喘息と間違いやすい病気

喘息は「長引く咳」「喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューといった呼吸音)」「息苦しさ」などの症状が特徴的ですが、似たような症状が見られる病気は他にもたくさんあります。

この記事では、喘息と間違いやすい8つの病気について、それぞれの特徴や喘息との共通点・相違点などを詳しく解説します。

1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)


COPD(慢性閉塞性肺疾患)は「肺気腫」や「慢性気管支炎」の総称で、中高年の男性に多い病気です。

長年の喫煙習慣が原因で起こる事が多いため、「肺の生活習慣病」とも呼ばれています。
タバコの煙などの有害物質を長期間吸い込むことによって肺の中の気管支に炎症が起こり、気管支が細くなることで空気を取り込みにくくなるため、咳、痰、息苦しさ、息切れなどの症状が見られます。

さらに症状が進行すると、酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞が破壊され、肺気腫という状態になります。この変化は不可逆的なものであり、治療をしても破壊された肺胞が元に戻ることはありません。

COPDが重症化すると強い呼吸困難が現れ、「水の中で溺れているような苦しさ」だと言われています。

息切れを避けるために運動を避けがちになると、体力や呼吸機能が急速に低下していくという悪循環に陥ります。

さらに、強い呼吸困難感で日常生活を送ることも難しくなり、寝たきりになったり、在宅酸素療法が必要になる場合もあります。

COPDは歩行や階段昇降など、少しの動作でも息切れしやすいのが特徴ですが、息切れを「年齢のせい」と思ってしまい、受診に繋がらないケースもあります。

進行性の病気のため、気づいたときにはすでに重症化している可能性もありますので、喫煙歴が長い40代以上の方で息切れや咳、痰などの自覚症状がある場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。

【参考情報】『COPD』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

〈COPDと喘息の関係〉
咳や息苦しさなどの症状は喘息とも似ていて、喘鳴が見られる場合もあります。

喘息とCOPDの違いは、症状が出やすいタイミングです。

喘息は早朝や夜間に症状が悪化しやすいのに対して、COPDは日中の活動時に咳や息切れが強くなり、就寝中など安静にしている時にはあまり症状が出ないのが特徴です。

また、両方を合併している場合もあります。これを「喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)」と呼び、特に予後が悪いとされています。

【参考情報】『喘息とCOPDのoverlap症候群(ACOS:asthma-COPD overlap syndrome)』日本内科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1815/_pdf

喘息、COPDのどちらも、タバコは症状を悪化させる原因になりますので、まずは禁煙しましょう。一人で禁煙するのが難しいという方は、禁煙外来で相談してみるのもおすすめです。

◆「喘息とはどんな病気?」について詳しく>>

2.アトピー性咳嗽


アトピー性咳嗽はアレルギー疾患の一つで、もともとアレルギー素因を持つ中高年の女性に多い病気です。

症状としては、乾いた咳、のどのかゆみや違和感などがあります。

咳受容体が過敏になることで、会話や運動といった少しの刺激でも咳が出やすくなっている状態です。

〈アトピー性咳嗽と喘息の関係〉
アトピー性咳嗽は、アレルギーが関係しているという点や、慢性的な咳が続くという点では喘息と似ていますが、喘鳴がないことが特徴です。
また、咳喘息とは違い、喘息に移行することはありません。

アトピー性咳嗽の治療には吸入ステロイド薬や抗ヒスタミン薬が使われます。喘息では気管支拡張薬も使われますが、アトピー性咳嗽の場合は効果がありません。

3.肺がん


肺がんとは気管や気管支、肺胞にできるがんで、がんによる死亡数の中でも肺がんは男性で1位、女性でも2位と高い割合になっています。

タバコを吸うと肺がんにかかるリスクが男性では4.8倍、女性では3.9倍増加すると言われています。喫煙との関係が深い病気ですが、肺がんの種類によっては喫煙と関係なく発症するものもあります。

症状は肺がんの種類や発生部位、進行度によっても異なります。最初は無症状のことも多く、検診で偶然発見される場合もあります。

がんがある程度大きくなると、咳や血痰などの症状が見られ、さらに進行すると呼吸困難、胸痛、肩の痛み、手のしびれなどの症状が現れます。

早期発見であれば手術で切除することができますが、無症状で進行してしまっている場合もあり、最も治療が難しいがんの1つと言われています。

【参考情報】『肺がん』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html

〈肺がんと喘息の関係〉
肺がんが進行して、気道が圧迫されて狭くなると、喘息と同じように喘鳴が見られることもあります。血痰が出ている場合は、喘息ではなく肺がんの可能性が高いため、早めに受診しましょう。

4.肺結核


肺結核は、結核菌という細菌が肺に感染して起こる病気で、潜伏期間が半年から2年と長く、感染力が強いのが特徴です。

結核は「一昔前の病気」というイメージがあるかもしれません。近年では新規の患者は減ってきていますが、先進国の中では罹患率が最も高く、特に高齢者や都市部で多い感染症です。

感染しても発病する人は10%程度で、初感染から長期間を経て免疫力が低下した時などに発病するものを二次結核といいます。

症状としては、咳、痰、血痰、発熱、だるさ、体重減少などがあります。特に2週間以上咳が長引くなど肺結核が疑われる場合は一度呼吸器内科を受診し、胸部X線検査を受けましょう。

