「リンパ脈管筋腫症」の基本情報

リンパ脈管筋腫症(りんぱみゃっかんきんしゅしょう)は、「LAM(ラム)細胞」と呼ばれる異常な細胞が肺やリンパ管で増殖し、肺に多発性の嚢胞(のうほう)を形成します。

その結果、呼吸機能の低下やさまざまな症状が現れることがあります。

この記事では、リンパ脈管筋腫症の特徴や症状、診断方法、治療法について、ご説明いたします。

リンパ脈管筋腫症について正しく理解し、適切な対策や治療につなげましょう。

1.リンパ脈管筋腫症の特徴


リンパ脈管筋腫症(LAM)は、平滑筋(へいかつきん)様の腫瘍細胞(LAM細胞)が肺やリンパ節などで異常に増殖することで引き起こされる、非常に稀な疾患です。

主に20代から40代の女性に多く発症する傾向がありますが、それ以外の年齢でも発症する可能性があります。病気がゆっくりと進行することが特徴です。

LAMは稀な疾患ではありますが、非喫煙者女性などの肺気腫リスクが少ない方の嚢胞性変化をみた場合は、必ず鑑別に入れる必要がある疾患です。

研究途上の疾患ですが、最新では治療も進歩していますので適切に診断する必要があります。

リンパ脈管筋腫症には以下の2つのタイプがあります。

・TSC-LAM(結節性硬化症に伴うLAM):結節性硬化症(TSC)という遺伝性の病気に関連して発症します。

・孤発性(こはつせい)LAM:結節性硬化症とは関係なく、単独で発症します。

※結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)脳や皮膚、腎臓、肺などの全身の臓器に腫瘍性病変を生じる、遺伝性の希少な病気。

どちらのタイプでも、LAM細胞の増殖によって肺に『多発性の嚢胞(のうほう:袋状の空洞)』が形成されます。

これは、肺の中にたくさんの袋状の空洞ができることを指しています。ひとつだけでなく、複数の嚢胞が広範囲にわたって存在する状態です。

リンパ脈管筋腫症がなぜ発症するのかは、まだ完全には解明されていませんが、遺伝子の異常が関わっていることがわかっています。

とくに「TSC1遺伝子」や「TSC2遺伝子」の変異が、LAM細胞の異常な増殖を引き起こす原因と考えられています。

これらの遺伝子は細胞の増殖や分裂を抑える働き(細胞が増えすぎないようにコントロールする役割)があるため、変異が起こるとその働きがうまく機能せず、細胞が過剰に増えてしまうのです。

また、リンパ脈管筋腫症は全身性の疾患であり、肺だけでなくほかの臓器にも影響を及ぼすことがあります。

たとえば、腎臓に「血管筋脂肪腫(けっかんきんしぼうしゅ)」という良性の腫瘍ができることがあります。

さらに、リンパ液が流れる「リンパ系」を通じて病変が広がることがあり、進行は比較的ゆっくりですが、周囲の組織を破壊する性質を持つ腫瘍とされています。

リンパ脈管筋腫症の進行速度は人によって異なり、ゆっくりと進行する場合もあれば、比較的早く進行することもあります。

そのため、定期的な検査と適切な管理が重要です。症状の進行具合に応じて医師の指導を受けることで、病気のコントロールや生活の質を維持することが可能になります。

◆「嚢胞性肺疾患」について詳しく>>

【参照文献】厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業『指定難病89 リンパ脈管筋腫症(LAM)』
http://irdph.jp/lam/index.php

【参考文献】”Lymphangioleiomyomatosis (LAM)” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/16022-lymphangioleiomyomatosis-lam

