深呼吸で咳が出るのはなぜ?考えられる原因と対処法

深呼吸をすると「ゴホン」と咳が出てしまう…そんな経験はありませんか?
普段は気にならなくても、深呼吸をするたびに咳が出ると「何か病気では?」と不安になりますよね。
特に40〜60代の働き盛り世代では、喫煙習慣や運動不足も重なり、深呼吸で咳が出る症状に心当たりのある方も少なくありません。
この症状には、実は喘息やCOPDといった呼吸器の慢性疾患が隠れている可能性があります。
本記事では、深呼吸がきっかけで咳が出る原因や考えられる病気、日常生活で注意すべきポイントなどについて紹介します。
1. 深呼吸で咳が出るのは体からのサイン?
深呼吸をしたときに咳が出るのは、体が何らかの異常を感じているサインかもしれません。
一時的にムセただけなら心配いりませんが、毎回のように深呼吸で咳き込む場合や、咳が長期間続く場合は注意が必要です。
1-1. 咳は気道を守る防御反応
私たちの喉や気管支には、ホコリや異物が入ったときに排除しようとする咳反射があります。
深呼吸をすると空気が一気に気道を通るため、乾燥した冷たい空気や埃(ほこり)などが刺激となって咳が出ることがあります。
健康な人でも、空気が乾燥して喉が敏感になっているときに深呼吸をすると、咳払いが出ることは珍しくありません。「咳」は本来、体を守るための正常な反応なのです。
しかし、気道に炎症や狭窄(狭くなること)がある場合、わずかな刺激でも強い咳が起こりやすくなります。
深呼吸程度の刺激で何度も咳き込むようなら、気道が過敏になっている可能性があります。
これは単なる疲れや一時的な不調ではなく、呼吸器疾患の初期症状かもしれません。
【参考情報】”Learn About Coughing” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/warning-signs-of-lung-disease/cough/learn-about-cough?utm_source=chatgpt.com
1-2. 放置せず原因を見極めよう
深呼吸で出る咳をそのまま放っておくのは危険です。
最初は軽い咳でも、原因となる病気が進行すれば、咳が悪化したり息苦しくなったりする恐れがあります。
特に8週間以上咳が続く場合は「慢性の咳」に分類され、何らかの病気が隠れていることが多いとされています。
軽い咳でも長引く場合やほかの症状(痰〈たん〉、息切れ、発熱など)を伴う場合は要注意です。
【参考情報】『経過をよく観察しよう-咳がなかなか止まらないとき-』日本医師会
https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/261.pdf
【参考情報】『Q2. せきとたんが3週間以上続きます。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q02.html
【参考情報】”Cough Causes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/symptoms/cough/basics/causes/sym-20050846?utm_source=chatgpt.com
2. 深呼吸で咳が出るとき考えられる主な原因
深呼吸がきっかけで咳が出る背景には、さまざまな原因疾患が考えられます。
中高年の方に多い喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめ、アレルギーや生活習慣が関係するケースもあります。
ここでは代表的な原因を紹介します。
2-1. 気管支喘息
喘息は気道(空気の通り道)が慢性的に炎症を起こし、敏感になっている病気です。
アレルギー体質の方に多いですが、大人になってから発症する「成人喘息」も珍しくありません。
喘息になると、ホコリ、ダニ、ペットの毛、タバコの煙、冷たい空気など様々な刺激で気管支が狭くなり、発作的に咳や喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューという音)、息苦しさなどの症状が出ます。
喘息の咳は痰の絡まない乾いた咳であることが多く、特に夜間や明け方に悪化しやすいという特徴があります。
気道が慢性的に炎症を起こして過敏になっているため、深呼吸をしただけでも気道が刺激されて咳が出ることがあります。
いわば、少し息を吸い込んだだけで「ムズムズ」して咳き込んでしまう状態です。
中には、喘鳴(ぜんめい)や強い息苦しさがなく、咳だけが唯一の症状となる喘息のタイプ(咳喘息)もあります。
咳喘息は一見するとただの長引く咳ですが、治療せず放置すると約30%が典型的な喘息に移行するといわれます。
このため、たかが咳だけと思わずに、長引く場合は専門医を受診してしっかり治療することが重要です。
喘息は適切な治療と自己管理によって症状をコントロールできる病気ですが、治療を怠ると悪化することがあります。
現在でも年間1,450人ほどが喘息で命を落としている現状があります。
「咳が続くだけだから」と自己判断せず、深呼吸で咳き込む症状が繰り返す場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。
◆「咳喘息の症状とは?喘息との違いについても解説します」>>
【参考情報】『呼吸器Q&A』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html#:~:text=%E9%9F%B3%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B9%BE%E3%81%84%E3%81%9F%E5%92%B3%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%8C%E7%B6%9A%E3%81%8F%E5%A0%B4%E5%90%88
