アトピー咳嗽(あとぴーがいそう)の基本情報
「長く乾いた咳が続いている。」
このような症状がある人は、アトピー咳嗽(がいそう)かもしれません。
アトピー咳嗽は、アレルギーが関与する咳の一種で、長期間続く、痰の絡まない乾いた咳が特徴です。
今回の記事では、アトピー咳嗽の症状や検査、治療についての基本情報を詳しく解説します。
乾いた咳が長引いてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。
1.アトピー咳嗽とは
アトピー咳嗽は、アレルギーが関与する咳の一種です。
長期間続く乾いた咳が特徴で、アトピー体質のある人に多く見られ、中年女性にやや多いといわれています。
空気の通り道である中枢気道に炎症が起こり、気道壁表層が過敏になるために起こる疾患です。
アレルギーが関与する咳と聞くと、喘息を思い浮かべる方も多いでしょう。
アトピー咳嗽と喘息との違いや共通点については、記事の後半で解説します。
【参考情報】『アトピー咳嗽』山梨大学医学部附属病院アレルギーセンター
https://yallergy.yamanashi.ac.jp/anavi/139
2.アトピー咳嗽の症状
アトピー咳嗽では、以下のような症状があらわれます。
3週間以上の長引く痰の絡まない乾いた咳
喉のかゆみやイガイガするような違和感
夜間から早朝にかけて咳が悪化
ヒューヒュー・ゼィゼィという呼吸音がする喘鳴(ぜんめい)や、呼吸困難を伴うような発作はありません。
【参考文献】”Cough variant asthma and atopic cough” by National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3463094/
3.アトピー咳嗽の検査
診断をするためにはいくつか検査が必要です。
ほかの病気との鑑別や、アトピー咳嗽を疑う場合におこなう検査を紹介します。
3-1.画像検査
胸部のレントゲンやCTの検査をおこないます。
アトピー咳嗽では、画像検査で異常が出ないことがほとんどです。
ほかの病気との鑑別も必要なため、画像検査をおこなう場合があります。
3-2.血液検査
血液検査では、アトピー素因を調べるため、以下の項目を検査します。
・末梢血好酸球数
・総IgE値
・特異的IgE抗体
好酸球は、アレルギー反応が起こると増加する白血球の一種です。
総IgE値は、アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)が体内に入ってきたときに反応し上昇し、特異的IgE抗体は、アレルギー疾患がある場合に陽性になります。
3-3.呼吸機能検査
呼吸機能検査は、肺や気道の状態を把握するためにおこなう検査です。
主に以下のような検査をおこないます。
・肺機能検査
・呼気NO検査
・気道抵抗検査
・咳感受性試験
これらの検査についてそれぞれ解説します。
【肺機能検査】
スパイロメトリーと呼ばれる検査で、息を吸ったり吐いたりする力や酸素を取り込む能力を調べます。
・肺活量
・%肺活量
・努力性肺活量
・1秒率
・1秒量
これらの項目を検査し、総合的に呼吸器の状態評価をおこないます。
肺機能検査では、喘息や咳喘息との鑑別ができます。
【参考文献】”Pulmonary Function Testing” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/17966-pulmonary-function-testing
【呼気NO検査】
呼気中の一酸化窒素(NO)濃度を測定する検査です。気道内の炎症の有無や程度を評価するためにおこなわれます。
アトピー咳嗽の場合、呼気NO検査の検査結果は正常範囲内を示します。
検査は簡単にできるため、小学生からでも受けることが可能です。
【気道抵抗検査】
モストグラフとも呼ばれる検査で、気道内の過敏性を評価するためにおこないます。
末梢気道と呼ばれる、気道の奥の方の抵抗を評価します。
アトピー咳嗽の場合、気道の過敏性はありません。
【咳感受性試験】
唐辛子に含まれるカプサイシンを低濃度から吸入し、どの程度で咳が誘発されるか調べる検査です。