2.リンパ脈管筋腫症の症状


リンパ脈管筋腫症の症状は、病気の進行度合いによって異なりますが、主に呼吸器系の症状が中心となります。以下に、リンパ脈管筋腫症の主な症状をご紹介します。

1.呼吸困難(息切れ)
リンパ脈管筋腫症の最も一般的な症状は、呼吸困難です。

とくに、動いているときや階段を上るときなどの労作時に息切れを感じやすくなります。これは、肺に形成された多数の嚢胞によって、肺の機能が低下するためです。

初期の段階では軽度の息切れから始まり、病気の進行とともに徐々に悪化していく傾向があります。

◆「呼吸器内科で息苦しい原因を調べましょう」>>

2.咳嗽(せき)
乾いた咳や、痰を伴う咳が続くことがあります。これは、LAM細胞の増殖によって気道が刺激されるためです。

◆「咳を止める方法」について詳しく>>

◆「咳が止まらない病気」について詳しく>>

3.胸痛
胸の痛みを感じる方もいます。これは、肺の嚢胞が拡張したり、気胸(肺に穴が開いて空気が漏れる状態)を起こしたりすることが原因となる場合があります。

◆「咳による胸の痛み」について>>

4.喀血(かっけつ)
血痰や喀血(口から血を吐くこと)が見られることがあります。これは、LAM細胞の増殖によって肺の血管が傷つけられることが原因です。

◆「血痰が出る原因」について詳しく>>

5.自然気胸
リンパ脈管筋腫症の患者さんでは、自然気胸を繰り返すことが多いのが特徴です。

気胸(ききょう:肺に穴があき、空気が漏れる状態)は、肺に形成された嚢胞が破裂することで起こります。突然の胸痛や呼吸困難を伴うことがあり、緊急の処置が必要となる場合があります。

◆「気胸」について詳しく>>

6.リンパ系の症状
リンパ脈管筋腫症はリンパ管にも影響を及ぼすため、リンパ液の流れが妨げられることがあります。

その結果、以下のような症状が現れることがあります。

・乳び胸:胸腔にリンパ液(乳び・にゅうび)が貯まる状態
・乳び腹水:腹腔にリンパ液が貯まる状態
・乳び尿:尿中にリンパ液が混じる状態

7.その他の症状
リンパ脈管筋腫症に関連して、腎臓などに血管筋脂肪腫という良性腫瘍ができることがあります。これらの腫瘍が大きくなると、側腹部の痛みや出血などの症状を引き起こす可能性があります。

これらの症状は、リンパ脈管筋腫症以外の疾患でも起こり得るものです。そのため、これらの症状が現れたからといって、必ずしもリンパ脈管筋腫症であるとは限りません。

また、妊娠中にリンパ脈管筋腫症の症状が悪化することがあるため、妊娠を考えている方は、主治医とよく相談することが大切です。

妊娠によってリンパ脈管筋腫症の進行が加速する可能性や、気胸のリスクが高まることが指摘されています。

さらに、リンパ脈管筋腫症の治療薬であるシロリムスは妊娠中に服用できないため、妊娠を希望する場合は、少なくとも12週間前から休薬が必要とされています。

しかし、とくに若い女性で説明のつかない呼吸困難や、繰り返す気胸などの症状がある場合は、リンパ脈管筋腫症の可能性を考慮して、専門医による詳しい検査を受けることが重要です。

早期発見・早期治療が、リンパ脈管筋腫症の管理において非常に重要です。少しでも気になる症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。

【参照文献】日本呼吸器学会『リンパ脈管筋腫症』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-06.html

【参考文献】”What Are the Symptoms of LAM?” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/lymphangioleiomyomatosis-lam/symptoms-diagnosis

3.リンパ脈管筋腫症の診断・検査


リンパ脈管筋腫症の診断は、症状、画像検査、血液検査、場合によっては組織検査を組み合わせて行われます。

ここからは、リンパ脈管筋腫症の診断・検査の流れについてご説明しましょう。

<問診と身体診察>
まず、医師が患者さんの症状や病歴について詳しく聞き取りを行います。
リンパ脈管筋腫症は主に若い女性に発症するため、年齢や性別も重要な情報となります。また、呼吸音の聴診や、胸部の打診などの身体診察も行われます。

1.画像検査
リンパ脈管筋腫症の診断において、画像検査は非常に重要な役割があります。

a) 胸部X線検査
最初に行われることが多い検査です。リンパ脈管筋腫症の患者さんでは、肺の過膨張(かほうちょう・肺の中に空気がたまり、肺が膨張する病態)や間質(肺胞の壁や肺胞を取り囲んで支持している組織)の変化が見られることがありますが、初期段階では正常に見えることもあります。

b) 高分解能CT(HRCT)
リンパ脈管筋腫症の診断に最も有用な検査のひとつです。
高分解能CTでは、肺に特徴的な多発性の小嚢胞が見られます。これらの嚢胞は、薄い壁を持ち、肺全体に均等に分布している傾向があります。
高分解能CTは、 リンパ脈管筋腫症の診断だけでなく、病気の進行度を評価する上でも重要です。

