肺炎予防!65歳になったら肺炎球菌ワクチンの接種をおすすめします

日本では肺炎が死亡原因の第5位を占めており、命に関わる疾患です。
その多くが「肺炎球菌」という細菌によって引き起こされています。しかし、肺炎球菌による感染症は、適切なワクチン接種で予防が可能です。
本記事では、肺炎球菌に関する基礎知識、2種類のワクチンの特徴と注意点、日常的な感染対策を解説します。
1.肺炎の原因となる肺炎球菌を知っていますか?
肺炎球菌は、正式名称がストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)という細菌です。
人間の鼻や喉の粘膜に常在している無害な菌ですが、免疫力が低下した場合に病原性を発揮します。
高齢者や基礎疾患がある方は、肺炎球菌によって重症化することがあり、髄膜炎や菌血症(きんけつしょう・血液中に細菌が存在する状態)を伴う「侵襲性(しんしゅうせい)肺炎球菌感染症」を発症することがあるので注意が必要です。
肺炎球菌による肺炎は、気道や肺に侵入した細菌が炎症を引き起こし、咳、発熱、呼吸困難などの症状をもたらします。
早期の治療が重要ですが、予防策を講じることで感染リスクを大幅に減らすことができます。
以下のような方は、肺炎のリスクが高いので注意が必要です。
・65歳以上の高齢者
加齢によって免疫機能が低下することが知られているため、風邪から肺炎へ重症化するリスクは健康な若者よりも高いと言えます。
・基礎疾患を持つ方
65歳以下の方でも、持病があると肺炎球菌の感染リスクがあります。
糖尿病、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息などの病気があると、免疫力が低下して肺炎球菌に感染しやすくなります。
・免疫力が低下している方
がん治療中やステロイド薬の使用、免疫抑制剤を服用している方は注意が必要です。
がん治療に使われる薬剤の中には、免疫機能を低下させるものも存在します。
また、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に使われるステロイド薬や免疫抑制剤は、免疫機能が低下することがあるので肺炎球菌の感染に注意が必要です。
・喫煙者
喫煙は、多数の有害化学物質が含まれており、気管支や肺などの粘膜に炎症や病原体からの防御機能が低下させることが知られています。
気管支喘息やCOPDの原因にもなり、肺炎球菌の感染リスクを高めます。
・栄養不良や低体重の方
免疫力を維持するための栄養が不足している場合も、肺炎球菌感染症にかかりやすくなります。
このようなリスクがある方は、肺炎球菌ワクチンの接種を検討することで、予防策を講じることができます。
【参考情報】『人口統計資料集(2023)』国立社会保障・人口問題研究所
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2023.asp?fname=T05-22.htm
【参考情報】『肺炎球菌感染症』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/1372-idsc/iasr-topic/11763-515t.html
【参考情報】”Rates of pneumococcal disease in adults with chronic medical conditions” by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25734097/
【参考情報】『喫煙と呼吸器疾患』厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-03-003.html
【参考情報】”About Pneumococcal Disease” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pneumococcal/about/index.html
2.2種類の肺炎球菌ワクチン
65歳以上の高齢者に接種が進められている肺炎球菌ワクチンは、日本では「ニューモバックス(23価肺炎球菌ワクチン)」と「プレベナー13(13価肺炎球菌結合型ワクチン)」の2種類があります。
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
2-1.ニューモバックス(23価肺炎球菌ワクチン)
ニューモバックスは、23種類の肺炎球菌に対応する不活化ワクチンで、幅広い型に対する予防効果があります。高齢者の肺炎球菌感染症において定期接種に位置付けられている唯一のワクチンです。
・特徴
ニューモバックスは、肺炎球菌の主要な型に対応しており、接種後の効果はおおむね5年間続きます。
特に、肺炎球菌による肺炎の重症化を予防する効果が期待できます。
ただし、免疫記憶(長期間効果を持続する仕組み)が弱いとされるため、必要に応じて再接種が推奨されます。
・接種費用
自治体による助成がある場合、自己負担額は1,000~3,000円程度となることが多いです。
助成がない場合は、4,000~8,000円程度が目安です。
