咳が止まらない…コロナ後の後遺症?それとも別の病気?
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかったあと、咳がなかなか止まらなくて不安です。これって後遺症?それとも別の病気が隠れているのでしょうか?」
そんな悩みを抱えている方は少なくありません。
今回はコロナ後に咳が続く症状だけに着目するのではなく、同じような咳が長引く症状を示す他の疾患との違いを整理できるよう丁寧に解説します。
1. 咳が長引く原因はいくつもある:まずは分類から

この章では、咳が長く続く背景と考えられる主な原因を整理します。
まず「後遺症としての咳」だけでなく、咳喘息・逆流性食道炎・副鼻腔炎などとの違いをみていきましょう。
1-1. 咳が長く続くとはどういうこと?
風邪のあと、咳が長引くことは珍しくありません。
通常は1〜2週間で治まりますが、3週間以上続くと「長引く咳」とされます。
新型コロナ感染後にも咳が続くことがあり、「Long COVID」として知られています。
ただし、咳が長く続くからといって必ずしも後遺症とは限りません。
他の病気が隠れていることもあります。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
【参考情報】”Long COVID Basics” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/long-covid/about/index.html
1-2. 咳が続く主な原因とは?
咳が長引く原因は、コロナの後遺症だけではありません。
代表的な原因を把握しておくと、症状の整理に役立ちます。
【主な原因】
・後遺症性咳:コロナ感染後、咳だけが数週間以上続くケース
・咳喘息、喘息関連咳:気道の過敏性が原因。夜間や冷たい空気で悪化
・逆流性食道炎:胃酸が気道を刺激。食後や就寝時に悪化
・副鼻腔炎、後鼻漏(こうびろう):鼻水が喉に流れ込み咳を誘発
このほか、慢性炎症や薬の副作用、環境刺激なども原因になります。
複数の要素が関係している場合もあるため、注意深く整理することが重要です。
【参考情報】”The Clinical Approach to Chronic Cough” by American College of Chest Physicians via J Thorac Dis (2018)
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(15)52825-0/fulltext
1-3. 後遺症による咳はどんなもの?
新型コロナ後に「咳だけが治らない」ケースが報告されています。
体は回復しても、咳だけが数週間〜数か月続く状態です。
この咳は、気道の炎症や過敏性が原因と考えられています。
呼気中の一酸化窒素(NO)が増加し、アレルギー的な炎症と関係しているとされています。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html
【参考情報】”Clinical Symptoms of Long COVID” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/long-covid/hcp/clinical-symptoms/index.html
2. 後遺症性による咳 と 咳喘息:症状と誘因の違い

ここでは、「コロナの後遺症による咳」と「咳喘息」という、よく似た症状を持つ2つの原因について比べてみます。
どちらも“咳だけが続く”のが特徴ですが、咳が出やすいタイミングやきっかけに違いがあります。
2-1. 後遺症性による咳の特徴
コロナ感染後、体は回復しても咳だけが残ることがあります。
数週間から数か月続くケースもあるでしょう。
痰のない乾いた咳が多いですが、痰や息切れが全くないわけではありません。
「喉がムズムズする」「話すと咳が止まらない」といった訴えもよく聞かれます。
【参考情報】”Approach to post COVID-19 persistent cough: A narrative review” by PMC (National Center for Biotechnology Information)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10174656/
2-2. 咳喘息の特徴
「風邪は治ったのに咳だけが止まらない」そんなときは「咳喘息」かもしれません。
咳喘息は「ゼーゼー」という喘鳴が出ないため見逃されがちです。
主な症状は長引く咳だけで、夜間や明け方に悪化しやすく、冷たい空気・運動・会話などで誘発されることが多いです。
花粉やハウスダストなどのアレルギー体質の方に多く見られます。
成人の8週間以上続く咳の原因として、咳喘息が約半数を占めるともいわれています。
胸部レントゲンでは異常が見つからないこともあり、問診や専門的な検査で診断される場合が多くみられます。
【参考情報】『長引くせきの原因はなに?』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/42/feature/feature02.html
【参考情報】”About Asthma” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/about/index.html
2-3.咳の出方で違いを見分けるヒント
咳喘息では「夜や明け方に咳が出る」「寒い場所で悪化」「運動や会話後に咳が止まらない」といった特徴があります。
こうした”きっかけ”や”時間帯”に心当たりはないか、振り返ってみてください。
コロナ後遺症と思われる咳にも、実は喘息や逆流性食道炎、副鼻腔炎が隠れているケースがあります。
「ただの後遺症」と決めつけず、他の可能性も視野に入れることが大切です。
【参考情報】”Respiratory Infections and Asthma” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/respiratory-infections/index.html
3. 逆流性食道炎・副鼻腔炎など、呼吸器以外の関与も要チェック

