誤嚥性肺炎の基本知識
誤嚥性肺炎は高齢者に多く、主に口の中の細菌が肺に入り込むことで起こる肺炎です。
2022年度では死因の第6位となっており、予後不良の傾向にあります。
一度治っても繰り返すことが多いため、肺炎の治療に加えて誤嚥予防も重要となります。
この記事では誤嚥性肺炎の症状、検査、治療、予防方法について詳しく解説しています。
1.誤嚥性肺炎の特徴
誤嚥性肺炎とは、加齢による全身機能の低下(フレイル)に伴う嚥下機能障害によって生じる肺炎のことです。
「誤嚥」とは、食べ物や唾液など、本来口から食道に入るべきものが気管や肺に入ってしまうことを指します。
通常であれば肺は無菌状態ですが、次のようなものが入り込むことで肺炎を起こします。
①飲食物
②細菌を含んだ唾液などの分泌物
③胃食道逆流による胃酸などの胃内容物
:胃酸により科学的に気道粘膜を損傷するため
気管に食べ物などが入ってしまった場合、健康な人であれば反射的にむせて気管から排出しようとします。
しかし、加齢などで嚥下機能が低下していると気管に入った異物をうまく排出できず、結果として肺炎を起こすことがあります。
また、食事中以外に唾液を誤嚥してしまうことも誤嚥性肺炎の原因となります。
特に就寝中に唾液を誤嚥する場合が多く、気づきにくいため「不顕性誤嚥」と呼びます。
高齢以外にも、低栄養状態、脳血管障害、認知症、寝たきりなどの要素があると誤嚥性肺炎を起こしやすい傾向にあります。
【参考情報】『誤嚥性肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-12.html
2.誤嚥性肺炎の症状
肺炎の典型的な症状としては、発熱、咳、膿のような痰などがあります。
しかし高齢者の場合、典型的な肺炎の症状は現れにくく、次のような症状が見られることもあります。
・普段より元気がない
・呼吸が浅く速い
・ぼんやりしている
・体がだるい
・食欲がない
・せん妄を起こす
高齢のご家族にこのような症状がある場合は、一度かかりつけ医に相談しましょう。
【参考文献】”What is Aspiration Pneumonia?” by Penn Medicine
https://www.pennmedicine.org/for-patients-and-visitors/patient-information/conditions-treated-a-to-z/aspiration-pneumonia
3.誤嚥性肺炎の診断・検査
寝たきりの高齢者などで肺炎の症状が見られた場合、誤嚥性肺炎が強く疑われます。
誤嚥性肺炎の診断のためには、聴診や血液検査、胸部X線検査、胸部CT検査、などを組み合わせて行います。
・聴診:呼吸音や肺の状態、肺炎の進行状況を確認するために行います。肺炎の初期段階では「ゴロゴロ」という水泡音が聞こえ、初期段階を過ぎると「プツプツ、パチパチ」のような捻髪音が聞こえます。
・血液検査:肺炎を起こすと炎症反応を示すCRP白血球の数値が上昇します。
・胸部X線検査(レントゲン):肺に炎症が起こっている場合、レントゲンで白い影が見られます。
・CT検査:レントゲンでは見えにくい小さな病変も見ることができます。
また、入院治療が必要かなどを判断するために、検査の結果から肺炎の重症度判定が行われることもあります。
ただし、唇や手足が青くなるチアノーゼや、意識レベルの低下、ショック状態にある場合は検査の結果に関係なく重症と判定されます。
4.誤嚥性肺炎の治療
誤嚥性肺炎の治療としては、主に抗菌薬の投与が行われます。
誤嚥性肺炎の原因となる菌は、酸素が少ない条件下で増殖しやすい「嫌気性細菌」です。
そのため、肺炎が進行することで肺内の酸素量が減り、嫌気性細菌が活動しやすい状況を作ってしまうという悪循環が発生します。
この悪循環を改善するためにも、必要に応じて酸素投与が行われることもあります。
また、呼吸状態や全身状態が悪化して重症の肺炎と判定される場合や、基礎疾患がある場合は入院治療が必要になることもあります。
抗菌薬は肺炎の治療としては有効ですが、誤嚥を防ぐ方法を考えなければ繰り返してしまう可能性があります。
