肺真菌症とは?
肺真菌症は、免疫力が低下している時などに肺にカビが侵入することで起こる感染症で、近年増加傾向にあります。
この記事では肺真菌症の原因、種類、症状、検査、治療、日常生活の注意点について詳しく解説しています。
真菌の種類や免疫の状態によっては命に関わる場合もありますので、早期治療が大切になります。
1.原因
肺真菌症とは、肺に「真菌」という空気中に普通に存在している微生物(カビ)が侵入して発症する病気で、多くは日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)です。
日和見感染症とは、健康な人であれば害のないような弱い病原体でも、高齢者など免疫力が低下している人は発症してしまう感染症のことです。
そのため、近年は高齢化や免疫抑制剤使用の増加などにより、肺真菌症の罹患数は増加傾向にあります。
【参考情報】『肺真菌症』東邦大学医学部内科学講座呼吸器内科学分野 松瀬厚人
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/6/77_690/_pdf
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、合併症として肺真菌症(肺アスペルギルス症やムーコル症など)が多く報告されています。
COVID-19に合併した肺アスペルギルス症は予後が悪く、死亡率が高いと言われています。
【参考情報】『COVID-19-Associated Pulmonary Aspergillosis (CAPA)』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8346330/
2.肺真菌症の種類
肺真菌症の分類には、発症部位によるものと原因真菌の種類によるものがあります。
発症部位による分類では、粘膜など表面に発症する「表在性真菌症」と、深部臓器に発症する「深在性真菌症」に分けられます。
臓器の中でも特に肺は、呼吸を通じて真菌が侵入しやすいと言われています。
原因真菌の種類による分類では、肺アスペルギルス症、肺クリプトコッカス症、肺カンジダ症、肺ムコール症、ニューモチシス肺炎などがあります。
中でも最も多いのが肺アスペルギルス症です。
2-1.肺アスペルギルス症
肺アスペルギルス症の原因菌は様々ですが「アスペルギルス・フミガータス」が最も多いです。
原因となるアスペルギルス属の真菌は大気・土壌中に広く存在していて、食品の醸造に使われるコウジカビなども含まれます。
肺アスペルギルス症は病態によって「侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)」「慢性肺アスペルギルス症(CPA)」「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)」などに分けられます。
侵襲性肺アスペルギルス症は、移植後の患者さんや、がんの化学療法、長期にわたるステロイド薬の内服により免疫機能が弱くなった患者さんがアスペルギルスを吸い込むことで発症します。
慢性肺アスペルギルス症は、月単位でゆっくりと進行し、結核症や気管支拡張症、肺線維症などでできた空洞や病変部に入り込み、アスペルギローマ(アスペルギルス腫)と呼ばれる真菌塊を形成します。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、感染症というよりはアレルギー疾患の1つです。
空気の通り道である気道や気管支に入ったアスペルギルスによってアレルギー反応が起こり、喘息様の発作を引き起こします。
【参考文献】”Pulmonary aspergillosis: a clinical review” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9584108/
2-2.その他
肺アスペルギルス症以外にも、肺クリプトコッカス症、肺カンジダ症、肺ムコール症、ニューモシスチス肺炎などがあります。
【肺クリプトコッカス症】
肺クリプトコッカス症は、ハトの糞で汚染された土壌などに存在している「クリプトコッカス-ネオフォルマンス」という真菌が原因で起こります。
健康な人でも発症する可能性があり、その場合は無症状のことも多いです。
免疫機能が低下した患者さんが発症すると発熱や咳、倦怠感、胸痛などの症状が現れます。
原因菌を吸い込むことで肺から感染しますが、病巣が別の部位に広がる「播種性感染(はしゅせいかんせん)」を起こすこともあり、中枢神経に播種すると脳髄膜炎になる場合もあります。
※脳髄膜炎:脳を保護している膜に病原体が感染し炎症が起きる病気。発熱、頭痛、嘔吐、首の硬直が特徴的な症状。進行すると意識障害やけいれんが起きる。
【参考情報】『クリプトコックス症の概要』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2318-related-articles/related-articles-428/5993-dj4281.html
【肺カンジダ症】
