家に帰ると咳が出る原因と対策について
学校や職場、屋外では咳が出ないのに、「家に帰ってくると咳が出る」または「家以外にも特定の場所に行くと咳がひどくなる」というお悩みはありませんか?
そのような場合、咳の原因は室内環境にあるかもしれません。
この記事では、家に帰ると咳が出る場合に考えられる理由や対処法、疑われる病気、呼吸器内科で行う検査について詳しく紹介します。
家の中で快適に過ごすためにも、まずは室内環境を見直しましょう。
1. 家に帰ると咳がでるのはなぜ?
家に帰ると咳が出る場合、原因として室内の乾燥や温度差、アレルギー、化学物質などが考えられます。
また、喘息などの呼吸器疾患があると夜間に咳が悪化しやすいため、ちょうど家にいる時間帯に咳がひどくなると感じる場合もあります。
【参考文献】”Why Do I Keep Coughing?” by Temple Health
https://www.templehealth.org/about/blog/why-do-i-keep-coughing
1-1.室内が乾燥している
室内の乾燥した空気を吸い込むと、気道(鼻・口から肺まで続く空気の通り道)の粘膜が刺激を受けて咳が出やすくなります。また、口や鼻の粘膜には、外部からの刺激やウイルスから身体を守る役割があります。
粘膜が乾燥すると炎症を起こしやすくなるだけでなく、防御機能が低下してウイルスなどに感染しやすくなります。
気候や暖房機器によって乾燥しやすい冬はもちろん、夏もエアコンをつけっぱなしで寝ると、気づかないうちに空気が乾燥しているということもあります。
1-2.屋外との温度差
帰宅時に、屋内と屋外の温度差が刺激となって咳を誘発することもあります。
また、「寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「アレルギー」という名前ですが、いわゆるアレルギー性疾患ではありません。
寒暖差アレルギーは、約7℃以上の気温差があると自律神経が乱れてしまい、鼻水や鼻づまり、くしゃみ、咳などの症状が出る鼻炎の一種です。屋内と屋外の温度差がある時や、季節の変わり目などに起こります。
自律神経の乱れが原因のため、温度差以外にもストレスやタバコの煙などが原因になることもあります。
※自律神経:呼吸や心拍、体温、消化など、無意識の生命活動を司る神経系。「交換神経」と「副交感神経」の2つがあり、状況に応じてバランスを調整することで健康を維持する。
【参考情報】『寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎)とは』三重県健康管理事業センター
https://www.kenkomie.or.jp/file/newsletter/k_202104.pdf
1-3.アレルギー
人間の身体には細菌やウイルスなどの異物から身体を守るために「免疫」というシステムが備わっていて、ある特定の異物(アレルゲン)に対して免疫が過剰に反応することでアレルギー反応が起こります。
家の中には、ダニやホコリなどのハウスダスト、カビ、ペットの毛、フケなどさまざまなアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が存在しています。このようなアレルゲンはどこの家にも存在するものですが、もともとアレルギー体質の人は特に反応しやすく、咳が出ることがあります。
アレルゲンに対するIgE抗体(アレルギー反応を引き起こす免疫物質)を作りやすい体質の人を「アレルギー素因(アトピー素因)」と言い、気管支喘息やアトピー、食物アレルギー、花粉症などのアレルギー疾患になりやすい傾向にあります。アレルギー素因は遺伝するとも言われています。
ご家族にアレルギー疾患を持っている方がいる場合や、ご自身がアレルギー疾患にかかっている場合は、まずはどのアレルゲンが原因になっているのか病院で検査することをおすすめします。
1-4.化学物質
家の中にある洗剤や柔軟剤、芳香剤、香水、化粧品、家具、ストーブの燃焼ガスなどに含まれる化学物質が原因となって咳が出ることがあります。
化学物質に反応して、咳や頭痛、めまい、吐き気、のどの痛みなど全身に多様な症状を引き起こすことを「化学物質過敏症」と言います。
化学物質は様々な日用品に含まれていますが、特に香りの強いものに注意が必要です。
1-5.喘息などの呼吸器疾患による咳
呼吸器疾患が無くても、夜は自律神経の働きで元々咳が出やすい時間帯です。
交感神経は日中など活動している時に働く神経で、副交感神経は夜間などリラックスしている時に働く神経です。
副交感神経が優位になると、全身の緊張がゆるみ、気管支が狭い状態になって空気が通りにくくなるため、夜間は咳が出やすくなります。
さらに喘息や咳喘息の場合、夜から明け方にかけて咳が悪化しやすい傾向にあります。そのため、「家に帰ると咳が出る」と感じてしまうかもしれません。
喘息や咳喘息の症状や特徴などについては3章で詳しく解説します。
2.家に帰ると咳がでるときの対処法は?
