むせるような咳が出る理由と、疑われる病気とは

咳は体に必要な反応ですが、むせるような咳が出ると息苦しく心配になりますよね。
むせるような咳が出る原因は、感染症やアレルギー、脳神経疾患などさまざまです。
今回の記事では、むせるような咳が出る理由と疑われる病気について解説します。
受診する科を選ぶポイントも紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
1.むせるような咳が出るのはなぜ?
むせるような咳は、のどや気管に異物が入り込んだり、粘膜が刺激を受けたりした際に発生します。
咳の役割は、気道をきれいに保つために、異物や不要な分泌物を排除することです。
特にむせるような咳は、体がすばやく異物を排除しようとしているため、強い咳込みとしてあらわれます。
むせるような咳が起こる原因として、以下のような病気が考えられます。
・感染症
・アレルギー
・耳鼻科疾患
・のどの筋力低下
・脳神経疾患
・逆流性食道炎
・心因性咳嗽
また、病気以外にも以下のような状況は、強いむせを引き起こす原因です。
・辛いものや酸っぱいもの、粉っぽいものを食べたる
・冷たい空気を吸い込む
・興奮して笑いすぎる
しかし、これらは一時的なのどへの刺激が原因のため続くことはなく、すぐにおさまるでしょう。
【参考情報】『咳嗽に関するガイドライン (第2版)』日本耳鼻咽喉科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/3/119_157/_pdf/-char/ja
【参考情報】”Four types of coughs and when to seek treatment” by AllinaHealth
https://www.allinahealth.org/healthysetgo/heal/4-types-of-coughs-and-when-to-seek-treatment
2.急激にむせるような咳が出る病気について
急激にむせるような咳が出る場合、以下のような呼吸器の感染症が考えられます。
・気管支炎、肺炎
・新型コロナウイルス感染症
・マイコプラズマ肺炎
・百日咳
それぞれの感染症について解説します。
2-1.気管支炎、肺炎
気管支炎と肺炎は、気管や肺に炎症が起きることで発症する病気です。
共通する部分も多いため、似ている病気と思われている方も多いですが、症状や原因には違いがあります。
【気管支炎】
気管支と呼ばれる肺へ空気を運ぶ通路に炎症が起こる病気です。
ウイルスや細菌による感染が原因で、風邪やインフルエンザが引き金となるケースが多いです。喫煙や空気中の汚染物質もリスクを高めます。
主な症状は、乾いた咳や痰を伴う咳、発熱、のどの痛み、軽い息切れなどです。咳は、むせるような咳が出るケースもあり、数週間続くことがあります。
【参考情報】”Bronchitis” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bronchitis/symptoms-causes/syc-20355566
【肺炎】
肺炎は、肺の奥にある肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する小さな袋状の構造)に炎症が起こる病気です。
気管支炎よりも重症化しやすく、高齢者や免疫力が低下している人に多く見られます。原因は細菌、ウイルス、真菌など多岐にわたります。
主な症状は、高熱や咳、息苦しさ、胸の痛み、全身のだるさなどです。場合によっては呼吸困難が生じることもあります。
咳は、痰が多く出る場合があり痰の排出のために、むせるような咳が出ます。
【参考情報】”Pneumonia” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pneumonia/symptoms-causes/syc-20354204#:~:text=Pneumonia%20is%20an%20infection%20that,and%20fungi%2C%20can%20cause%20pneumonia
2-2.新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が呼吸器に感染し引き起こす病気です。
2020年に世界的な流行を引き起こし、パンデミックが宣言され、多くの人々の生活に影響を与えました。
軽症の場合の症状は発熱、咳、のどの痛み、全身のだるさ(倦怠感)など風邪に似た症状が多いです。
しかし、高齢者や基礎疾患を持つ方では重症化するリスクが高く、呼吸困難や肺炎を起こし、命に関わる場合があります。
咳は、「痰が絡む場合」と「痰が絡まない場合」があります。
また、むせるような咳が出るケースもあり、咳だけでは風邪か新型コロナか判断は難しいでしょう。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症について』横浜市
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/yobosesshu/kansensho/coronavirus/covid-19_shimin.html
【参考情報】”Coronavirus disease 2019 (COVID-19)” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/coronavirus/symptoms-causes/syc-20479963
2-3.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニア」という細菌が引き起こす肺炎です。
この細菌は一般的な肺炎の原因菌とは異なり、細胞壁を持たない特殊な構造を持っています。
そのため、特定の抗生物質でないと治療が難しいのが特徴です。
マイコプラズマ肺炎の症状は、風邪に似た軽いものから始まることが多いです。
適切な治療を受ければ、軽症から中等症で済むことが多い感染症ですが、重症化すると入院治療が必要なケースもあります。
主な症状は、乾いた咳、発熱、倦怠感などです。
むせるような咳が出ることもあり、咳の症状が長引くのもマイコプラズマ肺炎の特徴です。
【参考情報】『マイコプラズマ肺炎』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html
【参考文献】”About Mycoplasma pneumoniae Infection” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/mycoplasma/about/index.html
2-4.百日咳
百日咳(ひゃくにちぜき)は、「百日咳菌」という細菌が原因で発症する感染症です。
この病気は、特徴的な長引く咳が見られることからこの名前が付けられています。特に乳幼児では、重症化することがあり注意が必要です。
初期の場合、微熱程度の発熱や軽い咳、鼻水など、風邪のような症状から始まります。
徐々に咳の症状が強くなり、むせるような激しい咳が連続し、息を吸うときに「ヒュー」という音が出ます。
特に夜間に咳がひどくなる傾向で、数週間から数か月続く場合があります。
【参考文献】”Whooping cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/whooping-cough/symptoms-causes/syc-20378973
3.むせるような咳が続く病気とは?
