肺性心とは?

肺性心は、肺の病気の影響により、心臓に異常を引き起こす状態のことをいいます。

肺の血液循環に問題がある場合、心臓に負担がかかり、負担が進行すると、右心不全が起こる可能性があります。肺性心は慢性の肺疾患や肺高血圧症の合併症として現れることがあり、早期の診断と治療が重要です。

この記事では、肺性心の原因と症状、検査と治療についてご説明します。

1.原因


肺性心は、肺高血圧を引き起こす肺疾患が原因となり発症します。

肺性心は発症の状態により急性、亜急性、慢性に分類されますが、通常は慢性肺性心を意味します。

以下が原因となる代表的な疾患です。

1-1. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙や大気中の有害物質にさらされることによって起こる呼吸器疾患です。

主な症状は、労作時の息切れです。歩いたり階段を登ったりすると、息切れが起きやすくなります。慢性的な咳や痰も症状としてみられます。

COPDによって肺の気流が制限され、肺血管抵抗が上昇し、肺性心の原因となります。

喫煙がCOPDの主な原因であり、日本ではCOPDの原因の90%以上が喫煙によるものとされています。

【参照文献】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

1-2. 間質性肺炎(IP)

間質性肺炎は、肺の中の肺胞と血管をつなぐ組織である「間質」という部分を中心に炎症を起こす病気の総称です。

肺胞と毛細血管の間の壁が厚く硬くなり、酸素の取り込みが困難になるため、息切れや咳込みなどの症状が現れます。

この炎症によって肺の組織が傷つき、肺の機能が低下し、肺性心の原因となることがあります。

1-3. 肺高血圧症

肺高血圧症は、肺動脈やその他の血管の障害によって肺動脈圧が上昇する疾患です。

心臓から肺への血液循環が悪くなるため、肺から血液に取り込まれる酸素の量が減り、全身の酸素が不足して、息切れや呼吸困難などが起こります。

肺高血圧症がおこる原因はさまざまですが、主な原因として、肺の血管が狭くなること、心臓や肺の病気によるものや、血のかたまりによるものなどがあります。

肺高血圧症によって肺循環が制限され、肺性心を引き起こす可能性があります。

【参照文献】『肺性心の成因』シンポジウム2司会中 村 隆(東北大学)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/3/1-3/3_1-3_19/_pdf

【参照文献】”Cor pulmonale” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000129.htm

2.症状


肺性心の症状は多岐にわたります。

初期の段階では、とくに症状がないこともありますが、肺の疾患による症状がみられることもあります。

例えば、咳や痰、疲れやすさ、喘鳴(胸がゼーゼーする感覚)、呼吸がしにくいなどです。

病態が進行すると、呼吸困難がより強くなり、体内の酸素不足により唇や爪が紫色(チアノーゼ)に変色することがあります。

進行すると右心不全が起こり静脈の循環が悪化することにより、肝臓が腫れたり、むくみ(浮腫)が発生したりします。

3.検査


肺性心の診断と重症度を把握するための主な検査を以下でご説明します。

<心電図>

心電図は、心臓の電気活動を記録する検査です。肺性心の場合、心電図に右心系への負荷が現れます。

<胸部X線>

肺性心が存在すると心臓が拡大するため、X線で心臓の大きさを確認します。

<心臓超音波(心エコー図)>

心臓の形状や超音波検査の一種のパルスドップラー法を使用して、肺性心を高感度で診断します。

<血液検査>

BNP(脳利尿ペプチド)値や尿酸値の測定により、右心臓への負荷の程度を評価します。

<アイソトープ検査>

肺高血圧症の原因である肺血栓塞栓症を診断するために、肺の換気と血流の分布を同時に評価できる肺換気血流シンチグラフィーが行われます。

<心臓カテーテル検査>

カテーテルを挿入し、肺動脈圧、肺血管抵抗、心拍出量などを測定し、肺性心の詳細な情報を確認します。

4.治療


治療は基本的に、肺性心の原因である肺の疾患に対する治療を行います。

気管支拡張薬、去痰薬が主体となり、必要に応じてステロイド剤、抗生物質などを用います。

低酸素血症は肺性心を悪化させる要因となるため、慢性呼吸不全を伴う患者さんには在宅酸素療法が行われます。在宅酸素療法は、肺血管抵抗および右心負荷を軽減させるため治療としてとても有効ですが、CO2ナルコーシスに注意する必要があります。

CO2ナルコーシスとは、二酸化炭素濃度が高くなることで引き起こされる睡眠障害の一種です。通常、人間の呼吸は二酸化炭素(CO2)の蓄積を感知し、それに応じて呼吸を調整します。

しかし、CO2ナルコーシスの場合、この感知機構が働かず、高濃度のCO2が蓄積するという状況がおきます。

これにより、過剰なCO2濃度が睡眠中に中枢神経系に影響を与え、過度の眠気や昏睡状態を引き起こす可能性があります。

また、右心不全に対する治療として、利尿薬、強心薬、血管拡張薬などの薬物療法が行われます。

フロセミドなどの利尿薬は余分な水分を尿として排泄するのを助け、心臓にかかる負担を軽減します。心臓への負荷を減らすことで、心臓の機能が改善し、右心不全の症状が緩和されます。

また、強心薬のジゴキシンやジギトキシンなどは、心臓の収縮力を強化し、血液のポンプ機能を向上させます。

さらに、血管拡張薬のマレイン酸エナラプリル(レニベース)やロサルタンカリウム(ニューロタン)などです。これらの薬物は血管を拡張させ、心臓への負担を軽減します。

5.おわりに

肺性心は、肺の病気が原因で心臓に異常を引き起こす病気です。放置すると右心不全が起こり、命にかかわる可能性があります。

とくにCOPDなどの持病がある場合、早期の診断と適切な治療が非常に重要です。健康な状態を維持し、症状の管理を行うことが肺性心の予防と治療において大切です。

気になる症状が現れた場合、たとえば息切れや疲労感、咳や痰などがある場合は、早めに呼吸器内科を受診を検討しましょう。早めの対応が肺性心の進行を遅らせる鍵となります。