「咳って、肺や喉の問題で起こるものじゃないの?」と思っていませんか?
呼吸器以外が原因で咳が続くこともあります。
特に注意したいのが、胃酸が逆流する「逆流性食道炎」と、鼻の奥の炎症で起こる「副鼻腔炎」です。
どちらも咳と一見関係なさそうに思えますが、気づかずに見過ごされやすい咳の要因のひとつです。
この章では、そんな“呼吸器以外の咳のもと”について、どんなときに疑うべきかをわかりやすく解説していきます。
3-1. 胃酸の逆流が咳の原因になることも
「食後になると咳が出る」「寝るときに咳がひどくなる」
そのような方は、逆流性食道炎が関係している可能性があります。
胃酸が逆流して食道や気道を刺激することで、咳や喉の違和感が出ます。
食後や横になったときに咳が出やすく、胸やけや呑酸(どんさん・胃酸が食道や口の中に逆流することで、酸っぱいものや苦いものが口や喉まで上がってくる不快な症状)を伴うのが特徴です。
乾いた咳が多く、痰はあまり絡みません。
【参考情報】『逆流性食道炎ってどんな病気?』国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/06.html
【参考情報】”Gastro-oesophageal reflux (GOR) is often cited as an important cause of chronic cough” by PMC (National Center for Biotechnology Information)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11744315/
3-2. 鼻から喉に流れる違和感が咳の原因に?
風邪後も鼻の奥がモヤモヤしたり、喉に何かが垂れる感覚が続く場合、「副鼻腔炎」や「後鼻漏」が関係している可能性があります。
副鼻腔の炎症でたまった鼻水が喉へ流れ落ち、喉を刺激して咳が出る状態が「後鼻漏」です。
夜中や朝方に出やすく、痰が絡む湿った咳になることが多くみられます。鼻づまり、鼻の重い感じ、黄色や緑の鼻水があるときは注意が必要です。
咳の原因が鼻かもしれないときは、耳鼻科で相談してみましょう。
【参考情報】『鼻の症状』日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=16
【参考情報】”Chronic Cough, Reflux, Postnasal Drip Syndrome, and the Otolaryngologist” by PMC (National Center for Biotechnology Information)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3332192/
4.咳の原因を調べるための検査と特徴