むせるような咳が続く場合、以下のような病気が考えられます。
・感染症以外の呼吸器疾患
・アレルギー疾患
・耳鼻咽喉科系の疾患
・のどの筋力低下
・脳や神経の疾患
・胃食道逆流症
・心因性咳嗽
それぞれ解説します。
3-1.感染症以外の呼吸器疾患
「急激にむせるような咳が出る病気について」で挙げた病気と感染症以外にも、むせるような咳が続く病気があります。
・喘息
◆「喘息」について詳しく>>
・咳喘息
◆「咳喘息」について詳しく>>
・COPD
◆「COPD]について詳しく>>
・肺がん
◆「肺がん」について詳しく>>
・気管支拡張症
◆「気管支拡張症」について詳しく>>
これらの病気は、むせるように咳が出ますが、感染症ではないため人にうつりません。
慢性的に咳が続くのが特徴のため、継続的な治療が必要です。
【参考情報】”Infections in “Noninfectious” Lung Diseases” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4200575/
3-2.アレルギー疾患
花粉症やアトピー咳嗽などのアレルギー疾患でも、むせるような咳があらわれます。
のどの違和感やイガイガする感覚があり、痰が絡まない乾いた咳が特徴です。
いずれも、抗ヒスタミン薬を使い、アレルギー反応を抑える治療が行われます。
【参考情報】”Are Allergies Causing Your Cough?” by Temple Health
https://www.templehealth.org/about/blog/allergies-vs-chronic-cough#:~:text=Signs%20your%20cough%20is%20from%20allergies&text=Postnasal%20drip%20is%20when%20mucus,thicker%20mucus%20to%20be%20produced
3-3.耳鼻咽喉科系の疾患
むせるような咳は、鼻炎や副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科系の病気でも起こります。
後鼻漏(こうびろう)と呼ばれる、のどに鼻水が流れ込む状態を引き起こし、むせるような咳を誘発します。
痰が絡む湿った咳が特徴です。
【参考情報】”Nonallergic rhinitis” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/nonallergic-rhinitis/symptoms-causes/syc-20351229
3-4.のどの筋力低下
のどの筋力が低下すると、嚥下機能が衰え、誤嚥を起こします。嚥下機能とは、食べ物や飲み物、唾液など、口の中の物を飲み込む力です。
この力が衰えると、誤嚥(ごえん)が起き、むせて咳き込んでしまいます。
誤嚥は筋力が低下した高齢者に生じやすく、繰り返すと肺炎を起こす可能性があり注意が必要です。
3-5.脳や神経の疾患
脳梗塞やパーキンソン病で神経に障害が生じると、うまく物を飲み込めず誤嚥を起こします。
誤嚥をしていると、食後にむせたり、痰が絡んだ咳が出たりするケースが多くあります。
これは誤嚥の可能性を示しており、続いている場合には早めに医療機関を受診しましょう。
先述したように、誤嚥は繰り返すと誤嚥性肺炎を起こします。
【参考情報】”Risk and mortality of aspiration pneumonia in Parkinson’s disease: a nationwide database study” by National Insitutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7988066/
3-6.胃食道逆流症
胃食道逆流症では、胃液や胃の内容物が食道に逆流し、気管支やのどが刺激されて咳が出る状態です。
むせるような空咳が出やすく、長引くのが特徴です。
咳以外には、胸やけや胸の痛みがあらわれます。
【参考情報】”Gastroesophageal reflux disease (GERD)” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gerd/symptoms-causes/syc-20361940
3-7.心因性咳嗽
ストレスや心理的なものが要因となり引き起こされる咳は、心因性咳嗽(がいそう)と呼ばれます。
これは、呼吸機能に異常がなく、発熱や痰などの感染症状がない場合に考えられる咳です。
ストレスの多い現代社会では、子どもから大人まで心因性咳嗽を発症する可能性があります。
一時的に咳止めが効くケースもありますが、根本的な解決ではありません。
ストレスの解消や周囲の精神的なサポート、環境の調整などによって咳が軽減するケースがあります。
しかし、ストレスが多く咳が続いている場合には、精神科や心療内科の受診をしましょう。
むせるような咳嗽はつらい症状であることが多いです。
重篤ではない上気道感染でも病状経過の急性期ではおこりうる症状ですが、長引く症状の場合は追加の病態を想定する必要があります。
頻度で多いのは気管支喘息、逆流性食道炎の順です。
ただ対症療法を漫然と行うだけではなく原因を同定しにいくような診断治療戦略を必要としますので専門医受診を早めに検討してください。
【参考情報】”Somatic cough syndrome or psychogenic cough—what is the difference?” by
National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5394006/
4.何科に行けばいい?
