のどの痛み、止まらない咳…風邪ではない?

のどの痛みや咳は、日常生活で多くの方が経験したことのある一般的な症状です。
仕事や家事で忙しいときにはなかなか休めず、つい「そのうち治るだろう」と放置してしまいがちになります。
しかし、このような症状が長引く場合は、単なる風邪と考えて様子を見るだけでは不十分な場合があります。そのため、「風邪だろう」と思って対処しても、なかなか改善しないことにお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
実は、のどの痛みや咳には、さまざまな原因や病気が潜んでいる可能性があるのです。
この記事では、のどの痛みや咳が続く主な原因や注意すべきポイントについてご説明致します。
1.のどの痛みの原因
のどの痛みは多くの場合、のどの炎症が原因で起こります。
のどの炎症はさまざまな要因によって引き起こされますが、主には以下のようなものが原因です。
・ウイルスや細菌による感染
・アレルギー反応
・乾燥
・過度の声の使用
・喫煙や大気汚染などの刺激物
上記のなかでとくに多いのは、ウイルスや細菌による感染です。急性咽頭炎や急性扁桃炎などの炎症性疾患が原因となることが多く、通常1週間程度で改善します。
ウイルス性の咽頭炎は、風邪やインフルエンザウイルスなどが原因で起こります。症状は比較的軽く、数日で自然に治まることが多いです。
一方、細菌性の咽頭炎は、溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)などが原因で起こり、より強い痛みを伴います。この場合は抗生物質による治療が必要になることもあります。
アレルギー性の咽頭炎は、花粉やハウスダストなどのアレルゲンに反応して起こります。のどの痛みだけでなく、くしゃみや鼻水、目のかゆみなども同時に現れることが特徴です。
乾燥によるのどの痛みは、とくに冬場に多く見られます。暖房を使うことで室内が乾燥し、のどの粘膜が乾燥して炎症を起こすのです。
また、過度の声の使用は、教師や歌手、販売員など、職業上声を多用する方に多く見られます。仕事でのどの粘膜に負担がかかり、炎症を引き起こすためです。
喫煙や大気汚染による刺激は、のどの粘膜を直接的に傷つけ慢性的な炎症を引き起こす可能性があります。
上記のようなこと以外でのどの痛みが長引く場合、より深刻な問題が隠れている可能性があります。たとえば、慢性的な副鼻腔炎や、まれではありますが、のどの腫瘍などの原因です。
慢性副鼻腔炎とは、副鼻腔の炎症が長期間続く状態です。
鼻づまりや鼻水、頭痛などの症状に加えて、のどの痛みや咳を引き起こすことがあります。これは、副鼻腔からのどに流れ落ちる後鼻漏(こうびろう)が原因です。
のどの腫瘍には、良性のものと悪性のものがあります。
初期段階では症状が軽いため見過ごされやすく、進行してから発見されることもあります。
いずれにしても長期間続くのどの痛みや、飲み込みにくさ、声の変化などがある場合は、医療機関の診察を受けることが重要です。
【参照文献】新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業『感冒(かぜ) 』
https://amr.ncgm.go.jp/pdf/190904_kanbo.pdf
【参考文献】”Sore throat” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sore-throat/symptoms-causes/syc-20351635
2.咳が出る原因
一般的に咳は、からだを守るための重要な防御反応です。
たとえば、気道に異物や痰がある場合に、それらを排出するために咳が出ます。一方で、気道に異物や痰がないのに咳が出る場合もあります。
そのような咳の主な原因は、以下のようなものです。
・感染症(風邪、インフルエンザ、気管支炎など)
・アレルギー(花粉症、ハウスダストアレルギーなど)
・気管支喘息
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・胃食道逆流症
・薬の副作用
感染症は、咳の最も一般的な原因のひとつです。
ウイルスや細菌が気道に感染すると、気道の粘膜が炎症を起こし、咳を誘発します。通常、感染症による咳は1~2週間程度で改善しますが、気管支炎などの場合はより長引くことがあります。
アレルギーによる咳は、アレルゲンに対する過敏反応によって引き起こされます。
アレルギーのひとつである花粉症の場合、春や秋に症状が悪化することが多く、くしゃみや鼻水、目のかゆみなども同時に現れます。
ハウスダストアレルギーの場合は、症状は年間を通じてみられます。
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症と過敏性が特徴の疾患です。
咳だけでなく、喘鳴(ぜーぜーする音)や息切れを伴うことがあります。とくに夜間や早朝に症状が悪化することが多いのが特徴です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に長年の喫煙が原因で起こる疾患です。
気道が狭くなり、息切れや慢性的な咳、痰の増加などの症状が現れます。初期段階では症状がほとんどないため見過ごされやすく、進行してから発見されることも少なくありません。
また、胃食道逆流症は、胃の内容物が食道に逆流することで起こる疾患です。
胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱい液体が喉まで上がってくる感覚)といった典型的な症状だけでなく、慢性的な咳の原因にもなります。これは、胃酸が気道を刺激することが原因です。
さらに、薬の副作用による咳は、とくに高血圧の治療薬として使用されるACE阻害薬で知られています。空咳と呼ばれ、咳が乾いていることが特徴です。
