赤ちゃんの喘息
赤ちゃんの喘息に悩む保護者の方にとって、お子さまの喘息の症状は心配でご不安にちがいありません。
小さなからだで息苦しそうにしている姿を見ると、どうしてあげたら良いのか、戸惑ってしまうことも多いでしょう。
喘息は赤ちゃんの気道が狭くなることが原因で、呼吸が苦しくなったり咳がでたりする症状があらわれます。
適切な治療や管理をおこなえば症状は抑えることができ、成長とともに改善することが多いです。
この記事では、赤ちゃんの喘息について、原因や症状、効果的な治療法、日常生活でできるアレルギー対策など、保護者の方が安心して対処できるようご説明いたします。
1.乳幼児喘息とは?
乳幼児喘息とは、5歳未満の赤ちゃんや幼児にみられる喘息のことをいいます。
気道が炎症を起こし、空気の通り道が狭くなることで、呼吸が苦しくなったり、ゼーゼー、ヒューヒューといった特徴的な呼吸音(喘鳴:ぜんめい)を伴ったりする病気です。
小児気管支喘息患者さんの約60%は、2歳までに初めて症状が現れると言われており、この時期からの適切な管理や治療が、そのあとの病気の進行に大きな影響を与えます。
一方で、2歳未満の赤ちゃんは、ほかの病気によっても喘息のような症状になることがよくあります。
風邪やウイルス感染、クループ症候群などが原因で、喘息のような症状が出るため、小児科医でも診断が難しい場合があるのも事実です。
そのため、乳幼児期に喘息の兆候が見られた場合は、専門医による詳しい診察が重要だといえます。
早期に適切な治療を行うことで、症状のコントロールが可能になり、赤ちゃんの成長とともに改善していくことが期待できます。
【参照文献】『赤ちゃんとぜん息』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/kodomonozensoku/akachan.html
【参考文献】”Asthma in Infants” by Asthma and Allergy Foundation of America
https://aafa.org/asthma/living-with-asthma/asthma-in-infants/
2.赤ちゃんの喘息の症状
赤ちゃんは言葉で自分の苦しさを訴えることができないため、保護者の方が赤ちゃんの様子をしっかりと観察し、息苦しさのサインに気づくことがとても大切です。
次のような症状が見られた場合には、喘息の症状である可能性があります。
①母乳やミルクを飲まなくなる
赤ちゃんが呼吸しにくさを感じていると、母乳やミルクを飲んでいる最中に息をすることが難しくなります。そのため、飲む量が減ったり、まったく飲まなくなることがあります。
②咳き込んで眠れない
夜間に咳がひどくなり、しっかりと眠れない場合があります。
③唇や顔色が悪くなる
酸素が十分にからだに行き渡っていない場合、唇や顔が白っぽくなったり、青紫色に変わることがあります。
④機嫌が悪くなる、興奮して泣き叫ぶ
赤ちゃんが息苦しさを感じると、不機嫌になり、興奮して泣き叫ぶことがあります。
普段とは違う泣き方をする場合、注意が必要です。
⑤激しく咳き込み、ときにおう吐する
咳が止まらず、強い咳き込みが続く場合、息ができなくなっておう吐することがあります。
⑥呼吸が速い、荒い
呼吸が普段よりも速く、浅く荒くなっている場合は、呼吸困難のサインです。
⑦息を吐くときに、強いヒューヒュー、ゼーゼー、ゼロゼロやうなり声が聞かれる
喘息による気道の狭さが原因で、呼吸音が目立つようになります。
とくに息を吐くときに音が強くなることが特徴です。
⑧息を吸うとき、喉や肋骨の間などがはっきりとへこむ、小鼻が開く
呼吸が苦しくなると、赤ちゃんは大きく息を吸い込もうとします。
このとき、喉や肋骨の間、胸がへこんだり、小鼻が広がったりする様子が見られることがあります。服を脱がせて胸の動きを観察するとわかりやすいです。
⑨胸の動きがいつもと違う
赤ちゃんの胸が呼吸に伴っていつもと異なる動きをしている場合、服を脱がせて観察し、異常があれば早めに医療機関を受診しましょう。