【参考情報】”Cough – StatPearls” by StatPearls/NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK493221/?utm_source=chatgpt.com
2-2. COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(シーオーピーディー)は、長期間にわたって肺や気管支に炎症が続き、空気の通りが悪くなる病気の総称です。
代表的なものに「慢性気管支炎」と「肺気腫」がありますが、患者さんによって症状の現れ方が異なります。
主な原因は喫煙で中高年の喫煙者によく見られる病気です。
喫煙による有害物質が長年肺を傷つけ、気管支を炎症・変形させます。
国内の患者数は推計530万人以上とされますが、自覚されず受診に至っていないケースが非常に多い病気です。
COPDでは、せき・痰・息切れが三大症状です。
初期では「朝だけ痰の絡む咳が出る」程度ですが、進行すると階段や坂道で息切れするようになります。
深呼吸をしたときに咳が出るのは、気道の一部が狭く固くなっているため、そこに空気が勢いよく当たって咳が誘発されるからです。
また風邪の後に咳だけ長引く場合も、実はCOPDの初期症状だったということがあります。
厄介なのは、COPDはゆっくり進行するため、最初は年齢のせいや軽い風邪だと思われてしまい、発見が遅れがちな点です。
しかし放置すると呼吸機能が次第に低下し、悪化すれば日常生活も困難となり在宅酸素が必要になることもあります。
喫煙歴があり「歳のせいかな…」と思うような咳や息切れが続く場合は、一度呼吸器内科で肺機能検査を受けてみましょう。
早期に発見して治療を開始すれば、進行を遅らせ症状を和らげることが可能です。
また、現在喫煙中の方は、症状がなくても禁煙による予防が何より重要です。
禁煙することで病気の進行を抑えられ、咳や痰の改善も期待できます。
COPDは「肺の生活習慣病」とも呼ばれますので、思い当たる場合は生活習慣を見直しつつ早めに専門医に相談してください。
【参考情報】『COPD(呼吸器慢性疾患)』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/slp/event/disease/copd/index.html#:~:text=COPD%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%80%81%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%AA%E7%97%85%E6%B0%97%EF%BC%9F
【参考情報】『たばこの影響』多摩市
https://www.city.tama.lg.jp/kenkofukushi/1008237/kenshin/kinen/1002838.html
2-3. その他の考えられる原因
喘息やCOPD以外にも、深呼吸で咳が出る背景にはいくつかの原因が考えられます。
代表的なものを挙げてみましょう。
・アレルギーによる咳(アトピー咳嗽〈がいそう〉・喉頭アレルギー)
アレルギー体質の人に見られる慢性的な空咳で、気管支ではなく喉の奥(喉頭)がアレルゲンに反応して咳が出ます。ダニやハウスダスト、花粉などが誘因となり、長引く乾いた咳が特徴です。
風邪薬が効かず「なかなか咳が治らない」という場合、このタイプの咳であることがあります。深呼吸で空気が喉を通るだけでも過敏に反応し咳込むことがあります。
・副鼻腔炎・後鼻漏(こうびろう)
鼻の奥の副鼻腔に炎症があると膿(うみ)や鼻水が喉に垂れてきて、常に喉が刺激され咳が出ます。特に仰向けに寝たときに鼻水が喉に流れ込み、むせるような咳や痰が出るのが典型的な症状です。
・胃食道逆流症
胃酸が食道に逆流すると、喉や気管を刺激して咳が出ることがあります。胸やけを感じる、夜間横になると咳き込むという人はこの可能性があります。逆流を防ぐ生活習慣(暴飲暴食を避け、食後すぐ横にならない等)を心がけましょう。
・感染後咳嗽
風邪などの呼吸器感染症の治りかけに咳だけが何週間も残ることがあります。ウイルス感染後の気道が敏感な状態で、深呼吸やちょっとした動作でも咳込むことがありますが、通常は一過性で徐々に改善します。
・肺がん・胸膜炎など重篤な疾患
稀なケースですが、肺がんが気管支を刺激して咳が出ることも否定できません。
特に喫煙歴がある方で、血痰(血の混じった痰)や体重減少、胸の痛みなどを伴う場合は注意が必要です。
深呼吸や咳で胸が痛む胸膜炎(きょうまくえん)や心不全による咳など、呼吸器以外の病気の可能性もあります。
いずれにせよ長引く咳や異変を感じたら、決して放置せず必ず医療機関を受診してください。
早期発見・早期治療によって重い病気でも治療成績が大きく向上します。
以上のように、深呼吸で誘発される咳には様々な原因があり得ます。
「自分はどれだろう?」と心当たりがある項目があれば、早めに専門医へ相談することをおすすめします。
◆「咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません」>>
【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
【参考情報】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
【参考情報】”Chronic cough – Symptoms and causes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/symptoms-causes/syc-20351575?utm_source=chatgpt.com
