咳が止まらない時に取り入れたい食べ物と栄養ケア
止まらない咳でお困りの方にとって、毎日の食事は思った以上に大変な負担になります。
「食事中につい咳き込んでしまう」「咳が続いて食欲が落ち、体力も低下してきた」という高齢の方や慢性の咳に悩む方も多いでしょう。
本記事では、咳が続く人のために喉に優しい食事の工夫を紹介します。
食べやすさ・飲み込みやすさに配慮した食品選びや調理法、そして少量でも効率的に栄養をとるポイントを解説していきますので、同じ悩みを持つ方のヒントになれば幸いです。
1. 咳が止まらないときに注意が必要な理由

咳が長引く状態では、食事中にむせたり誤って飲食物を気道に入り込ませてしまう「誤嚥(ごえん)」のリスクが高まります。
特に高齢者では飲み込む力や咳で異物を押し出す力が弱くなり、知らないうちに誤嚥性肺炎を起こしてしまうこともあります。
高齢者における肺炎は死亡原因の上位を占める深刻な疾患です。
咳込みによる誤嚥を防ぐことは命を守ることにもつながるため、食事の際には十分な注意が必要です。
さらに咳が続くこと自体が体力の消耗につながり、栄養状態の悪化を招きやすい点にも注意しましょう。
咳が長引いて食欲が低下したり、食事の量が減ってしまうと、必要な栄養が不足して体重減少や筋力低下を引き起こします。
実際に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性的な呼吸器疾患では、咳や呼吸困難によってエネルギーが消耗し、体重の減少や低栄養の傾向が見られることも少なくありません。
適切な食事で栄養を補えないと、免疫力も低下して肺炎などの感染症にかかりやすくなったり回復が遅れたりする恐れがあります。
【参考情報】『誤嚥・窒息』健康長寿ネット(長寿科学振興財団)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kango/goen-chissoku.html
【参考情報】”Pneumonia” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pneumonia/index.html
2. 咳が出やすいときに避けたい食品

咳込みやすいときには、喉に刺激を与えたり誤嚥を招きやすい食品はできるだけ避けることが大切です。
ここでは、咳が出やすい場面で控えたい代表的な食品の種類を紹介します。
2-1. パサパサ・粉っぽい食品や乾燥した食品
口の中の水分を奪う乾いた食品は、喉を刺激して咳を誘発しやすいうえ、飲み込みにくいため誤嚥のリスクが高まります。
・パンやクッキー、せんべいなどのパサパサしたもの
・カステラ、焼き芋、ゆで卵といったホロホロ崩れやすい食品
→ 喉に引っかかってむせる原因になりがちです。
・きな粉や粉砂糖など粉が舞いやすいもの
→ 喉に付着して「むせ込み」を起こしやすいので要注意です。
この他、炒めたひき肉、木綿豆腐、煮崩れたじゃがいも、乾燥したひじき、かまぼこなど水分が少なく口の中でバラバラになりやすい食べ物もむせやすい食品の代表です。
【参考情報】『誤嚥性肺炎を防ぎながら、おいしく楽しく食べる毎日を』長野県後期高齢者医療広域連合
https://www.koukikourei-nagano.jp/www/contents/1594357314539/index.html
2-2. 熱すぎる飲み物や刺激物、粘つく食品も注意
極端に熱い飲み物や刺激の強い食べ物も、咳が出やすいときには避けるのが無難です。
例えば、沸騰したての熱いお茶や汁物は、立ち上る熱い蒸気や高温そのものが喉を刺激して咳反射を引き起こしやすくなります。
少し冷まして適温にしてからゆっくり飲むようにしましょう。
また香辛料の効いた辛い料理や炭酸飲料、アルコール類も喉の粘膜を乾燥させたり刺激したりしやすく、咳が出やすい敏感な状態では避けることが望ましいです。
さらに、酢の物や柑橘類など酸味の強い食べ物も、炎症気味の喉には刺激となって咳を誘発することがあります。
酸っぱい果汁やお酢はできるだけマイルドに調理し、どうしても摂りたい場合は他の食材と和えるなど刺激を和らげてください。
一方、粘り気の強い食品にも注意が必要です。
お餅やとろろ芋、海苔などは喉や上あごに貼り付きやすく、飲み込み損ねると咳き込んだり窒息の危険もあります。
お餅は小さく切ってから召し上がり、海苔はそのままではなく海苔の佃煮など形態を変えて食べると安全です。
どうしても餅を食べたい場合は、周囲に人がいる状態でゆっくり噛んで食べるようにしましょう。
【参考情報】『咳(せき)の予防』第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/20_seki/index3.html
【参考情報】『年末年始、餅による窒息事故に御注意ください! 』消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_046
【参考情報】”Nutrition for Older Adults” by National Library of Medicine / National Institutes of Health
https://www.nlm.nih.gov/medlineplus/nutritionforseniors.html
3. 水分と一緒に食べられる優しいメニュー例