冷えて乾燥した空気やアレルゲン、化学物質など、咳の原因として考えられるのものを取り除くことが大切です。
まずは自分の室内環境を見直してみましょう。
2-1.適切な湿度にする
アレルゲンとなるダニやカビを減らすためには「除湿」が、のどの乾燥を防ぐためには「加湿」が大切です。
現代の建物は、昔に比べて気密性と保湿性が高いため、ダニやカビが発生しやすい状態にあります。
ダニやカビは高温多湿の環境を好み、室温25℃、湿度70%を超えると繁殖が加速すると言われています。そこにダニやカビのエサや養分となる皮脂や食物のカスなどがあると、さらに繁殖スピードは加速します。
増殖を防ぐためには、湿度・温度・栄養分の3つの要素に気をつける必要があります。
乾燥しすぎても咳を誘発してしまうため、湿度は40~60%程度に保ちましょう。
加湿したい場合には、加湿器を使ったり、濡らしたタオルを干したりするのがおすすめです。また、就寝中に空気が乾燥している場合は、マスクを着用することでのどを保湿することができます。
カビを予防するためにも、加湿器やエアコンはこまめに掃除しましょう。
【参考文献】”Caugh” by Penn Medicine
https://www.pennmedicine.org/for-patients-and-visitors/patient-information/conditions-treated-a-to-z/cough
2-2.寒い時期は防寒対策をする
寒い時期は防寒対策をしっかり行い、外から帰った際の温度変化がなるべく小さくなるようにしましょう。
服装としてはマフラーで首周りを温める、カイロを貼る、重ね着や保温性の高い服を着るなどが効果的です。特に季節の変わり目は、出かける時は寒くないと感じても朝晩に冷え込む場合もあるため、帰宅時間にあわせた防寒対策も行いましょう。
家の中でできる対策としては、暖房器具を使うことはもちろんですが、窓からの冷気を防ぐことも有効です。カーテンを厚手のものに変えたり、窓に断熱シートや隙間テープを貼ったりすると暖房効率も良くなります。
2-3.掃除をこまめにする
アレルギーが原因で咳が出ている場合は、こまめに掃除をしてアレルゲンを取り除くことが大切です。
ダニは布団やソファー、カーペットなど布製品に多く、特に寝具は寝ている間の汗によって高温多湿になるため繁殖しやすい場所です。寝ている時間も含めると、家にいる時間の多くを寝室で過ごすという方も多いと思いますので、シーツ交換など寝室環境の見直しを定期的に行いましょう。
ホコリは部屋の隅や家具の隙間、棚の上などに溜まりやすく、人が動くと空気中に舞い上がってしまいます。掃除機をかける際は、排気でホコリが舞い上がってしまわないように、静かにかけましょう。
2-4.生活環境を考える
香りの強い芳香剤や柔軟剤などを使っている場合は、一度無香料のものに変えてみましょう。
それで咳が治まるようであれば、化学物質に反応して咳が出ていた可能性があります。
また、新築やリフォームした後の場合は、化学物質によるシックハウス症候群の可能性もあります。シックハウス症候群とは、建材や家具などから揮発した化学物質やハウスダストなどが原因となって、頭痛やめまい、鼻づまり、咳などの症状が出る状態のことです。
建材や家具に蓄積した化学物質を除去するためには、こまめに換気を行うことが有効だと言われています。
【参考情報】『科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000155147.pdf
3. 対策しても効果がないときに考えられること
室内環境の見直しを行っても咳が改善しない場合、喘息や咳喘息などの慢性呼吸器疾患、花粉症などの可能性があります。
咳が長引いている場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。
3-1.喘息
喘息は慢性的に気道に炎症が生じることで狭くなり、発作的に咳や呼吸困難、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような呼吸音である喘鳴(ぜんめい)などの症状が現れる病気です。
アレルゲン、タバコ、風邪などの呼吸器感染症、肥満、運動、気温や気圧の変化などさまざまな刺激がきっかけとなって発作が起こります。