5. 誤嚥性肺炎の予防方法
誤嚥性肺炎の予防として、口腔ケア、嚥下指導、内服薬の確認などを行います。
また、誤嚥を防ぐためには嚥下訓練や、嚥下機能に合わせた食事形態を選択する必要があり、嚥下機能検査はそれらの判断材料として役立ちます。
5-1.嚥下機能検査
嚥下機能を評価する検査にはいくつか種類があります。
専門機器を使用せずにできる検査として、「反復唾液嚥下テスト」「改訂版水飲みテスト」「フードテスト」などがあります。
反復唾液嚥下テストでは、30秒の間に唾液を何回飲み込めるか計測し、2回以下の場合は嚥下障害の可能性が高いと判断します。
反復唾液嚥下テストで問題が見られない場合は改訂版水飲みテスト、次にフードテストのように、段階的に嚥下状態を調べていきます。
さらに詳細な検査が必要な場合は、専門機器を用いて「嚥下造影検査」や「嚥下内視鏡検査」を行う場合もあります。
嚥下造影検査では、検査用の食べ物を飲み込んでもらい、その様子を目視やレントゲンで確認することで嚥下の状態をより正確に把握することができます。
5-2.口腔ケア
口腔ケアには、口腔内を清潔に保つ「器質的口腔ケア」と、嚥下に使われる口周辺の筋肉を維持するための「機能的口腔ケア」があります。
万が一誤嚥してしまっても誤嚥性肺炎を起こしにくくするためには、器質的口腔ケアで口腔内の細菌をできるだけ減らすことが重要になります。
加齢により唾液分泌が少なくなると、口腔内が乾燥して自浄作用が低下し、汚れが付きやすい状態になります。
また、認知症や寝たきりの患者さんで歯磨きが不十分だと、歯の表面を細菌の塊であるバイオフィルムが覆ってしまうこともあります。
もし食事を経口摂取していない場合でも、唾液を誤嚥してしまう可能性はありますので、やはり口腔ケアが大切です。
【参考情報】『肺炎予防と口腔ケア』日本内科学会雑誌第103巻第11号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/103/11/103_2735/_pdf
機能的口腔ケアでは、口の体操や嚥下訓練などで口腔機能の維持・向上を図ります。
口周囲の筋肉や舌を動かすことで、筋肉や脳が刺激され、低下していた口腔機能が回復することもあります。
5-3.嚥下指導
嚥下指導として、食べる前の準備体操や、誤嚥しにくい食事姿勢を保つように支援を行います。
誤嚥が心配な方や、高齢の方がいるご家族は、食事の時に次のような姿勢が取れているか見直してみましょう。
・顎は引き気味
・背中は座面に対して90度
・テーブルの高さは腕を乗せて、肘が90度に曲がるくらい
・体とテーブルのあいだに拳1つ分くらいの隙間
・イスの座面の高さは膝が90度に曲がるくらい
・足の裏が床または足置きについている
嚥下訓練の内容は他にも様々なものがありますので、気になる方は調べて実践してみましょう。
5-4.薬の確認
誤嚥が疑われる場合、嚥下機能に影響を及ぼす薬を内服していないか確認する必要があります。
精神神経系に働く薬や筋弛緩作用のある薬などは、鎮静作用や嚥下に関わる筋肉の動きを鈍くしてしまうこともあるため注意が必要です。
また、嚥下指導だけでは改善しない場合は、ACE阻害薬などの薬を使って嚥下反射の改善を図ることもあります。
5-5.予防接種
誤嚥性肺炎の原因菌は様々なので、予防接種で完全に予防することはできません。
しかし、肺炎球菌ワクチンやBCGワクチンなどを接種することで、ある程度は誤嚥性肺炎を予防することができます
【参考情報】『高齢者誤嚥性肺炎の現状と対策』老年医学会雑誌第47巻号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/6/47_6_558/_pdf/-char/en
6.おわりに
誤嚥性肺炎は高齢者に起こりやすい病気です。
しかし、高齢のご家族を支える方はもちろん、いずれ自身に起こる可能性もあるため、誤嚥性肺炎について理解し予防していくことが大切です。
誤嚥性肺炎はその後のQOL低下にも繋がるため、楽しく食事を続けるためにも、日頃から口腔ケアを徹底し、口腔機能を維持しましょう。