また、喀痰検査の結果、結核菌の排菌が認められた場合は、感染拡大を防ぐために入院治療が義務付けられています。

1つの薬だけで治療していると、結核菌はその薬が効かなくなる耐性菌を作り出してしまうため、複数の抗結核薬を6~9か月と長い期間服用する必要があります。自己判断で服薬を中止せず、治療終了まで医師の指示を守って飲み続けることが重要です。

【参考情報】『肺結核』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-07.html

【参考文献】”Pulmonary tuberculosis” by National Library Of Medicine
https://medlineplus.gov/ency/article/000077.htm

〈肺結核と喘息の関係〉
肺結核も喘息も、咳が2週間以上続くという点が共通しています。

肺結核はゆっくりと進行するため初期には自覚しにくいものの、発熱や血痰などの症状は喘息にはないものです。

結核の場合は早期に受診することで、周囲への感染拡大を防止することができます。
咳以外の症状があまり気にならなくても、2週間以上咳が続く場合は結核の可能性も否定できませんので、呼吸器内科を受診しましょう。

5.急性気管支炎


急性気管支炎は、風邪などの感染症による炎症が上気道に留まらず、気管支にも波及して急性の炎症が起こっている状態です。

咳や痰のほか、発熱や食欲不振、全身倦怠感、前胸部の不快感などの症状が現れます。

【参考情報】『急性気管支炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-03.html

〈急性気管支炎と喘息の関係〉
急性気管支炎でも、喘息と同様に喘鳴が聞こえる場合もあります。

急性気管支炎は、気管支がウイルスや細菌などに感染することで一時的に炎症が起こります。
それに対して喘息は、気道が慢性的に炎症を起こしている状態です。

また、急性気管支炎は対症療法や抗菌薬の投与で回復しますが、喘息は対症療法では根治せず、長い期間専門的な治療を受ける必要があります。

6.百日咳


百日咳は成人でもかかることがありますが小児に多く、特に1歳未満の乳幼児は重症化することもあるため注意が必要な病気です。

咳が治まるまで約100日間と長い時間がかかることから百日咳と呼ばれていて、症状には3つの段階があります。

カタル期は最も感染力が強い時期で、潜伏期の後に風邪のような症状が1~2週間ほど続きます。

痙咳(けいがい)期には、発作的に短い咳(痙咳)が連続して起こります。
息を吸う間がないため、静脈圧が高くなり顔面の紅潮、眼瞼浮腫、顔面の点状出血、眼球結膜の出血などが現れます。

短い咳が治まった後に急に深く息を吸うため、「ヒューヒュー」のような笛声(てきせい)が聞こえ、咳と笛声が繰り返される「レプリーゼ」という状態になるのが特徴です。

発作は夜間に多く、咳のしすぎで吐いてしまう場合もありますが、発作が無い時はほとんど無症状です。

また、乳児では特徴的な咳が見られないことも多く、大人が気づかないうちに進行し、無呼吸発作やチアノーゼ、痙攣を引き起こし呼吸停止に至る場合もあります。特に小さいお子さんの場合は特徴的な咳が無くても、息を止めて苦しそうな様子があれば注意が必要です。

回復期になると次第に激しい咳発作は少なくなりますが、百日咳菌はしばらく体内に残るため咳自体は2か月ほど続きます。しかし、この間に風邪など他の感染症にかかってしまうと再び激しい咳発作が現れることがあります。

【参考情報】『百日咳とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html

〈百日咳と喘息の関係〉
咳が長引くという点や、夜間に悪化するという点では、喘息と似ている部分もあります。

しかし、喘息は息を吐くときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」のような喘鳴が聞こえるのに対して、百日咳は連続した短い咳発作や、発作後に息を吸うと「ヒューヒュー」という音が聞こえるのが特徴です。

また、乳児や成人の場合は、百日咳特有の咳が見られず診断が難しい場合もあります。
咳が長引く場合や、吐いてしまうほど激しい咳が出ている場合は念のため病院を受診しましょう。

7.細菌性肺炎


細菌性肺炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などが原因となって起こる肺炎です。原因菌としては肺炎球菌が最も多く、免疫力の低下した高齢者では致死率も高い病気です。

激しい咳や膿性の痰、胸痛、呼吸困難、発熱、悪寒、倦怠感などの症状が見られます。

治療としては、原因菌に合わせた抗菌薬を投与し、症状に合わせて対症療法を行います。
また、肺炎が重症化して呼吸状態が悪い場合には入院治療が必要になる場合もあります。

【参考情報】『細菌性肺炎』日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/ref/d21.html

〈参考文献〉”Bacterial Pneumonia” by National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30020693/

8.マイコプラズマ肺炎


マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌が原因となって起こる肺炎で、小児や若い人に多い傾向があります。

症状としては発熱や全身倦怠感、頭痛、乾いた咳などが見られます。咳は徐々に強くなっていき、解熱後も3~4週間続きます。

マイコプラズマ肺炎の患者さんのうち約40%では、喘息と同様に喘鳴が起こると言われています。

【参考情報】『マイコプラズマ肺炎とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html

9.おわりに

咳は喘息以外にも様々な病気で見られる症状のため、原因に合った治療を行うことが大切です。

今回紹介したように喘息と似ている病気はいくつかあるため、自分で判断して市販薬などで様子を見るのではなく、専門医の診察を受けることをおすすめします。

咳が2週間以上続いている場合は、喘息に限らず何らかの呼吸器疾患の可能性がありますので、呼吸器内科を受診しましょう。