喘息の場合、市販薬では治らないだけでなく、「アスピリン喘息(解熱鎮痛剤や風邪薬に含まれるアスピリンやその類似物質に反応して起こる喘息)」を発症し悪化してしまう危険性もあります。
「2週間以上咳が続いている」「夜から明け方にかけて咳がひどくなる」などがあれば、呼吸器内科を受診しましょう。
3-2.咳喘息
咳喘息は咳だけが長期間(8週間)続き、喘鳴がみられない状態のことです。
喘息の前段階の状態で、治療せずに放置していると約30%は喘息に移行すると言われています。
本格的に喘息に移行する前に治療をすることが大切ですので、2週間以上咳が続いている場合は呼吸器内科を受診しましょう。
3-3.アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、花粉やハウスダストなどのアレルゲンが原因で鼻の粘膜に炎症が起こり、鼻水や鼻づまり、咳などの症状が現れる病気です。
ハウスダストなどが原因で1年を通して症状が出る「通年性アレルギー性鼻炎」と、花粉が飛散する季節にだけ症状が出る「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」に分けられます。
花粉症の場合は、帰宅時に服や髪に付着した花粉をしっかり落としてから家に入るなどの対策を行いましょう。
早期に治療を開始することで効果が出やすくなりますので、「毎年のことだから」とあきらめずに、花粉症に悩んでいる人は一度受診してみることをおすすめします。
【参考文献】”When to Go to a Doctor or Urgent Care for a Cough” by UnityPoint Health
https://www.unitypoint.org/news-and-articles/when-to-go-to-a-doctor-or-urgent-care-for-a-cough
4. 呼吸器内科でおこなう検査
咳の原因を調べるために、呼吸器内科では次のような検査を行います。
咳は様々な病気で見られる症状のため、原因を特定し、それに合わせた治療を行うことが大切です。
4-1.画像検査
呼吸器内科で行う画像検査として、胸部X線検査(レントゲン)や胸部CT検査があります。
X線検査は、胸部にX線(放射線)を照射して肺の異常を確認する検査です。肺炎や肺がん、COPD、肺結核、気胸、肺水腫などの診断に役立ちます。
CT検査は、全方向からX線を照射して身体の断面を画像化する検査です。心臓の影などX線検査では重なってしまって見えにくい部分も映し出すことができます。
4-2.血液検査
血液検査では、炎症やアレルギーの有無を調べます。
アレルギーによって咳が出ている場合、アレルゲンを特定することが大切です。
血液検査でIgE値(アレルギーを起こしやすい体質かどうかを調べる指標)や、アレルゲンを調べることができます
4-3.呼吸機能検査
呼吸機能検査は、喘息などの慢性呼吸器疾患が疑われる場合や、その治療効果を確認するために行う検査です。
「スパイロメトリー」や「モストグラフ」、「呼気一酸化窒素濃度測定(FeNO)」などの種類があり、気道の状態や肺機能を調べるのに役立ちます。
※スパイロメトリー:肺の容量や呼吸機能の状態を調べる検査
※モストグラフ:気道の狭まりを調べる検査
※呼気一酸化窒素濃度測定(FeNO):吐いた息に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測り、気道の炎症を調べる検査
【参考文献】”What are pulmonary function tests?” by Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/treatment-tests-and-therapies/pulmonary-function-tests
5.おわりに
家に帰ると咳が出る場合、原因として室内の乾燥や温度差、アレルギー、化学物質などが考えられます。
生活環境を見直して、冷えて乾燥した空気やアレルゲン、化学物質など、咳の原因として考えられるものを取り除きましょう。
生活環境を見直しても咳症状が改善しない場合、喘息や咳喘息などの呼吸器疾患の可能性もあります。
早めに治療を開始することが大切ですので、2週間以上咳が続く場合は一度呼吸器内科を受診しましょう。