むせるような咳が出る原因はさまざまです。
しかし、原因によっては受診する科が異なり、何科を受診すればいいのか悩みますよね。
ここでは、咳が出ている場合に、何科に行くべきか判断のポイントを紹介します。
4-1.呼吸器内科
むせるような咳で、何科に受診すべきか迷ったら、まずは呼吸器内科を受診してみましょう。
呼吸器内科は、呼吸器系の病気を専門的に診療する内科で、呼吸器のエキスパートです。
感染症の検査や呼吸器の検査など、さまざまな検査で咳の原因を探ります。
風邪などの急性疾患から、喘息やCOPDなどの慢性疾患まで幅広く診療ができます。
診察の結果、呼吸器が関連した咳ではなかった場合、何科の受診がいいのかアドバイスも可能です。
むせるような咳症状がある場合には、まずは呼吸器内科の受診を検討してみてください。
4-2.アレルギー科
むせるような咳があり、もともとアレルギーのある方やアレルギー体質の方は、アレルギー科の受診がおすすめです。
アレルギー科は、アレルギーによって引き起こされる病気を診療しています。
特定の時期や場所で咳の症状があらわれる場合、アレルギーの可能性が高いでしょう。
その場合には、アレルギー科やアレルギーの専門医がいる病院の受診を検討してみてください。
4-3.耳鼻咽喉科
むせるような咳があり、鼻水や鼻づまりなど鼻の症状もある方は、耳鼻咽喉科の受診がおすすめです。
耳鼻咽喉科は、鼻やのど、耳に関わる病気を専門に診療しています。
後鼻漏や副鼻腔炎などで咳が出ている場合、耳鼻咽喉科の受診を検討してみてください。
4-4.消化器内科
むせるような咳とともに、胸やけや胸の痛みなど、胃腸症状がある場合、消化器内科の受診がおすすめです。
咳症状に伴い、胃腸症状がある場合、胃食道逆流症など消化器系の疾患が関係している可能性があります。
その場合、消化器内科の受診を検討してみてください。消化器系の治療を行うことで咳の症状も治まるでしょう。
5.呼吸器内科で行う検査
呼吸器内科で行われる検査には、以下のような検査があります。
・感染症の検査
・画像検査
・血液検査
・呼吸機能検査
それぞれ、どのような検査か解説します。
5-1.感染症の検査
感染症が疑われる場合、症状や流行状況からどの感染症を検査するか絞り込み、検査を行います。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの検査は迅速検査キットがあるため、15分ほどで検査ができます。
検査方法は、細い綿棒を鼻から挿入し、のどの粘膜から検体を採取します。少し痛みが伴う検査です。
5-2.画像検査
呼吸器内科で主に行われる画像検査は、胸部X線(レントゲン)検査と胸部CT検査です。
呼吸器の病気が疑われる場合、肺や気道の状態を把握するためまずは胸部X線検査を行います。
撮影時間も短く体への負担が少ないため、比較的簡単な検査といえるでしょう。
胸部X線検査でもう少し詳しく検査が必要な場合、胸部CT検査が行われます。
検査は、横になった状態で筒状の機械に入り、早ければ5分ほどで検査終了です。場合によっては、造影剤を使うケースがあります。
5-3.血液検査
血液検査では、炎症の有無や程度、アレルギーの有無などの確認を行います。
C反応性蛋白(CRP)や白血球の数値を確認することで、体内の炎症の有無や程度を把握できます。
また、血液に含まれる非特異的IgE抗体の量が高ければ、何かしらのアレルギーがあることを表しています。
5-4.呼吸機能検査
呼吸器内科でよく行われる呼吸機能検査を2つ紹介します。
【スパイロメトリー】
スパイロメーターと呼ばれる機械を使って検査します。
この検査では、肺活量や1秒間にどの程度息を吐き出せるかなどを計測し、肺の容積や気道の状態を把握します。
検査方法は、鼻をクリップで止めて、機械に繋がるホースのマウスピースをくわえます。
勢いよく息を吸ったり吐いたりして計測します。
【モストグラフ】
モストグラフは、呼吸抵抗検査とも呼ばれます。
この検査では、気管支や肺胞の状態を詳しく確認でき、どの部分が狭くなっているのかまで把握可能です。
検査方法は、機械に繋がるホースのマウスピースをくわえ、普段と同じように呼吸をします。
スパイロメトリーよりも負担が少ない検査のため、お年寄りにも無理なくできる検査です。
6.おわりに
むせるような咳は、のどや気管に異物が入り込んだり、粘膜が刺激を受けたりした際に発生します。
一時的にむせるような咳が出ることもあります。
しかし、症状が続く場合には、呼吸器の病気だけでなくアレルギーや消化器の病気、のどの筋力低下など何らかの病気が考えられます。
咳が2週間以上続く場合、早めに呼吸器内科を受診しましょう。