喘息の人がタバコを吸うと?気道への影響と禁煙のメリット
長引く咳や息苦しさに悩み、「もしかして喘息かも?」と不安になっていませんか?
タバコを吸う習慣がある人は、その喫煙が喘息の発症や症状悪化に深く関係しています。
タバコの煙が気道にどんな影響を与え、どうして喘息に良くないのか、ご存知でしょうか。
この記事では、喫煙によって気道で起こる炎症や変化のメカニズムをやさしく解説し、禁煙を始めた後に見られる体の改善や、クリニックで受けられる禁煙支援について紹介します。
喘息かなと心配している喫煙者の方が前向きに禁煙に踏み切れるよう、分かりやすくお伝えします。
1. タバコが喘息に与える影響とは?(炎症と気道の関係)
.png)
タバコを吸うと、煙に含まれる様々な有害物質が喉(のど)や気管支を直接刺激し、気道に炎症を引き起こします。
喘息とは気道が慢性的に炎症を起こして狭くなる病気ですが、喫煙習慣はその炎症をさらに悪化させる大きな要因です。
まずは、タバコの煙がどのように気道に作用し、喘息の症状につながるのかを見ていきましょう。
1-1. タバコの煙による気道の刺激と炎症
タバコの煙にはニコチンやタール、一酸化炭素など数千種類以上の化学物質が含まれています。
喫煙したとき煙に混じった微細なゴミやこれらの有害物質が気道に入り込むと、体は異物を排除しようとして咳(せき)を誘発してしまうのです。
さらに、タバコの強いにおい自体も刺激となり、咳が出ることがあります。
そのため、タバコを吸うとすぐに「ゴホゴホ」という咳や「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)が起こりやすくなってしまうのです。
実際に、喫煙者は非喫煙者に比べて慢性的に咳や痰(たん)、喘鳴、息切れといった症状が多く見られます。
また、タバコを吸わない人でも副流煙(タバコの先から出る煙)を吸い込むと同様に気道が刺激され、咳込んだり息苦しくなったりします。
特に子どもは気道粘膜が未熟で弱いため、副流煙で喘息発作を起こしやすいです。
自分が吸っていなくても周囲の喫煙によって受動喫煙のリスクがある環境にいると、喘息のリスクが高まり、職場や家庭で受動喫煙にさらされると、咳が通常の2.6〜3.8倍、喘息になる確率が1.4~1.6倍に増加するとの報告もあります。
このようにタバコの煙は自分自身だけでなく周囲の人の呼吸器にも悪影響を与えるため、喘息の発症や悪化要因として十分注意が必要です。
【参考情報】『喫煙と呼吸器疾患』健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-03-003.html
1-2. 気道が過敏になり防衛機能が低下
健康な人の気道には、ホコリやウイルスなどの異物を排除する防御システムが備わっています。
気道の粘膜から分泌される粘液(痰)と、それを運び出す線毛(せんもう)の働きによって、吸い込んだ不要な物質を外へ追い出す仕組みです。
しかし、タバコの煙を継続的に吸い込むと煙に含まれる有害物質によって線毛の動きが鈍くなり、粘液の分泌も過剰になるため、異物をうまく排出できずに気道に炎症が広がりやすくなるのです。
その結果、粘り気のある痰が増えて常に喉にからむようになり、慢性的な咳や喘鳴につながります。
さらに、炎症が続くことで気道自体が敏感になり過ぎた状態(気道過敏性の亢進)に陥ります。
炎症でダメージを受けた気道粘膜はちょっとした刺激にも反応しやすくなるため、普段なら平気な少しのホコリでも咳込んだりゼーゼーしたりしやすくなります。
つまり喫煙者の気道は、喘息を誘発するスイッチが常に押されやすい状態になってしまうのです。
その上、タバコには気道を収縮させる作用もあるため、発作時の息苦しさがより強く出る傾向があります。
つまり、タバコを吸う習慣そのものが喘息のリスク要因であり、喫煙を続ける限り気道の炎症と過敏な状態が慢性化していくことになります。
【参考情報】”Environmental Triggers of Asthma” by ATSDR
https://archive.cdc.gov/www_atsdr_cdc_gov/csem/asthma/environmental_triggers_of_asthma.html
2. タバコを吸い続けると起こる気道の変化と喘息の悪循環

タバコによる刺激で炎症が繰り返されることに加え、喘息の治療をせずに放置したり、自己判断で治療を中断すると、気道が狭い状態のまま元に戻らなくなることがあります(これをリモデリングといいます)。
タバコによる刺激で炎症が繰り返されると、このリモデリングを早めてしまいます。
ここでは、喫煙を続けた場合に気道でどんな変化が進行し、どうして喘息が治りにくくなるのかを説明します。
【参考情報】『はじめてぜん息と診断された方へ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/first.html
2-1. 慢性的な炎症がもたらす気道リモデリング
気道リモデリングとは、気道の慢性的な炎症により組織が傷つき修復を繰り返すうちに、炎症が長期間続くことで気道の壁が厚く硬くなり、内腔(空気の通り道)が狭いまま固定されてしまいます。
気管支の粘膜下では、コラーゲン線維が沈着するなど線維化が進み、筋肉や粘膜腺が肥大して、以前より気道が狭くなった状態が慢性化します。
