気管支拡張症とは
気管支拡張症は、気管支(喉頭から肺まで続く空気の通り道である気管が左右の肺に枝分かれしてからの部分)が拡がり元に戻らない病気で、男性よりも女性に多いとされています。
生まれつきの場合と繰り返しの感染・炎症により発症する場合があり、朝に痰を伴う咳が出ることが特徴です。
細菌などに感染すると気管支炎や肺炎を引き起こすことがあるので、症状がある場合は早めに呼吸器専門の病院で治療を開始することが重要です。
この記事では、気管支拡張症について原因と症状、検査と治療についてご説明いたします。
1.原因
気管支拡張症の原因は遺伝的または先天的なものと後天的な要因があります。
幼少期に重い肺炎や百日咳にかかったことが肺に負担をかけ、発症につながることもあります。気管支が拡張することで細菌やカビの増殖が促され、炎症やさらなる気管支拡張を引き起こすことが原因です。
また、気管支繊毛運動(きかんしせんもううんどう)の機能異常も原因のひとつです。繊毛は、気管支の内部にある微細な毛で、呼吸によって肺に入ったほこりや異物、細菌などを体外へ運び出す役割を担っています。
繊毛の運動が正常に機能しないと、異物や病原体が肺に留まりやすくなり、気道感染を繰り返すことになります。気道は、鼻や口から取り入れた空気を肺まで送る空気の通り道です。気道感染が繰り返されることでさらに気管支拡張症を引き起こす原因になります。
この場合、副鼻腔炎を合併していることが多いです。副鼻腔炎は、顔の副鼻腔(鼻の周りにある空洞)に炎症が発生することで、鼻詰まり、顔の痛み、鼻水などの症状が現れる疾患です。
そのほか、結核やリウマチなどの疾患の既往がある方、呼吸器が弱っている方、免疫力が低下している方も気管支拡張症発症のリスクが高いと考えられます。
ただ、気管支拡張症の予防には「原因になりうる病気の予防・早期発見・早期治療」が有効といわれています。
小児期の麻疹や百日咳の予防接種、栄養状態の改善・生活習慣の改善によって気管支拡張症の患者数は著しく減少しています。
【参照文献】日 胸 疾 会 誌19『母子3人 に発症 した気管支拡張症の一家族』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/19/10/19_10_728/_pdf
2.症状
症状は、持続する咳、黄色から緑色の痰が特徴です。
気管支拡張の部分は炎症に伴って血管が増えるために、血痰や喀血(かっけつ)もよくみられます。ときに大量の喀血を起こすことがあります。
血痰は気道の出血が少量で痰に血液が混じっている状態で、喀血は咳とともに血液を吐く状態です。
気管支が拡張すると、細菌やカビが増殖して炎症をおこし、さらなる気管支の損傷や機能不全による気管支拡張を引き起こします。
増殖した細菌やカビはその他の肺の中にも広がるので、肺炎をおこしやすいといわれています。
肺炎を起こして肺の損傷がより進行し、気管支と肺の機能不全が同時に進行するので、次第に肺の機能が低下する症状がでます。
発熱を伴うこともあり、悪化した場合には呼吸困難がみられることがあります。
【参照文献】”Bronchiectasis” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21144-bronchiectasis
3.検査
気管支拡張症の検査は、主に胸部X線写真と胸部CTスキャンが用いられ、気管支の拡張の有無を判断します。
気道の感染が疑われる場合は痰の培養検査を行い、原因となる菌を特定します。
また、喀血が多い場合、血管造影が行われることがあります。血管造影とは股の付け根の動脈から細い管を挿入し、気管支に通じる血管を造影する検査です。気管支の拡張による血管の異常な増加を確認するために用いられます。
【参照文献】日本呼吸器学会『気管支拡張症』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html
4.治療
気管支拡張症の治療には複数の方法が用いられます。以下が代表的な治療法です。
4-1.薬物療法
症状の軽減や炎症を抑えるために主にマクロライド系抗菌薬を投与し、痰をスムーズに出す去痰薬なども併用します。
感染を起こしていることが疑われる場合には、適切な抗生物質を使って感染の治療と予防を行います。血痰や喀血に対しては止血剤などの投与です。
また、気道を拡張する薬剤や炎症を抑えるステロイドなども使用されることがあります。
4-2.リハビリテーション
リハビリテーションでは痰をできるだけなくし、気管支の中に痰が無い状態にしておくことが重要です。
そのために、気道の清浄化を促進する運動体位ドレナージや胸部軽叩打法(きょうぶけいこうだほう)などによる痰の除去や呼吸筋のトレーニングが行われます。
運動体位ドレナージとは、重力を利用して肺の特定の部位にたまった痰を除去するための呼吸器理学療法の一種です。
患者さんを特定の体位に配置し、重力を利用して痰を気道に移動させます。痰を排出しやすくすることで、気道の詰りを解消し、呼吸機能を改善することが可能です。
胸部軽叩打法は、患者さんの背面や側面に対して、軽く叩打することで気道内にたまった痰を除去するための手法です。
気道内の分泌物を緩和し、排出を助けることで呼吸機能を改善することを目的としています。振動揺さぶりと併用されることがあります。
呼吸筋のトレーニングは、呼吸機能を改善し、肺活量を増やすための運動やトレーニングのことです。これには適切な呼吸法の練習や、胸郭可動域ストレッチ、呼吸筋の筋力向上のためのトレーニングがあります。
4-3.酸素療法
気管支拡張症に対する酸素療法は、重症の場合や運動時に酸素不足が生じる場合に行われます。呼吸療法を使うと低酸素症の患者さんに対して、室内の空気よりも高濃度の酸素を吸入させることが可能です。
それにより酸素濃度を調整し、呼吸を助け、組織への酸素供給を改善することを目的としています。
4-4.外科的療法
気管支拡張症の病巣が肺の一部分で局限的にある場合、その部分を手術で切除することが検討されます。
外科的療法を行った場合、残った肺は機能が改善し完治に近い状態になる可能性が高いとされています。ただし、手術の適応と判断される症例は少数です。
喀血が多い場合、出血を止めるためにカテーテル治療が行われることがあります。これは、カテーテル(細い管)を用いて出血源に対し、直接止血を行う方法です。
【参照文献】日呼 外 会誌 第8巻5号『気管支拡張症に対する外科治療二の検討』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg1992/8/5/8_5_585/_pdf/-char/ja
おわりに
気管支拡張症は、さまざまな症状や原因、治療法があります。
咳が出る、色のついた痰が出る、呼吸がしづらいなどの症状がある場合、気管支拡張症の可能性が考えられます。早期に適切な検査を行い、症状や病状に合わせた治療法を行うことが大切です。
とくに、これらの症状が長期間続く、または悪化する場合は、なるべく早く呼吸器専門の病院での受診を検討しましょう。