2.血液検査
リンパ脈管筋腫症の診断を補助するために、血液検査が行われることがあります。

とくに、VEGF-D(血管内皮増殖因子D)という物質の血中濃度を測定する検査が有用です。

VEGF-Dの濃度が高い場合、リンパ脈管筋腫症の可能性が高くなります。

3.呼吸機能検査
肺の機能を評価するために、呼吸機能検査が行われます。この検査では、肺活量や一秒量などを測定し、リンパ脈管筋腫症による肺機能の低下の程度を評価します。

4.組織検査(生検)
画像検査やVEGF-D検査で診断が確定しない場合、組織検査(生検)が必要となることがあります。これは、肺や他の影響を受けている組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる検査です。

LAM細胞の存在を直接確認することができるため、確定診断に有用です。

生検の方法には、以下のようなものがあります。

・気管支鏡検査:気管支を通して小さな組織片を採取します。
・胸腔鏡検査:胸部に小さな切開を加えて、肺の組織を採取します。
・開胸生検:より大きな切開を加えて肺の組織を採取する方法です。

また、胸水や腹水が貯留している場合は、それらの液体を採取して検査することで診断できる場合もあります。

5.そのほかの検査
リンパ脈管筋腫症は全身性の疾患であるため、必要に応じてほかの臓器の検査も行われることがあります。

たとえば、腎臓の血管筋脂肪腫を調べるための腹部CT検査や、骨密度検査などが行われることがあります。

リンパ脈管筋腫症の診断は、これらの検査結果を総合的に判断して行われます。

リンパ脈管筋腫症は稀な疾患であるため、診断が難しい場合もあります。そのため、リンパ脈管筋腫症の診断や治療に精通した専門医による診断が重要です。

また、リンパ脈管筋腫症と診断された後も、定期的な検査を行って病気の進行状況を確認し、適切な治療や管理を行っていくことが大切です。

◆「呼吸器内科で行われる検査」について詳しく>>

【参考文献】”Diagnosing LAM” by The LAM Foundation
https://www.thelamfoundation.org/learn-about-lam/diagnosing-lam/

4.リンパ脈管筋腫症の治療


リンパ脈管筋腫症の治療は、症状の軽減、合併症の予防、病気の進行を遅らせることを目的として行われます。

現在のところ、リンパ脈管筋腫症を完全に治癒させる治療法はありませんが、適切な治療と管理によって、多くの患者さんが良好な生活の質を維持することができます。

ここからは、リンパ脈管筋腫症の主な治療法についてご説明しましょう。

1.薬物療法
以下が、リンパ脈管筋腫症の薬物療法で主に使われるものです。

a) シロリムス(ラパマイシン)
リンパ脈管筋腫症の治療において、最も重要な薬剤のひとつがシロリムスです。

シロリムスは、LAM細胞の増殖を抑制し、肺機能の低下を遅らせる効果があります。また、リンパ管の異常や血管筋脂肪腫の縮小にも効果があることが報告されています。

シロリムスは、肺機能の低下が認められる患者さんや、症状が進行している患者さんに対して使用されます。

ただし、副作用として口内炎、発疹、下痢、高コレステロール血症などが起こる可能性があるため、定期的な血液検査や副作用のモニタリングが必要です。

b) エベロリムス
シロリムスと同様の作用機序(薬が治療効果を及ぼす仕組みのこと)を持つ薬剤で、主に血管筋脂肪腫の治療に用いられます。

c) ホルモン療法
リンパ脈管筋腫症は女性ホルモンの影響を受けやすい疾患であるため、過去にはホルモン療法(抗エストロゲン療法など)が試みられましたが、現在ではその効果は限定的であると考えられています。