咳が続く原因を正しく見極めるためには、症状の聞き取り(問診)だけでなく、いくつかの検査を組み合わせて考えることが大切です。
この章では、医療機関で行われる主な検査についてそれぞれどんな特徴があり、どのように役立つのかをわかりやすく解説していきます。
4-1. 問診・身体診察
咳が長引く原因を探る基本は「問診」と「診察」です。
医師が話を聞き、体の状態を見て病気の可能性を整理します。
問診で確認する点:
・咳はいつから続いているか
・夜間や早朝に強くなるか
・運動や冷たい空気で悪化するか
・痰の有無、色や粘り
・アレルギー、胃の不調、鼻の病気の既往
あわせて胸の音、鼻・喉の様子、食道まわりの症状なども確認します。
この時点では原因を決めつけず、さまざまな可能性を広く検討することが重要です。
4-2. 呼気NO(FeNO)検査
「呼気NO(こきエヌオー)検査」は、息を吐くだけで気道に炎症があるかどうかを調べる検査です。
特に「咳喘息」やアレルギーが関係していそうな咳のときに行われます。
この検査では、呼気中に含まれる「一酸化窒素(NO)」の量を測定します。
数値が高いほど、気道が敏感になっている(炎症がある)可能性があるでしょう。
検査はとても簡単です。
特別な準備は不要で、息を一定の速さで吹き込むだけで完了します。
ちなみに、「FeNO(エフイーノー)」という名前でも呼ばれますが、この「Fe」は鉄(iron)ではなく「Fractional exhaled(呼気の一部分)」の略です。
医療現場ではこの名称もよく使われています。
深呼吸で咳が出る場合なども、この検査で気道の状態を確認することがあります。
4-3. 胸部画像(レントゲン・CT)
咳が長く続くとき、必要に応じて「胸のレントゲン」や「CT検査」が行われることがあります。
これは、肺や気道に目に見える異常がないかを調べるための大切な検査です。
特に、咳だけでなく「胸が痛い」「息が苦しい」「血が混じった痰が出る」などの症状がある場合には、重大な病気が隠れていないかを確認する意味でも画像検査が重要になります。
このような検査では、肺炎や気管支の異常・肺がん・間質性肺疾患などが見つかることもあります。
ただし、コロナの後遺症による咳の場合、こうした画像検査では大きな異常が見つからないことも少なくありません。
どのような症状があれば画像検査が必要かは、医師が診察や問診を通じて判断します。
必要な場合には早期に原因を見つける手助けとなる検査ですので、不安に感じすぎずに相談してみましょう。
4-4. 呼吸器以外の検査も視野に入れて
咳の原因は肺や気道に限りません。
胃や鼻が関係することもあります。
胃酸逆流が疑われる場合:
食後や横になると咳が出る、胸やけがある場合は内視鏡検査やpHモニタリングで確認します。
副鼻腔の問題が疑われる場合:
喉に鼻水が垂れる・鼻づまり・頭の重さがあるときは、副鼻腔のX線・CTや鼻の内視鏡検査を行います。
咳の原因を探るには「呼吸器以外の視点」も大切です。
医師と相談しながら必要な検査を検討しましょう。
【参考情報】”Clinical Practice Guidelines for Diagnosis and Management of Chronic Cough” by AME Publishing (China) / cross-ref review
https://jtd.amegroups.org/article/view/25427/html
5. 複数の原因が重なるケースへの対処視点

ここまで、咳の原因となる病気をひとつひとつ見てきました。
でも実際には、「どれかひとつ」だけが原因ではなく、いくつかの要素が重なって咳が続いているケースも少なくありません。
たとえば、コロナの後遺症で気道が敏感になっているところに胃酸の逆流やアレルギー体質が重なると、咳がより複雑になりやすいのです。
この章では咳の原因が複数あるかもしれないとき、どんな風に考えていけばよいのかを整理してみましょう。
5-1. 合併の可能性を念頭に
コロナ後に咳が治らず薬も効かないと感じるときは、複数の要因が関係している場合があります。
たとえば、気道の過敏に加えてアレルギー体質や胃酸逆流が重なることもあります。
また、副鼻腔炎や後鼻漏などの鼻の症状もほかの呼吸器の病気と合併していることがあります。
実際に咳が長引く方では、こうした複数の原因を同時に考える必要があるという医療の指針も出ています。
「これが原因に違いない」と一つに決めつけず複数の視点から咳の背景を整理することが、適切な治療や対処につながります。
5-2. 複数の可能性を前提に、幅広く見ていく
咳が長引くとき「これが原因です」とひとつに絞るのは難しいこともあります。
そんなとき医療機関では、段階を踏みながら原因を探っていくアプローチがとられます。
まず最初に行われることは、問診でアレルギー歴や体質、生活習慣などを確認することです。
必要に応じて呼気NO検査、画像検査、鼻・胃の診察など複数の検査を組み合わせていきます。
治療開始後の観察も重要です。
実際に治療を始めてから「どの治療で咳が和らいだか?」を観察することで、原因の絞り込みができることもあります。
たとえば胃酸を抑える薬で改善すれば、逆流性食道炎が関与している可能性が高いでしょう。
このように”試しながら探る”というプロセスも、複数原因が疑われるケースでは有効な方法のひとつです。
【参考情報】”ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic (refractory) cough” by European Respiratory Society via PMC
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6942543/
6. おわりに
長引く咳があると「コロナの後遺症かも」と思ってしまう方も多いかもしれません。
ですが咳喘息や胃酸逆流、鼻の不調など、他の病気が関係していることもあります。
咳が出る時間帯やきっかけ、ほかの症状、過去の体質などを振り返ってみることが原因を見極める第一歩になります。
「咳が8週間以上続いている」「夜間や朝方に強い」「食後や横になると悪化する」
そんなときは、一度医療機関で相談してみましょう。
早めに原因を探ることで、より適切な治療につながります。