こうなると、発作が起きていない時でも息苦しさが残るようになり、いったん狭くなった気道は薬で炎症を抑えても完全には元の太さに戻らなくなってしまうのです。
タバコを長年吸っている人では、このようなリモデリングによる気道の狭窄(きょうさく)が起こりやすいとされています。
このリモデリングが進むと喘息の症状が慢性化し、治療をしてもコントロールが難しくなってしまうのです。
また、喫煙歴が長い人は喘息だけでなくCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という別の病気の発症にも注意が必要です。
COPDは主に喫煙によって肺に不可逆的なダメージが蓄積する疾患で、咳や痰、息切れが慢性的に続く点で喘息と似ています。
喘息とCOPDの両方の要素を持った状態(ACOという)になるケースもあり、喫煙はまさに呼吸器のあらゆる病気を進行させる原因と言えるでしょう。
【参考情報】”The Role of Airway Smooth Muscle in the Pathogenesis of Airway Wall Remodeling in Chronic Obstructive Pulmonary Disease” by NIM
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2713326/
2-2. 狭くなった気道が招く悪循環
喫煙によって気道が狭く硬くなると、さらに悪循環に陥ります。
気道が細くなれば空気の通りが悪くなるため、酸素を十分に取り込めず少し動いただけで息切れしたり、階段を上るのが辛くなったりします。
そうすると肺活量の低下により運動不足になり、体力や肺の機能がますます落ちてしまいます。
さらに、気道が狭いため、ちょっとした刺激でも発作につながりやすくなり、発作の度に気道がさらにダメージを受けてリモデリングも進行していくのです。
一度タバコで傷んでしまった肺組織は元通りになりません。
「以前より咳がひどくなった」「息苦しさが慢性的に残る」という状態になってきたら、早めに禁煙してこれ以上のダメージを食い止めることが大切です。
喫煙を続ける限り、炎症と狭窄の悪循環で呼吸機能は右肩下がりに低下していきます。
禁煙によってこの悪循環をストップさせることができれば、喘息のコントロールも格段にしやすくなるのです。
【参考情報】”How does cigarette smoking affect airway remodeling in asthmatics?” by PMC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9881586/?utm_source=chatgpt.com#sec3
3. 喘息治療薬が効きにくくなる理由

喘息の治療の基本は、気道の炎症を鎮めるための吸入ステロイド薬などの抗炎症薬を毎日使うことです。
しかし、喫煙しているとこれらの治療薬の効果が低下することが分かっています。
タバコに含まれる有害物質は気道の炎症を悪化させるだけでなく、炎症を抑える薬の効き目そのものを弱めてしまう作用があるのです。
特に、喘息治療に多く使用される吸入ステロイド薬は、喫煙者では非喫煙者に比べて効果が出にくいことが知られています。
その理由は、タバコの煙によって気道の炎症のタイプが変化し、ステロイド薬が効きやすい好酸球性の炎症よりも、ステロイド薬が効きにくい好中球性の炎症が主体になるからだと考えられます。
簡単にいうと、タバコを吸っている喘息患者さんの体内では、薬で抑え込みにくい種類の炎症反応が起こりがちだということです。
実際、長年喫煙している喘息患者さんでは増悪(ぞうあく:病気や症状がもともと悪かった状態からさらに悪化すること)を繰り返しやすく、通常量の吸入ステロイドでは炎症を抑えきれず、経口ステロイド薬(飲み薬)など強力な治療が必要になるケースも少なくありません。
喘息の十分な治療効果が得られなくなる可能性があるので、喘息治療と合わせて禁煙も行いましょう。
【参考情報】『成人喘息』J-Stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/57/1/57_KJ00004840308/_pdf
【参考情報】”Asthma and cigarette smoking” by ERS
https://publications.ersnet.org/content/erj/24/5/822
4. 禁煙後に見られる体の変化と改善のサイン

「今から禁煙しても遅いのでは?」と心配になるかもしれませんが、たとえ長年喫煙していた人でも禁煙を始めれば呼吸器症状や免疫機能は改善していきます。
禁煙による体の良い変化は驚くほど早く現れることが分かっています。ここでは、禁煙を始めた後に呼吸器を中心にどのような改善が起こるのか、そのサインをご紹介します。
4-1. 禁煙開始から数週間〜数ヶ月で現れる改善
禁煙の効果は早ければ24時間以内にも現れます。
例えば、最後の一本を吸ってから一日経過すると心臓発作(心筋梗塞)のリスクが下がることが報告されており、呼吸器に関しても、禁煙後1ヶ月ほどで咳や喘鳴などの症状が改善し始めるとされています。
たまに、「禁煙後に痰が増えた」という方がいます。