咳が出やすいときは、適度に水分を含み喉ごしの良いメニューを選ぶことで、食べやすさが向上します。
ここでは、喉に優しい代表的なメニューや調理の工夫を紹介します。
3-1. やわらかい煮物やとろみのある料理
汁気が多く柔らかい料理は、乾いた食品に比べて格段に飲み込みやすくなります。
・野菜や肉を柔らかく煮込んだ煮物:食材そのものがしっとりとして喉を通りやすいでしょう。
・スープやシチュー、雑炊:水分と一緒に食べられる料理もおすすめです。
ただし、具と汁が混ざったみそ汁などはさらさらし過ぎてむせることがあるため、とろみをつける工夫をするとより安全に食べられます。
市販のとろみ調整食品を使ったり、片栗粉やコーンスターチでとろみを加えると、液体が絡んで喉越しが良くなります。
スープをポタージュ状にしたり、汁気のあるおかずを”あんかけ”にするだけで、ぐっと飲み込みやすくなるでしょう。
温かい料理も冷たい料理も適温が1番です。
温度にも気を配ると喉に心地よく感じられますよ。
・おかゆや雑炊:ご飯と水分を一緒に摂れる定番の優しいメニューです。
具材に卵や野菜、魚などを入れて栄養バランスを整えれば、体力回復にも役立ちます。
具材は細かく刻むか柔らかく煮崩して、口の中でバラバラにならないようにしましょう。
卵とじも具材をまとめて喉に流し込みやすくする良い方法です。
野菜あんかけに溶き卵を加えてとじれば、舌触りも滑らかになり栄養価もアップします。
3-2. 食材の形状を工夫して喉に優しく
料理の内容だけでなく、食材の切り方や形状を工夫することでも飲み込みやすさを高められます。
硬い肉や野菜は十分に煮込んで柔らかくし、繊維が長いものは繊維を断ち切る方向に切りましょう。
・葉物野菜:柔らかい部分を使い、根菜類は薄切りや乱切りにして火を通せば噛み砕きやすくなります。
・麺類:あらかじめ3~5cm程度にカットしてから茹でましょう。
麺つゆもそのままではさらさらしているので、とろみをつけて麺に絡めると安全にいただけます。
【参考情報】『むせやすい時の食事の工夫』キユーピー株式会社 食育活動情報
https://www.kewpie.com/education/information/senior/enge/enge_03.html
さらに、ばらけやすい食材にはつなぎを利用するのもポイントです。
例えばひき肉は、卵や豆腐、片栗粉などを混ぜてタネにすればハンバーグや肉団子のようにまとまり、飲み込みやすくなります。
水分が出やすく噛み切りにくい果物は、ジュースよりもゼリーにするなど形を変えてとるとむせにくくなります。
なお、料理全体をミキサーにかけてドロドロのペースト状にする方法もありますが、見た目や食感が単調になると食欲が湧きにくくなるため、可能であれば見た目の彩りも残しつつ工夫してみましょう。
【参考情報】”Nutrition and Healthy Eating — Healthy People 2030″ by Office of Disease Prevention and Health Promotion
https://odphp.health.gov/healthypeople/objectives-and-data/browse-objectives/nutrition-and-healthy-eating
4. 誤嚥を防ぐ食事の姿勢と習慣

咳によるむせ込みや誤嚥を防ぐには、正しい姿勢でゆっくり食事をとる習慣がとても重要です。
ここでは、食事中の姿勢と飲み込みを助けるためのポイントについて説明します。
4-1. 体に負担の少ない正しい食事姿勢
誤嚥予防の基本は、姿勢を整えて食べることです。
椅子に座って食事する場合は、背もたれに深く腰掛けて背筋を伸ばし、足の裏を床にしっかりつけます。
膝と股関節がほぼ直角になる高さの椅子・テーブルを使い、テーブルと体の間はこぶし一つ入る程度の余裕を保ちましょう。
食べ物を飲み込む瞬間には軽く顎を引いた状態(前かがみ気味)にすると、気道に蓋がされ誤嚥しにくくなります。
逆に浅く腰掛けて顎を上げた姿勢や、体が斜めになった姿勢では喉が開きやすく、食べ物が飲み込みにくくなるので注意してください。
もしベッド上で食事をとる場合は、背もたれを45~60度程度まで起こし、首の後ろに枕を入れて少し前屈みの姿勢を作ります。
寝たきりに近い仰向けの状態では誤嚥しやすくなるため、できる限り体を起こしてから食事介助を受けるようにしましょう。
【参考情報】『嚥下しやすい食事姿勢のポジショニングで誤嚥を予防!』八尾市
https://yumeiro-yao.com/?p=210
4-2. ゆっくり良く噛み、飲み込みに集中する
食事中は一口ごとにゆっくりよく噛んで、確実に飲み込んでから次の一口に進むことを心がけます。
急いでかき込むように食べると誤嚥しやすいため、「少量ずつ口に入れて落ち着いて飲み込む」という基本を徹底しましょう。
どうしても咳き込みが続くときは、無理に飲み込もうとせず一度スプーンや箸を置いて休憩し、症状が落ち着いてから再開しましょう。
食事中の会話やテレビの視聴も、注意がそれて誤嚥につながる場合があります。
むせやすい方は特に、「食べることに集中する時間」と割り切って、なるべく静かな環境で食事をとると安心です。
ご家族が介助する場合も、口に食べ物が入っている間の声かけは控え、しっかり飲み込んだのを確認してから次の一口を勧めるようにしましょう。
食事前後の口腔ケアも嚥下トラブル予防には大切です。
食事前にうがいをして喉の通りを潤しておいたり、食後に丁寧に歯磨きをして口の中を清潔に保つ習慣をつけましょう。
口内の衛生が保たれれば、誤嚥してしまった場合でも肺に入る細菌の数を減らせて重篤な肺炎予防につながります。
【参考情報】”Preventing Aspiration in Older Adults with Dysphagia” by Michigan Department of Licensing and Regulatory Affairs
https://www.michigan.gov/-/media/Project/Websites/lara/healthsystemslicensing/Folder2/Preventing_Aspiration_in_Older_Adults_with_Dysphagia_9_14_10.pdf?rev=da21667cf81b1634a47
5. 少量でも栄養をとるための工夫

