空咳がでる原因と対策

乾いた咳が続いて困る経験したことがある方が多いのではないでしょうか。
乾いた咳が続くと日常生活にも支障をきたすことがあります。
空咳(からせき)は多くの方が経験する症状ですが、その原因や対策について正しく理解している方は少ないかもしれません。
この記事では、空咳の症状や原因、考えられる病気、効果的な対処法や予防方法についてご説明いたします。
1.空咳の症状とは
空咳とは、痰を伴わない乾いた咳のことを指します。
喉がむずむずしたり、胸がチクチクしたりして、思わず咳き込んでしまう症状です。
通常の咳と異なり痰が出ないため、咳をしても喉の違和感が取れにくいのが特徴です。
空咳が出る状態が一時的なものであれば心配ありませんが、2週間以上続く場合は注意が必要です。
長引く空咳の原因が、重大な病気であることもあります。
そのため、症状が続く場合は、早めに呼吸器内科をはじめとする医療機関への受診を検討しましょう。
◆「喉がムズムズ、イガイガ。咳も止まらないときどうする?」>>
【参考文献】”Dry Cough” by U.S. National Library of Medicine (MedlinePlus)
https://medlineplus.gov/ency/article/003072.htm
【参考文献】”Chronic cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/symptoms-causes/syc-20351575
2.空咳はなぜでる?
空咳が出る原因は多岐にわたり、日常生活や健康状態と密接に関連しています。
まず、最も一般的な原因として挙げられるのが風邪やアレルギー反応による気道の炎症です。
これらの理由により気道が炎症を起こすと、防御反応として空咳が出ることがあります。
このような空咳は、からだが異物や刺激から気道を守ろうとする自然な反応です。
また、空気の乾燥も空咳の大きな要因のひとつです。
秋冬の乾燥する季節や空調の効いた室内など、湿度が低い環境では、喉や気道の粘膜が乾燥しやすくなります。
乾燥した粘膜は刺激に敏感になり、わずかな刺激でも空咳を引き起こしやすくします。
そのため、起きている時だけではなく、就寝中の適切な湿度管理も空咳の予防に重要です。
また、環境中の刺激物質も空咳の原因となり得ます。
タバコの煙や大気汚染物質、花粉や家の中に漂うハウスダストなどのアレルゲンを吸い込むことで、気道が刺激され、空咳が誘発されることがあります。
そのため、喫煙者の方や大気汚染の激しい地域に住む方はとくに注意が必要です。
また、意外かもしれませんが胃酸の逆流も空咳の原因となることがあります。
就寝時や食後に空咳が悪化する場合には、胃酸の逆流による空咳の可能性を疑う必要があります。
胃酸の逆流が起きやすい胃食道逆流症の状態では、胃酸が食道に逆流するだけでなく、時には喉にまで達することがあるからです。
酸性の胃酸が喉や気道を刺激し、咳を引き起こします。
さらに、薬の副作用による空咳は見過ごされがちですが、重要な原因のひとつです。
たとえば、高血圧治療薬として使用されるACE阻害薬(エースそがいやく)は、空咳の副作用が知られています。
ACE阻害薬の作用により、気管支を収縮させる物質であるブラジキニンが増加するのが原因です。
薬剤性の空咳は、薬の服用開始から数週間後に発症することもあれば、数年後に現れることもあります。
そのため、長期的に薬を服用している場合でも、新たに発生した空咳については薬の副作用の可能性を考慮する必要があります。
最後に、心理的要因も空咳の原因として無視できません。
ストレスや不安などの精神的負荷が、身体症状として空咳という形で現れることがあります。
これは心因性咳嗽(がいそう)と呼ばれ、ストレスの多い現代社会では増加傾向にあります。
これらの原因は単独で空咳を引き起こすこともありますが、多くの場合、複数の要因が絡み合って症状を引き起こします。
そのため、空咳が長引く場合は、自己判断せずに専門医の診断を受けることが重要です。
医師は患者さんの症状や生活環境、既往歴などを総合的に判断します。
空咳の原因を正確に特定し、適切に対処するようにしましょう。
【参考文献】” Health Effects of Air Pollution” by Environmental Protection Agency (EPA)
https://www.epa.gov/clean-air-act-overview/clean-air-act-requirements-and-history