【参照文献】『小児喘息治療・管理ガイドライン 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン 2020』日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/assets/documents/childhood-asthma-guideline.pdf
【参考文献】”Asthma in Babies and Children” by Allergy &Asthma Network
https://allergyasthmanetwork.org/what-is-asthma/asthma-in-babies-and-children/
3.赤ちゃんの喘息、ほぼアレルギーが原因
赤ちゃんの喘息の原因は、遺伝的要因と環境的要因が関わっているとされています。
ただし、赤ちゃんの喘息は、多くの場合アレルギーが主な原因です。もし家族の方にアレルギーや喘息の方がいる場合、赤ちゃんも影響を受けやすくなります。
アレルギーは、からだの免疫システムが通常は無害な物質(アレルゲン)に過剰に反応することで起こります。免疫システムがアレルゲンに反応すると、気道に炎症が生じ、喘息の症状が引き起こされます。
アレルゲンには、ダニ、花粉、ペットの毛、特定の食物などがあります。これらが体内に入ると免疫反応が引き起こされるのです。
免疫反応により気道が狭くなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴や呼吸困難が発生します。とくに夜間や早朝に症状が悪化しやすいのが特徴です。
赤ちゃんの気道の場合、気道が大人よりも狭いためわずかな炎症でも敏感に反応し、喘息の発作を起こしやすくなります。気道が過敏になっていることに加え、アレルギー反応が喘息を悪化させる要因のひとつとなります。
ダニやハウスダスト、ペットの毛などのアレルゲンが多い環境にいると、喘息の発作が誘発される可能性が高まります。
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎を持つ赤ちゃんは、アレルギー型喘息を発症するリスクが高く、学童期まで持続する場合があります。このため、早期からの適切な管理が重要です。
4.赤ちゃんの喘息の診断と治療
赤ちゃんの喘息は診断が非常に難しい病気のひとつです。
とくに2歳未満の乳幼児では、風邪やほかの呼吸器感染症でも喘息と似たような症状が現れるため、「喘息」と断定するのが難しいことがよくあります。
赤ちゃんはゼーゼー、ヒューヒューとした呼吸音を伴うことがありますが、必ずしも喘息とは限らないため、小児アレルギー専門医の経験に基づいた診断が必要です。
2~3歳までの乳幼児もまた、大人と比べると気管支が狭いため、下気道(気管・気管支・細気管支)感染時には喘息と似たような症状を起こすことが少なからずあり、喘息との線引きは、専門医でも困難なことがあります。
診断を行う際に医師は、赤ちゃんの症状がどれくらいの期間続いているのか、発作が繰り返されているか、症状が発作的に夜間・早朝に起こるか(症状があるときとないときがはっきりしているか)、家族のアレルギー歴・喘息の有無など、さまざまな要因を考慮して診断を行います。
乳幼児喘息を診断する際の重要な判断材料は以下です。
・24時間以上続く「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音(呼気性喘鳴:息を吐くときに聞こえる喘鳴)の状態が3回以上ある。
・症状が出ている状態の間に1週間以上の無症状期間がある。
・気管支拡張薬の吸入後に症状の改善が見られる。 さらに、家族にアレルギーや喘息の既往がある。
赤ちゃんの喘息が早期に診断された場合、そのあとの治療や予防が症状の重症化を防ぐために重要です。
赤ちゃんの生活環境を整え、適切な治療を行うことで、喘息の管理がしやすくなります。治療の基本方針は、赤ちゃんが過ごす環境の整備と薬物療法です。環境整備については、後述いたします。
薬物療法では、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬、抗アレルギー薬が使用されます。
吸入ステロイド薬は気管支の炎症を抑えるための基本的な治療法であり、赤ちゃんには吸入補助器具(スペーサー)を用いて投与されます。
