咳が止まらない…考えられる病気は?
咳が出て、なかなか治らずに困ったことはありませんか。
とくに子どもの場合、大人に比べて気管支(肺に空気を運ぶ木の枝のような管)が細く柔らかいため、風邪などの感染症にかかりやすく、痰が詰まりやすい状態になり、痰を外に出すために咳が増えます。
風邪以外の感染症で咳が長引くこともあり、そのほかの原因としてはアレルギーや喘息、気管支炎、肺炎などが考えられます。
咳が長期間続く場合は、これらの病気の可能性があるため、早めに呼吸器内科などの診察を受けることが重要です。
この記事では、咳が止まらない場合に考えられる病気についてご説明します。
1.咳が出る理由
咳は、呼吸器系の機能を保つための重要な反射行動です。
主に異物をからだの外に排出し、空気の通り道である気道を清潔に保つことを目的としています。
呼吸器系の病気では、最も多く見られる症状の一つと言えるでしょう。
咳は、感染症、喘息、肺がん、肺結核、アレルギーなどのさまざまな原因で発生します。
これらの病気は気道の刺激や炎症を引き起こし、異物を取り除こうとして咳を起こします。
そのほか、ストレスが原因で慢性的な咳につながることもあります。
【参考文献】”Cough Causes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/symptoms/cough/basics/causes/sym-20050846
2.咳の種類
咳は咳の仕方、痰の有無などで乾性咳嗽(かんせいがいそう)と湿性咳嗽(しっせいがいそう)に分類されます。
2-1.乾性咳嗽
乾性咳嗽とは、痰がほとんど出ない、または全く出ない乾いた咳のことです。
このタイプの咳は、とくに「コンコン」という音を伴い、乾燥している感じが特徴です。
咳の原因として考えられる病気には、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、感染後咳嗽(風邪などの感染症が治った後も続く咳)などがあります。
これらの病気は肺や気管の粘膜に炎症を引き起こすので、乾いた咳の症状がでます。
2-2.湿性咳嗽
湿性咳嗽は、痰を伴う湿った咳のことです。
特徴として喉や胸部で痰が絡む感じがあります。
湿性咳嗽の原因になり得る病気としては、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支喘息、肺がんなどがあります。
これらの病気に共通しているのは、気道内の分泌物が増えることです。この増加した分泌物が、湿った咳を引き起こす主な原因となります。
3.止まらない咳の原因
さまざまな咳の原因についてご説明します。
3-1.ウイルスや細菌
ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルスや、肺炎球菌などの細菌が原因で咳がでます。
これらの病原体が体内に入ると、気道に炎症を起こし、長引く咳が出る場合があります。
風邪にかかった時は、咳以外にも鼻水、のどの痛み、発熱などの症状が現れることが多いです。
風邪の症状は、感染後3日以内に最も強くなりその後は緩和していくのが一般的です。
一方で、マイコプラズマやクラミジアなどの特定の感染症による場合は、咳が2週間以上続くことがあります。
3-2.アレルギー
アレルギー性の咳は、ダニ、ホコリ、ペットの毛などのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)に反応して起こるものです。
アレルゲンに敏感な方は、長く続く咳に悩まされることがあります。
このようなアレルギー性の咳は、病院での血液検査や皮膚テストを通じて、何に反応して咳が起きているのかを特定することが可能です。
3-3.たばこなどの有害物質
たばこの煙、粉塵、化学物質などの有害物質を吸入すると、気道に炎症を引き起こし、長引く咳が出ることがあります。
有害物質は、肺や呼吸器系に刺激を与えるため、咳を引き起こす原因となります。
【参照文献】 『Q1 からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html
4.検査
さまざまな咳の原因を特定し、適切な治療を行うためには検査が必要です。咳の原因を明らかにするための主な検査についてご説明します。
4-1.呼吸機能検査
呼吸機能検査は、肺の容量や気道の通気性に問題がないかなど肺や気道の機能を詳しく調べるために行われる検査です。
咳が続く原因を明らかにし、適切な治療法を決定することができます。
とくに喘息やアレルギー性の咳を持つ患者さんにおいて、気管支が狭くなっているかどうかを確認することは重要です。
呼吸機能検査では、さまざまな数値が測定されます。
主な指標には、肺活量(肺に入る空気の最大量)、1秒量(1秒間に強く吐き出すことができる空気の量)があります。
これらの数値は、肺や気道の状態を示し、気道の狭窄や閉塞の有無、呼吸の効率などを評価するのに役立ちます。
呼吸機能検査は、簡単な呼吸操作を通じて行われ、とくに痛みを伴うことはありません。
患者さんは機械につながれたマウスピースを通して呼吸を行い、機器により自動的に肺の機能を測定します。
4-2.画像検査
画像検査には、胸部X線検査と胸部CTスキャンがあります。
肺やその周辺組織の状態を視覚的に確認することが可能です。
これらの検査によって、肺結核、間質性肺炎、肺がんなどの病気における肺の異常陰影や変化を捉えることができます。
