びまん性汎細気管支炎(びまんせいはんさいきかんしえん)とは
びまん性汎細気管支炎は、気管支の粘膜が慢性的に炎症を起こす呼吸器疾患です。1969年 に、日本が新しい病気として初めて提唱しました。 今では、世界中で認められている病気になります。
空気の通り道である「呼吸細気管支(こきゅうさいきかんし)」を中心に慢性的な炎症が生じることで発症します。
さまざまな症状が現れますが、たんが多く出たり、慢性的に咳が出たりするのが特徴です。呼吸困難を起こすこともあります。
症状の進行を抑えるために早期の診断と適切な治療が重要と言えます。この記事では、びまん性汎細気管支炎の症状や治療法について解説するので、ぜひ参考にしてください。
1. びまん性汎細気管支炎について
びまん性汎細気管支炎の明確な原因は不明ですが、環境因子と遺伝因子の両方が関与すると考えられています。気道の防御機構に関連する遺伝子や体質的な要因との関係性があると言われています。
日本を中心として東アジアで多くみられる病気ですが、欧米ではほとんどみられません。日本においては、患者数は減少してきています。
【参考資料】「Diffuse panbronchiolitis」European Respiratory Journal
https://erj.ersjournals.com/content/28/4/862
発症に男女差はほとんどなく、発症年齢は40~50歳代が多いですが、10~70代まで幅広く発症することがあります。
喫煙との関連はとくに報告されていません。しかし、喫煙は症状の悪化や疾患の進行につながる可能性があります。喫煙者の方は禁煙を検討し、禁煙支援を受けることが重要です。
以下ではびまん性汎細気管支炎の症状や検査方法、治療について、ご説明いたします。
1−1.症状
多くの患者さんが慢性副鼻腔炎(蓄膿症) を合併します。そのため、鼻づまり、膿のような鼻汁、嗅覚の低下 などの症状がみられます。
また、呼吸細気管支を中心に、慢性的な炎症を起こします。呼吸細気管支とは、肺胞(たくさん集まって肺を形作っている小さな袋状の組織)につながる気管の末端の管のことです。
そのため、気道が狭くなり、さらに気道に細菌が定着し、分泌物の産生が増えます。
肺全体の広範囲に起こるため「びまん性」、気管支の壁内とその周辺に炎症が起こるため「汎」と病名がつけられています。
症状として、持続するせきや膿性のたん、息切れも現れます。とくに、たんの量が多いのが特徴です。多いときは 1日に200~300mLにもなる場合があります。
さらに、びまん性汎細気管支炎の患者さんは、呼吸困難に陥ることもあります。以下、その経緯です。
老化した細胞や細菌は、たんとして肺の外に排出する必要があります。たんの排出には、気管支の表面にある「線毛」が適切に機能することがとても大切です。
しかしたんの量が多い、あるいは線毛の輸送機能が悪くなるとたんを運びきれなくなります。
また、たんは咳をきっかけとして体外に排出できますが、咳が弱い状態ではうまくたんを排泄できなくなります。
びまん性汎細気管支炎の患者さんでは線毛の動きが悪くなり、また咳も弱くなることから、うまくたんを排出できなくなり呼吸困難に陥ります。
症状が悪化した場合には、低酸素血症によるチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色に変色する状態)をおこすことがあります。
1−2.検査
びまん性汎細気管支炎の診断には、以下の検査が行われます。
• 胸部単純レントゲン写真: 肺全体の細気管支で病変が生じる病気であり、画像上でもその変化を認めることができます。
• 肺CT: 肺全体に広がる小さな粒状の影や気管支壁の肥厚、気管支の拡張、肺の過膨張所見がみられます。
• 呼吸機能検査: 閉塞性換気障害が見られます。
• 血液検査: 白血球数の増加、赤沈(せきちん:赤血球沈降速度)、CRPの上昇などがみられます。
• 喀(かく)たん培養: 呼吸器感染症を併発することが多いため、肺炎球菌、インフルエンザ菌が検出され、進行例では緑膿菌が検出されることもあります。緑膿菌など細菌の見極めが行われます。
診断は、患者さんの症状と上記の胸部エックス線画像やCT検査の所見などから診断されます。
「参考文献」日本呼吸器学会『呼吸器の病気・気道閉塞性疾患・びまん性汎細気管支炎』
https://www.jrs.or.jp/file/disease_b02.pdf
1−3.治療
治療は呼吸器科の専門医の治療が必要です。発症早期ほど効果が良い場合が多いので、症状に当てはまる場合は、早めの診察を検討しましょう。
治療の基本は慢性気管支炎と同じで、去たん薬、抗炎症薬、抗生物質など薬物による治療が中心です。抗生物質は、マクロライド少量長期療法が基本となります。
マクロライド系と呼ばれる抗菌薬(エリスロマイシンなど)は、6か月間にわたって内服することが一般的です。
マクロライド系抗菌薬は、気道分泌物の過剰分泌を抑制したり、炎症反応を抑制したり、線毛の動きを改善する効果があります。
治療開始後、2〜3か月で抗菌薬の効果が認められることが多いですが、安定化後も増悪がある場合にはその都度抗菌薬などで対処します。慢性期には喀たん調整薬なども使用されます。
ひどい呼吸困難やチアノーゼを起こしている場合には、入院しての治療も必要です。入院治療では、酸素療法や静脈内投与による治療が行われ、患者さんの状態を安定させるため治療が行われます。
同時に、耳鼻科で慢性副鼻腔炎の治療も行われます。慢性副鼻腔炎の治療は、抗生物質やステロイドの鼻スプレー、副鼻腔洗浄などです。
以上のように、治療には専門医の指導のもと、定期的なフォローアップが重要です。
また、増悪の予防をすることも大切です。日々の栄養状態の改善やインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も推奨されています。
慢性気管支炎と同様、風邪やインフルエンザなどの感染症にかからないよう心がける、汚れた空気を吸わないようにするなどの努力をしましょう。喫煙との関係性は示されてはいないですが、禁煙することが推奨されています。
細菌感染により増悪した時は、原因となる細菌に対する抗菌薬の投与が必要です。
以前は、予後の悪い病気でしたが、1980 年代以降、マクロライド少量長期療法により、びまん性汎細気管支炎の経過は著しく改善しています。
2. おわりに
びまん性汎細気管支炎は、気管支の粘膜が慢性的な炎症を引き起こす呼吸器疾患です。たんが多く出たり、慢性的な咳が続いたりするのが主な特徴です。ときには呼吸困難になる方もいるでしょう。また、多くの患者さんが副鼻腔炎を併発します。
症状の進行を抑えるためには早期の診断と適切な治療が欠かせません。また、治療後も定期的なフォローアップが必要です。
びまん性汎細気管支炎の症状に少しでも当てはまる場合には、早めに呼吸器系の専門医のいる病院での診察を検討しましょう。