これは禁煙により、気道の自浄作用(線毛の働き)が回復してくるために一時的に起こるもので、回復のサインです。
また、禁煙は免疫機能も徐々に回復し、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりにくくなるというメリットもあります。
禁煙開始からほどなくして、「喉のイガイガが減った」「息切れしにくくなった」といった呼吸のしやすさの実感が得られるでしょう。
もちろん個人差はありますが、体は確実に良い方向へ変わり始めています。
【参考情報】『禁煙の効果』健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-08-001.html
4-2. 長期的な禁煙で得られるメリット
禁煙による体の改善は短期間で感じられるものだけではありません。継続することで将来的な健康リスクを大きく減らすことができます。禁煙から1年ほど経つと肺の機能が向上することが確認されています。
さらに、長期的な疾患リスクも年数とともに低下します。例えば、禁煙して5年経過すると脳卒中や肺がんになる可能性が明らかに低下することがデータで示されています。
そして10~15年継続すれば、さまざまな病気にかかる危険性が非喫煙者とほぼ同じレベルにまで近づくことが分かっています。
このように禁煙は遅すぎることは決してなく、何歳からでも始める価値があるのです。
呼吸器の症状以外にも、「禁煙してしばらく経ったら食べ物の味や香りをしっかり感じられるようになった」「朝の目覚めが良くなった」「肌の調子が整った」など、生活の質が向上したという声も多く聞かれます。
多少のニコチン切れによるイライラは一時的なものですから、ぜひメリットを楽しみに禁煙を続けてみてください。
5. クリニックでできる禁煙サポートと保険適用制度

「自分一人で禁煙するのは難しそう」と感じている方もご安心ください。
呼吸器内科など医療機関には「禁煙外来」といって、専門の医師や看護師が禁煙をサポートしてくれるプログラムがあります。
意志の力だけでやめるのが大変なのは、タバコにニコチン依存症という強い中毒性があるためです。
医療機関では、この依存を和らげて禁断症状を乗り越えるためのお薬やアドバイスが受けられます。
ここでは、クリニックで提供している禁煙支援の内容と、利用する際の保険適用制度について説明します。
5-1. 禁煙外来で受けられるサポート内容
禁煙外来では医師があなたの喫煙習慣や健康状態を評価し、禁煙開始日を決めて計画的に治療を進めていきます。
禁煙治療プログラムでは約12週間(3ヶ月)にわたり合計5回の外来受診を行い、途中経過をフォローします。
治療の中心となるのは禁煙補助薬の使用です。 代表的なものはニコチンパッチ(皮膚に貼るシール状の薬)です。
ニコチンパッチは皮膚からニコチンを少量持続的に吸収させ、タバコを吸いたい気持ち(切望感)やイライラなどの禁断症状を緩和してくれます。
また、禁煙外来では毎回の診察で息の中の一酸化炭素濃度測定を行い、禁煙できているかを確認します(タバコを吸っていると一酸化炭素が血液中に増えるため)。
数値が改善していけば達成感につながりますし、逆に「また吸ってしまった…」という場合も医師が一緒に原因を考え対策を練ってくれます。
看護師やカウンセラーからアドバイスをもらえるのも心強い点です。
一人で悩まず、ぜひ禁煙外来を活用してみましょう。
5-2. 禁煙治療における保険適用の条件
禁煙外来での治療は一定の条件を満たせば公的医療保険が適用されます。
保険診療で禁煙治療を受けるための主な条件は次の4つです。
1.ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS:タバコ依存度を診断する問診票)で5点以上となり、ニコチン依存症と診断されること。
2.35歳以上の場合は、ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること(※35歳未満の方は2016年以降、この条件を満たさなくても保険適用可能になりました)。
3.直ちに禁煙する意思があること(具体的には「2週間以内に禁煙開始する」ことに同意する)。
4.標準的な禁煙治療プログラムについて医師から説明を受け、文書で治療を受けることに同意していること。
上記すべてに当てはまる場合、12週間の禁煙治療プログラムに保険を使って取り組むことができます。
保険適用の場合、自己負担額はクリニックにもよりますが3割負担で合計1〜2万円程度が一般的です(自由診療で行うと数万円以上かかるため、条件に合えば保険を使うメリットは大きいです)。
なお、保険適用での禁煙治療は1年に1回のみ認められています。
一度途中で失敗してしまった場合は、原則として1年以上あけてからでないと再度保険で治療を受けられませんので注意しましょう。
6. おわりに
タバコを吸う人にとって、咳や息切れは「よくあること」と思いがちです。
しかし、その咳は単なる喫煙者の習慣的な咳ではなく、喘息など病気のサインかもしれません。
喫煙が原因で起こる喘息発作や慢性的な息苦しさは、市販ののど飴や咳止めでは治せませんし、我慢して放置すると症状は悪化する一方です。
息苦しさのない毎日を取り戻すためには、禁煙という第一歩が欠かせません。
喘息かな?と感じたら早めに呼吸器内科を受診して原因を調べ、禁煙外来の力も借りながらタバコと決別しましょう。