【参考文献】”GERD” by National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)
https://www.niddk.nih.gov/health-information/digestive-diseases/acid-reflux-ger-gerd-adults
【参考文献】” Psychogenic Cough” by National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2517874/
3.空咳から考えられる病気
空咳が長引く場合には、さまざまな病気の可能性を考える必要があります。
そのなかでも、とくに注意すべきものをご紹介しましょう。
まず、咳喘息も1つの原因として考えられます。
咳喘息は気管支が過敏になることで引き起こされる喘息の一種です。
咳が主な症状として現れ、とくに夜間や運動後、季節の変わり目に症状が悪化しやすいことが多く、通常の喘息とは異なります。
一般的な喘息とは違って、息苦しさをほとんど感じないことも特徴です。
次に、百日咳も空咳の原因として考えられます。
百日咳は細菌感染による呼吸器疾患で、その名の通り長期間にわたって特徴的な咳が続きます。
初期の「カタル期」には風邪のような症状を示しますが、その後激しい咳発作が続く「痙咳期(けいがいき)」に移行します。
抗生物質による治療が一般的ですが、早期発見・早期治療が重要です。
肺の間質に炎症が起こる病気の間質性肺炎も、乾いた咳である空咳が特徴的です。
また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は主に喫煙が原因で起こる肺の病気であり、慢性的な咳が主要な症状のひとつとなります。
これらの疾患は早期発見が難しいため、長引く咳の症状がある場合は、早めに呼吸器内科をはじめとする専門医の診察を受けることが重要です。
さらに、季節性のアレルギー反応である花粉症も、空咳の原因となることがあります。
くしゃみや鼻水とともに空咳が出現し、花粉の飛散時期に症状が悪化するのが特徴です。
花粉症の方は、季節の変わり目にとくに注意が必要です。
最後に、心因性咳嗽はストレスや不安などの心理的要因によって空咳が引き起こされます。
現代社会ではストレスが多いため、大人の方でも珍しくない疾患となってきています。
心因性咳嗽の場合、通常の咳止めや気管支拡張剤は効果がなく、心のケアを中心とした治療が必要となります。
以上のような病気は症状が似ていることも多く、自己判断は危険です。
2-3週間で改善傾向とならない咳嗽、繰り返す咳嗽は上気道感染(いわゆる風邪)以外の原因があることも多くなってきます。
喘息のように適切に治療しないと重症化を招く疾患や肺炎、間質性肺炎、結核など対症療法以外の治療を要する疾患も鑑別が必要ですので原因を究明するような診療を行うことが重要となってきます。
【参照文献】環境再生保全機構『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
【参考文献】”Dry Cough” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/dry-cough
4.治療と検査
空咳の治療は、原因となっている病気や状態によって異なります。
適切な治療を受けるためには、まず正確な診断が必要です。
ここからは、一般的な検査方法と治療についてご紹介しましょう。
【検査方法】
・問診:症状の詳細や生活環境、既往歴などを詳しく聞き取ります。
・聴診:聴診器を使って肺や気管支の音を聞きます。
・呼吸機能検査:肺の機能を測定し、喘息やCOPDなどの診断に役立てます。
・胸部X線検査:肺の状態を確認し、肺炎や肺がんなどの可能性を調べます。
・CT検査:より詳細な肺の状態を確認します。
・アレルギー検査:アレルギー性の疾患が疑われる場合に行います。
・喀痰(かくたん)検査:咳とともに痰が出る場合、その成分を調べます。
空咳の治療は、原因や症状の程度に応じた方法が必要です。
まず、治療の中心となるのは薬物療法です。
医師は症状に合わせて適切な薬を処方し、単なる咳止めだけでなく、必要に応じて専門的な治療薬を使用します。
たとえば、喘息が原因の場合は、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬が効果的です。
これらは気道の炎症を抑え、呼吸を楽にする働きを持っています。
