コロナ以外のウイルス感染で咳がでる病気と予防法

咳が出るからといって、全てが新型コロナウイルスによるものではありません。
コロナウイルスだけでなく、ほかの多くのウイルス感染や呼吸器の疾患でも咳の症状がみられます。
この記事では、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染症、細菌感染症、呼吸器の病気など、咳を引き起こすさまざまな原因とその予防法についてご説明いたします。
1.咳がでる呼吸器の病気とは
咳は、呼吸器の異常を知らせる重要な症状です。さまざまな病原体が呼吸器に感染し、咳が引き起こされることがあります。ここからは、代表的なものを紹介しましょう。
1-1.ウイルス感染の病気
ウイルス感染で起こる病気としては、風邪、インフルエンザ、気管支炎、RSウイルス感染症などが代表的です。
風邪は最も一般的なウイルス感染のひとつで、鼻水や喉の痛みとともに咳が見られます。
通常、数日から一週間程度で自然に治りますが、免疫力が低下していると症状が長引くこともあります。
インフルエンザは、風邪よりも重い症状を引き起こすウイルス感染症です。
突然の高熱や関節痛、全身の倦怠感が特徴で、しばしば強い咳を伴います。インフルエンザは毎年流行し、とくに高齢者の方や呼吸器系の持病を持つ方は重症化しやすいため注意が必要です。
気管支炎は、気管支に炎症が起こる病気で、ウイルス感染によって引き起こされることが多いです。初期症状は風邪と似ていますが、次第に咳がひどくなり、咳に痰が絡む場合があります。
RSウイルス感染症は、乳幼児や高齢者の方で重症化しやすいウイルス感染症で、鼻水や咳が主な症状です。肺炎や細気管支炎(さいきかんしえん)に進行することがあるため、早期に治療を開始するのが重要です。
これらのウイルス感染症を予防するためには、日頃から免疫力を高めるための生活習慣が大切です。
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠などを心がけることで、これらの感染症にかかるリスクを減らすことができます。
【参考文献】”Common cold” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/common-cold/symptoms-causes/syc-20351605
【参考文献】”Influenza (Flu)” Centers for Diserase Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/index.html
【参考文献】”Bronchitis” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/3993-bronchitis
【参考文献】”Respiratory syncytial virus (RSV)” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/respiratory-syncytial-virus/symptoms-causes/syc-20353098
1-2.細菌感染の病気
細菌感染によって引き起こされる病気にはさまざまなものがあります。ここでは、代表的な百日咳と肺結核についてご説明いたします。
<百日咳>
百日咳は、百日咳菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。
乳幼児は重症化しやすく、長期間にわたり激しい咳がでるのが特徴です。
咳がひどくなると呼吸が困難になり、乳幼児では全身が青紫色になるチアノーゼやけいれんを引き起こすことがあります。
場合によっては窒息や肺炎などの重篤な合併症を引き起こし、命にかかわる場合もあります。
感染者の方の咳やくしゃみによって、飛沫が飛び散り、それを吸い込むことでほかの方に感染する飛沫感染です。
予防にはワクチン接種が非常に効果的であり、適切なタイミングでの接種により感染リスクを大幅に減らすことが可能です。
【参照文献】『感染症情報 百日せき』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/whooping_cough/index.html
【参考文献】”Symptoms of Whooping Cough” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pertussis/signs-symptoms/index.html
<肺結核>
肺結核は、結核菌によって引き起こされる感染症です。
主に肺に感染しますが、肺以外の臓器にも広がることがあります。結核は、ゆっくりと進行するため、初期の症状が軽く、発見が遅れることが多いです。
主な症状には、長期間続く咳、痰、血痰、体重減少、発熱などがあります。
肺結核の治療には通常、数ヶ月から1年以上にわたる長期の抗生物質治療が必要です。
治療期間が長期になりますが、途中で薬を飲むのをやめてしまうと、結核菌が再び増殖し、病気が再発するだけでなく、薬に対する耐性がつく恐れがあります。