アトピー咳嗽では、咳感受性が亢進しているため、低濃度でも症状があらわれやすい状態です。
【参考情報】『アトピー咳嗽』神戸大学医学部附属病院呼吸器内科
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/70/1/70_46/_pdf
4.アトピー咳嗽の治療
アトピー咳嗽は、薬物療法で治療を進めていきます。
気管支拡張薬が無効なため、ヒスタミンH1受容体拮抗薬を使用します。
アレグラやアレジオンといった名前の薬です。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬で効果が十分に得られない場合には、ステロイド薬を使用するケースがあります。
ステロイド薬は状態に合わせ、吸入薬か経口薬を使用します。
症状が軽快すれば、継続した治療は不要です。
しかし、アトピー咳嗽では、軽快後も再燃のリスクが高いとされているため注意が必要です。
【参考情報】『遷延性咳嗽と慢性咳嗽の原因疾患―アトピー咳嗽と咳喘息の病態と治療―』日薬理誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/131/6/131_6_402/_pdf
5.アトピー咳嗽と似ている症状の病気
アトピー咳嗽は、喘息や咳喘息と似ており、鑑別が難しい病気です。
しかし、喘息や咳喘息では気管支拡張薬が有効なのに対し、アトピー咳嗽では効果がありません。
ここでは、喘息と咳喘息の症状や特徴、アトピー咳嗽との共通点について解説します。
5-1.喘息
喘息は、気道の炎症が常にある状態です。そのため、コントロールが良くないと、少しの刺激で発作を誘発します。
喘息の主な症状は以下の通りです。
・咳
・息苦しさ
・呼吸困難
・「ゼィゼィ」「ヒューヒュー」という呼吸音(喘鳴)
・胸の痛み
・喉の違和感
喘息は、夜間や早朝に症状が悪化しやすいのが特徴です。
アレルゲンの吸入だけでなく、季節の変わり目や運動、タバコ、ストレス、感染症なども喘息発作の誘因になります。
喘息の症状であらわれる咳は、アトピー咳嗽との共通点です。
また、季節の変わり目やタバコ、ストレスが誘因になるのも、共通点といえるでしょう。
アトピー(アレルギー)咳嗽と喘息は、似たような症状をきたす疾患ですが、覚えておいてほしい両者の大きな違いは、必要な治療期間が違うことです。
喘息の主病態である気道過敏性(咳感受性とは異なります)は、治療による改善までに時間がかかるため、症状が改善してからも長期治療が必要となります。
喘息は、症状がないからといって、治療が必要な気道炎症が残存している状態を放置していると「リモデリング」という重症化が起こります。
そのような観点から両者の鑑別は大事なのですが、専門医でも困難なことが多いため、長引く咳嗽、繰り返す咳嗽は早めの呼吸器内科受診をおすすめします。
【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
5-2.咳喘息
咳喘息は、喘鳴や呼吸困難は伴わず、慢性的な咳が続く疾患です。
咳喘息の症状は以下の通りです。
・長引く咳
・痰はないか少量
呼吸困難や息苦しさ、喘鳴は伴わず、夜間から早朝にかけて症状が悪化します。
季節の変わり目や寒暖差、喫煙、運動、ストレスなどで咳が出やすくなります。
呼吸器の感染症がきっかけで発症するケースが多いです。
咳喘息とアトピー咳嗽は、症状やきっかけなど非常に似ている点が多いため鑑別が難しいとされています。
しかし、気管支拡張薬の効果の有無は大きな違いといえるでしょう。
【参考文献】”Cough-Variant Asthma” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/25200-cough-variant-asthma
6.おわりに
アトピー咳嗽は、アトピー素因を持った中年の女性に多い疾患です。
乾いた咳が長引くのが主な症状で、喘息や咳喘息とは違い、気管支拡張薬の効果はありません。
早めの治療も大切ですが、ほかの病気との鑑別も重要です。
咳が2週間以上続いている場合には、早めに呼吸器内科を受診しましょう。