咳が長引くと「食が細くなってきた…」と感じる方も多いでしょう。
この章では、食事量が減ってしまった場合でも効率良く栄養を確保するポイントを紹介します。
5-1. エネルギーとタンパク質をしっかり補給
体力低下を防ぐには、身体を動かすエネルギー源と、筋肉や免疫の材料となるタンパク質を十分に摂取することが重要です。
高齢者でも若い人と同様に、毎日の食事で主食(ご飯などの炭水化物)、主菜(肉・魚・卵・大豆製品などのタンパク源)、副菜(野菜やきのこ・海藻類)をバランス良く組み合わせることが理想です。
特にタンパク質は「筋力の維持や免疫力向上」に欠かせません。
肉や魚が食べにくい場合は、豆腐や納豆、卵など喉越しの良い食材からタンパク質を摂りましょう。
消化に負担の少ない白身魚の煮付けや茶碗蒸し、豆腐ハンバーグなどは、高齢の方でも食べやすく良質なたんぱく質補給に適したメニューです。
また、脂質も敬遠しすぎないようにしましょう。
脂質は少量で高エネルギーを摂取できる栄養素であり、不足すると体重減少に拍車がかかります。
揚げ物など重い料理が難しい場合でも、スープにオリーブオイルを少量垂らす、煮物の仕上げにごま油を足すなど、無理なく油分を取り入れてエネルギーアップを図りましょう。
野菜スープにオリーブオイルを1さじ入れるだけでもコクが増して飲みやすくなり、カロリー補給にも役立ちます。
5-2. 食欲がないときの食事の工夫
咳のせいで食欲がわかないときでも、食事のとり方を工夫することで必要な栄養を確保できます。
まず、少量でも栄養価の高いおかずから先に食べる習慣をつけましょう。
お粥や汁物でお腹がいっぱいになる前に肉や魚、卵料理などの主菜を優先して口にすることで、効率よくタンパク質やカロリーを摂取できます。
また、1日3回の食事で足りない分を間食で補うことも有効です。
1回の食事量が少ない方は、1日4~5回に小分けして食事やおやつの時間を設けると良いでしょう。
おやつでは消化の良いバナナやプリン、市販の栄養補助飲料などを取り入れて、手軽にエネルギーとタンパク質をチャージしましょう。
特に市販の介護用栄養飲料(経口栄養補助食品)は、コップ半分程度の量でエネルギーや栄養素を摂れるので、食が細い方の強い味方です。
食欲アップの工夫として、香りや味付け、彩りを工夫するのもおすすめです。
レモンや生姜の風味は食欲を刺激しますし、ハーブやだしの香りで料理をおいしく感じられることもあります。
刺激の強すぎる香辛料は避け、やさしい風味で香りの良いレシピを意識すると良いでしょう。
彩りのある盛り付けも食欲アップにつながります。
季節の野菜を使い、お好みのお皿で、「食べたい」という意欲を引き出す工夫を楽しんでみてください。
【参考情報】”Healthy Meal Planning: Tips for Older Adults” by National Institute on Aging
https://www.nia.nih.gov/health/healthy-meal-planning-tips-older-adults
6. おわりに
咳が続く方にとって、食事は工夫次第でぐっと楽になります。
乾いた食品や刺激物を避け、適度に水分やとろみを加えた柔らかい料理を選ぶことで、むせ込みを減らすことができます。
また正しい姿勢でゆっくり食べ、少量ずつ確実に飲み込む習慣も誤嚥予防に効果的です。
栄養バランスに配慮しながら食べやすい調理法でエネルギーとタンパク質をしっかり補給することが大切です。
食事の工夫で喉への負担を軽減し、栄養状態を整えて、長引く咳に負けない健康な体力を維持していきましょう。
