喘息発作がおきた。パニックにならないためには?
喘息患者さんにとって、突然起こる喘息発作は非常に怖いものです。
一度発作を経験すると「また発作が起きたらどうしよう」と不安に思ってしまったり、発作が起き始めたときに過去の苦しい体験を思い出してしまったりすることもあります。
このように発作に対する不安が強くなると、喘息発作自体の悪化や過呼吸、パニック発作を招く場合があります。
この記事では喘息とパニック発作の違いや、発作が起きたときの対処法などについて詳しく解説しています。
1.喘息とパニック発作の違い
喘息もパニック発作も「強い息苦しさ」を感じるため、感じている呼吸困難感の原因がどちらなのか分からない、という場合もあるのではないでしょうか。
1-1.喘息とは
喘息は、空気の通り道である気道が炎症によって狭くなり、その結果、発作的に強い咳や呼吸困難感、「ゼイゼイ」や「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)が生じる病気です。
喘息の患者さんは、症状がない時でも気道に慢性的な炎症があり、わずかな刺激でも反応しやすい状態になっています。アレルゲンやタバコの煙、風邪などの感染、肥満、運動、気圧の変化、冷たい空気など様々な刺激が加わることで発作が引き起こされます。
このような刺激に反応して気道の炎症が悪化すると、気道が腫れ、周りの筋肉が収縮するため気道が狭くなります。
また、炎症が進むと気道の粘液が増え、それが蓄積することで気道がさらに狭くなります。
これが喘息で呼吸困難感が起こる理由です。
【参考文献】”Asthma” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/6424-asthma
1-2.パニック発作とは
パニック発作とは、激しい動悸や過呼吸、呼吸困難感、めまい、吐き気などの症状が急に現れて、短時間で治まる状態のことを言います。
ストレスが原因となることが多く、緊張や不安を感じやすい環境で起こりやすいと言われています。
パニック発作でみられる呼吸困難感や窒息感は非常に強烈で、命に関わるほどの恐怖を感じることがあります。
心臓、肺、脳などに異常があるのではないかと不安になってしまうことも多いのですが、パニック発作の場合は検査をしても身体的な異常は認められません。
喘息では重篤な発作で適切な治療を受けないと「ぜんそく死」の危険性がありますが、パニック発作だけでは命を落とすことはないというのが大きな違いです。
また、一度パニック発作になると「またあの苦しい発作が起きるかもしれない」と不安になってしまう「予期不安」や、発作が起こった特定の場所に行くのが怖くなってしまう「広場恐怖」などが起こる場合があります。
このような「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」をまとめて「パニック障害」と呼びます。
「喘息発作がいつ起こるか分からない」という不安がパニック発作を引き起こすこともあり、喘息とパニック発作は併発することがあります。
【参考文献】”Panic attacks and panic disorder” by MayoClinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/panic-attacks/symptoms-causes/syc-20376021
2. 喘息発作がおきた時の対処法
喘息の発作の強度は、呼吸困難の程度や歩行・会話が可能かどうかによって「小発作」「中発作」「大発作」に分けられます。
発作の強度は、対処法や受診の緊急性を決めるために非常に重要になります。
発作が起きた時に慌てないためにも、発作の強度別の対処法を確認しておきましょう。
2-1.小発作がおきた時
小発作は次のような状態です。
・喘鳴は軽度
・安静にしていれば呼吸困難感はほぼなく、横になったり眠ったりすることはできる
・歩くと少し息苦しいが、ゆっくり歩くことができる
・会話は問題なくできる
小発作が起こった場合、まずは「短時間作用性β2刺激薬」を吸入します。
この薬は「発作治療薬(リリーバー)」で、気管支を拡張し、息苦しさを軽減するのに効果的です。
吸入後に症状が改善した場合は、自宅で様子を見て、急いで医療機関に行く必要はありません。発作が起こった時の状況や症状などを「ぜんそく日記」に記録しておき、次回の通院時に主治医に共有しましょう。
吸入をしても症状が改善しない場合は、20分後に再度短時間作用性β2刺激薬を吸入します。
それでも症状が改善しない場合は、救急外来を受診しましょう。
