朝の咳と夜の咳の違いについて
咳は気道(空気の通り道)に入った異物を体の外に追い出すために起きる反応、また気道に生じた炎症や刺激によって生じます。
咳が出て困る場合、ご自身で咳が出やすい状況を把握することは診断に非常に役立ちます。
とくに、どの時間帯に咳が多くなるかは重要な手掛かりです。
早朝、日中、夜間など、咳の出るタイミングによって異なる原因や疾患が考えられます。
この記事では、それぞれの時間帯における咳の特徴と、考えられる病気についてご説明いたします。
咳が続く場合は、どの時間帯に症状が現れるかをご自身で確認し、早めに呼吸器内科などの専門医への受診を検討しましょう。
1.早朝の咳
早朝に激しい咳が出る主な原因の一つは気管支喘息だと考えられます。
気管支喘息とは、アレルギー反応によって気管支が炎症を起こし過敏になる、慢性の呼吸器疾患です。
とくに夜間や早朝に、体内のコルチコステロイドホルモンが最低レベルになるため、気管支の炎症が増え、咳や呼吸困難を引き起こすことが多くなる特徴があります。
さらに、夜間や早朝の時間帯は、気温や湿度の低下がみられるため、気管支が収縮しやすくなり、喘息の症状が悪化することがあるのも原因です。
咳のほかに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘声(ぜんめい)が聞かれることもあり、これは気管支が狭くなっている証拠です。
寝室にたまりやすいほこりやダニ、ハウスダスト、カビ、ペットのフケや、冷たい空気なども、気管支に反応して咳や痰、息苦しさを引き起こす可能性があります。
早朝の咳を予防し、気管支喘息を効果的に管理するためには、定期的な治療が不可欠です。
吸入ステロイド薬は、喘息による炎症を抑えるのに効果的だとされています。症状が悪化した際には気管支拡張薬の使用も考慮されます。
寝室環境の改善も重要です。部屋を常に清潔に保ち、アレルゲンの排除に努めましょう。
布団や枕などの寝具は定期的に洗濯し、ダニ防止のカバーを使用するのもおすすめです。また、空気清浄機を利用して寝室の空気を清浄に保つことも、症状の軽減に役立ちます。
寒い季節や冷たい空気が原因で症状が悪化する場合は、口と鼻を覆うマスクを着用することで、吸入する空気を温め、気管支の収縮を防ぐことができるでしょう。
もし早朝に咳が頻繁に出る場合は、喘息の可能性も考えられるため、早めに呼吸器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
2.日中の咳
日中に出る咳は、一般的な風邪をはじめ、原因となる疾患がいくつかあります。
たとえば主な咳の原因になる疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、運動誘発性喘息、アレルギー性咳嗽、副鼻腔炎などです。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。
タバコの煙や大気汚染などの有害物質に長期間さらされることにより発症し、気道の持続的な炎症と気道の狭窄が起こることが特徴です。気管支からの粘液の過剰な分泌があり、咳や痰が引き起こされます。
慢性閉塞性肺疾患の患者さんは、日常の軽い活動だけで咳がでたり痰が増えたり、息苦しさを感じることがあります。活動中がとくに顕著になるため、日中に咳が悪化する傾向が一般的です。
運動誘発性喘息の場合は、運動や身体活動が引き金となって発作が起こります。
活動中に気道が過敏になり、気道の狭窄が起こるため、咳や呼吸困難が生じます。とくに活動中が顕著で、運動を始めた直後に咳が激しくなる場合もあります。
アレルギー性咳嗽は、ホコリ、花粉、ペットのフケなどのアレルゲンに接触することで咳が引き起こされます。アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が気道に入ると、免疫系が過剰に反応して炎症が生じ、咳が誘発されるのです。
副鼻腔炎もまた、日中の咳の要因となります。
鼻腔と副鼻腔の炎症があり、鼻から喉にかけての粘液の流れが咳を引き起こす原因となります。症状は、顔の圧痛、鼻詰まり、黄色または緑色の鼻水などがあり、ときに発熱を伴う場合もあります。
3.夜中の咳
夜中に咳がでて止まらなくて、寝不足になる方もいらっしゃるかもしれません。
夜間から早朝にかけて咳が悪化する可能性がある疾患として喘息があります。一方で、夜中の咳が必ずしも喘息とは限りません。
夜中に咳がひどくなる理由は、さまざまな要因によって引き起こされる可能性があり、喘息以外の要因も関係することがあります。
【参考文献】”Cough rhythms in asthma: Potential implication for management” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6619487/
3-1.咳が夜に激しくなる理由
夜間の咳が激しくなる理由はいくつかあります。
主に自律神経の変化、寝姿勢、鼻炎や副鼻腔炎などの疾患の影響によるものです。
夜になると副交感神経が優位になり、全身の緊張が解け、筋肉がリラックスします。つまり、副交感神経の働きにより、気管支や気道の筋肉も弛緩します。
結果として気道が狭くなり、少しの刺激で咳が起こりやすくなるのです。
寝るときの姿勢も、夜の咳に関係します。仰向けで寝る場合、重力の影響で鼻水や副鼻腔からの鼻水や分泌物が喉に流れ込みやすくなり咳が出やすいです。
また、風邪、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などで鼻や副鼻腔に問題がある方は喉への分泌物の流れ込みが顕著です。
喉に流れ込んだ分泌物や鼻水は直接的な刺激となり、咳の反射を引き起こします。
夜間に室内の温度や湿度が低下することも咳の原因になります。
とくに冬場の乾燥した空気では、気道が乾燥し刺激を受けやすくなるため、咳が悪化しやすいです。
さらに寝室の空気が悪く、とくにホコリやペットのフケ、カビなどのアレルゲンが含まれている場合は夜間の咳をさらに悪化させるでしょう。
以上のような要因が複合的に組み合わさると、夜間に咳が特に悪化しやすくなります。
夜間の咳の改善には、可能な限り環境を調整することが必要です。例えば、寝室の湿度を適切に保ち、アレルゲンを取り除く、寝る姿勢を工夫するなどです。
【参照文献】『夜間や早朝にせきが出ます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html
4.おわりに
咳が続いている場合は、咳がどの時間帯に出るかや咳の程度などを把握しましょう。早朝や活動時、夜寝る前や夜間などです。
喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患では、朝や夜間に症状が悪化することがよくあります。
朝や夜間に症状が悪化する場合は、早めに呼吸器内科の受診が必要です。
適切な診断と治療により、症状を管理することができます。自己判断せず、専門医に相談しましょう。