【参考情報】”Pneumococcal Vaccine, Polyvalent solution for injection” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/drugs/18520-pneumococcal-vaccine-polyvalent-solution-for-injection
2-2.プレベナー13(13価肺炎球菌結合型ワクチン)
ニューモバックスの接種後1年後に接種することも可能であり、小児に対する肺炎球菌予防としても使われます。
・特徴
プレベナー13は、結合型ワクチンであり、ニューモバックスと違ってメモリーB細胞(一度感染した病原体に対して、再感染時に迅速に抗体を作らせる役割を担う免疫細胞)を誘導して免疫記憶を確立させるため長期期間の予防効果が期待できます。
ニューモバックスを接種してからプレベナー13を接種すると肺炎球菌感染の予防効果を高めることも報告されています。
・接種費用
プレベナー13は任意接種であり、ニューモバックスに比べると費用の負担も大きくなります。費用として10000〜12000円程度です。
肺炎球菌ワクチンは、慢性呼吸器疾患をお持ちの方や高齢者の肺炎での死亡率を下げる効果が証明されているので、接種を積極的に検討いただきたいです。
PPSV23というワクチンとPCV13というワクチンをどちらも接種することも可能ですのでかかりつけ医に相談ください。
今後はRSウイルスワクチンも集団の肺炎死亡率を減少させるワクチンとして期待されています。
【参考情報】”Pneumococcal Conjugate Vaccine (Prevnar 13) Suspension for Injection” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/drugs/18213-pneumococcal-conjugate-vaccine-prevnar-13-suspension-for-injection
【参考情報】『肺炎球菌ワクチンQ &A』日本臨床内科医会
https://haienkyukin.info/materials.html#index-f
【参考情報】『成人用肺炎球菌ワクチンの公費助成について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000fgan-att/2r9852000000fgh8.pdf
3.接種前に確認しましょう
ワクチンを受ける前に、アレルギー歴や接種間隔に注意が必要です。
ニューモバックスの予防効果は5年ほどとされており、厚生労働省も5年間隔の接種を推奨しています。
プレベナー13を接種してから1年経過した場合は、再接種が可能です。
プレベナー13とニューモバックスを併用する場合、1年以上の間隔を空けることが推奨されています。
ワクチンをいつ接種したかわからなくなることも考えられるので、ワクチン接種記録手帳を持参することもおすすめです。
免疫抑制剤やステロイドを服用しているとワクチン接種ができない可能性もあります。
また、ワクチンに対してアレルギー歴がある場合にも注意が必要です。
持病や併用薬、アレルギー歴がある場合は、ワクチン接種の前に医師に相談してください。
4.感染対策をおこないましょう
肺炎ワクチンを接種することで肺炎球菌を予防できますが、普段から感染症対策をすることも重要です。
こちらでは、感染対策の具体例を紹介します。
・インフルエンザの予防接種を受ける
海外では、肺炎球菌とインフルエンザワクチンを併用することで肺炎球菌の予防効果が高くなったと報告されています。
日本では、肺炎球菌ワクチンを受けてから6日以上間隔を空けることでインフルエンザワクチンを受けられます。
インフルエンザも肺炎の原因になることもあるので、インフルエンザワクチン接種をおすすめします。
【参考文献】”Prospective Cohort Study on the Effectiveness of Influenza and Pneumococcal Vaccines in Preventing Pneumonia Development and Hospitalization” by ASM Journals
https://journals.asm.org/doi/10.1128/cvi.00673-14#:~:text=Combined%20influenza%20and%20pneumococcal%20vaccination,3).
・こまめな手洗い・うがい
手や喉についたウイルスや細菌を洗い流すことで、感染リスクを大幅に減らせます。
こまめな手洗いうがいは感染症対策の基本です。
・マスクの着用
外出時や人混みではマスクを着用し、飛沫感染を防ぎましょう。
・適切な栄養と睡眠
栄養バランスの良い食事と十分な睡眠を確保することで、免疫機能を維持できます。
日頃から健康的な生活習慣を送ることが大切です。
・禁煙の実践
喫煙は、肺炎や気管支喘息のリスクを高めるので、禁煙をおすすめします。
禁煙することで肺の健康を守ることにもつながります。
5.おわりに
肺炎球菌ワクチンは、高齢者にとって肺炎予防の有効な手段です。
ワクチン接種に加え、日常的な感染対策を行うことで、より安心して暮らすことができます。
肺炎ワクチンは自治体の助成制度も整えられているので、気になる場合は医療機関や自治体に相談してみてください。