◆「喘息やCOPD治療で使われる「メプチンエアー」の特徴や副作用について」>>
生活習慣の改善も欠かせません。
喫煙は気道を刺激し、空咳を悪化させるため、禁煙は非常に重要だといえます。
また、アレルギー体質の方は、原因となるアレルゲンを特定し、できるだけ接触を避けることが必要です。
ご自宅の清掃方法を見直したり、外出時にマスクを着用したりすることで症状の軽減が期待できます。
乾燥が影響している場合は、加湿療法が効果的です。
室内の湿度を適切に管理することで、気道の粘膜を保護し、咳を和らげることができます。
詳しくは、次の章でご説明いたしますが、最新の研究では室内の相対湿度を50〜60%に保つのが理想的とされています。
その際は、加湿器の適切な使用や清掃が重要です。
ストレスが引き金となっている場合は、心理的なケアも考慮すべきです。
カウンセリングやリラクゼーション技法を取り入れることで、咳の症状が改善されるケースもあります。
心理的な要因が身体に影響を及ぼすことは珍しくなく、心とからだの両面からアプローチすることが有効です。
なお、空咳の原因はひとつとは限りません。
喘息とアレルギー性鼻炎が併存することもあり、単一の治療では改善が難しいケースもあります。
そのため、医師は複数の治療法を組み合わせ、最適な治療プランを立てます。
患者さんは医師の指示を守り、定期的な診察を受けながら経過を確認することが大切です。
適切な治療と生活習慣の改善を続けることで、空咳の症状をコントロールし、快適な生活を取り戻すことができます。
【参照文献】労働安全衛生総合研究所 『冬季のオフィス環境における低湿度の実態と対策について』
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2014/75-column-2.html
【参考文献】”Asthma Treatment” by National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma
【参考文献】”Healthy Buildings and Humidity” by Harvard T.H. Chan School of Public Health
https://healthybuildings.hsph.harvard.edu/
【参考文献】” Psychogenic Cough” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000036.htm
5.空咳の予防方法
空咳を予防するためには、日常生活での対策が重要です。
以下に、効果的な予防方法をご紹介します。
5-1.加湿器の使用
前述のとおり、空気の乾燥は空咳の大きな原因のひとつです。
適切な湿度を保つことで、喉や気道の粘膜を保護し、空咳を予防することができます。
理想的な室内の湿度は50〜60%程度です。
加湿器を使用する際は、この範囲を目安にしましょう。
ただし、湿度が高すぎるとカビやダニの繁殖の原因になるので注意が必要です。
また、加湿器を使用する際は、こまめに掃除をして清潔に保つことが大切です。
汚れた加湿器を使用すると、かえって有害な菌やカビを空気中に撒き散らしてしまう可能性があります。
また、加湿器以外にも、室内に洗濯物を干したり、観葉植物を置いたりすることで自然な加湿効果が得られます。
◆「喘息などアレルギー症状の引き金となるカビ、掃除で注意すべきポイントについて」>>
5-2.マスクの使用
マスクの使用は、空咳の予防に非常に効果的です。
マスクには主にふたつの重要な役割があります。
ひとつ目は、喉の乾燥を和らげる効果です。
マスクを着用することで、呼吸する際の空気が適度に加湿され、喉の粘膜を保護します。
これにより、乾燥による刺激で起こる空咳を予防することができます。
ふたつ目は、周囲の方へのウイルスなどの感染を防ぐ効果です。
空咳の原因が感染症である場合、マスクを着用することで飛沫の拡散を防ぎ、周囲の方への感染リスクを低減させることができます。
また、花粉症やほこりアレルギーの方にとっては、アレルゲンの吸入を減らす効果もあります。
外出時や公共の場所ではマスクを着用することを習慣にするといいでしょう。
ただし、マスクを長時間使用すると、マスク内が湿気で蒸れてしまい、逆に細菌が繁殖しやすくなる可能性があります。
そのため、マスクは定期的に交換し、清潔に保つことが大切です。
5-3.飲み物は温かいものを
空咳の予防や緩和には、適切な飲み物の選択も重要です。
とくに温かい飲み物は、喉の粘膜を潤し、刺激を和らげる効果があります。