気管支拡張薬は、発作時に使用されるもので、気道を広げて呼吸を楽にします。
抗アレルギー薬は、アレルギー反応を抑える目的で内服薬として処方されることがあります。こうした治療を組み合わせ、赤ちゃんの喘息症状をコントロールしていきます。
なお、2歳くらいまでの乳幼児期は、「喘息」という診断にこだわらないことも大切です。
この時期の喘鳴の多くは、ウイルスなどによる感染性の気管支炎が原因であり、必ずしもアレルギー性の喘息とは限りません。
そのため、症状に応じた適切な治療を行いながら、成長に伴って喘息の診断や治療方針を見直すことが必要です。
【参考文献】”Treating asthma in children under 5” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/childhood-asthma/in-depth/asthma-in-children/art-20044376
5.アレルギーによる喘息の悪化を防ぐ対策
赤ちゃんの喘息を悪化させないためには、生活環境からアレルゲンをできる限り排除することが大切です。
アレルゲンを減らすことで、気道の炎症を防ぎ、喘息発作を予防することができます。
まず、ダニ対策が非常に重要です。ダニは家庭内でよく見られるアレルゲンのひとつで、とくに寝具に多く存在します。
週に1回以上、シーツや枕カバーを洗濯し、可能であれば高温で乾燥させるのがおすすめです。また、ダニを寄せ付けにくい高密度繊維のカバーを使用することで、ダニの繁殖を抑えることができます。
次に、ハウスダスト対策として、こまめな掃除と換気が不可欠です。
床や家具に溜まったホコリがアレルギーの原因となるため、定期的に掃除機をかけ、赤ちゃんが過ごす部屋の清潔を保ちましょう。
また、室内の換気を行うことで、空気中のハウスダストやアレルゲンを外に逃がすことができます。
毛のあるペットを飼っているご家庭では、ペットの毛やフケ対策も必要です。ペットの毛やフケが喘息を悪化させる原因となることがあるためです。
可能であれば、赤ちゃんの生活空間からペットを遠ざけるように心がけましょう。定期的なペットのグルーミングや、ペット専用の清潔なスペースを確保することも有効です。
カビ対策としては、湿気の多い場所を定期的に清掃し、湿度を適切に保つことが重要です。
とくに浴室や台所など、カビが繁殖しやすい場所の清掃を徹底しましょう。カビはアレルギーを引き起こす強力な要因です。湿気を防ぐために除湿機の使用や換気をするのがいいでしょう。
空気清浄機の設置も喘息対策のひとつです。空気清浄機は空気中のダニ、ハウスダスト、花粉などのアレルゲンを効果的に除去するため、喘息の症状を緩和する手助けになります。
とくに赤ちゃんが長時間過ごす寝室やリビングに空気清浄機を設置することで、アレルゲンの蓄積を防ぐことができます。
また、タバコの煙を避けることは、喘息の悪化を防ぐために非常に重要です。家庭内ではもちろん、屋外でも赤ちゃんがタバコの煙にさらされないよう注意が必要だといえます。
家族の中で喫煙者の方がいる場合は、禁煙を検討するか、少なくとも赤ちゃんの周囲で喫煙しないよう徹底することが求められます。
これらの対策を日常生活に取り入れることで、赤ちゃんの喘息を効果的に管理し、症状の悪化を防ぐことができます。
環境を整えることは、喘息治療の一環として非常に重要であり、家族全体で協力して実践していくことが大切です。
【参考文献】”Childhood asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/childhood-asthma/symptoms-causes/syc-20351507
6.乳幼児喘息と似ている病気
赤ちゃんの喘息は、ほかの呼吸器系の病気と症状が似ているため、診断には注意が必要です。
ここでは、乳幼児喘息と間違えやすい病気をいくつかご紹介しましょう。
6-1.喘息性気管支炎
喘息性気管支炎は、気管支に炎症が起こり、喘息に似た症状を引き起こす病気です。とくに赤ちゃんや幼児に多く見られる病気で、主な原因はウイルス感染です。
