染すると、呼吸器不全や呼吸停止を引き起こし、命にかかわる状況に至ることがあります。

症状の経過は、以下の3期に分けられます。

【参考文献】”Whooping cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/whooping-cough/symptoms-causes/syc-20378973

<カタル期(約2〜3週間)>

最初の5〜10日間は潜伏期間で、そのあと軽い風邪の症状が現れます。
カタル期は咳や鼻水、くしゃみが見られ、感染力が最も強い時期です。

<痙咳期(けいがいき)(約2〜3週間)>

カタル期のあと、激しい咳き込みが立て続けに発生し、咳の最後に特徴的な「ひゅーっ」という息を吸い込む咳発作が現れます。

ひどい咳のため、顔が真っ赤になったり咳のために嘔吐したり、ときには無呼吸発作を引き起こす場合もあります。

<回復期>

症状は徐々に軽減されていきますが、完全に治るまでに数ヶ月かかることがあります。

【参照文献】『百日咳とは』国立感染症研究所 感染症疫学センター
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html

3.検査・治療


百日咳の検査と治療についてご説明いたします。

3-1.検査

百日咳の主な検査方法をご説明します。

3-1-1.菌培養検査

菌培養検査は、百日咳菌を特定する信頼性が高い方法です。

菌培養検査では、ボルデ・ジャング(Bordet-Gengou)培地やCSM(cyclodextrin solid medium)などの特殊な培地を使い鼻咽頭から採取した検体を培養します。

しかし、百日咳菌の分離成功率は乳児でさえ60%以下と比較的低く、ワクチン接種者や菌量が少ない大人ではさらに低いため、確定診断が困難な場合があります。

とくに症状が進行している状態では菌の検出は困難です。

3-1-2. 遺伝子検査

遺伝子検査は、感度が非常に高く迅速な診断が可能です。

国際的にはリアルタイムPCR法が広く用いられていますが、日本ではさらに簡便で迅速な百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)が開発され、2016年から健康保険の適用を受けています。

この検査では症状出現後3週間以内に採取された後鼻腔検体が用いられることが一般的です。

3-1-3. 血清学的検査

血清学的検査では、抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)の測定が行われます。

血清学的検査は発症から2週間以上経過した患者さんに有効です。

ただし、世界保健機関は乳児やワクチン接種後1年未満の患者さんには血清学的検査の適用を推奨していません。

日本では2016年に百日咳菌に対するIgMおよびIgA抗体を測定するキットも健康保険適用で承認されました。

3-2.治療

治療は、入院と隔離、支持療法、抗菌薬の投与が行われます。

重篤な症状の乳幼児は、空気感染隔離下での入院が勧められます。

抗菌薬の投与が開始されてから5日間は隔離を継続し、ほかの患者さんへの感染拡大を防ぎます。

支持療法として、百日咳の乳児では、粘液の吸引が重要で、場合によっては酸素投与や気管切開、経鼻気管挿管が必要になることがあります。

咳嗽発作(がいそうほっさ)は、重篤な低酸素症を伴う場合があります。咳嗽発作を引き起こす刺激を最小限に抑えるため、暗く静かな環境を保つことが必要です。

在宅治療が可能な軽症の患者さんにおいては、感染の初期4週間はとくに隔離を維持し、症状が完全に治まるまで隔離を続けることが望ましいです。

抗菌薬治療としては、エリスロマイシンを通常は10〜12.5mg/kgを6時間毎に経口投与し、最大2g/日で14日間続けます。

カタル期に投与すると症状の改善が見込めますが、痙咳期には感染拡大の制限目的で使用されます。

新生児の場合は、アジスロマイシン10〜12mg/kgを1日1回、5日間経口投与されます。

マクロライド系抗菌薬に対して過敏症がある場合や使用できない生後2カ月以上の患者さんには、トリメトプリム/スルファメトキサゾールが代替薬として使用されます。

百日咳は、気管支肺炎や中耳炎などの細菌性合併症を引き起こすことがあり、これらには適切な抗菌薬を使用します。

4.予防


百日咳は感染力が非常に強いため、予防策をしっかりとすることが重要です。
とくに予防接種や、大人による基本的な感染対策が効果的といえます。

<予防接種>

百日咳の予防には予防接種が最も効果的です。

乳幼児期に定期的なワクチンスケジュールに従い、DPTワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)をうけることが必要です。

予防接種は百日咳の重症化を防ぎ、発症リスクを低くします。

大人にも追加接種が推奨されることがあります。妊娠中の方や乳幼児がいるご家族に対して、感染リスクを低減させるためです。

<手洗い・うがい、マスクの使用>

子どもへの感染防止のため、家族や周囲の大人は日常的に手洗いやうがいを徹底することが大切です。

百日咳が流行した場合や、乳幼児がいる環境では、大人がマスクを着用することで飛沫による感染のリスクを減らすことができます。

百日咳の対策は、とくに乳幼児を持つ家庭や保育施設、学校などの集団生活の場で重要です。

5.似ている症状の病気


百日咳に似た症状を示す病気は複数ありますが、それぞれ原因や治療方法が異なります。
咳が続いている場合は早めに呼吸器内科など医療機関への受診を検討しましょう。

以下に、百日咳と似ている病気をご紹介します。

5-1.喘息

喘息は慢性の呼吸器疾患で、空気のとおり道である気道の炎症が主な原因です。
咳、息切れ、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)が特徴的な症状です。
気道の過敏性が高まり、アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)や運動、ストレスなどの刺激によって気道が収縮することで引き起こされます。

治療には吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などの薬物療法が用いられます。

◆「喘息とは?」について詳しく>>

5-2.咳喘息

咳喘息は、喘息の一種で主に持続性の乾性咳嗽(かんせいがいそう:痰を伴わない、乾いた咳)が症状として現れます。
気道の過敏性により、さまざまな刺激が気道収縮を引き起こします。

治療には吸入ステロイド薬や咳抑制薬などが用いられます。

◆「咳喘息」について詳しく>>

5-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエという細菌が原因で起こる肺炎です。

発熱、咳、痰、胸痛などが主な症状で、ときには百日咳のような咳発作を伴うことがあります。

抗菌薬治療が必要で、適切な治療を受けない場合は重症化する可能性があります。

◆「マイコプラズマ肺炎」について詳しく>>

5-4.喘息性気管支炎

喘息性気管支炎は、気管支の慢性の炎症が原因で起こる呼吸器疾患です。

咳、痰、喘鳴など、喘息と似た症状を示します。

治療には吸入ステロイド薬や気管支拡張薬が用いられます。

6.おわりに

咳はさまざまな病気の症状として現れます。風邪と思われる軽い症状でも、咳が激しくなったり長引いたりしている場合は、単なる風邪ではない可能性があります。

咳が続く場合、百日咳の可能性も否定できません。

百日咳は高い感染力を持ち、適切な治療を行わない場合、感染が周囲に広がるリスクがあります。

乳幼児や免疫力が低下している方が周囲にいる場合はとくに注意が必要です。

症状がみられたら、早めに呼吸器内科を受診することが重要です。子どもの場合には、小児科の受診でも問題ありません。

早めの医療機関での診断と治療を心がけ、ご自身だけでなく周囲の方々の健康も守りましょう。

◆「呼吸器内科」について詳しく>>