肺カンジダ症の原因となる「カンジダ-アルビガンス」という真菌は皮膚や口腔の常在菌です。
免疫が低下している時に、他の菌と交代するようにして肺炎を引き起こすことがあります。
【参考文献】”Pulmonary candidiasis” by Radiopaedia
https://radiopaedia.org/articles/pulmonary-candidiasis
【肺ムコール症】
ムコール症(接合菌症)とは、様々な種類の真菌が原因となり、鼻、副鼻腔、肺、眼、脳などに発症します。
原因となるムコール目の真菌には、パンのカビも含まれます。
他の感染症と似ていて特定が難しい場合もありますが、急激に悪化するため早期に治療が必要な感染症です。
他の真菌症と同じように免疫が低下している患者さんのほか、コントロール不良の糖尿病患者さんも発症しやすいと言われています。
【参考情報】『ムコール症について』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2014-05-23-10-42-38/476-bioact/484-bioact-mucor.html
【ニューモシスチス肺炎】
ニューモシスチス肺炎は、「ニューモシスチス-イロベチー」による間質性肺炎です。
※間質性肺炎:肺胞(肺の空気が入る場所)の壁を支える間質に炎症が起き、硬くなる病気。息切れ、痰のない乾いた咳が主な症状。
特にエイズ(後天性免疫不全症候群)など免疫力の低下した患者さんは感染しやすく、予後不良です。
【参考情報】『ニューモシスチス・イロベチイ)』日本臨床微生物学会
https://www.jscm.org/journal/full/02603/026030195.pdf
3.症状
肺真菌症の症状は、真菌の種類やその人の免疫力によって異なりますが、代表的なものには次のようなものがあります。
・発熱
・咳
・痰、血痰
・倦怠感
・呼吸困難
・体重減少
結核や肺炎などの呼吸器感染症と似たような症状のため、肺真菌症を疑いにくい場合があります。
しかし、免疫の状態や真菌の種類によっては命に関わる場合もありますので、早期に治療が必要となります。
【参考情報】『肺真菌症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-09.html
4.検査
肺真菌症は、肺から病原真菌を採取することで確定診断となりますが、検体採取には侵襲(生体に傷をつけること)を伴うため、全身状態の悪化が懸念される場合は他の検査を組み合わせて行うこともあります。
胸部X線検査や胸部CT検査を行い、影が見られることもありますが他の病気との鑑別が難しい場合もあります。
【参考文献】”Diagnosis of pulmonary fungal infections” by National Institues of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3041516/
5.治療
肺真菌症の治療としては主に、原因真菌の種類に応じた抗真菌薬が用いられます。
通常は内服薬ですが、重症の場合は点滴で投与することもあります。
重症度にもよりますが、治療期間は6か月以上など長期にわたることがほとんどです。
また、慢性肺アスペルギルス症の場合は手術で病変部を切除する場合もあります。
【参考文献】”An Official American Thoracic Society Statement: Treatment of Fungal Infections in Adult Pulmonary and Critical Care Patients” by American Thoracic Society
https://www.thoracic.org/statements/resources/tb-opi/treatment-of-fungal-infections-in-adult-pulmonary-critical-care-and-sleep-medicine.pdf
6.肺真菌症の悪化を防ぐためには
肺真菌症の原因となる真菌は、空気、土、水の中などあらゆるところに存在しているため、完全に取り除くことは不可能です。
しかし、特に免疫力が低下している人は以下のような対策でリスクを減らすことができます。
・こまめなカビ取り
・エアコン・加湿器を常に清潔にする
・換気などで部屋の通気性をよくする
・工事現場、廃屋などホコリやカビの多いところを避ける
・タバコを吸わない
また、鉢植えの土や花瓶の水には真菌が増殖しやすいため、免疫が低下している患者さんのお見舞いなどに行くときには注意しましょう。
7.おわりに
真菌症には、皮膚や爪、口の中など体の表面に発症する「表在性真菌症」と、肺や脳、肝臓など体の内部に発症する「深在性真菌症」があります。
深在性真菌症は肺に発症することが多く予後不良な場合もあるため、気になる症状があればまずは呼吸器内科を受診してください。
また、肺真菌症の疑いがある時は体力や免疫力が低下している可能性が高いので、なるべく人込みを避け、外出時にはマスクを着用して風邪などの感染症を予防しましょう。