医師の指示に従って治療を継続すれば、大部分の肺結核は完治することが可能です。
【参照文献】”Pulmonary tuberculosis” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000077.htm
1-3.その他の病気
微生物やカビなど、ウイルス感染や細菌感染以外の感染症による、通常の細菌性肺炎とは異なる特徴を持つ肺炎についてご説明します。
マイコプラズマやクラミジアなどの微生物によって引き起こされる肺炎は、非定型肺炎と呼ばれます。症状の特徴として、乾いた咳が長く続き、痰が少ないことが挙げられます。
非定型の肺炎は若年者の肺炎の約半数を占めており、とくにマイコプラズマによる感染が多いのが特徴です。
ここからは、非定型肺炎の代表的なものをご紹介いたします。
<マイコプラズマ肺炎>
マイコプラズマ肺炎は非定型肺炎の一種で、主に風邪や気管支炎の症状を引き起こします。
通常は自然治癒する疾患ですが、3〜5%の患者さんが一般的な細菌性肺炎を発症することがあります。
治療には主にマクロライド系抗生物質が使用されますが、近年では耐性菌の出現により効果が低下しているのが問題です。
【参考文献】”Mycoplasma pneumonia” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000082.htm
<クラミジア肺炎>
クラミジア肺炎も非定型肺炎の一種で、マイコプラズマ肺炎と同様の症状を示します。一般的な細菌性肺炎とは異なり、ペニシリンやセフェム系抗生物質が効きにくいのが特徴です。
【参考文献】”About Chlamydia pneumoniae Infection” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/cpneumoniae/about/index.html
<肺真菌症>
肺真菌症は、アスペルギルスやクリプトコッカスなどの真菌(カビ)を吸い込むことで起こる肺炎です。
健康な方がかかることは少なく、主に肺に持病がある方やステロイド、免疫抑制剤を使用している方が罹患しやすいです。
<レジオネラ肺炎>
レジオネラ肺炎は、レジオネラ菌によって引き起こされる重症の肺炎です。自然環境の中で生息しており、汚染された水を介して感染することが多いとされています。
【参考文献】”Legionnaires’ disease” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/legionnaires-disease/symptoms-causes/syc-20351747
1-4.感染しない病気は?
咳が症状に出る呼吸器疾患には、感染によるものだけでなく、感染によらない慢性の病気も多くあります。
呼吸器疾患は、長期にわたって呼吸機能に影響を及ぼし、生活の質を低下させることがあります。ここでは、主な非感染性の呼吸器疾患についてご説明します。
<喘息>
喘息は、空気の通り道である気道の慢性炎症性疾患で、気道が過敏になりやすくなる病気です。
主な症状として、発作的に起こる呼吸困難、喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ、ヒューヒューという音を伴う呼吸)、胸苦しさ、咳などが挙げられます。
これらの症状は、アレルギー反応や気道過敏性が原因となることが多く、環境因子(例えば、ダニや花粉、ペットの毛など)や遺伝的要因が関与しています。
喘息は慢性的な病気ですが、適切な管理と治療を行うことで症状をコントロールし、発作を予防することが可能です。
【参考文献】”Asthma” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/asthma#:~:text=Asthma%20is%20a%20chronic%20lung,come%20and%20go%20over%20time
<COPD (慢性閉塞性肺疾患)>
COPDは、気道の閉塞を特徴とする進行性の肺疾患で、肺気腫・慢性気管支炎と呼ばれる疾患の総称です。
主な症状には、慢性的な咳、痰、労作時の息切れなどがあります。
最大の危険因子はタバコの煙であり、COPDの原因の90%以上は喫煙によるものです。タバコの煙は、肺の組織を破壊し、炎症を引き起こして気道が狭くなる原因となります。
そのため、COPDの予防と管理において禁煙は最も重要な対策です。禁煙が困難な場合は、禁煙外来の受診を検討しましょう。
専門的なサポートを受けることで禁煙成功率が高まり、症状の進行を防ぐことができます。
【参考文献】”COPD” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679
<気管支拡張症>
気管支拡張症は、気管支が異常に拡張し、壁が肥厚(ひこう:通常よりも厚くなること)してしまう慢性の肺疾患です。
この病気は、慢性的な咳と多量の痰が主な症状で、とくに朝方に症状が悪化しやすいとされます。
気管支拡張症の原因としては、先天的な異常や感染後の後遺症、自己免疫疾患などが挙げられます。