【参考情報】『Q2-1 ぜんそく発作の程度は、どのように見極めるのでしょうか?』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/child/09_02_01.html
2-2.中発作がおきた時
中発作は次のような状態です。
・明らかな喘鳴が見られる
・安静にしていても息苦しさを感じ、横になったり眠ったりすることが難しい
・歩くと息苦しく、立っているのもつらい
・会話がやや困難
このような場合もすぐに発作治療薬(リリーバー)を吸入してください。
吸入後、一旦症状が落ち着いても、時間が経ってから悪化してしまう場合もあります。
安静にして過ごし、吸入後も苦しいと感じたら救急外来を受診しましょう。
2-3.大発作がおきた時
大発作は次のような状態です。
・ひどい喘鳴やチアノーゼ(酸欠で唇や爪などが青白くなること)が見られる
・安静にしていても明らかな息苦しさがある
・苦しくて動くことができない
・会話は困難でとぎれとぎれになる
・意識がやや低下する場合もある
大発作が起こった場合も、すぐに発作治療薬(リリーバー)を吸入してください。
同時に、周囲の人に助けを求めて速やかに救急外来を受診しましょう。
大発作は緊急に治療が必要なため、動けない場合は迷わず救急車を呼んでください。
【参考文献】”Asthma attack” by MayoClinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma-attack/symptoms-causes/syc-20354268
3.喘息発作のおこりやすい状況を把握しよう
発作が起こりやすい状況には次のようなものがあります。
・夜間や早朝
・風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかった時
・ストレスがかかっている時
・運動時
・季節の変わり目など、天候や気温、気圧の変化がある時
喘息発作が起こらないように管理するためには、自分がどのような状況や環境で発作を起こしやすいかを把握しておくことが大切です。
発作が起きやすい時期や状況を予測することができれば、薬の準備や予定の調整など、事前に準備することができます。
4.周りの人に協力してもらう
いざ発作が起きて会話ができないほど呼吸が苦しくなると、周囲の人に状況を正確に伝えることが難しい場合があります。
自分では思うように動けず対処できない場合に、なるべく焦らないよう事前に準備しておく必要があります。
次のようなことを周囲の人に伝えておくと良いでしょう。
・喘息の持病について(症状や発作が起こりやすい状況など)
・喘息発作が起きたときにして欲しい対応について
・薬の種類や使い方、保管場所について
・かかりつけ医の情報
一人で移動することが多い方は、上記の内容のメモと薬をすぐに取り出せる場所に携帯しておくのもおすすめです。
また、小児の場合は入園や入学前に必ず喘息のことについて共有しておきましょう。
幼稚園・保育園や学校での生活は、保護者の目が届かず心配なことも多いのではないでしょうか。
特に、小さいお子さんの場合は自分の体調を把握することが難しいため、配慮してほしいことや発作時の対処法などについて相談しておきましょう。
事前に準備しておくことで、発作が起きたときにスムーズに対応することができます。
周囲の理解があると思うだけでも、安心感につながるのではないでしょうか。
5.喘息発作の時こそ冷静な判断をしよう
息苦しさを感じると、体は緊急事態に対処するために「アドレナリン」や「コルチゾール」などのストレスホルモンを大量に分泌します。
ストレスホルモンは心拍数や血圧を上昇させるだけでなく、脳の前頭前野(思考や集中に関わる部分)の機能が低下し、平常時のような冷静な判断ができなくなる場合があります。
喘息発作の時に慌てたり冷静な判断ができなくなるというのは、体の機能としてはある意味正常なことなのです。
しかし、パニックになって薬を吸入できなかったり、電話で助けを呼べなかったりすると、さらに症状が悪化してしまうかもしれません。
喘息について正しく理解し、発作時に取るべき行動を事前に考えておくことはもちろん、周りの人にも頼りながら適切な処置を受けられるようにしましょう。
6.おわりに
喘息発作はいつどこで起こるか分かりません。
発作の苦しさが恐怖として残ってしまうと「また発作が起きたらどうしよう」「発作の兆候があるけど大丈夫かな」などと不安になり、過呼吸やパニック発作を引き起こすこともあります。
いざ発作が起きてしまうと冷静な判断が難しくなることがありますが、事前に準備をしておくことで適切な対応ができ、安心感にも繋がります。
周囲の方の理解とサポートもとても大切です。
もし身近に助けを求められる人がいないときは、かかりつけの病院に相談してみましょう。