おすすめの飲み物には以下のようなものがあります。
白湯(さゆ):シンプルですが、喉を潤す効果があります。
ハーブティー:カモミールやペパーミントなどのハーブティーには、リラックス効果や消炎効果もあります。
はちみつレモン:はちみつには抗菌作用があり、レモンは免疫力を高める効果が期待できるビタミンCが豊富です。
生姜湯:からだを温め、免疫力を高める効果があります。
これらの飲み物を適度な温度で飲むことで、喉の乾燥を防ぎ、空咳の予防や症状の緩和に役立ちます。
ただし、カフェインを含む飲み物や炭酸飲料は刺激が強いため、空咳がある時は控えめにしましょう。
なお、水分は十分に摂取することが大切です。
喉や気道の粘膜を潤すためには、日中にこまめに水分を補給するようにしましょう。
5-4.タバコを控える
タバコは空咳の大きな原因のひとつです。
喫煙者の方は、禁煙または減煙を心がけることが重要です。
タバコの煙には多くの有害物質が含まれており、これらが気道を刺激して空咳を引き起こします。
また、長期的な喫煙は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの深刻な呼吸器疾患のリスクを高めます。
すぐに禁煙するのは簡単ではないかもしれませんが、呼吸器の健康を守り、病気を予防するために欠かせない取り組みです。
また、タバコを吸わない方も、副流煙を吸わないように気を付ける必要があります。
受動喫煙も空咳の原因となり得るからです。
公共の場所や家庭内での喫煙ルールを設けるなど、周囲の方と協力して禁煙環境を作ることが大切です。
禁煙を試みる際は、医療機関の禁煙外来を利用するのもひとつの方法です。
専門家のサポートを受けながら、効果的に禁煙を進めることができます。
禁煙補助薬には、ニコチンを含むものと含まないものがあり、それぞれ異なる作用で禁煙をサポートします。
ニコチンガムやニコチンパッチは、体内に少量のニコチンを供給することで離脱症状を和らげ、喫煙の欲求を抑える効果があります。
ニコチンガムは口腔粘膜からニコチンを吸収し、急な喫煙欲求に対応しやすい即効性が特徴です。
一方、ニコチンパッチは皮膚から持続的にニコチンを供給し、禁煙初期の辛さを軽減します。
また、禁煙外来ではバレニクリンが処方されることがあります。
バレニクリンはニコチンを含まない薬で、脳のニコチン受容体に作用し、離脱症状を抑えるだけでなく、喫煙による満足感を低下させる効果があります。
服用開始後の1週間は喫煙を続けながら服用し、8日目から禁煙を開始する方法が一般的です。
これらの禁煙補助薬を適切に使用することで、ご自分身での禁煙に比べて成功率が大幅に向上します。
禁煙に挑戦する際は、医師や薬剤師に相談しながら、ご自分に合った方法を選ぶことが大切です。
【参照文献】厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト『 禁煙のおくすりってどんなもの?』
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-06-006
【参考文献】” Mold and Indoor Air Quality” by Environmental Protection Agency (EPA)
https://www.epa.gov/mold
【参考文献】” Honey: Health Benefits” by National Institutes of Health (NIH)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3611628/
6.おわりに
空咳は日常生活でよく見られる症状ですが、その原因や対策はさまざまです。
多くの場合、適切な対策や生活習慣の改善で症状を和らげることができます。
日々の生活のなかで適切な湿度管理やマスクの使用、温かい飲み物の摂取、禁煙など、できることから始めましょう。
一方で、咳が2週間以上続く場合や、ほかの症状を伴う場合は注意が必要です。
「ただの咳」と軽視せず、早めに医療機関への受診を検討してください。
特に、夜間に咳が悪化する、運動後に咳が出る、季節によって症状が変化する場合は、喘息の可能性が考えられます。
また、高齢の方や喫煙歴のある方は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などのリスクもあり、早期発見・治療が重要です。
空咳は単なる症状に思えますが、重大な病気のサインであることもあります。
自己判断せず、専門医の診断を受けることが大切です。