治療には、感染を予防するための抗生物質の使用や、気道クリアランス(気道内の痰や異物(細菌・ウイルス・ほこり・花粉など)を排出する能力)を助けるための理学療法が行われます。
【参考文献】”Bronchiectasis” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/bronchiectasis#:~:text=Bronchiectasis%20is%20a%20chronic%20lung,further%20damage%20to%20your%20lungs
2.ウイルスの感染について
ウイルスはさまざまな経路を通じて人から人へと感染し、症状として咳が出ることがあります。ここでは、ウイルスの感染についてご説明いたします。
2-1.飛沫感染
飛沫感染は、感染者の方の咳やくしゃみ、会話をしたときに飛び散る飛沫(しぶき)を通じてウイルスが広がる感染経路です。
飛沫にはウイルスが含まれており、近くにいる方が飛沫を吸い込むことで感染が拡大します。飛沫は比較的重いため、1〜2メートル以内の近距離が主です。
飛沫感染による主な病気には、インフルエンザ、風邪、新型コロナウイルス感染症などがあります。
【参考文献】”Nurse Aide Infection Control” by Texas.gov
https://apps.hhs.texas.gov/providers/NF/credentialing/cna/infection-control/module2/Module_2_Chain_of_Infection13.html
2-2.接触感染
接触感染は、感染者の方が触れた物や表面にウイルスが付着し、ウイルスに触れた方がご自分の口や鼻、目に触れることで感染が広がる経路です。
接触感染は、飛沫が物に付着して残っている場合に起こることが多いので、不特定多数が触れる場所や物(ドアノブ、電車のつり革、スマートフォンなど)に注意が必要です。
接触感染による主な病気には、ノロウイルス感染症、風邪、インフルエンザがあります。
ノロウイルス感染症は主に食品や水を介して感染しますが、接触感染も一般的です。
2-3. 空気感染
空気感染は、ウイルスが空気中に長時間漂い、それを吸い込むことで感染する経路です。
飛沫感染よりも軽い飛沫核(微粒子状の飛沫)が空気中に残り、換気の悪い場所では遠くまで拡散し、より多くの方に感染するリスクがあります。
空気感染による主な病気には、結核、麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)があります。
3.ウイルスの感染を予防しよう
ウイルス感染を防ぐためには、日常生活での基本的な予防策が非常に大切です。ここからは、効果的な予防策をご紹介しましょう。
3-1. 帰宅後は手洗い、うがいをする
手洗いとうがいは、ウイルスが体内に入るのを防ぐための基本的な予防策です。
手洗いは、とくに外出後や食事前に、石鹸を使って20秒以上かけて丁寧に行いましょう。
うがいも、喉の奥までしっかりと行うことで、口腔内のウイルスを洗い流す効果があります。
3-2.外出時のマスク着用
マスクの着用は、飛沫感染を防ぐために非常に有効です。
とくに人混みや密閉された空間では、マスクをすることでご自分を守るだけでなく、他人への感染を防ぐ効果もあります。
鼻と口をしっかり覆い、隙間がないように正しく着用することが大切です。
3-3.外出を最低限にする
感染症が流行している時期は、外出を最低限に控えることが感染予防になります。
とくにコロナウイルスやインフルエンザが流行している際は、人混みや密閉された場所を避ける方がいいでしょう。
どうしても外出が必要な場合は、時間帯をずらしたり、混雑を避けたりする工夫をします。
3-4.室内環境を良くする
定期的に室内の換気を行い、空気を清潔に保ちましょう。
適切な換気方法としては、1時間に一度、数分間窓を開けることが推奨されています。
また、湿度を40〜60%に保つことで、ウイルスの生存率を低下させることができます。
3-5. 日頃からの健康管理
日常的な健康管理も、感染症を防ぐために欠かせません。
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めることが大切です。
また、インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種を事前に受けることで、感染リスクを減らすことができます。
4.おわりに
鼻腔・咽頭、喉頭に起きるウイルス性上気道炎は、かぜ症候群の原因のうちで最も頻度が高いものですが、細菌感染を併発し急性気管支炎に移行したり、気道炎症が遷延することで、長引く咳嗽(がいそう:咳)となることも少なくありません。
長引く咳嗽の場合は、気管支喘息の存在や上気道炎以外の原因の有無をきちんと鑑別することが大切ですので専門医受診を検討してください。
また、咳が出る感染症の予防のためには、日頃から適切な行動を心がけることが大切です。
ご自分だけでなく、周囲の人々の健康を守るためにも、常に予防意識を持った行動を心がけましょう。