なお、咳には、痰を伴う「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」と、痰をほとんど伴わない「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」があります。
湿性咳嗽は主に感染症が原因で起こり、乾性咳嗽は気道の炎症や過敏反応が原因で起こることが多いです。
湿性咳嗽の場合、痰の色や量、性状を観察することが大切です。
透明や白色の痰は比較的問題ありませんが、黄色や緑色の痰は細菌感染の可能性があります。また、血痰が見られる場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。
乾性咳嗽は、しつこく続くことが多く、患者さんにとってはとても苦痛な症状です。夜間に悪化して睡眠を妨げることもあり、日常生活に大きな影響を与えることもあります。
【参考文献】”Cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/symptoms/cough/basics/causes/sym-20050846
3.咳だけが長く続く場合は要注意
通常、風邪による咳は1~2週間程度で改善するのが一般的です。
しかし、3週間以上咳が続く場合は「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」と呼ばれ、何らかの病気が隠れている可能性があります。
長引く咳の原因として最も多いのが「咳喘息」です。
咳喘息は、典型的な喘息のように喘鳴(ぜーぜーする音)や息切れを伴わず、咳だけが主な症状として現れる喘息の一種です。とくに夜間や早朝に咳が悪化します。
そのほかにも、以下のような病気が咳だけが長引く原因として考えられます。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・胃食道逆流症
・アトピー咳嗽
・気管支喘息
・慢性気管支炎
前述のとおり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に長年の喫煙が原因で起こる疾患です。
初期段階では軽い咳や痰のみで、息切れなどの症状があまり目立たないことがあります。
しかし、進行すると咳が続き、日常生活に支障をきたすほどの息切れや、頻繁な急性増悪(症状の急な悪化)を引き起こすことがあります。
胃食道逆流症による咳は、就寝時や食後に悪化することが多いです。また、胸やけや呑酸といった典型的な逆流症状を伴わないこともあり、診断が難しいことがあります。
アトピー咳嗽は、アトピー素因を持つ方に見られる慢性的な咳です。皮膚のかゆみや湿疹などのアトピー性皮膚炎の症状を伴うことがあります。
気管支喘息は、咳以外にも喘鳴や息切れといった症状を伴うことが多いですが、咳だけが主症状として現れることもあります。
とくに、運動時や寒冷刺激、強い香りなどで症状が誘発されやすいのが特徴です。
とくに注意が必要なのは、慢性気管支炎です。
慢性気管支炎は、喫煙や慢性化した副鼻腔炎が原因で起こることが多く、進行すると気道が狭くなり、息苦しさや息切れを感じるようになることがあります。
また、頻繁に急性増悪を繰り返すことで、肺機能が徐々に低下していく可能性があります。
発熱や膿性喀痰(のうせいかくたん・サラサラした水っぽいたんが硬くなり、白色から黄色や緑色に代わった痰)など気道感染を思わせる症状を契機にしたとしても、長引く咳嗽がさらに遷延した場合は気管支喘息、COPD、慢性気管支炎、COPD、抗酸菌感染などを想定する必要があります。
漫然と対症療法を続行するのではなく原因をつきとめる方針をもった治療・検査が必要ですので専門医受診をお勧めいたします。
【参考文献】”Chronic cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/symptoms-causes/syc-20351575
4.咳とのどの痛みが同時に出ることもあるか?
咳とのどの痛みが同時に出ることはよくあります。同時に現れる主な例として、以下のようなものがあります。
・風邪やインフルエンザ
ウイルス感染によって、のどの炎症と咳の両方が起こります。
風邪の場合、通常は1週間程度で症状が改善しますが、インフルエンザの場合はより重症化しやすく、高熱や全身の倦怠感を伴うことが多いです。
・花粉症
アレルギー反応によって、のどの痒みや痛み、咳が同時に起こることがあります。
花粉症の場合、季節性があり、とくに春や秋に症状が悪化することが多いです。また、くしゃみや鼻水、目のかゆみなども同時に現れるのが特徴です。
・副鼻腔炎
副鼻腔の炎症が気管支にも影響を及ぼし、のどの痛みと咳の両方の症状が現れることがあります。
慢性副鼻腔炎の場合、症状が長期間続くことがあり、鼻づまりや頭痛、嗅覚障害なども伴うことがあります。
・扁桃炎
扁桃の炎症によって強い咽頭痛が起こり、同時に咳も誘発されることがあります。細菌性扁桃炎の場合、高熱や全身倦怠感を伴うことがあり、抗生物質による治療が必要になることもあります。
・喉頭炎
喉頭の炎症によって、のどの痛みや声のかすれ、そして咳が同時に起こることがあります。
過度の声の使用や、喫煙、アルコールの過剰摂取などが原因となることが多いです。
・気管支炎
気管支の炎症によって、咳とともにのどの痛みや不快感を感じることがあります。初期段階では乾いた咳が主症状ですが、進行すると痰を伴う咳に変化することがあります。
・逆流性食道炎
胃酸の逆流が食道や喉まで及ぶことで、のどの痛みや慢性的な咳を引き起こすことがあります。就寝時や食後に症状が悪化することが多いです。
【参考文献】”Influenza” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/index.html
【参考文献】”Hay fever” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hay-fever/symptoms-causes/syc-20373039
5.咳やのどの痛みは何科に行けばいい?