胸部X線検査は、最も一般的な画像診断方法であり、骨、肺、心臓など胸部の構造を2次元的に表示します。肺の異常や胸水(きょうすい:肺と肺を囲む壁の間に溜まる液体)の蓄積、心臓のサイズ変化などを検出するのに有効です。
胸部CTスキャンは、より高解像度の画像を提供し、肺組織の詳細な断面を3次元的に観察することができます。X線検査では見逃されがちな微小な異常も発見できる可能性が高まります。
とくに、肺がんや結核、間質性肺炎などの症状が非特異的(様々な病気で起こりうる症状)である場合、これらの画像検査は診断に非常に重要です。
病変の位置、大きさ、形状を特定し、病気の進行度を評価するのに役立ちます。
治療の効果を評価するためや、手術前の計画を立てる際にも、胸部画像検査は欠かせないツールとなります。
4-3.アレルギー検査
咳がアレルギー性の可能性がある場合、原因を特定するためにはアレルギー検査が非常に有効です。
アレルギー検査には主に皮膚テストと血液検査があります。
ダニ、ペットの毛、花粉など、さまざまなアレルゲンの特定が可能です。
皮膚テストでは、小さな針を使用してアレルゲンを皮膚に少量ずつ塗布し、反応を観察します。アレルギーがあれば、その箇所が赤く腫れたりかゆみを伴ったりします。
多くの場合、テスト中に迅速に結果が得られることが利点です。
血液検査では、血中の特定の抗体(IgE:アレルゲンに反応するタンパク質)のレベルを測定して、アレルギーの有無を調べます。
この方法は、皮膚テストが行えない場合や、より広範なアレルゲンスクリーニングが必要な場合に適しています。
5.治療
咳の治療についてご説明いたします。
5-1.感染症で出る咳の場合
インフルエンザや肺炎などの感染症による咳の治療には、対症療法がおこなわれます。
たとえば、インフルエンザの場合は抗インフルエンザウイルス薬、細菌性の肺炎の場合は抗菌薬(抗生物質)の使用です。
また、適切な水分補給と安静が治療するにあたって非常に大切です。免疫力を高め、感染に対抗し回復するのを助けます。
感染症が治まった後でも、気道の炎症が残ることがあり、これが咳を長引かせる原因となることがあります。
このような場合には、鎮咳薬や去痰薬を用います。
鎮咳薬は咳の反射を抑制して咳を和らげ、去痰薬は痰の排出を促進して気道を整える助けとなります。
結核などの感染症による咳は、適切な抗菌薬治療が必要です。
結核治療には、複数の抗菌薬を組み合わせた長期間の治療がおこなわれます。正しい治療は、周りへの感染を防ぎ、耐性を避けるために重要といえるでしょう。
5-2.感染症以外で出る咳の場合
感染症以外の咳の治療は、基本的にその原因となる病気に焦点を当てます。治療方法は病気によって異なります。
<喘息>
喘息による咳には、主に吸入ステロイド薬や気管支拡張薬が使用されます。
吸入ステロイドは、気道の炎症を抑制し咳を予防するのに役立ちます。
気管支拡張薬は、気道を広げて呼吸を楽にし、咳の発生を減らします。
<COPD(慢性閉塞性肺疾患)>
COPDによる咳の治療では、禁煙が非常に重要です。
喫煙はCOPDの進行を早め、症状を悪化させます。
治療には吸入薬、必要に応じて酸素療法がおこなわれます。
吸入薬は気道の狭窄を緩和し、酸素療法は血中の酸素濃度を改善することが可能です。
<アレルギー性の咳>
アレルギー性の咳の治療には、抗ヒスタミン薬やステロイド薬が効果的です。
抗ヒスタミン薬はアレルギー反応を引き起こす物質の作用を抑え、ステロイド薬は炎症を減少させます。
<胃食道逆流症>
胃食道逆流症による咳の場合、制酸薬や酸分泌抑制薬を用います。
これらの薬は、胃酸の量を減らし、胃酸が食道に逆流するのを防ぎます。これにより、咳を引き起こす刺激を減らすことが可能です。
6.予防
咳の予防には、感染症の拡散を防ぐ基本的な衛生対策が欠かせません。
<手洗い>
手洗いは最も基本的で効果的な方法のひとつです。
石鹸と流水を使用して30秒以上行い、手指についた病原体を除去しましょう。
<マスク着用>
公共の場や人混みの中では、マスクの着用が飛沫感染のリスクを減らし、自分自身だけでなく他人に感染させるのにも役立ちます。
<予防接種>
ワクチン接種も咳の予防に重要な役割を果たします。
とくにインフルエンザや肺炎球菌ワクチンは、これらの感染症からの感染を防ぎ、重症化を防ぐことで咳を抑えます。
<禁煙>
禁煙は、とくに喫煙者の方にとって、咳の予防と一般的な呼吸器の機能を改善するために重要です。
たばこの煙は気道を刺激し、慢性的な咳やそのほかの呼吸器の病気を引き起こす主要な原因となります。
喫煙をやめることは、咳の改善だけでなく、長期的な健康を守るためにも有効です。
<アレルゲンを避ける>
アレルギー性の咳に関しては、アレルゲンの特定と回避が重要になります。
家の中のダニ、ペットの毛、花粉などのアレルゲンを減らしましょう。
<食生活の改善・体重管理>
胃食道逆流症による咳の予防には、食生活の改善や体重管理が効果的です。
辛い食べ物やカフェイン、アルコールの摂取を控え、適切な体重を維持することで、胃酸の逆流を防ぎ、それに伴う咳を減らすことができます。
7.おわりに
咳はさまざまな原因によって引き起こされる症状であり、その多くは一時的なものです。
しかし、咳が2週間以上続く場合は、一時的でない病気の兆候である可能性があります。
咳が治らない場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
適切な診断と治療を受けることで、原因となっている病気を特定し治療を開始することが可能です。早期の受診と治療により、症状の悪化を防ぎましょう。