2.酸素療法
病気が進行し、血中の酸素濃度が低下した患者さんに対しては、酸素療法が行われます。これにより、呼吸困難の軽減や日常生活の質の向上が期待できます。

3.気胸の治療
リンパ脈管筋腫症の患者さんでは気胸を繰り返すことが多いため、適切な治療が重要です。

・胸腔ドレナージ:胸腔に管を挿入して空気を排出します。
・胸膜癒着術:再発を防ぐために、肺と胸壁を癒着させる処置を行います。

4.リハビリテーション
呼吸リハビリテーションは、呼吸困難の軽減や運動耐容能の改善に効果があります。また、栄養指導や禁煙指導なども重要な要素となります。

5.合併症の管理
血管筋脂肪腫については、大きさや症状に応じて塞栓術(そくせんじゅつ:血流を遮断して腫瘍を縮小させる治療法)や外科的切除が検討されます。

また、乳び胸や乳び腹水(リンパ液が胸やお腹にたまる状態)に対しては、食事療法(低脂肪食)が行われることがあり、必要に応じて胸腔・腹腔ドレナージ(たまった液を排出する処置)が実施されることもあります。

6.肺移植
薬物療法などの保存的治療で効果が得られず、重度の呼吸不全に至った場合、最終的な治療選択肢として肺移植が検討されます。
ただし、リンパ脈管筋腫症は全身性の疾患であるため、移植後も慎重な経過観察が必要です。

7.生活指導
リンパ脈管筋腫症の患者さんに対しては、以下のような生活指導も重要な治療の一部となります。

・禁煙:喫煙は肺の状態をさらに悪化させる可能性があるため、強く推奨されます。

・適度な運動:体力維持や呼吸機能の改善のため、個々の状態に合わせた運動プログラムが推奨されます。

・感染予防:インフルエンザやニューモコックスなどのワクチン接種が推奨されます。

・妊娠・出産に関する相談:リンパ脈管筋腫症は妊娠によって悪化する可能性があるため、妊娠を希望する場合は主治医とよく相談することが重要です。

・ストレス管理:慢性疾患であるリンパ脈管筋腫症と向き合うためには、メンタルヘルスケアも重要です。

◆「タバコで咳がでる理由」について詳しく>>

◆「インフルエンザ」について詳しく>>

8.定期的な経過観察
リンパ脈管筋腫症の進行状況を把握し、適切な治療方針を決定するために、定期的な検査と経過観察が重要です。通常、6ヶ月から1年ごとに、呼吸機能検査や画像検査などが行われます。

9.臨床試験への参加
リンパ脈管筋腫症は稀少疾患であるため、新しい治療法の開発が継続的に行われています。臨床試験に参加することで、最新の治療を受けられる可能性があります。
ただし、参加にあたっては、メリットとリスクを十分に理解した上で決定することが大切です。

10.患者会や支援グループへの参加
同じ疾患を持つ方々との交流は、情報交換や精神的なサポートを得る上で非常に有益です。日本では「日本リンパ脈管筋腫症(LAM)患者会」などの組織があります。

リンパ脈管筋腫症の治療は、個々の患者さんの状態や進行度に応じて、これらの治療法を組み合わせて行われます。

また、リンパ脈管筋腫症は進行性の疾患であるため、定期的な経過観察と、状態の変化に応じた治療方針の見直しが重要です。

治療にあたっては、呼吸器内科医、放射線科医、外科医など、多職種の医療チームによる総合的なアプローチが必要となります。

また、リンパ脈管筋腫症の専門医による診療を受けることで、最新かつ最適な治療を受けられる可能性が高くなります。

【参考文献】”Treating and Managing LAM” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/lymphangioleiomyomatosis-lam/treating-and-managing

5.おわりに

リンパ脈管筋腫症は、稀で複雑な疾患ですが、医学の進歩により、診断法や治療法が着実に改善されてきています。

とくに、シロリムスなどの薬物療法の導入により、多くの患者さんの予後が改善されてきました。

適切な治療と管理により、多くの方が良好な生活の質を維持しながら日常生活を送ることができています。

重要なのは、早期発見・早期治療です。呼吸困難や繰り返す気胸など、気になる症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。

また、リンパ脈管筋腫症と診断されたあとも、定期的な検査と経過観察を欠かさないことが大切です。医療チームと密に連携しながら治療を進めていきましょう。

◆「呼吸器内科」とは>>