喘息性気管支炎の特徴的な症状としては、以下のものがあります。
・咳が続く:特に夜間に咳がひどくなり、発作的に出ることがあります。
・呼吸が苦しそうに見える:喘息と同様に、呼吸時にゼーゼーやヒューヒューという音がすることが多いです。
・熱を伴う場合もある:喘息とは異なり、感染が原因となっているため、熱が出ることもあります。
喘息性気管支炎は、ウイルス感染が原因のため、対処法としては主に感染予防が重要です。適切な治療を受けることで症状は改善しますが、喘息に発展することもあります。
【参考文献】”Asthmatic bronchitis” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3283880/
6-2.クループ症候群
クループ症候群は、赤ちゃんや幼児の声帯や喉頭に炎症が起こる病気で、喘息とよく似た咳や呼吸困難を引き起こします。主に風邪のウイルスが原因で、特に秋から冬にかけて発症しやすいです。
クループ症候群の症状の特徴は以下のようなものがあります。
・犬が吠えるような咳:喘息のような息苦しさとともに、特徴的な「犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)」が見られます。
・呼吸困難:息を吸う時に喉が詰まったような音がします。
・発熱:軽度から中度の熱が出ることがあり、体調が悪化します。
クループ症候群は、風邪のウイルスが原因で起こることが多いですが、重症化すると呼吸困難が悪化し、緊急の治療が必要になる場合もあります。発症した場合は、病院での適切な治療が必要です。
医師は、喘息とクループ症候群を鑑別するために、聴診(吸気性喘鳴か呼気性喘鳴か)や喘鳴が強い部位などを参考に診断していますが、繰り返している場合は、喘息発作である可能性も高いです。繰り返す場合は、専門医の受診を検討いただいたほうがいいでしょう。
【参考文献】”Croup” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/croup/symptoms-causes/syc-20350348
6-3.ピーナッツの誤飲
赤ちゃんがピーナッツやナッツ類のような小さなものを誤って飲み込むことでも、喘息に似た咳や呼吸困難が引き起こされることがあります。
これは誤嚥(ごえん)と呼ばれる現象で、異物が気管に入ることで気道が狭くなり、息苦しさを引き起こします。
ピーナッツの誤飲は、以下のような症状を引き起こします。
・激しい咳:気道を確保しようとして、咳が止まらなくなることがあります。
・呼吸が苦しい:ピーナッツなどの異物が気道に詰まることで、呼吸が苦しくなり、ゼーゼー音が出ることがあります。
・窒息のリスク:場合によっては、呼吸が完全にできなくなることがあり、緊急の対応が必要です。
ピーナッツなどの豆類は、とくに5歳以下のお子さまには窒息のリスクが高いため、与えないようにしましょう。
消費者庁も「食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意!」という警告を出しており、誤飲事故には十分な注意が必要です。
[参考情報]:「食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!」消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_047/
7.おわりに
赤ちゃんの喘息は、適切な診断と治療を受ければ、成長とともに改善することが多い病気です。一方で、治療しない場合は小児喘息へ移行し、症状が悪化することもあります。
赤ちゃんに喘息の症状がある場合は、早めに医師に相談し、治療と生活環境の改善を行うことが大切です。
また、アレルギーが喘息の主な原因である場合、家庭でのアレルゲン対策をしっかり行い、赤ちゃんの生活環境を整えることが症状の予防につながります。
乳幼児期は、からだが発達する非常に大切な時期です。この時期の赤ちゃんや子どもは、まだ自分で症状をうまく伝えることができないため、保護者の方の適切な観察と対応が必要であるといえます。
医師と連携しながら赤ちゃんの健康を守りましょう。