3. 日常生活で気をつけたいポイント
深呼吸で咳が出る症状を悪化させないために、生活習慣を見直すことも大切です。
ここでは、咳を和らげるために日頃から注意したいポイントを紹介します。
3-1. 喫煙を控える
タバコの煙は気道を直接刺激し、慢性的な咳の大きな原因になります。
喫煙者本人だけでなく、副流煙を吸い込むことで周囲の人も気道炎症を起こしうることがあるため注意が必要です。
咳に悩んでいる方は、まず禁煙に取り組みましょう。
禁煙することで気道の炎症が和らぎ、咳の頻度が減る可能性があります。
同時に家族や同僚にも協力してもらい、受動喫煙の環境を避けることも大切です。
3-2. 適度な運動と良い姿勢を意識する
デスクワーク中心で運動不足だと、呼吸に使われる筋肉も衰えがちです。
適度な運動には免疫力を高め、呼吸機能を改善する効果があります。
毎日のウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。
また、長時間座りっぱなしで猫背になっていると肺が圧迫され、呼吸が浅くなります。
背筋を伸ばして深い呼吸を心がけるだけでも、肺にしっかり空気を取り込めて痰の排出が促されます。
仕事の合間にも意識的に深呼吸を行い、肺をしっかり膨らませてあげてください。
3-3. 空気環境を整える
乾燥した空気は喉や気管支を刺激し、咳が出やすくなります。
特に秋冬やエアコン使用時は室内が乾燥しがちです。
適度な湿度(50〜60%程度)を保つよう、加湿器を使ったり濡れタオルを干したりして工夫しましょう。
また、ハウスダストや花粉などのアレルゲンも咳の誘因になります。
定期的な掃除・換気で部屋の空気を清潔に保ち、就寝時はマスクや空気清浄機の活用も有効です。
自分の咳の出やすい環境を把握し、できるだけ避けるようにしましょう。
3-4. その他の生活習慣の工夫
ストレスや疲労も咳を悪化させる場合があります。
緊張状態が続くと自律神経のバランスが乱れ、気道も敏感になりがちです。
十分な睡眠とリラックス時間の確保を心がけ、ストレスをためないようにしましょう。
また、カフェインや香辛料など刺激の強い飲食物も、人によっては咳を誘発することがあります。
胃酸の逆流を防ぐためにも、暴飲暴食を避け食後すぐ横にならないといった工夫も大切です。
【参考情報】『喫煙と呼吸器疾患』厚生労働省 e-ヘルスネット
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-03-003.html
【参考情報】『ぜん息と似ている病気』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/similar.html
4. セルフチェックと早めの受診を
「深呼吸で咳が出る」状態が続くとき、自己判断で様子を見続けるのは禁物です。
慢性的な咳には何らかの原因があることが多いため、適切な検査と治療が必要になります。
特に以下のような場合は、早めに呼吸器の専門医を受診しましょう。
・3週間以上咳が続いている(慢性咳嗽の可能性)
・深呼吸や軽い運動でもすぐ息切れしたり咳込む
・痰が常に絡む咳が出る、またはゼーゼー・ヒューヒューと喘鳴がある
・咳が夜間や早朝にひどく、眠れないほどである
・発熱や痰の色など風邪とは違う症状がある
・喫煙者・元喫煙者で、階段や坂で息切れしたり朝に痰の出る咳が続いている
・血の混じった痰や原因不明の体重減少を伴う咳がある
上記に一つでも当てはまれば、一度医療機関で検査を受けることをおすすめします。
呼吸器内科では、症状に応じて肺機能検査(スパイロメトリー)や胸部レントゲン、CT検査などを行い、原因疾患を調べることが可能です。
また、症状に気づいたらまずセルフチェックしてみるのも良いでしょう。
COPDについては簡単な質問票による自己診断シートが公開されており、息切れや咳の程度からリスクを判定できます。
環境再生保全機構(ERCA)の公式サイトなどで入手できるので活用してみてください。
【参考情報】『セルフチェックシート』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/life/09.html
ただ、あくまでもセルフチェックは目安となります。症状が続く場合は遠慮なく専門医を受診してください。
【参考情報】『マイコプラズマ肺炎』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html
【参考情報】『COPD(慢性閉塞性肺疾患)は肺の生活習慣病です』埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/kitsuentaisaku/copd.html
【参考情報】”Diagnosing Chronic Cough” by NYU Langone(.org)
https://nyulangone.org/conditions/chronic-cough-in-children/diagnosis?utm_source=chatgpt.com
5.おわりに
深呼吸で咳が出る症状は、単なる体調不良ではなく喘息やCOPDなどのサインである可能性があります。
特に働き盛り世代の方は「忙しさで放置していたら悪化した…」とならないよう注意が必要です。
長引く咳は体からの重要なメッセージです。
生活習慣を見直しつつセルフチェックを行い、それでも気になる場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。
適切な治療を受ければ、咳の症状は改善し日常生活も快適に送れるようになります。
深呼吸で感じる違和感を見逃さず、あなたの大切な肺の健康を守ってください。