咳やのどの痛みの症状がある場合、以下の診療科への受診を検討しましょう。
・耳鼻咽喉科
のどの痛みや鼻からのどにかけての症状を専門に診察します。扁桃炎や副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などの診断と治療を行います。また、のどの腫瘍などの疾患の早期発見にもつながります。
・内科
全身の状態を見ながら、咳やのどの痛みの原因を探ります。風邪やインフルエンザなどの感染症、全身疾患に関連した症状の可能性も考慮して診察を行います。
・呼吸器内科
咳が長引く場合や、呼吸に関連する症状がある場合に専門的な診察を行います。気管支喘息、COPD、間質性肺炎などの呼吸器疾患の診断と治療を専門としています。
とくに、以下のような症状がある場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
・3週間以上咳が続く
・息苦しさを感じる
・夜間に咳が酷くなり、眠れない
・痰に血が混じる
・原因不明の体重減少や発熱がある
・喫煙歴がある方で慢性的な咳や痰がある
これらの症状は、重大な呼吸器の病気の症状である可能性があります。
6.咳やのどの痛みの治療方法について
咳やのどの痛みの治療方法は、原因によって異なります。ここからは、一般的な治療方法についてご説明しましょう。
・薬物療法
抗生物質:細菌感染が原因の場合に使用します。ただし、ウイルス性の感染症には効果がないため、医師の判断に基づいて適切に使用することが重要です。
抗ヒスタミン薬:アレルギーが原因の場合に使用します。花粉症やハウスダストアレルギーなどによる咳やのどの痛みを和らげる効果があります。
去痰薬:痰を柔らかくしたり、量を減らしたりする効果があります。湿性咳嗽(痰の多い咳)の場合に使用されます。
鎮咳薬:咳を抑える効果があります。ただし、痰を出すべき状況で使用すると、かえって症状を長引かせる可能性があるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。
吸入ステロイド薬:喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気道炎症を抑える効果があります。長期的な使用が必要な場合もあります。
・吸入療法
気管支拡張薬:喘息やCOPDの場合、気道を広げる効果のある薬剤を吸入します。即効性があり、発作時の対応に用いられることもあります。
吸入ステロイド:気道の炎症を抑える効果があり、喘息やCOPDの長期管理に用いられます。
これらの吸入薬は、直接気道に作用するため、全身への影響が少なく、効果的に症状を改善できます。ただし、正しい吸入方法を習得することが重要です。
・生活習慣の改善
禁煙:喫煙は気道を直接的に刺激し、多くの呼吸器疾患のリスクを高めます。禁煙することで、咳やのどの痛みの改善が期待できます。
十分な睡眠:睡眠不足は免疫機能を低下させ、感染症にかかりやすくなります。7〜8時間の十分な睡眠をとることが大切だとされています。
適度な運動:適度な有酸素運動は、免疫機能を高め、全身の健康維持に役立ちます。ただし、症状が重い場合は、医師に相談の上で運動を行うようにしましょう。
バランスの取れた食事:ビタミンCやビタミンD、亜鉛などの栄養素は、免疫機能の維持に重要です。果物や野菜、たんぱく質をバランス良く摂取しましょう。
・環境整備
加湿器の使用:乾燥は気道を刺激し、咳やのどの痛みを悪化させることがあります。適度な湿度(50〜60%程度)を保つことが大切です。
アレルゲンの除去:花粉症やハウスダストアレルギーの方は、原因となるアレルゲンを可能な限り取り除くことが重要です。空気清浄機の使用や、こまめな掃除が効果的です。
・うがいや水分摂取
うがい:のどの痛みや乾燥を和らげるのに効果的です。塩水やポビドンヨード液でのうがいは、殺菌効果も期待できます。
水分摂取:十分な水分摂取は、のどの乾燥を防ぎ、痰を柔らかくする効果があります。ぬるま湯や蜂蜜入りの白湯なども効果的です。
ただし、これらはあくまで一般的な方法でそれぞれの症状や原因に応じて適切な治療を行う必要があります。
自己判断での治療は避け、医師の指示に従うことが大切です。また、症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
【参照文献】消防庁『救急受診ガイド (家庭自己判断)』
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento121_03_kateiprotocolv1.pdf
7.おわりに
のどの痛みや咳は、多くの場合は自然に治まりますが、長引く場合は注意が必要です。
とくに、のどの痛みがなくなったあとも咳だけが長く続く場合は、単なる風邪ではない可能性があります。
これらの症状が3週間以上続く場合、または、息苦しさや血痰などの症状がある場合は、早めに呼吸器内科を受診することが大切です。
専門医による適切な診断と治療により、重大な病気を見逃すリスクを減らすことができます。
日々の生活の中で、ご自分の体調の変化に敏感になることも大切です。初期の症状を見逃さずに適切な治療を受けることで、症状の早期改善が期待できます。